突然ですがあなたは今日から死神ですよ!?

来栖槙礼

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第11話 都築 倫也ですよ!?

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「お世話になりました! 行ってきます。スサノオ様、クシナダ様。また、そのうち遊びに来ます!」

 根之国、神庭宮内にあるスサノオの道場にはスサノオ、クシナダ、ヒノカグツチ、オロチ、そしてミチヤが集まっていた。

「月並みだが、三ヶ月で見違える程に逞しくなったな!隊の方に合流しても形にはなるだろうよ! オロチとカグツチも大儀であった。」

 三ヶ月が経ち隊士としての合格ラインにまでは成長したミチヤはこれから根之国を発ち黄泉国へ向かうところだった。

「スサノオ様、このオロチこれで僅かながら恩に報いることが出来たかと思います」

 オロチは両手を床につき頭を下げる。

「相変わらずよのぉ。オロチはそこが良いところだが、もう少し楽に出来ないのか? 息が詰まるぞ?」

 快活にスサノオは笑う。

「ミチヤ、これから黄泉国でクロんとこに行くんだよな? 俺も一緒に行っちゃダメか?」

 カグツチが改まってミチヤに問いかける。

「それは、俺に聞いても分からないって」

 カグツチは悔しそうにそうかと言って俯いた。カグツチにも何か思うところがあるようで最近では「穢れ」の調査に加わりたいとずっとミチヤに話をしていたのだ。

「カグツチ、我らには我らの役割がある。今はそれに注力しなくては。根之国は私が、天津国の一柱としてカグツチの力が必要なハズです。」

 オロチは言い聞かせるようにカグツチに説く。

「分かっている。分かってはいるが許せねぇよ。神や神徒を利用してるんだろ?」

 歯痒い気持ちを抑えることもなく吐露するカグツチ。右の拳を左の掌に打ち付ける。


「あー……その、オロチとカグツチちょっといいか?」

 スサノオが少し気まずそうに苦笑いしながら二人を促すと、どうしたのかとオロチとカグツチはスサノオを見て眉間に皺を寄せる。

「実は八十禍津日神からお前ら二人も黄泉国へ臨時派遣する事に決まったと連絡があってな。言おうと思ったらオロチがクソ真面目に言うもんだからよォ……って!  いって!ちょっとクシナダぁ~」

 情けなくオロチのせいにすると横にいたクシナダはスサノオの太ももを抓りあげる。スサノオは涙を浮かべながら太ももを摩っている。

「オロチも思考を柔軟に持ちなさい。全く。あなたは真面目すぎます!  スサノオ様はもっと周りの様子を見てくださいなっ! オロチ。やりたい事があるなら相談なさい?カグツチは神族なのですからもう少し抑えなさいな?」

 そう言ってクシナダは笑って見せた。

「カグツチ、話が早くて助かったな! あのまま黄泉国へ直訴しに行くつもりだったもんな!」

 ミチヤ横でカグツチの肩を叩き、やったな! と親指を立てる。それに頷くとスサノオとクシナダの方へ向き直り深々と頭を下げた。

「そんじゃ、行ここうか!黄泉国へ!  オロチはホームシックにならないようにクシナダ様の写真でも持っていくかぁ?」

 ミチヤがおどけながら呆けるオロチに声をかける。

「ミチヤに心配される様では私もまだ訓練が足りないようですね。準備をして来ますので少しお待ちください。」

 オロチはそう言うと自分の住処へ一旦戻るために立ち上がり表へ向かう。

「くくっ! オロチのやつ、すこーし顔が赤かったよな?」

 小声でカグツチが笑うと、すかさず水の矢がカグツチの頬を掠め走り抜けた。

「おや?  カグツチ、すいません。何か虫の羽音が聞こえたので。」

 そう言うとオロチはフッと笑いながら去っていった。

「全く。お前らは。ミチヤ、二人が喧嘩しないように頼むな!   それと、この剣をミチヤに託す。多少、刃が欠けているが問題は無い。俺が天津国にいる時より使っていたものだ。」

