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第七話 修得!訓練が終わりましたよ!?
しおりを挟む執務室へと向かう途中で何とか自我を取り戻したオロチとカグツチは再び掴み合いそうになるがクシナダが間には入りこれを収めた。
その後も睨み合いは今だに続けている。
なぜこの2人が犬猿の仲なのか。原因はクシナダなのだ。親のいない2人を以前よりスサノオとクシナダは親だと思い頼って欲しいと可愛がっているのだ。
オロチは幼い頃、人間界で神通力を異端の力とされ迫害され、神徒になった。その後力欲しさに天津国より草薙の剣を盗もうとしたところ力を暴走させ、八俣遠呂智となった。当代のスサノオがこれを倒した時にオロチは初めて救われた。恩人であるスサノオ夫婦を敬愛している。
カグツチは神族であるが、その類稀なる神気の力で親を誤って殺めてしまった。カグツチは自身のの出す炎を綺麗だと言う母の為、大量の炎で母を囲んでしまった為である。カグツチは自分が炎を纏えるので当然母も平気だと思っていたのであった。そして親殺しと呼ばれその能力からカグツチとなったのだ。
故に親の愛情の奪い合いが主だった原因である。
「2人とも元気そうだな」
「はい、スサノオ様。私、オロチは日々精進しております」
背筋を伸ばし報告する。
「火之迦具土神、天津国よりスサノオ様よりご拝命給わるべく、馳せ参じた次第にあります!!」
カグツチはオロチを敬礼したまま横目で見る。
俺の挨拶の方がかっこいいだろ?と言いたそうだ。オロチはそれを見ない振りをする。話が進まなくなるのは本意ではない。
つまらなそうにカグツチは前を向き直る。
「悪いな。2人にはそこにいる、ツヅキ ミチヤの訓練に付き合ってもらいたい。今、マガモノが急速に増加の傾向がある。ミチヤは黄泉国の死神隊の新人だ。早く本隊に合流出来るようにしたい」
2人はミチヤを見る。慌ててミチヤはお辞儀する。
「スサノオ様、具体的にはどのように?」
向き直り、オロチは尋ねた。
「まず、オロチには神気のコントロールと神通力の強化をしてもらいたい。カグツチには組手による、実戦形式の訓練を頼みたい」
「承知致しました。カグツチ。悪いが先に私がミチヤを訓練する。スケジュールとしては午前は私が、午後はカグツチでやりましょう」
「まぁ、妥当だな。自身の力を把握出来ないのは戦闘では致命的だからな。スサノオ様、今のオロチの意見ではどうでしょうか?」
カグツチがジロジロとミチヤを見ている。
「任せよう。いずれの訓練も俺が付き添うが基本的には一任する。それと期間だが三ヶ月とする。それまでにミチヤを育て上げよ」
三ヶ月……短い期間だが大丈夫何だろうか?ミチヤは焦燥感が顔に出る。オロチとカグツチは驚いたが承知しましたと答えた。
執務室を後にして訓練場にオロチとミチヤは向かった。そう言えば根之国の訓練場に行ったことはなかった。スサノオとの訓練はいつも神庭宮の北側にある山岳地帯か私設の道場だったからだ。神庭宮の地下にあるらしいが入り口を見た事もなかった。オロチの後をついて行くと神庭宮の庭にある小さな社の前に来た。あぁなるほど。もうミチヤも慣れてきたのか勝手が分かってきた。この小さな社にも鳥居があるのだ。ここが入り口なのだ。でも訓練場に行くのにこの手の移動となると異空間なのか?ミチヤは考えながらオロチの後に続いて鳥居をくぐった。
「すげぇ……海だ……」
遠くまで広がる海と砂浜がそこにはあった。さながら三保の松原のようだ。修練場と言うよりは観光地にしか見えない。
「ここでやりますか。ミチヤ。神気と神通力についてはどのくらい知っていますか?」
オロチはミチヤの前に立ち問う。
「神気は確か、神通力を起こすための力で基本的な力じゃないんですか?」
「概ねあっていますね。神気は生命に流れる気のと同じで神族、神徒特有の力です。神族はこれを自ら作り出して生命力としています。一方で神徒は自ら作り出すことはできません。自然や従属する神などから力を借ります」
借りる?今までそんな事は意識したことがない。ミチヤは疑問に思う。
「神徒は作り出せはしないものの一度取り入れた神気をある程度留めておけるのです。それ故に先程、あなたには無駄に神気を使っていると注意したのですよ。あのままでは力尽きて動けないなるのは目に見えていますからね」
つまり、ミチヤは無意識のうちに神気を取り込み使っているけどその力の限界を全く意識していない。という事だ。いつもスサノオとの訓練の後、疲れ過ぎて倒れそうになるのは疲れただけでなく神気が空っぽの状態だったのだ。
「オロチ様、神気をコントロールが出来れば少しの神気でも十分な身体強化ができるのですか?」
ミチヤふと気づいた。そうであればスサノオと追いかけっこをしていた時のオロチの言葉に合点がいく。
「そういう事です。 それともうひとつですが神通力には属性があるのは聞きましたね?大きく分けると二種類に分類されます。あなたの召喚属性と陰陽道の様な自然の理を扱う森羅万象の属性があります。それとミチヤ、私の事はオロチで構いません。カグツチと違い私はあなたと同列の神徒なのだから。」
「分かった。オロチ宜しく頼みます!」
オロチによると召喚属性はイメージした物に限定して呼び出せるようだ。つまり、生命体は出来ないのだ。ただし、契約をした生命体なら出来るそうだ。森羅万象属性とは火、水、土などを自在に操ることが出来るそうだ。捕捉としては、イザナギ様はこの二つに加え創造の力もあるそうで境界や命を生み出すことも出来るようだ。
オロチからは知識と力の在り方、扱い方を学び、カグツチからは体の使い方と武器の扱いを学んだ。そしてあっとゆう間に三ヶ月が過ぎた。その間、スサノオは宣言通り付き添いだけで一言たりとも助言などはしなかった。
「オロチ、カグツチ。両名とも良くやってくれた。どうにも、俺だけではミチヤをここまで育てるのは厳しかった。礼を言う!!」
オロチとカグツチはその場に膝をつき畏まる。
ミチヤも同じ姿勢を取る。この三ヶ月でミチヤはオロチとカグツチを相手にしても凌ぎ切るほどの力を付けていた。召喚した武器に神気を通してコントロールすることができるようになったためだ。そうは言っても体術戦だけだ。森羅万象の力を使う、言わば法術戦ではオロチにもカグツチにも流石に適わない。
「この三カ月間、本当にありがとうございます!
オロチとカグツチ様のおかげで自信が持てるようになりました。スサノオ様にもお二人を指導につけて頂けたこと感謝致します」
訓練の成果としてこの日スサノオとも手合わせをしたミチヤは初めてスサノオの神通力をを目の当たりにしていた。圧倒的な力の前に剣を一合重ねたあとは一撃で戦闘不能にまで追い込まれた。
形式的な挨拶をして訓練場を出たミチヤたちは打ち上げをする予定になっていた。
「クシナダ様のご馳走楽しみだなぁ~。あぁ考えただけで空腹が、ヨダレがぁ!!」
「この穢らわしい蛇は……全く。節操というものがないようですね!クシナダ様の料理を嗜む権利など無いですね」
オロチがクシナダのご馳走に思いを馳せ身体をくねらすカグツチに悪態をつく。訓練で精神的にカグツチも成長したのかこの悪態に飛びつかなかった。前なら電光石火の如くオロチに掴みかかるところだ。
「オロチ。駄目だよ。カグツチ様は今何も耳に入らないよ?完全に飯の事しか考えてないからアホみたいな顔してるもん」
オロチがカグツチの顔を見る。噛み付いてこないのを不思議に思ったが、なるほど。ミチヤ言う通りのようだ。溜息を吐きながら湯殿の方に向かい歩いていった。湯に浸かっている間もカグツチは相も変わらず惚けていた。その様子を見てミチヤもご馳走に期待せずにはいられない。
湯殿から上がり時間を見ると打ち上げの時間まで一時間ほど余裕があった。ミチヤこれまでの事を思いスサノオの道場へと足を運ぶ。
畳三十畳ほどの道場がとても広く感じる。今まではイザナギ様特製の広大な訓練場にいたにも関わらず、壁の隔たりがあるこの場所をなぜかそう感じていた。
「やるか……」
そう言うと慣れた手つきで一振の刀を召喚した。
中段の構えて深呼吸をする。ミチヤはまるで敵がいるようにイメージしながら刀を振るう。その姿はまるで本当に試合をしているようだ。
最後に上段から縦に一線振り下ろす。ゆっくりと身体を起こし息を整える。汗ひとつかいてはいない。神気のコントロールが繊細にできるようになったため、体力の消費なども少なく済むようになっていた。
今度は手にしていた刀を持ったまま下段に構え目を伏せる。そしてイメージする千の刃を……
これはまだオロチにもカグツチにもまして、スサノオにも見せていない技であった。完成してから見せようとしていたからである。そして、今なら出来るような気がしていたのだ。
いける……この感覚は今まででイメージに一番近い!!
ミチヤはそっと目を開ける。そこには数え切れないほどの刀、槍、戟、剣などのあらゆる刃物が無数に浮いていた。
「よし!出来た!!」
その刃物を自分を中心に回転させる。全てのものが同じ様に動く。神気が満遍なく通っている証拠だ。動きを確認すると右腕を横に振り、全ての武器を納めた。
これだけの量の武器をどこから召喚したのか。ミチヤ召喚は通常のものとは違う所があることが分かった。これも訓練の段階でオロチが気づいたのだが、ミチヤの刀が何処から召喚されるのか不思議に思ったので一振の刀を用意してミチヤの手元に召喚するように言ったのだ。するとミチヤの手元に同じ刀が召喚された。しかし、オロチの手元にも刀はある。つまりは、本物では無いにしろミチヤはイメージで複製を召喚することが出来る事が分かった。この辺りはイメージで死んだとの話を聞いてオロチもカグツチも流石だと感嘆の声を上げた。
「シンドいな……まだまだ実戦じゃ使えないな。もっと神気の練度上げないと制御しきれないか……」
そう言いながらも満足そうにミチヤは大の字に寝そべっている。少しでも早く黄泉国の部隊に正式入隊したいものだ。そしてクロと一緒に戦ってみたいと、逸る心を抑える様に目を閉じて無心になろうとする。本当に疲れたのだろう。ミチヤそのまま寝てしまった。笑った顔のまま……
「ミチヤの奴どこいったんだよ!もう宴の時間になるのによォ!世話の焼ける弟子だぜ。見つけたら少し焼くか」
ミチヤを探し道場にカグツチが来た。中を見回すカグツチ。そして道場の真ん中で大の字に寝そべっているミチヤを見つけた。
「ミチヤ!こんな所で寝るな!あれ……?ぶっはぁっ!!コイツ笑ってらァ!」
満足そうに笑いながら寝ているミチヤを眺めカグツチはしゃがみ込んだ。
「無理もないか……スサノオ様の神気をあれだけ喰らえば動けなくて当たり前だしな。まだまだ弱いけど根性はあるんじゃねぇの?チッ……仕方ねぇ。運んでやるか!」
そう言うとカグツチはミチヤを背負い道場わ後にした。言うまでもなくこの後ミチヤはカグツチとスサノオによってイタズラされるのである。
そこには八十禍津日神もそこに加わり打ち上げは混沌として行くのであった。
―続
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