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第三章 Ⅸ いつか来た町
64.せずにいられないことには意味がある
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お金がない。だけど物入りだ。そんなとき、物価の高いイギリスで庶民の力強い味方だといえるのが、チャリティーショップだ。ロンドンならおしゃれな古着屋も多いし、大型量販店のプライマークもある。だけどこの町で安く服が買えそうな店は、ちょっと思いつかなかったもの。
サラとアンティークショップ巡りをした時に、いわゆる古物を扱うチャリティーショップにもたくさん入ったことがある。そこで、アンティークだけでなく、生活雑貨や、服、靴、鞄、本やDVDに家具まで、本当にいろんなものがイギリスとは思えない安い値段で売られていることに驚いたのを覚えている。
チャリティーショップはどんな街でも大通りに一軒や二軒見つけることができる、英国内で広く普及したリサイクルショップだ。支援したいチャリティー団体に一般人が不用品を寄付して、こうした店舗で販売するのだ。収益が団体の活動資金となるのだそうだ。安い値段で売られることでまた、苦しい生活を送っている人々を助けることにも繋がるし、さすが慈善活動が盛んなお国柄ならではのシステムだと思う。
そんなチャリティーショップがこの町にもあった。ショーンが早速調べてくれたのだ。だけど彼は、「近いし行くだけ行ってみるのもいいけど、古着はサイズが限られるぞ。きみにあうサイズがあるかな?」と首をかしげている。
「ないならないで、また他で探せばいいよ」
「もしきみが遠慮して言ってるんなら、て思ってさ」
「大丈夫。使った分は倍にして返すから」
「う~ん。いくらきみが錬金術に造詣が深くても、古着を金貨や宝石に変えるのは無しにしてくれよ!」
真顔で言ったのに、その後すぐにショーンは肩をすぼめて顔を背けて――
笑いを堪えているのだ。思い出し笑い、だよな。
金貨といえば、ハムステッドの家の庭の芝生を焼け焦がしたお詫びに、ドラコがアルに渡した例のアンティークコインが一番に浮かぶ。
スティーブの大切にしていたアンティークの椅子がドラコの手でバキバキにされてしまった時、アルはこの金貨を換金して別の椅子を購入する気だったらしい。けれどアルは多忙でなかなか時間がとれなかったから、ショーンが代わりにその役目を引き受けたのだ。
そして、本人曰く、散々な目にあった。アンティークショップで、希少なウィリアム三世5ギニー金貨を、いったいどこで手にいれたのか根掘り葉掘り聞かれ、まるで盗んできたかのような言いがかりをつけられ、出どころの判らないものは困る、と買いたたかれそうになったらしい。
結局、椅子の問題はブラウン兄弟のおかげで解決して、この金貨は売られることなくスティーブのコレクションに収まったのだが。ショーンにはほんと、いいとばっちりだったと思う。
それに宝石。こっちはナイツブリッジのアパートメント代金として使われたらしい。ドラコがこれを渡した相手がアルの――、友人だったから、やっぱり話がややこしくなって、僕はとても嫌だった。そして、そのアパートメントで僕が落ちてしまったことで、ショーンにはずいぶん心配をかけてしまったもの。
精霊たちから不相応な何かを受け取ると、碌なことにならないのだ。
この事実を僕は甘く受け止めすぎていたのだと思う。ドラコの持ち物であるアパートメントでパーティーを開こうなんて、今にして思えば無謀すぎるとしか言いようがない。
だけど、そうせずにはいられなかったことには意味がある。僕の行動の強制力は火の精霊だから。そう、意味が見つかるまで探し続けるしかない。
「着いたぞ」
ロンドンや他の街でも見かけたのと同じ、外観を紺色で塗装された店「キャンサーリサーチ」がそこにあった。ガンの研究をサポートする団体のお店だ。
ウインドウにはおしゃれな服を着たマネキンが二体。店内はざっと見た感じでは服をメインに置いている。これはいけるかも。
さっそくなかに入って、ずらりとハンガーにかけられた商品から上着を物色した。レジカウンターには、かなりの高齢に見える白髪の老婦人の店員さんが座っていた。「いらっしゃい」と挨拶を交わした後、ショーンと世間話を始めた。まずは天気の話、それから、何を探しているのか、とか――
早口でおしゃべりしながらショーンは「これでいいや」と、さっそく自分に合うブルゾンを見つけていた。だけど、僕は――
ショーンの言うとおり、サイズがない!
まず肩が合わないのだ。下に着るシャツならそれでも構わないのだが、さすがにジャケットはみっともない。
念のために袖を通して、鏡に映るロボットみたいなシルエットの自分に大きくため息をついていると、「おい、コウ!」と、ショーンに呼ばれた。見ると、コートらしきものを一枚手にしている。
「あなたにはこういう色が似合うと思うわよ。いいお品なの。お買い得よ。あなたにぴったりだって、ピンときたのよ。だから奥からわざわざ持ってきたの。まだ値札をつける前だったのよ! あなた、ほんとうにラッキーだわ!」
老婦人が歌うような口調で話してくれた。
赤地に太い黒と細い白のラインの入った、チェック柄のチェスターコート。
いいな。と一目で思った。袖を通してみるとちょうどいい。肩も大丈夫。何より温かい。
「うん、これにする」
「いいよ、似合ってる。ボタンは一つでめだないし、良かったな」
ショーンが声をひそめてニヤニヤしている。
「上からベルトを結んだら判らないだろ?」
うんうんと頷いてくれている彼に、僕も苦笑いで返した。
うん、気にしない、これが女物でも。気に入ったからいいんだ。
サラとアンティークショップ巡りをした時に、いわゆる古物を扱うチャリティーショップにもたくさん入ったことがある。そこで、アンティークだけでなく、生活雑貨や、服、靴、鞄、本やDVDに家具まで、本当にいろんなものがイギリスとは思えない安い値段で売られていることに驚いたのを覚えている。
チャリティーショップはどんな街でも大通りに一軒や二軒見つけることができる、英国内で広く普及したリサイクルショップだ。支援したいチャリティー団体に一般人が不用品を寄付して、こうした店舗で販売するのだ。収益が団体の活動資金となるのだそうだ。安い値段で売られることでまた、苦しい生活を送っている人々を助けることにも繋がるし、さすが慈善活動が盛んなお国柄ならではのシステムだと思う。
そんなチャリティーショップがこの町にもあった。ショーンが早速調べてくれたのだ。だけど彼は、「近いし行くだけ行ってみるのもいいけど、古着はサイズが限られるぞ。きみにあうサイズがあるかな?」と首をかしげている。
「ないならないで、また他で探せばいいよ」
「もしきみが遠慮して言ってるんなら、て思ってさ」
「大丈夫。使った分は倍にして返すから」
「う~ん。いくらきみが錬金術に造詣が深くても、古着を金貨や宝石に変えるのは無しにしてくれよ!」
真顔で言ったのに、その後すぐにショーンは肩をすぼめて顔を背けて――
笑いを堪えているのだ。思い出し笑い、だよな。
金貨といえば、ハムステッドの家の庭の芝生を焼け焦がしたお詫びに、ドラコがアルに渡した例のアンティークコインが一番に浮かぶ。
スティーブの大切にしていたアンティークの椅子がドラコの手でバキバキにされてしまった時、アルはこの金貨を換金して別の椅子を購入する気だったらしい。けれどアルは多忙でなかなか時間がとれなかったから、ショーンが代わりにその役目を引き受けたのだ。
そして、本人曰く、散々な目にあった。アンティークショップで、希少なウィリアム三世5ギニー金貨を、いったいどこで手にいれたのか根掘り葉掘り聞かれ、まるで盗んできたかのような言いがかりをつけられ、出どころの判らないものは困る、と買いたたかれそうになったらしい。
結局、椅子の問題はブラウン兄弟のおかげで解決して、この金貨は売られることなくスティーブのコレクションに収まったのだが。ショーンにはほんと、いいとばっちりだったと思う。
それに宝石。こっちはナイツブリッジのアパートメント代金として使われたらしい。ドラコがこれを渡した相手がアルの――、友人だったから、やっぱり話がややこしくなって、僕はとても嫌だった。そして、そのアパートメントで僕が落ちてしまったことで、ショーンにはずいぶん心配をかけてしまったもの。
精霊たちから不相応な何かを受け取ると、碌なことにならないのだ。
この事実を僕は甘く受け止めすぎていたのだと思う。ドラコの持ち物であるアパートメントでパーティーを開こうなんて、今にして思えば無謀すぎるとしか言いようがない。
だけど、そうせずにはいられなかったことには意味がある。僕の行動の強制力は火の精霊だから。そう、意味が見つかるまで探し続けるしかない。
「着いたぞ」
ロンドンや他の街でも見かけたのと同じ、外観を紺色で塗装された店「キャンサーリサーチ」がそこにあった。ガンの研究をサポートする団体のお店だ。
ウインドウにはおしゃれな服を着たマネキンが二体。店内はざっと見た感じでは服をメインに置いている。これはいけるかも。
さっそくなかに入って、ずらりとハンガーにかけられた商品から上着を物色した。レジカウンターには、かなりの高齢に見える白髪の老婦人の店員さんが座っていた。「いらっしゃい」と挨拶を交わした後、ショーンと世間話を始めた。まずは天気の話、それから、何を探しているのか、とか――
早口でおしゃべりしながらショーンは「これでいいや」と、さっそく自分に合うブルゾンを見つけていた。だけど、僕は――
ショーンの言うとおり、サイズがない!
まず肩が合わないのだ。下に着るシャツならそれでも構わないのだが、さすがにジャケットはみっともない。
念のために袖を通して、鏡に映るロボットみたいなシルエットの自分に大きくため息をついていると、「おい、コウ!」と、ショーンに呼ばれた。見ると、コートらしきものを一枚手にしている。
「あなたにはこういう色が似合うと思うわよ。いいお品なの。お買い得よ。あなたにぴったりだって、ピンときたのよ。だから奥からわざわざ持ってきたの。まだ値札をつける前だったのよ! あなた、ほんとうにラッキーだわ!」
老婦人が歌うような口調で話してくれた。
赤地に太い黒と細い白のラインの入った、チェック柄のチェスターコート。
いいな。と一目で思った。袖を通してみるとちょうどいい。肩も大丈夫。何より温かい。
「うん、これにする」
「いいよ、似合ってる。ボタンは一つでめだないし、良かったな」
ショーンが声をひそめてニヤニヤしている。
「上からベルトを結んだら判らないだろ?」
うんうんと頷いてくれている彼に、僕も苦笑いで返した。
うん、気にしない、これが女物でも。気に入ったからいいんだ。
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