 そう言うとスサノオは二尺ほどの長さの剣を手渡した。

「これは……スサノオ様、こんな神気の塊みたいな剣をいいのですか?  神剣なんじゃないですか?」

「それは天羽々斬(アメノハバキリ)と言って元々はただの鉄剣だ。オロチを切り倒した時に草薙の剣と大量の神気によって霊剣となり、天羽々斬となったものだ。以来、代々須佐之男命の所有物となっていたので神器と遜色ない物になったんだろうな。」

「そんな代々のものは受け取れませんて!」

 ミチヤはスサノオに天羽々斬を突き返す。

「言っただろ?ただの鉄剣だ。それに神族でない神徒が持ってこそ神器としての性能を発揮するだろ?  神器は神気のブースターになるからな!」

「いいじゃねーかよ!スサノオ様からの賜り物だ。負けることは許されなくなった訳だ!」

 カグツチは拳を握りミチヤの胸をトントンと突く。ミチヤは天羽々斬を見つめ、強く握る。

「分かりました。天羽々斬をありがたく使わせて頂きます!」

 ミチヤはそう言うと肩がけの剣帯に天羽々斬を差し込んだ。立ち上がり改めてスサノオとクシナダにお礼を言うとミチヤとカグツチは神木の社へと向かっていった。


 神木の社にミチヤたちが着いてから程なくしてオロチも合流した。神木から黄泉比良坂へと移動し、そこから黄泉国へと帰還した。
 久しぶりに見る黄昏色の空と遠くに見えるイザナミの神庭宮。一度しか来ていないのもあり、自分の部屋もあるが馴染みは薄い。それでも帰ってきたと言う気持ちをミチヤは不思議とこみ上げて来るのを感じる。

「やっと戻ってきたなぁ。三ヶ月振りにして、滞在時間は約一日の我が国へ!」

 ミチヤはめいいっぱいに体を伸ばす。その横で初めて訪れるオロチと久しぶりに来るカグツチは不思議そうに周囲を見渡している。

「こっちだよ。カグツチ、オロチ着いてきて」

「おい、一度しか来てないんだろ?  分かるのかよ?」

 心配そうなカグツチにもちろんと答えたミチヤの手には――「黄泉国の歩き方」が握られていた。

 二十分ぐらい歩くと大きな鳥居が見えてきた。神庭宮の入り口だ。その門の前には門番が二人たっているのが見える。二人に近づきミチヤは話かける。

「前鬼!  後鬼! 久しぶり!戻ってきたよ!」

 話しかけられた少年二人はミチヤに気付くと笑いながら大きく腕を振った。

「ミチヤさん、元気そうで安心しました」

 金髪の少年、前鬼はにこやかに言葉を返してくれた。

「スゥさ…スサノオ様のシゴキで無事とはね。一回ぐらい逃げ出したよな?」

 バンダナをまいた短髪の少年、後鬼はミチヤの服を掴み揺すりながら聞いてくる。

「逃げてない、逃げてない! 確かにおかしい訓練もしたけどなぁ……」

 ミチヤはそう言いながら遠い目をしている。その後フッと笑い後鬼の肩に手を置くと小声で後鬼に何か呟いた。それを聞いた後鬼は青ざめガタガタ震え出した。

「ミチヤサン、オツカレサマデシタ。ドウゾナカヘオハイリクダサイ。」

 ミチヤの一言で後鬼の精神は崩壊を起こしそうだ。

「ミ、ミチヤ。この子に何を言ったんだい?」

 後ろの方でオロチが不安そうに質問する。前鬼は予想がついたのだろう。額に手を当てはぁぁ……とため息を吐く。

「何でもないよ。スサノオ様との楽しかった訓練を伝えただけだからな!」

 オロチはそれ以外に何かあったのではないかと勘ぐるが実際のところ後鬼がスサノオのところに訓練に行った時のトラウマがフラッシュバックしただけなのだ。
 カグツチは門番二人をジロジロ見ながら鳥居を抜け歩いていく。ミチヤとオロチも少し後ろを歩いて神庭宮の門へと歩を進める。

