102 / 193
Ⅲ.春の足音
98 旅16 電話
しおりを挟む
「ごめん」
謝るしかない。僕が悪いのだもの。
「ごめん、アルビー」
彼の気が済むまで謝るしかない。アルビーがこんなに僕のことを心配してくれていたなんて、思ってもみなかったのだもの。
僕が余りにも連絡を怠っていたから、ショーンの方へアルビーからの電話が入った。僕に電話するようにって。
別に無視していた訳じゃないんだ。先延ばしにしていただけで……。その、後廻し、と言うのがアルビーにしてみれば気に喰わないのだ。「コウは僕が想っている半分も、僕のことを考えてくれていない」と、電話口で散々に拗ねられた。
だから、さっきから謝っているじゃないか。
――謝って欲しいんじゃないよ。僕を、きみの心の片隅にでもいさせて欲しいだけなんだ。
「隅じゃなくて、真ん中にいるよ。いつだって」
だから、後廻しになるんじゃないか。皆がいるところでメールしたり、電話したりなんてできないもの。今だって、僕一人バズの部屋に移って話しているんだ。アルビーと話している時の自分がどんな顔をしているか、想像するのさえ怖いのに。ショーンに変に思われるのは嫌だもの。せっかく、彼はアルビーに好意を持ってくれているんだ。以前みたいな、変な眼でアルビーを見て欲しくない。
それに僕も。アルビーとのことが知られると、ショーンとの心地良い関係が変わってしまいそうで怖いんだ。
僕はズルい。
電話口でアルビーに「ごめん」を繰り返しながら、そんなことばかりを考えている。アルビーが好きなのに、誰にも知られたくないと思っている自分がいる。
ノックの音に、これからはちゃんと毎日メールするから、と約束して慌てて電話を切った。
「ガールフレンド?」
バズが揶揄うような瞳で僕を見ている。こういうところ、ショーンに似てるな。
「スマホにキスするような相手がいるんだね?」
僕は知らない振りをして、「お帰り。お疲れ様」と笑顔を向けた。
作日は一日バース市内を観光した。 日曜日だったからバズも一緒に行けて、丁度良かった。
ローマ浴場跡は、古代ローマ人の建設した温泉施設だ。古代から連綿と豊かな天然温泉が湧き出ている。古代ローマに支配される以前から、ケルトの聖地としてこの源泉は信仰の対象とされてきた。
でも現在はこのお湯に浸かることはできない。水質に問題があるらしい。がっかりだ。
日本のように温泉の街と言えば、温泉旅館が乱立していて、なんて言うのとはまるで違った。かつての高級保養地で、その名残りは随所にあるのだけれど……。
温泉の街バースで湧き上がる湯を見るだけなんて、お預け喰った犬みたいな気分だ、と深くため息をついていると、ショーンが、「明日はゆっくりと温泉に浸かろうぜ」、と僕を驚かせてくれた。
長い間閉鎖されていた温泉は、新しく別の源泉から湯を引いてモダンなスパ施設で利用できるようになったのだそうだ。すごく人気で土・日は酷く込み合うから、明日バズの講習が終わってから行こう、ってことになった。
「そろそろ行こうかって。水着を貸してあげるよ。持ってないだろ?」
さすがにバズは慣れたもので。タオルやバスローブは借りられるから、持ち物は水着だけでいいらしい。
コリーヌやミシェル、ショーンは元々予定に入れていたらしく、水着を持参していた。コリーヌはマッサージを受けるため、さっさと予約まで入れている。マッサージコースの概要を聞いて、僕もどうしようかとかなり迷った。身体がずっとバキバキしてるし、疲れが溜まっているのは確かだと思うから……。
でも、他人に身体を触れられるのが嫌なのはもちろんあるのだけれど、それよりも、なんだかアルビーの感触を忘れてしまいそうな気がして。そんなことで心が揺らいで諦めた。
せめてこの倦怠感が、温泉でほぐれてくれるといいけれど。
謝るしかない。僕が悪いのだもの。
「ごめん、アルビー」
彼の気が済むまで謝るしかない。アルビーがこんなに僕のことを心配してくれていたなんて、思ってもみなかったのだもの。
僕が余りにも連絡を怠っていたから、ショーンの方へアルビーからの電話が入った。僕に電話するようにって。
