116 / 193
Ⅲ.春の足音
112 旅30 始まりの島1
しおりを挟む
頭が重い。腫れぼったい瞼を持ち上げると、心配そうなショーンの瞳と目があった。
「気分は?」
「北欧神話のトール神が、頭の中で思う存分金槌を振るって暴れてる」
眉をしかめてそう告げると、彼はくしゃっと笑ってペットボトルの水をくれた。
「二日酔いの薬を買ってきたんだ。とりあえず、飲んでおけよ」
言われるままに半身を起こした。まずは薬を流し込み、次いで水も一気に飲み切った。ふぅー、と思い切り息を吐く。
「二日酔い? 覚えてないんだ。すぐ寝ちゃったし。ワインをちょっと飲んだだけだろ? 僕、酔ってた?」
「きみは、やっぱり酒は駄目なんだな。あれだけのワインでぐったりしていたし、ここに戻ってからさすがに心配になって、薬局に薬を買いに走ったんだぜ」
ショーンと僕、同時にため息がついて出る。
「それなのにあいつら、きみにカクテルまで飲ませているし……。心配したんだぞ」
「カクテル?」
「瓶入りのアイスティー、飲んだだろ?」
「多分」
「あれはウォッカ入りのカクテルだよ」
と、ショーンは壁際に転がしたままの空き瓶を指差した。
「全然判らなかった」
「味で判るだろ、普通」
僕は馬鹿か。コーヒー牛乳の次は紅茶だなんて。冗談だろ?
ショーンに呆れられたところで、ぐうの音も出ない。
「アルビーが心配する訳だ。いや、俺も悪いんだけどさ。……朝食、食べるかい?」
「うん」
コリーヌたちはもう食堂に行っているという。僕はシャワーを浴びたいから、と告げ、ショーンには先に行ってもらった。
頭を冷やさなければ。酔っ払って前後不覚だなんて、アルビーに知られたら何を言われるか判ったもんじゃない。きっとショーン以上に呆れられて怒られる。
食堂に行くと、コリーヌがすぐに気づいて溌剌とした視線を向け、手を振って合図してくれた。元気だな、この三人は。
ショーンのくれた薬のお陰か、朝食は普通に食べられた。ビュッフェ式だったので、クロワッサンにコーヒーと、自分で食べられそうなものを選べたのも良かった。ショーンは、「もっとしっかり食べろ、元が取れない」と顔をしかめていたけれど。
朝食を終えたらチェックアウト。セント・マイケルズ・マウントに向かう。気怠さは残っているけれど、大丈夫。
海岸に着いた頃は、島への道は波の下に呑まれ完全に海没していたので、行きは渡し舟に乗った。
潮風が心地よい。
「ティンタジェルよりも風も、波も穏やかだね」
「天気もいいしな」
降り立った島の風景も、観光地という感じもなくて穏やかな自然に包まれている。
「今日も上って、下ってだぞ」
小高い山の頂上にある聖ミカエル修道院を見上げ、次いでショーンと顔を見合わせ苦笑する。
途中、目的の修道院とは別の小さな教会の門前で立ち止まった。石造りの門壁の中央扉の上に、聖ミカエルの彫像があったからだ。その足元にドラゴンが組み敷かれている。
「火蜥蜴は火を吐く龍と同一視され、ミカエルに制圧されたのよ」
コリーヌが僕の横に来て、同じように像を見上げた。
「そして、四大精霊は四大天使と象徴的に結びついて同化されたんだ。ミカエルは火の元素と対応する。そうだろ?」
彼女に顔を向けることなく、そのまま歩き出した。ちょっとだけ腹立たしかったのもあるかもしれない。薬で頭痛は治まったとは言え、このどんよりとして、スッキリしない体調は明らかに二日酔いだもの。いくら自分たちが平気だからって、僕までばかすか飲ます必要なんてないじゃないか。
せっかくこんな遠くまで来たって、いうのに。
西の果ての、セント・ミカエル・レイライン、始まりの地にまで。
「気分は?」
「北欧神話のトール神が、頭の中で思う存分金槌を振るって暴れてる」
眉をしかめてそう告げると、彼はくしゃっと笑ってペットボトルの水をくれた。
「二日酔いの薬を買ってきたんだ。とりあえず、飲んでおけよ」
言われるままに半身を起こした。まずは薬を流し込み、次いで水も一気に飲み切った。ふぅー、と思い切り息を吐く。
「二日酔い? 覚えてないんだ。すぐ寝ちゃったし。ワインをちょっと飲んだだけだろ? 僕、酔ってた?」
「きみは、やっぱり酒は駄目なんだな。あれだけのワインでぐったりしていたし、ここに戻ってからさすがに心配になって、薬局に薬を買いに走ったんだぜ」
ショーンと僕、同時にため息がついて出る。
「それなのにあいつら、きみにカクテルまで飲ませているし……。心配したんだぞ」
「カクテル?」
「瓶入りのアイスティー、飲んだだろ?」
「多分」
「あれはウォッカ入りのカクテルだよ」
と、ショーンは壁際に転がしたままの空き瓶を指差した。
「全然判らなかった」
「味で判るだろ、普通」
僕は馬鹿か。コーヒー牛乳の次は紅茶だなんて。冗談だろ?