 黄泉国の神庭宮は入ってすぐが大きなロビーになっている。そこには武官や文官が多くいて慌ただしく動き回っている。正面の奥には大きな階段があり階上のフロアに行くにはそこを通る。階段の脇には受付のカウンターがあり、女性職員が三人配置されている。ミチヤそこに行くと自分の名前と所属を言ってクロに用事がある事を伝えた。

「申し訳ありません。只今死神隊の皆様は特務中との事でお取次ぎできなくなっています。」

 女性職員は丁寧にお辞儀をしてミチヤにお引取りをと言ってきた。
 待って?  俺も死神隊だよな?  仮とはいえさ?
 少し面食らったがミチヤも女性に切り返す。

「あの、自分は死神隊の三番隊所属  ツヅキミチヤです!イザナミ様もいないのですか?」

 今度は女性の方が驚き再度調べますと言って、慌てて手元の書類や機器を検索する。
 ミチヤはこれで登録なかったら嘘つき扱いされて閻魔様でも出てくるかぁ?とそんなことを考えていると女性の悲鳴が聞こえた。

「い、いやーーー!!  何ですか!?  誰なんですか!?  触らないで!!  キャーーーっ!!!!」

 何事だと天羽々斬の柄に手をやるミチヤたが、それより早くカグツチが飛び出し女性職員を襲った不逞の輩を片腕でつるし上げる。

「てめぇ、燃やすぞ?チリも残さずにな!!」

 カグツチの速さにミチヤは感心しつつオロチの位置と周りの状況を確認した後、注意深くカグツチに掴まれた人物を確認した。

「タンマ!  ちょっ!  タンマじゃっ!!   ワシだって!   ワーシーッ!!」

 八十禍津日神だった。溜息を吐き、剣から手を離すとミチヤはカグツチに声を掛ける。

「カグツチ。それ、燃やしていいと思うよ」

 応よっ!  と言って掴んだ右手と反対、左手に焔を宿らせ八十禍津日神に近づける。見苦しく抵抗を続ける八十禍津日神は、もはや逃れることは出来ない。その時、後から凛とした声がエントランスホールに響き渡った。

「そのくらいにしておきなさい。カグツチ。後は私がバツを与えます。その手は守るためにあるのでしょう?」

 振り向くと階段の上から長く、腰まである黒髪を揺らしながら黒い軍服に身を包んだ綺麗な女性が降りてきた。

「い、伊邪那美様……お久しぶりです。ご無沙汰してしています。」

 左手の焔を消し、八十禍津日神を離すと振り返ったカグツチは申し訳なさそうに深々とと頭を下げる。オロチもカグツチの横に駆け寄りお辞儀をする。

「カグツチ、よく戻ってきてくれました。天津国の守護柱たるあなたが再び私に協力してくれること感謝します。そして歓迎します。
 ……おかえりなさい。」

 その言葉を聞くとカグツチは下を向いたまま片膝をついた。彼なりに無言ではあるが彼女に仕える事を誓ったのであろう。
 優しくカグツチに微笑かけたあとに、キッと八十禍津日神を睨みつけると八十禍津日神は動かなくなった。イザナミが捕縛術を施したのである。

 ミチヤもイザナミが出てきてくれたことに心から安堵した。

「イザナミ様、根之国から戻ってきました。びっくりしましたよ!  職員の人に部外者扱いされてどうしようかと思いました。良かったぁ~。あれ?イザナミ様?」

 イザナミは笑顔のままで凍りついている。



 ――神庭宮   イザナミ執務室


「ごめんなさい!  本当にごめんなさい!   ミチヤ君の部隊登録と職員申請を忘れちゃってたの!」

 立ち尽くすミチヤの前でイザナミが掌を合わせ頭を下げている。どうも、ミチヤが根之国へ渡った直後から事件絡みの事で頭がいっぱいの所に三ヶ月前の奈良の事件で登録を完全に放置していたようだ。ミチヤはガッカリしていた。頑張ったのに、頑張ったのに……