別に無視していた訳じゃないんだ。先延ばしにしていただけで……。その、後廻し、と言うのがアルビーにしてみれば気に喰わないのだ。「コウは僕が想っている半分も、僕のことを考えてくれていない」と、電話口で散々に拗ねられた。
だから、さっきから謝っているじゃないか。
――謝って欲しいんじゃないよ。僕を、きみの心の片隅にでもいさせて欲しいだけなんだ。
「隅じゃなくて、真ん中にいるよ。いつだって」
だから、後廻しになるんじゃないか。皆がいるところでメールしたり、電話したりなんてできないもの。今だって、僕一人バズの部屋に移って話しているんだ。アルビーと話している時の自分がどんな顔をしているか、想像するのさえ怖いのに。ショーンに変に思われるのは嫌だもの。せっかく、彼はアルビーに好意を持ってくれているんだ。以前みたいな、変な眼でアルビーを見て欲しくない。
それに僕も。アルビーとのことが知られると、ショーンとの心地良い関係が変わってしまいそうで怖いんだ。
僕はズルい。
電話口でアルビーに「ごめん」を繰り返しながら、そんなことばかりを考えている。アルビーが好きなのに、誰にも知られたくないと思っている自分がいる。
ノックの音に、これからはちゃんと毎日メールするから、と約束して慌てて電話を切った。
「ガールフレンド?」
バズが揶揄うような瞳で僕を見ている。こういうところ、ショーンに似てるな。
「スマホにキスするような相手がいるんだね?」
僕は知らない振りをして、「お帰り。お疲れ様」と笑顔を向けた。
作日は一日バース市内を観光した。 日曜日だったからバズも一緒に行けて、丁度良かった。
ローマ浴場跡は、古代ローマ人の建設した温泉施設だ。古代から連綿と豊かな天然温泉が湧き出ている。古代ローマに支配される以前から、ケルトの聖地としてこの源泉は信仰の対象とされてきた。
でも現在はこのお湯に浸かることはできない。水質に問題があるらしい。がっかりだ。
日本のように温泉の街と言えば、温泉旅館が乱立していて、なんて言うのとはまるで違った。かつての高級保養地で、その名残りは随所にあるのだけれど……。
温泉の街バースで湧き上がる湯を見るだけなんて、お預け喰った犬みたいな気分だ、と深くため息をついていると、ショーンが、「明日はゆっくりと温泉に浸かろうぜ」、と僕を驚かせてくれた。
長い間閉鎖されていた温泉は、新しく別の源泉から湯を引いてモダンなスパ施設で利用できるようになったのだそうだ。すごく人気で土・日は酷く込み合うから、明日バズの講習が終わってから行こう、ってことになった。
「そろそろ行こうかって。水着を貸してあげるよ。持ってないだろ?」
さすがにバズは慣れたもので。タオルやバスローブは借りられるから、持ち物は水着だけでいいらしい。
コリーヌやミシェル、ショーンは元々予定に入れていたらしく、水着を持参していた。コリーヌはマッサージを受けるため、さっさと予約まで入れている。マッサージコースの概要を聞いて、僕もどうしようかとかなり迷った。身体がずっとバキバキしてるし、疲れが溜まっているのは確かだと思うから……。
でも、他人に身体を触れられるのが嫌なのはもちろんあるのだけれど、それよりも、なんだかアルビーの感触を忘れてしまいそうな気がして。そんなことで心が揺らいで諦めた。
せめてこの倦怠感が、温泉でほぐれてくれるといいけれど。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

さがしもの
猫谷 一禾
BL
策士な風紀副委員長✕意地っ張り親衛隊員
(山岡 央歌)✕(森 里葉)
〖この気持ちに気づくまで〗のスピンオフ作品です
読んでいなくても大丈夫です。
家庭の事情でお金持ちに引き取られることになった少年時代。今までの環境と異なり困惑する日々……
そんな中で出会った彼……
切なさを目指して書きたいです。
予定ではR18要素は少ないです。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる