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Ⅱ 風の使い手
14.豪邸の管理は大変
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こんな現代的で洗練された室内なのに、ここだけが戦火を経たように焼け燻ぶっている。荒涼とした廃墟を思わせる異界の扉――。
けれど、火の精霊の力が働かない限り、もうこれが赤く輝くことはない。そして、彼が再びこれを使うことを、地の精霊は許さないだろう。
「ドラコがここへ来るのをアルは許可しないと思うし、彼がここを使わないとなると、宝の持ち腐れだからさ。ゲールは、グラストンベリーのオカルトグッズ店の子だよ、面白がりはしても、怖がることはないと思うんだ」
「ははは、なるほどお仲間か!」
ショーンはくしゃっと相好を崩し豪快に笑った。
だけどすぐに「そうは言っても、まるで記憶にないからなぁ」とぼやくと、ちらりと僕を見て軽く肩をすくめた。それから「そいつがどんなヤツかってこともそりゃ気になるけどさ、ここを貸すとなると」といったん言葉を切って、顎でもって、くいっと再び天井を指し示した。
「これよりも、現実的な問題があるだろ。ちゃんと部屋を綺麗に使ってくれるのか、豪華な調度品を傷つけたりしないか。ここ、保険は掛けてるのかい?」汚れたスニーカーの先で、ガラステーブルに組み合わされた天然木の脚角をトントンとつつく。
「乱暴な感じの子には見えなかったけど……」
今どきの子。そんな印象だ。言われてみれば、これだけの規模の家に住むとなると僕みたいな掃除好きででもない限り大変だろう。観葉植物の手入れだって。きっともてあますに違いない。
「マークスに、週1、2回でも通ってもらおうか」
「そうだな。それがいいと思う」
「ドラコはここの調度品には興味ないんだ。だから、住みやすいように変えてもらって全然かまわないんだけどね。家具だって捨てちゃっていいし……」
ゲールの部屋を水浸しにしてしまったお詫びに、夏以降放ったらかしになっていたこのアパートメントの部屋を貸そうと思いついた。その時は名案だと思ったのに、こうしてここまで来てみると、どうも迷う。
モノトーンで統一されたインテリアはおしゃれだけど温かみがなくて、モデルルームみたいだ。僕だったら、こんな寒々しい広いだけの豪邸に一人ぼっちで住むなんて耐えられない。
ショーンは何を考えているのか真面目な顔をしてあちこち眺めている。まだ気になることでもあるのだろうか。
「それで、もう話はつけたのかい?」
「まだ。先にここを確認してからと思って」
え? というような怪訝な瞳で見つめ返された。「ゲールにだよね?」と、念のために訊いた。
「いや、ドラコにだよ」
「ああ、それは大丈夫。好きにしていいぞって言われてる」
「それなら――」と、ショーンはようやくいつもの彼らしい、屈託のない笑顔を見せてくれた。
家のことは一通り相談し終えて、ショーンと二人、パブで夕飯を済ませて帰ることにした。もちろん高級地区から離れて、学生ご用達の行きつけの店まで歩いたよ。
まだ時間も早いので、店内は空いていて落ち着けた。小さなテーブルに着くと、すぐに料理が運ばれてきた。
ショーンのビールと、僕のジンジャーエールで乾杯する。
マリーは明日の準備を完璧にしなきゃと張り切っていて、帰りは遅いと言っていたし、シルフィとサラは昨日から姿を見せない。気ままに散歩でもしているんだと思う。彼ら本来の姿で。
だから今日くらい久々の自由時間を満喫しなくては!
