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最終章
173 コンサート2
しおりを挟む 両者は右足より数歩前進した。そして、大刀の間合い、三間(さんけん)(五・四メートル)に入る――機をみて、雄彦が一歩踏み込むや小手を打った。
八重は斜め後方に退(ひ)く。直後、間合いを詰めて頭上に得物を振り下ろした。
雄彦は体を右に開きながら相手の剣尖を左、刃を後ろに左鎬(しのぎ)で受け流す。そのまま動きを止めることなく木刀を大きく旋回させながら左肩より袈裟に斬った。もちろん、寸止めだ。――遠心力を利用して半円を描くように頭上から刃を浴びせる『豪撃(こわうち)』は、立身流独特のものであり、かの山岡鉄舟(やまおかてっしゅう)をして「真(まこと)の剣を遣ふ」と云わしめた凄絶な斬り下ろしだ。
そも、立身流の特色は居合の技において『立合(たちあい)』という立技を重視する点にある。その歴史は古く戦国時代にまでさかのぼり、その影響は居合において初太刀から両手斬りを見舞う点にも見受けられる――これは、斬撃の勢いを増させ、甲冑ごと敵を斬りふせる
合戦場での戦いを想定した工夫だ。
立身流は表芸の居合と剣術にくわえ、柔術、棒術、さらには逮捕術までも網羅した総合武術だ。こういった傾向は、他の古い剣術にもみられる――戦場の主力武器は槍であり、その穂先を失ったのなら、棒術で戦い、それすらもなくしたのなら柔術でもって敵に立ち向かう、戦国という世をくぐり抜けた流派がこういった特徴を持つのはある意味、自然の摂理ともいえる。
――雄彦が肩口より喉へと剣先をつけながら後ろに下がり、中段に構える。八重も同じく中段に剣尖を取った。
今度は違う組太刀を行う。
毎朝の稽古は、二人の欠かすことのない習慣だ。無宿人の恨みを買い、またいつ仇を巡りあうかもしれない、そんな常在戦場の心構えが必要とされる環境にいるため、よほど疲れていない限り、たとえ今朝のように昨夜無宿人と死闘を演じた次の日であったとしても剣の修行に励むのだ。
立身流の稽古が終われば、今度は雄彦が妹の中条流の組太刀に付き合うことになる――
八重は斜め後方に退(ひ)く。直後、間合いを詰めて頭上に得物を振り下ろした。
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そも、立身流の特色は居合の技において『立合(たちあい)』という立技を重視する点にある。その歴史は古く戦国時代にまでさかのぼり、その影響は居合において初太刀から両手斬りを見舞う点にも見受けられる――これは、斬撃の勢いを増させ、甲冑ごと敵を斬りふせる
合戦場での戦いを想定した工夫だ。
立身流は表芸の居合と剣術にくわえ、柔術、棒術、さらには逮捕術までも網羅した総合武術だ。こういった傾向は、他の古い剣術にもみられる――戦場の主力武器は槍であり、その穂先を失ったのなら、棒術で戦い、それすらもなくしたのなら柔術でもって敵に立ち向かう、戦国という世をくぐり抜けた流派がこういった特徴を持つのはある意味、自然の摂理ともいえる。
――雄彦が肩口より喉へと剣先をつけながら後ろに下がり、中段に構える。八重も同じく中段に剣尖を取った。
今度は違う組太刀を行う。
毎朝の稽古は、二人の欠かすことのない習慣だ。無宿人の恨みを買い、またいつ仇を巡りあうかもしれない、そんな常在戦場の心構えが必要とされる環境にいるため、よほど疲れていない限り、たとえ今朝のように昨夜無宿人と死闘を演じた次の日であったとしても剣の修行に励むのだ。
立身流の稽古が終われば、今度は雄彦が妹の中条流の組太刀に付き合うことになる――
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