6 / 14
第六話 蛇の神と神徒……ですか!?
しおりを挟む
ここは根之国。穀物や野菜など豊かな所だ。
正に豊穣国である。川のせせらぎ、虫の声など
心が癒される国なのだ。
「いやぁァァァァっ!」
「やめてくだいっっっ!」
こんな声が聞こえてくるのは異常事態なのだ。
その原因は数日前から滞在している、八十禍津日神(ヤソマガツヒノカミ)の仕業である。
「良い、良い♪やはり、女子はこう!キャー、キャー言いながら追いかけっこしたりのぉ~!」
1人の老人が両手をグーで握り、体を縮めて跳ね上がり両腕を天に伸ばす。その様子を遠巻きに見るものもいれば、そそくさとその場を離れていくものがいる。ただ、近づくものはい無かった。
少なくともついさっきまではいなかった。
「ヤソマガツヒノカミ様に置かれましては根之国をとても楽しんでおられます様子で私も筆舌に尽くし難い思いですわ…」
クシナダが禍々しいオーラを発しながらヤソマガツヒノカミに近付いて行く。
「クシナダかえ?いやぁもう最高だネ!ここにいたら若返りそうでのぉ!!」
満面の笑みでヤソマガツヒノカミはクシナダの方を向くがその顔は一瞬で衰弱して行った。
「それは、それは!良うございました!これで私も心置き無く、八十様を送り出すことが出来ますわぁ!」
クシナダは般若の面を着けていた。面の下の表情は言うまでもなく鬼神となっているだろう。
「や、やぁだなぁ…わし、遊んでいただけじゃよ…」
ヤソマガツヒノカミは試しに言ってみた。試しに…と言うのはもう誰にも止めらんないのが分かっていたからだ。
「黄泉国へご案内して差し上げますわ…」
クシナダが草薙の剣を振りかぶる。
「いや…堪忍してェェェェッッッ!!」
ヤソマガツヒノカミは悲痛な叫びを上げる!
「ちぇぇぇすとぉぉぉぉぉっ!!」
目を怪しく光らせ、笑いながらクシナダは草薙の剣をヤソマガツヒノカミ目掛け振り下ろす!
その瞬間と同じタイミングでヤソマガツヒノカミを突然、炎が包み込んだ!!
「ッッッッッッ!?」
言葉にすらならない叫びを上げながらヤソマガツヒノカミは神庭宮から出ていった。
「クシナダが手を下すまでもありませんよ…」
声のする方に見るとクシナダは面を外した。その顔は正に「女神の祝福」と言う笑顔だった。
騒然としていた宮内もこの人物の登場に落ち着きを取り戻した。
「お騒がせしました。もう大丈夫です。」
整った顔にスラッとした体型の高身長に真っ赤な髪の毛の青年が大きめの声で話した。
クシナダは青年にお礼を言った。
「火之迦具土神(ヒノカグツチ)様ありがとうございます!」
「クシナダがあんな穢れに触るなどあってはならないからな…スサノオもそんな事になれば悲しむだろう?」
クシナダは感謝はしているがこのキザな所は苦手だった。
その頃、スサノオとミチヤは神庭宮から離れた
山岳地帯にいた。
「スサノオ様、この辺りでしょうか?」
ミチヤが息を切らしながら尋ねる。
「そうだな。もう少し先に湖があるのだがそこをねぐらにしておるからな。あと少しで着くだろうよ。」
スサノオは眼下に広がる田畑の美しい景色を堪能している。ミチヤも根之国を一望できるその景色に目を奪われ足を止めている。
こんな山岳地帯を歩いているのはスサノオの直属の神徒を呼びに行くためだった。スサノオ自らミチヤと行くのも険しい山でのミチヤの体力作りと神気のコントロール訓練も兼ねているからである。また、スサノオ自身も神区の調査をする目的もあった。
神庭宮を出て、既に半日程が経っていた。朝早くに出たので今はお昼頃だ。