「なんだかフィッシュアンドチップスを食べるのも久しぶりだね」
「毎日フルコースのご馳走じゃあな。懐かしすぎて涙が出そうだ」
ショーンは猛烈な勢いでサクサクの衣の鱈にかぶりつき、ビネガーをどぼどぼかけたチップスを頬ばっている。パイントグラスはすでに二つ目だ。僕は長いソーセージをわざとゆっくり切り分けて、ショーンの食欲に巻きこまれないように予防線を張っている。過去の失態からエールもワインも勧められることはないけれど、彼を見ているとついつい食べ過ぎてしまうから気を付けないといけない。
でも、うきうきして、ほっとする。気心しれた彼との食事なら、後から思い返したときも今と同じ印象なんじゃないかな。ショーンはいいやつだもの。その印象はずっと変わっていないもの。
「それでさ、さっきの続きなんだけどな」
ショーンは片頬を膨らませたまま、フォークを小刻みに振って僕の注意を喚起する。
「うん」、と僕もグラスを傾けて喉を潤し頷いた。
けれど、火の精霊の力が働かない限り、もうこれが赤く輝くことはない。そして、彼が再びこれを使うことを、地の精霊は許さないだろう。
「ドラコがここへ来るのをアルは許可しないと思うし、彼がここを使わないとなると、宝の持ち腐れだからさ。ゲールは、グラストンベリーのオカルトグッズ店の子だよ、面白がりはしても、怖がることはないと思うんだ」
「ははは、なるほどお仲間か!」
ショーンはくしゃっと相好を崩し豪快に笑った。
だけどすぐに「そうは言っても、まるで記憶にないからなぁ」とぼやくと、ちらりと僕を見て軽く肩をすくめた。それから「そいつがどんなヤツかってこともそりゃ気になるけどさ、ここを貸すとなると」といったん言葉を切って、顎でもって、くいっと再び天井を指し示した。
「これよりも、現実的な問題があるだろ。ちゃんと部屋を綺麗に使ってくれるのか、豪華な調度品を傷つけたりしないか。ここ、保険は掛けてるのかい?」汚れたスニーカーの先で、ガラステーブルに組み合わされた天然木の脚角をトントンとつつく。
「乱暴な感じの子には見えなかったけど……」
今どきの子。そんな印象だ。言われてみれば、これだけの規模の家に住むとなると僕みたいな掃除好きででもない限り大変だろう。観葉植物の手入れだって。きっともてあますに違いない。
「マークスに、週1、2回でも通ってもらおうか」
「そうだな。それがいいと思う」
「ドラコはここの調度品には興味ないんだ。だから、住みやすいように変えてもらって全然かまわないんだけどね。家具だって捨てちゃっていいし……」
ゲールの部屋を水浸しにしてしまったお詫びに、夏以降放ったらかしになっていたこのアパートメントの部屋を貸そうと思いついた。その時は名案だと思ったのに、こうしてここまで来てみると、どうも迷う。
モノトーンで統一されたインテリアはおしゃれだけど温かみがなくて、モデルルームみたいだ。僕だったら、こんな寒々しい広いだけの豪邸に一人ぼっちで住むなんて耐えられない。
ショーンは何を考えているのか真面目な顔をしてあちこち眺めている。まだ気になることでもあるのだろうか。
「それで、もう話はつけたのかい?」
「まだ。先にここを確認してからと思って」
え? というような怪訝な瞳で見つめ返された。「ゲールにだよね?」と、念のために訊いた。
「いや、ドラコにだよ」
「ああ、それは大丈夫。好きにしていいぞって言われてる」
「それなら――」と、ショーンはようやくいつもの彼らしい、屈託のない笑顔を見せてくれた。
家のことは一通り相談し終えて、ショーンと二人、パブで夕飯を済ませて帰ることにした。もちろん高級地区から離れて、学生ご用達の行きつけの店まで歩いたよ。
まだ時間も早いので、店内は空いていて落ち着けた。小さなテーブルに着くと、すぐに料理が運ばれてきた。
ショーンのビールと、僕のジンジャーエールで乾杯する。
マリーは明日の準備を完璧にしなきゃと張り切っていて、帰りは遅いと言っていたし、シルフィとサラは昨日から姿を見せない。気ままに散歩でもしているんだと思う。彼ら本来の姿で。
だから今日くらい久々の自由時間を満喫しなくては!
「なんだかフィッシュアンドチップスを食べるのも久しぶりだね」
「毎日フルコースのご馳走じゃあな。懐かしすぎて涙が出そうだ」
ショーンは猛烈な勢いでサクサクの衣の鱈にかぶりつき、ビネガーをどぼどぼかけたチップスを頬ばっている。パイントグラスはすでに二つ目だ。僕は長いソーセージをわざとゆっくり切り分けて、ショーンの食欲に巻きこまれないように予防線を張っている。過去の失態からエールもワインも勧められることはないけれど、彼を見ているとついつい食べ過ぎてしまうから気を付けないといけない。
でも、うきうきして、ほっとする。気心しれた彼との食事なら、後から思い返したときも今と同じ印象なんじゃないかな。ショーンはいいやつだもの。その印象はずっと変わっていないもの。
「それでさ、さっきの続きなんだけどな」
ショーンは片頬を膨らませたまま、フォークを小刻みに振って僕の注意を喚起する。
「うん」、と僕もグラスを傾けて喉を潤し頷いた。
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