霧のはし 虹のたもとで

萩尾雅縁

文字の大きさ
上 下
85 / 193
Ⅲ.春の足音

81 花の印

しおりを挟む




――いつの間にGPSなんて付けていたんだ…

自分でも知らない事が行われていた事に驚きつつも『あぁ』と返事をする。


芹名の声が次第に遠のいているような気がして、何とか意識を保とうと必死に手元の砂を握った。

悠長に電話で話していられるほど、今の龍司に余裕などない。
腹部を銃弾が貫通しているのだ。
頭や心臓に比べると腹部は致命傷という訳ではなく即死はしないが、この状態が長く続けば何が起きても不思議ではない。


これなら、なにも感じず一発で死んだ方がまだ楽だとさえ思った。


「龍司様!大丈夫ですか?ボクたちがそちらに到着するまで、おおよそ20分程かかります。龍司様のご容態を推測すると腹部を撃たれ、血が止まらないという事なので恐らく肝臓か腹大動脈どちらかをかすめている可能性が高いと考えられます。どちらも大量の血液が循環している場所になりますので、今この状態も非常に危険な状況ですっ!…龍司様のジャケットの内ポケットの奥に、止血用と鎮痛剤が一緒になったカプセルが入っています。ボクが開発したものですが、効果は即効性のものなのですぐ使用してください!」

「はぁっ…ッ!ハァッ…!ハァ…ッ!くッ…カプ、セル…?」

「はい!もしもの時の為に入れさせてもらいました。救急車にはボクから電話して龍司様の所へ急いで行って貰うように手配致します!龍司様、お怪我で動ける状況ではないと重々承知ですが…なるべくそこの場所から離れるようにしてください!まだ、龍司様を狙っている人間は近くにいるはず…再び撃たれる可能性がかなり高いです!」

「はぁ…ッ!…分かった…ッ」


龍司は言われた通り、ジャケットの内ポケットの奥を探す。

奥からは小さなプラスチックの容器が出てきた。
恐らくこの中に芹那が開発した薬が入っているのだろう。

振れば、カラカラと中から音がする。

容器についてあるボタンらしき突起物を押すと、引き出しのようにカプセルが1つ乗って出てきた。
指先で掴み押し込むように口に入れると歯で噛み砕く。
中からはドロリとした液体状のものが出てきて、口内へと溶けていく。
龍司は喉を鳴らして液体を飲み込んだ。
味は薬特有の苦みは全くなく、無味無臭と言ったところだ。


「今―…薬を飲んだ…そろそろ、切る…ッ」

「…かしこまりました…。龍司様、どうかご無事で――。」


電話を切るとジャケットの横ポケットに仕舞い、手元の砂を握る。
芹名が即効性と言っていただけの事はある。

薬を飲む前と比べ、少しではあるが痛みが幾分和らいだ気がした。
変わらず腹部から下は、流れた血で真っ赤だが、流れたまま一向に止まることがなかった血液の流れが、薬を飲む前に比べて若干遅くなった気がする。



腕に力を入れて匍匐前進で体を前へと移動させる。


龍司が前に進むたびに砂が体中へばりつき、砂浜が赤く染まった



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

処理中です...