「ミチヤ、この辺りで一息入れようか。」
スサノオはそう言うと適当な岩に座り水筒の水を飲んだ。ミチヤも同じ様に座り水を飲む。
穏やかだ…ミチヤは先日の事を思い浮かべ「穢れ」や神気について自分なりに整理をしていた。
一先ず、神気については通常のコントロールは出来るな。身体に纏う様にイメージすれば身体能力が向上する。あとは、心の欲望に神気を引っ張られ無いようにしなければまた、神気は「穢れ」となり、暴走してしまうな…
そんな事を考えているとスサノオがミチヤに小石を投げてきた。
「難しい顔をするな!暴走自体は力の扱いに成熟すれば抑えられる。その為にも今から会う奴の指導が必要なのだ。恥ずかしい話だが俺が過去天津国で暴れた際は暴走ではなく、自分の意思で暴れていた。その為に「穢れ」に飲まれることは無かったのだがな。」
スサノオは過去に天津国を崩壊させる勢いで暴れた事があるそうだ。その理由はイザナミ様に、お母さんに会うために。
話は逸れるが、今の神々は各々引き継ぎによりその地位にいるため原初の神々では無い。その為、実際はイザナミ様とイザナギ様は夫婦でも兄妹でもないそうだ。ただ、スサノオ様とイザナミ様は本物の親子だそうだ。先日、酔っ払ったヤソマガツヒノカミがペラペラと喋ったのである。スサノオが怒ったのはいうまでもない。
「そうですね。スサノオ様。八十様の言う「来るべき時にしかる場所」に入れるように俺も頑張ります。」
決意を確認する様にミチヤの言葉にはちからがこもる。
よく言った!そう言うとスサノオは立ち上がり再び歩き出した。ミチヤもその後ろを歩いて行く。
1時間ほど歩くと1つの山を越えた。その山中に広く広がる森と湖が見えた。
「ミチヤ。見えたぞ。あそこだ。」
遠くにみえる湖を指差しスサノオが笑う。
ミチヤも目的地が見え、安心したのか表情が緩む。
「ここからだが、ミチヤ。俺とあの湖の畔まで競走だな!」
スサノオは新しいイタズラを思いついたような顔をしている。ミチヤは嫌な予感しかしないが避けられないと悟った。
ならば…先手必勝!!
無言で飛び出す。神気を使い大地を蹴り上げ大きく跳躍しながら木の枝を飛び移っていく。
いつもの待ってください!と言いながら慌てるミチヤを想像していたのでスサノオは虚をつかれた。小さくなるミチヤを見てハッとしてから笑った。
「それは、フライングというのだ!!」
いつもはスサノオの方がフライングなのだが、やられたと言う顔でスサノオは走り出す。
15分ほどで湖の辺近くまでたどり着いていたミチヤはふと後ろが気になり振り向くと遠くでメキメキと音がしている。よく聞くとさらに遠くでドォーーン…と音がする。
まさか…嫌な予感ばかり最近では当たる。スサノオは直線に湖を目指し走って…いや、特攻している!目の前の障害物を霧を払うように軽くなぎ倒しながら!!
「出た…怪力おばけ…」
あと少し、ここまで来て負けるわけには行かない!!
ミチヤは更に神気を解放しながらスピードを上げて木と木を飛び移りながら進む。
「そんなに力を使っても溢れ出すだけで無駄な使い方だな。」
どこからともなく声が聞こえた気がした。ミチヤは先程から周囲の気配に人がいないことは確認済みだ。
そのため気に留めるとこはなかった。程なくして目の前に湖が見えた!
終わりだ!勝ったな!そう思い湖畔へと木の幹を蹴り、大きく跳躍する。
森から湖畔へと身体が飛び出した瞬間ミチヤに強い衝撃が走る。
なんだ!?攻撃!?スサノオ様のじゃない…誰だ!?