ショーンに呆れられたところで、ぐうの音も出ない。
「アルビーが心配する訳だ。いや、俺も悪いんだけどさ。……朝食、食べるかい?」
「うん」
コリーヌたちはもう食堂に行っているという。僕はシャワーを浴びたいから、と告げ、ショーンには先に行ってもらった。
頭を冷やさなければ。酔っ払って前後不覚だなんて、アルビーに知られたら何を言われるか判ったもんじゃない。きっとショーン以上に呆れられて怒られる。
食堂に行くと、コリーヌがすぐに気づいて溌剌とした視線を向け、手を振って合図してくれた。元気だな、この三人は。
ショーンのくれた薬のお陰か、朝食は普通に食べられた。ビュッフェ式だったので、クロワッサンにコーヒーと、自分で食べられそうなものを選べたのも良かった。ショーンは、「もっとしっかり食べろ、元が取れない」と顔をしかめていたけれど。
朝食を終えたらチェックアウト。セント・マイケルズ・マウントに向かう。気怠さは残っているけれど、大丈夫。
海岸に着いた頃は、島への道は波の下に呑まれ完全に海没していたので、行きは渡し舟に乗った。
潮風が心地よい。
「ティンタジェルよりも風も、波も穏やかだね」
「天気もいいしな」
降り立った島の風景も、観光地という感じもなくて穏やかな自然に包まれている。
「今日も上って、下ってだぞ」
小高い山の頂上にある聖ミカエル修道院を見上げ、次いでショーンと顔を見合わせ苦笑する。
途中、目的の修道院とは別の小さな教会の門前で立ち止まった。石造りの門壁の中央扉の上に、聖ミカエルの彫像があったからだ。その足元にドラゴンが組み敷かれている。
「火蜥蜴は火を吐く龍と同一視され、ミカエルに制圧されたのよ」
コリーヌが僕の横に来て、同じように像を見上げた。
「そして、四大精霊は四大天使と象徴的に結びついて同化されたんだ。ミカエルは火の元素と対応する。そうだろ?」
彼女に顔を向けることなく、そのまま歩き出した。ちょっとだけ腹立たしかったのもあるかもしれない。薬で頭痛は治まったとは言え、このどんよりとして、スッキリしない体調は明らかに二日酔いだもの。いくら自分たちが平気だからって、僕までばかすか飲ます必要なんてないじゃないか。
せっかくこんな遠くまで来たって、いうのに。
西の果ての、セント・ミカエル・レイライン、始まりの地にまで。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

さがしもの
猫谷 一禾
BL
策士な風紀副委員長✕意地っ張り親衛隊員
(山岡 央歌)✕(森 里葉)
〖この気持ちに気づくまで〗のスピンオフ作品です
読んでいなくても大丈夫です。
家庭の事情でお金持ちに引き取られることになった少年時代。今までの環境と異なり困惑する日々……
そんな中で出会った彼……
切なさを目指して書きたいです。
予定ではR18要素は少ないです。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる