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僕の仕事
しおりを挟む僕の人生は、他人に土足で踏みつけられて圧死するような、そんな日々だった。
それほどまでに、僕の心は壊れていた。
僕の願いが叶ったことなんて一度でもあっただろうか?
僕の見た目は、一言で言えば青。
青みがかった白い髪はサラサラのストレート。目はサファイアのような青、肌は人より白い。
仕事は店に所属する男娼。そこに僕の意思はない。
親の顔は覚えていない。僕は可愛かったらしい。そのせいで拐われて売られて奴隷となった。
怖い人に拐われた記憶が最も古い記憶。たぶん5歳くらいだったと思う。
最初の主は、とても優しいおじいちゃんだった。僕を膝に乗せて本を読んでくれた。皺々な手で抱きしめて、キスしてくれた。それが唯一、僕が幸せだった記憶。
5年すると、おじいちゃんは亡くなって、おじいちゃんの縁戚だという人に主死亡ということで売られた。
次の主は、中年の下級貴族のおじさんで、僕が顔を歪めるのが、震えて静かに泣くのがいいと言って、暴力を繰り返す人だった。領地の経営が上手くいってないみたいで、憂さ晴らしのために毎日殴られて、蹴られて、死なないようにポーションで回復されてはまた殴られた。
最初の主のおじいちゃんに読み書きを教えてもらってたから、書類整理や掃除、洗濯などの家事もやらされた。使用人であれば給金を出さなければならないけど、奴隷なら出さなくていいということで僕が買われたみたい。
そしてそれも長くは続かなかった。3年もするといよいよ経営がどうにもならなくなり、僕は差し押さえの対象になってまた売られた。主は最後に、僕を殴りながら犯した。
たぶん、まだその頃は感情というものが、痛みという感覚が、あったと思う。
その次の主は、戦地専門の娼館の経営者だった。戦地へ連れて行かれる前に、浄化と治癒の魔法を習得させられて、客を相手にする手順や技を教えられた。
休みなんてなかった。昼夜問わず兵が訪れて、疲れても寝ることさえ許されない、僕が休めるのは、食事の時と、客が途切れた僅かな時間だけだった。客の対応が終わると、簡易ベッドと僕に浄化と治癒をかけて次を待つ。
中には優しい兵士も稀にいたと思う。良かったとか、お礼を告げてくれる人もいた。でもほとんどは、強引に僕の中に捩じ込んで、雑に揺すられ、殴ったり蹴ったりする人もいた。
混雑する時間には、乾く間も無く次が来るし、酷い時には複数人を一度に相手させられることもあった。
僕は人形だった。考えたら壊れてしまうから、行為中は痛みも苦しさも辛さも、全部遮断して無になった。それでも目は開けているから何が起きているかは理解できて、涙だけは溢れて止まらなかった。
5年もすると戦争は終わって、僕はまた用済みとなって売られた。
奴隷商に売られたのではなく、売春専門の市に出されて今の男娼の店に買われた。店と言っても、出張型のため、待機部屋ややり部屋は無い。あるのは僕たち男娼が暮らす寮だけ。寮と言っても、ほとんど牢みたいなものだ。
冷たい石の壁や床と、窓のない部屋。でも、ちゃんと服や食事は用意されてて、眠れる時間があるだけマシだった。
それに、戦場ほど数をこなさなくていいのは、体力的な意味で助かった。
僕は奴隷だから、客を一人相手しようが十人相手しようが、給金を貰えたりはしない。
でも、主は優しい人で、「これで好きなものを買いなさい」と、月に何度か銀貨を渡してくれた。
普段の僕は、感情があるように見せている。
初めと最後の挨拶は、ちゃんと笑顔を作るし、優しい客の時は、下手だろうけど行為中に少し演技することもある。
今日の最初の客は首を絞めながら犯すのが好きで、酸素を取り込めないから涙を流しながら、僅かな呻き声しか出なかった。
この客にはなぜか気に入られていて、よく指名が入る。首を絞めても、暴れずに喚かずに、ただその綺麗な瞳から涙するのがいいと言われた。
僕もこの客は、首に痕が付くほど締め上げる以外は、痛めつけたりしないし、雑に扱わないから気に入っている。
首の痕は治癒をかければすぐに治るから別にいい。
「ファルシュ、今日も良かったよ。君は本当に最高だ。私が金持ちなら身請けしたいほどだよ」
「ありがとう。その気持ちだけで嬉しい」
そう言って微笑めば、この人はまた次も僕を選んでくれる。
牢のような寮に戻ると、次の指名が入ってた。
次の客も、僕をよく指名する馴染みの客だった。
この客は、僕を拘束して犯すのが好きだ。縄で手足を縛られて、足も開いたまま膝を畳んで縄でぐるぐる巻かれる。
針を刺されることもあるけど、使う前に浄化をかけさせてくれるから、きっと優しい人なんだと思う。
「ファルシュ、君は笑顔も可愛いが、その静かに涙する姿が本当に可愛い」
「……」
「ん? ここが気持ちいいのかい? 腰が動いているよ」
「うん……」
気持ちいいなんて、そんな感覚は一度だって持ったことは無い。感覚も感情も、戦場に捨ててきたから。
腰が動くのは、僕が頑張って自然に見えるように動かしてるから。
これをすると喜ぶ客は多い。
喜ばせたからって金になるわけでも何になるわけでも無いけど、次にまた指名が入れば、まだ僕は誰かに必要とされる人間なんだと安心できるから。
「うぅぅ」
どうやら客は果てたようだ。
この客は、僕の顔が好きだから、必ず顔が見える体勢で犯す。
そして達した後は、手足を縛られたまま、客の陰茎を口に含み、ねっとり舐めて管に僅かに残った白濁液を吸い上げればおしまい。
「キミは本当に可愛い。あぁ、そんなに涙を流して。可愛いな。抱きしめてあげよう」
「うん」
こうして包み込むように抱きしめられると、最初の主のおじいちゃんを思い出す。
少しだけ、凍りついた心が温かくなった気がして、帰り道の足取りは軽かった。
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