ミチヤは衝撃で崩れた態勢を立て直す。
湖畔には青髪で長髪の綺麗な女性がいた。
「あなたは…誰ですか!?急に横から…」
遮るようにその人物は答える
「自分が何をされたかも分かっていないのでしょう?全く….スサノオ様も何をされているのか…」
声はいくぶん低いようだ。溜息をつきながら森の方を睨んでいる。
すると息を切らしながらスサノオが走ってきた。
「っはぁ!っはぁ!……っやぁ~!!見事に出し抜かれたわ!ミチヤもやるようになったな!」
「笑っている場合ではありません!」
青髪の女性はスサノオに言葉をぶつけた。
「お?出迎えか!?殊勝な心掛けだのぉ!」
女性はスサノオの態度に痺れを切らし勢いよくスサノオに檄を飛ばす。
「いいですか!?そんな事ばかりしているからクシナダ様が苦労されるのです!昨日来ましたが八十禍津日神様がいつまでもスサノオ様を子供扱いされるのですよ!!根之国の主神としての自覚はおありですか!?………!!」
女性の説教はまだ続くようだ。この後スサノオから紹介をされるのだが、まず女性ではなく男性だった。それほどまでに美しい容姿をしていて、なおかつ華奢な体つきであった。
彼の名は八俣遠呂智(ヤマタノオロチ)。過去にクシナダの姉妹を7人喰らい、クシナダを喰らおうとしたところスサノオに切り倒された。
実は最後に尾を切り裂く際に草薙の剣と共に剣を抱いた状態で彼が出てきたのだ。
結局のところ草薙の剣を隠れて手に取った神徒の若者が暴走して、八俣遠呂智となったようだ。
その後はスサノオの神徒として根之国を守る事と新人の育成を行っている。自身の失敗が再び起きないようにと。
その為、八十禍津日神も希に彼の様子を見に来るそうだ。以前言っていた残った「穢れ」の欠片がおおかったのだろう。
無事にオロチとも合流することは出来た。スサノオとミチヤはオロチを連れて神庭宮に向けてもどりのであった。
──場所は再び、神庭宮。
「きゃぁぁぁぁっっ!!」
「やだぁぁぁっ!!」
女性の悲鳴は続いていた。しかし、先程とは違いはしゃいだ様子でいるのだ。
「スサノオ様が戻るまで俺とお茶しようか?」
火之迦具土神は宮内の女性を口説きまくっていた。火之迦具土神は整った顔に赤く短い髪を逆立てている。正に爽やかな王子と言った様子の風貌をしている。こんな男に声をかけられ女性もまんざらではない様子だがカグツチは断られ続けている。
原因はカグツチの後のクシナダが「いいか?誘いに乗るんじゃねぇぞ?行くなら明日からお前の名札はビッ○になるからな!?」と念を出しているからだ。
カグツチはつまらなそうに呟く。
「根之国の女の子は硬いよね~?」
クシナダは素知らぬ顔で答える
「大和撫子を体現出来ていますね。我が国ながら感動しますわ!」
スサノオに手伝って欲しいと言われ天津国から馳せ参じたのに呼び出した本人は留守のためカグツチは暇を持て余していた。
「もどったぞー!!」
大声が聞こえた。どこからとも無くいきなり現れクシナダがスサノオに駆け寄りイチャつく。
スサノオの後ろのふたりが苦笑いしながらたっている。2人とも神徒か…1人は新人て感じだな。
カグツチはスサノオのお供を値踏みしている。
そしてもう1人を見た瞬間に口元を歪ませ青髪の青年に突進した。
青髪の青年。オロチは既のところで気づき、突進してきたカグツチの拳を受け止める。
「あ、相変わらず元気そうですね…しかし、出自が野蛮なだけあってその性格は変わりませんか!?」
オロチは嫌味を吐き捨てる様に言った。
「そうだなぁ。俺が野蛮ならお前は何だろうね?
人喰らいで欲望まみれの青蛇さんよォ…!」
いがみ合う2人の美青年の顔が近づく。周りの女官たちは興奮がやまない。クシナダまでもが息を飲んで見ている。
チュッ…
「!!!!?!!??!!!?」
二人の青年の唇が重なる。
「きゃぁぁぁぁっっ!!」
女官たちは歓喜する。クシナダは…っしゃ!と拳を握る。どうやら宮内ではBLがトレンドのようだ。
「お前達、相変わらず仲いいな!」
原因はスサノオだった。2人の顔を強引にくっつけた。
オロチとカグツチの2人はその場へへたり込んだ。
目の瞳孔が開いたままになった2人を続行不能と判断し、車椅子に2人を乗せ執務室へと近くにいた官職に運ばせた。
──続く
正に豊穣国である。川のせせらぎ、虫の声など
心が癒される国なのだ。
「いやぁァァァァっ!」
「やめてくだいっっっ!」
こんな声が聞こえてくるのは異常事態なのだ。
その原因は数日前から滞在している、八十禍津日神(ヤソマガツヒノカミ)の仕業である。
「良い、良い♪やはり、女子はこう!キャー、キャー言いながら追いかけっこしたりのぉ~!」
1人の老人が両手をグーで握り、体を縮めて跳ね上がり両腕を天に伸ばす。その様子を遠巻きに見るものもいれば、そそくさとその場を離れていくものがいる。ただ、近づくものはい無かった。
少なくともついさっきまではいなかった。
「ヤソマガツヒノカミ様に置かれましては根之国をとても楽しんでおられます様子で私も筆舌に尽くし難い思いですわ…」
クシナダが禍々しいオーラを発しながらヤソマガツヒノカミに近付いて行く。
「クシナダかえ?いやぁもう最高だネ!ここにいたら若返りそうでのぉ!!」
満面の笑みでヤソマガツヒノカミはクシナダの方を向くがその顔は一瞬で衰弱して行った。
「それは、それは!良うございました!これで私も心置き無く、八十様を送り出すことが出来ますわぁ!」
クシナダは般若の面を着けていた。面の下の表情は言うまでもなく鬼神となっているだろう。
「や、やぁだなぁ…わし、遊んでいただけじゃよ…」
ヤソマガツヒノカミは試しに言ってみた。試しに…と言うのはもう誰にも止めらんないのが分かっていたからだ。
「黄泉国へご案内して差し上げますわ…」
クシナダが草薙の剣を振りかぶる。
「いや…堪忍してェェェェッッッ!!」
ヤソマガツヒノカミは悲痛な叫びを上げる!