「イザナミ様、もう大丈夫ですから!  顔を上げてください。」

 ガッカリしたのは本当だが上司にこのまま頭を下げられるのもミチヤは困っていた。

「……怒ってない?」

 チラッと上目遣いにミチヤを見る。ヤバい。イザナミ様可愛すぎる!赤面し声の出せないミチヤは必死に首を上下させる。イザナミはテヘッと舌を出しながらごめんなさいともう一度言う。効果は抜群だ。ミチヤは手で顔を隠しながら一歩引く。

 横をちらっと見ると泡を吹いて横になる八十禍津日神が見える。それを見るとミチヤの興奮のボルテージは通常より少し下まで下がった。

「ミチヤ君、改めておかえりなさい。そして、第三部隊の正式な配属を申し渡します。」

 ミチヤはやっと正式隊員として迎えてもらう事になった。
 思えば最初は意味もわからず死にました。と宣告されると同時に死神やりますよ!と言われ混乱するし、神通力はまともに使えない。どうなるかと思ったけど何とかなるもんだと、ミチヤは感慨にふけった。

「ふむ。ようやっと面子が揃いつつあるのぉ」

 イザナミの方を向くといつの間にか八十禍津日神がイザナミの後に立ち今にも抱きつきそうになっていた。しかし、八十禍津日神はそこから動かない。動かない所か後退して時計回りにイザナミの机の前に戻ってきた。カグツチが燃えるような神気をむき出しにして睨んでいたからだ。

 全く。めげないなぁこの人は……。皆が思う。

 ゴホンと一つ咳払いをして八十禍津日神は話し始めた。

「ツヅキミチヤ。並びに火之迦具土神、八俣遠呂智。根之国での研鑽、大儀であった。各々が更なる力を得た事、須佐之男命、櫛名田比売の両名から既に報告を受けている。伊邪那岐命様も主らには期待しておる。これより先の拝命は神威と心得よ。」

 先程までの八十禍津日神の雰囲気とは打って変わってその一言一言には言霊があるかの如く重々しく響く。
 ミチヤたちは姿勢を正し、八十禍津日神の言葉に聞き入る。

 内容はこうだ。ツヅキミチヤは死神第三部隊として任務を務めあげよ。カグツチとオロチの両名はイザナミ付きの遊撃隊として、イザナミの護衛及び黄泉国の守護柱筆頭として責務を全うせよ。とのことであった。

 一通り伝え終わると八十禍津日神は深呼吸をして、疲れたから帰る。バイビー!と言って消えていった。一体何がしたいのだろうか。不思議な人だ。

 そして、ミチヤはイザナミに部隊の待機室を教えてもらい、そこに向かうため執務室を後にした。カグツチとオロチは二人ともイザナミ付きということで任務についてイザナミの指示を仰ぐ事にした。


  執務室を出るとミチヤは部隊詰所のあるフロアに行き、入り口で立ち止まる。

「ここから先、死神隊待機所の為関係者以外立ち入り禁止。」そう書かれた看板と強固な大きい扉がある。

「すげぇな。どうやって入るんだ?えーっと。入室ってあるな。このボタンか?」

 ミチヤがボタンを押すと扉の両側から鏡の様なモノが出てきて光でミチヤを照らす。不思議と眩しくはない。全身が光に包まれたあとにガチャンと重々しい音が聞こえた。目の前の扉の下半分が開いた。生体認証のようだ。部隊登録されているのを実感しながら中へと進み「第三部隊詰所」と書かれた部屋の前に立ちミチヤは深呼吸をする。

 ――そして、右手でノックを三回してからドアノブを回して扉を開く。

「本日付で第三部隊、末席として配属になりました、都築倫也(ツヅキミチヤ)です!よろしくお願いします!」

 ―続く





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