「ちぇぇぇすとぉぉぉぉぉっ!!」
目を怪しく光らせ、笑いながらクシナダは草薙の剣をヤソマガツヒノカミ目掛け振り下ろす!
その瞬間と同じタイミングでヤソマガツヒノカミを突然、炎が包み込んだ!!
「ッッッッッッ!?」
言葉にすらならない叫びを上げながらヤソマガツヒノカミは神庭宮から出ていった。
「クシナダが手を下すまでもありませんよ…」
声のする方に見るとクシナダは面を外した。その顔は正に「女神の祝福」と言う笑顔だった。
騒然としていた宮内もこの人物の登場に落ち着きを取り戻した。
「お騒がせしました。もう大丈夫です。」
整った顔にスラッとした体型の高身長に真っ赤な髪の毛の青年が大きめの声で話した。
クシナダは青年にお礼を言った。
「火之迦具土神(ヒノカグツチ)様ありがとうございます!」
「クシナダがあんな穢れに触るなどあってはならないからな…スサノオもそんな事になれば悲しむだろう?」
クシナダは感謝はしているがこのキザな所は苦手だった。
その頃、スサノオとミチヤは神庭宮から離れた
山岳地帯にいた。
「スサノオ様、この辺りでしょうか?」
ミチヤが息を切らしながら尋ねる。
「そうだな。もう少し先に湖があるのだがそこをねぐらにしておるからな。あと少しで着くだろうよ。」
スサノオは眼下に広がる田畑の美しい景色を堪能している。ミチヤも根之国を一望できるその景色に目を奪われ足を止めている。
こんな山岳地帯を歩いているのはスサノオの直属の神徒を呼びに行くためだった。スサノオ自らミチヤと行くのも険しい山でのミチヤの体力作りと神気のコントロール訓練も兼ねているからである。また、スサノオ自身も神区の調査をする目的もあった。
神庭宮を出て、既に半日程が経っていた。朝早くに出たので今はお昼頃だ。
「ミチヤ、この辺りで一息入れようか。」
スサノオはそう言うと適当な岩に座り水筒の水を飲んだ。ミチヤも同じ様に座り水を飲む。
穏やかだ…ミチヤは先日の事を思い浮かべ「穢れ」や神気について自分なりに整理をしていた。
一先ず、神気については通常のコントロールは出来るな。身体に纏う様にイメージすれば身体能力が向上する。あとは、心の欲望に神気を引っ張られ無いようにしなければまた、神気は「穢れ」となり、暴走してしまうな…
そんな事を考えているとスサノオがミチヤに小石を投げてきた。
「難しい顔をするな!暴走自体は力の扱いに成熟すれば抑えられる。その為にも今から会う奴の指導が必要なのだ。恥ずかしい話だが俺が過去天津国で暴れた際は暴走ではなく、自分の意思で暴れていた。その為に「穢れ」に飲まれることは無かったのだがな。」
スサノオは過去に天津国を崩壊させる勢いで暴れた事があるそうだ。その理由はイザナミ様に、お母さんに会うために。
話は逸れるが、今の神々は各々引き継ぎによりその地位にいるため原初の神々では無い。その為、実際はイザナミ様とイザナギ様は夫婦でも兄妹でもないそうだ。ただ、スサノオ様とイザナミ様は本物の親子だそうだ。先日、酔っ払ったヤソマガツヒノカミがペラペラと喋ったのである。スサノオが怒ったのはいうまでもない。
「そうですね。スサノオ様。八十様の言う「来るべき時にしかる場所」に入れるように俺も頑張ります。」
決意を確認する様にミチヤの言葉にはちからがこもる。
よく言った!そう言うとスサノオは立ち上がり再び歩き出した。ミチヤもその後ろを歩いて行く。
1時間ほど歩くと1つの山を越えた。その山中に広く広がる森と湖が見えた。
「ミチヤ。見えたぞ。あそこだ。」
遠くにみえる湖を指差しスサノオが笑う。
ミチヤも目的地が見え、安心したのか表情が緩む。
「ここからだが、ミチヤ。俺とあの湖の畔まで競走だな!」
スサノオは新しいイタズラを思いついたような顔をしている。ミチヤは嫌な予感しかしないが避けられないと悟った。
ならば…先手必勝!!
無言で飛び出す。神気を使い大地を蹴り上げ大きく跳躍しながら木の枝を飛び移っていく。
いつもの待ってください!と言いながら慌てるミチヤを想像していたのでスサノオは虚をつかれた。小さくなるミチヤを見てハッとしてから笑った。
「それは、フライングというのだ!!」
いつもはスサノオの方がフライングなのだが、やられたと言う顔でスサノオは走り出す。
15分ほどで湖の辺近くまでたどり着いていたミチヤはふと後ろが気になり振り向くと遠くでメキメキと音がしている。よく聞くとさらに遠くでドォーーン…と音がする。
まさか…嫌な予感ばかり最近では当たる。スサノオは直線に湖を目指し走って…いや、特攻している!目の前の障害物を霧を払うように軽くなぎ倒しながら!!
「出た…怪力おばけ…」
あと少し、ここまで来て負けるわけには行かない!!
ミチヤは更に神気を解放しながらスピードを上げて木と木を飛び移りながら進む。
「そんなに力を使っても溢れ出すだけで無駄な使い方だな。」
どこからともなく声が聞こえた気がした。ミチヤは先程から周囲の気配に人がいないことは確認済みだ。
そのため気に留めるとこはなかった。程なくして目の前に湖が見えた!
終わりだ!勝ったな!そう思い湖畔へと木の幹を蹴り、大きく跳躍する。
森から湖畔へと身体が飛び出した瞬間ミチヤに強い衝撃が走る。
なんだ!?攻撃!?スサノオ様のじゃない…誰だ!?
ミチヤは衝撃で崩れた態勢を立て直す。
湖畔には青髪で長髪の綺麗な女性がいた。
「あなたは…誰ですか!?急に横から…」
遮るようにその人物は答える
「自分が何をされたかも分かっていないのでしょう?全く….スサノオ様も何をされているのか…」
声はいくぶん低いようだ。溜息をつきながら森の方を睨んでいる。
すると息を切らしながらスサノオが走ってきた。
「っはぁ!っはぁ!……っやぁ~!!見事に出し抜かれたわ!ミチヤもやるようになったな!」
「笑っている場合ではありません!」
青髪の女性はスサノオに言葉をぶつけた。
「お?出迎えか!?殊勝な心掛けだのぉ!」
女性はスサノオの態度に痺れを切らし勢いよくスサノオに檄を飛ばす。
「いいですか!?そんな事ばかりしているからクシナダ様が苦労されるのです!昨日来ましたが八十禍津日神様がいつまでもスサノオ様を子供扱いされるのですよ!!根之国の主神としての自覚はおありですか!?………!!」
女性の説教はまだ続くようだ。この後スサノオから紹介をされるのだが、まず女性ではなく男性だった。それほどまでに美しい容姿をしていて、なおかつ華奢な体つきであった。
彼の名は八俣遠呂智(ヤマタノオロチ)。過去にクシナダの姉妹を7人喰らい、クシナダを喰らおうとしたところスサノオに切り倒された。
実は最後に尾を切り裂く際に草薙の剣と共に剣を抱いた状態で彼が出てきたのだ。
結局のところ草薙の剣を隠れて手に取った神徒の若者が暴走して、八俣遠呂智となったようだ。
その後はスサノオの神徒として根之国を守る事と新人の育成を行っている。自身の失敗が再び起きないようにと。
その為、八十禍津日神も希に彼の様子を見に来るそうだ。以前言っていた残った「穢れ」の欠片がおおかったのだろう。
無事にオロチとも合流することは出来た。スサノオとミチヤはオロチを連れて神庭宮に向けてもどりのであった。
──場所は再び、神庭宮。
「きゃぁぁぁぁっっ!!」
「やだぁぁぁっ!!」
女性の悲鳴は続いていた。しかし、先程とは違いはしゃいだ様子でいるのだ。
「スサノオ様が戻るまで俺とお茶しようか?」
火之迦具土神は宮内の女性を口説きまくっていた。火之迦具土神は整った顔に赤く短い髪を逆立てている。正に爽やかな王子と言った様子の風貌をしている。こんな男に声をかけられ女性もまんざらではない様子だがカグツチは断られ続けている。
原因はカグツチの後のクシナダが「いいか?誘いに乗るんじゃねぇぞ?行くなら明日からお前の名札はビッ○になるからな!?」と念を出しているからだ。
カグツチはつまらなそうに呟く。
「根之国の女の子は硬いよね~?」
クシナダは素知らぬ顔で答える
「大和撫子を体現出来ていますね。我が国ながら感動しますわ!」
スサノオに手伝って欲しいと言われ天津国から馳せ参じたのに呼び出した本人は留守のためカグツチは暇を持て余していた。
「もどったぞー!!」
大声が聞こえた。どこからとも無くいきなり現れクシナダがスサノオに駆け寄りイチャつく。
スサノオの後ろのふたりが苦笑いしながらたっている。2人とも神徒か…1人は新人て感じだな。
カグツチはスサノオのお供を値踏みしている。
そしてもう1人を見た瞬間に口元を歪ませ青髪の青年に突進した。
青髪の青年。オロチは既のところで気づき、突進してきたカグツチの拳を受け止める。
「あ、相変わらず元気そうですね…しかし、出自が野蛮なだけあってその性格は変わりませんか!?」
オロチは嫌味を吐き捨てる様に言った。
「そうだなぁ。俺が野蛮ならお前は何だろうね?
人喰らいで欲望まみれの青蛇さんよォ…!」
いがみ合う2人の美青年の顔が近づく。周りの女官たちは興奮がやまない。クシナダまでもが息を飲んで見ている。
チュッ…
「!!!!?!!??!!!?」
二人の青年の唇が重なる。
「きゃぁぁぁぁっっ!!」
女官たちは歓喜する。クシナダは…っしゃ!と拳を握る。どうやら宮内ではBLがトレンドのようだ。
「お前達、相変わらず仲いいな!」
原因はスサノオだった。2人の顔を強引にくっつけた。
オロチとカグツチの2人はその場へへたり込んだ。
目の瞳孔が開いたままになった2人を続行不能と判断し、車椅子に2人を乗せ執務室へと近くにいた官職に運ばせた。
──続く
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
異世界で悪霊となった俺、チート能力欲しさに神様のミッションを開始する
眠眠
ファンタジー
トラックに跳ねられ異世界に飛ばされた主人公。気がつくと、彼は身体のない意識だけの存在に成り果てていた。なぜこのようなことになってしまったのか。謎を探るべく異世界を彷徨う主人公の前に死神さんが現れた。死神さんは主人公に今の状態が異世界転生(仮)であることを告げ、とあるミッションの達成と引き換えに正しい転生と3つのチート能力の贈呈を約束する。そのミッションとは様々な異世界を巡るもので……。
身体を失った主人公が残った心すらボッキボキに折られながらも頑張って転生を目指す物語です。
なお、その過程でどんどん主人公の変態レベルが上がっていくようです。
第1章は「働かなくてもいい世界」。労働不要の世界で、不死の住人達と友達になります。
第2章は「恋のキューピッド大作戦」。世界を救うため、とある二人の恋仲を成就させます。
6〜8つの世界を巡る予定です。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
死んだのに異世界に転生しました!
drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。
この物語は異世界テンプレ要素が多いです。
主人公最強&チートですね
主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください!
初めて書くので
読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。
それでもいいという方はどうぞ!
(本編は完結しました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる