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四章
142 手紙
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親愛なるマシュー
僕はいまだに、僕のこの判断が正しかったのかどうかが、判らない。
きみをこの学校に一人残して卒業するくらいなら、僕も留年してきみと一緒に卒業しようかと、どれほど迷ったことか。
その話をする度に、きみは「馬鹿だなぁ」と笑ったけれど、僕はかなり本気で言っていたんだよ。
ずっときみの傍にいたい。きみを守りたい。
本当に僕は、このことだけを考えていたんだよ。どうすれば、それが叶うのか?
きみを毎夜襲う悪夢から、どうすればきみを救いだすことができるのか?
きみが眠れないと言う夜の数だけ、僕も眠らずにずっと考えていたんだよ。
きみが入院して治療を受けていた間、僕も試験勉強の傍らずっときみを苦しめる病の勉強をしていたんだ。きみの苦しみを知れば知るほど、僕は自分の罪深さに胸を掻きむしられる想いだった。
僕はきみが好きなのに、愛しているのに……。
それなのに、きみが僕を疎ましく思う理由が、紐解いた薬物治療の本には、まるで僕に宛てて書かれたもののように、書いてあった。
きみと僕のような関係は、愛で結びついているのではない。それは愛に見せかけた支配であり、共依存関係だと。
僕がきみを守りたいという想い、愛おしいという想い、きみに傷ついて欲しくないという想い、薬物から離れて正しい道を選び取って欲しいと想うことが、薬物依存という、底なし沼に引きずり込まれる苦しみと闘っているきみを支配するための、方便にすぎないと。
僕はこれを読んだ時、
僕は違う。
他の誰がそうであっても、僕だけは違うと、そう思った。
僕は違う。僕はきみを愛しているのだ、きみだって解ってくれている、と。
決して、きみを支配して、僕の言いなりにさせたい訳ではない。きみという個性を尊重しているのだ、と。
だけど、そんな僕の傲慢な想いはあっけなく打ち砕かれてしまった。
きみを愛している、その想いを伝えるための行為が、きみに取っては他の誰とも変わらない、ただきみを犯し、傷つけ、貪るだけの行為と変わらないと、きみに告げられた時の、僕の絶望がきみに解ってもらえるだろうか?
そして、きみが決して、僕を絶望させるためにあんなことを告げたのではないという事実が、僕には堪らなく哀しかった。
僕が愛だと信じていた想いが、きみを傷つけていたのだろうか?
きみはずっと心の中で、僕を拒んでいたのだろうか?
きみの言葉も、きみの笑顔も全部、全部嘘だったのだろうか?
僕の愛は、本当に愛だったのだろうか?
僕は間違っているのかもしれない。
これは、薬物依存症に苦しむきみと、そんなきみを救いたいと想う僕の、陥りやすい共依存関係なのかもしれない。
本に書かれている通り、僕はきみが癒されることを願いながら、自分自身が癒されることを願っていたのかもしれない。きみが僕を頼ってくれることにこそ、僕は自分自身の価値を見出していたのかもしれない。
それでも僕は、きみを失いたくないんだ。
きみこそが、僕の魂のともし火。
もう、光を知る前の世界には戻れない。
そんな堂々巡りの思索の中、たどり着く答えは一つしかなかったよ。
きみを愛している。
きみを愛していると、どうやってきみに伝えればいいのだろう?
どうすれば、きみは解ってくれるのだろう?
どうすれば、愛を信じられないきみに、僕の愛を受け取ってもらえるのだろう?
そして、
もし仮に、僕が間違っていたとして、
本当に共依存だったとして、
僕の歪んだ心からきみを救いだす道はあるのだろうか?
僕が、きみの傍を離れ、きみを自由にすること。
それできみは、僕の監視を恐れ、僕を傷つけることを恐れ、僕の庇護を失うことを恐れて、誰かを愛することを諦めなくてもすむ。
優しいきみが、僕の傲慢で、偏狭で、強欲な支配にため息をつきながらも付き合ってくれていた、僕の幸せな時間を終わらせること。
それが、きっと、今の僕が唯一きみにしてあげられる最善のこと。
これからは、きみの横にはケネスがいてくれる。だから何の心配もいらない。
彼は、僕みたいに愚かではないから、きみと健全な友情を築いてくれる。僕にはできなかった正しい関係をね。
彼の留年が決まった時、僕は迷わず彼のところに行ったんだ。
きみのことを頼む、と。
きみを一人残して卒業するなんて、どうしてもできなかったから。
彼は、「そんな魅力的な子なら、僕が恋に落ちるかもしれないよ?」と笑って言った。
大切な子なのなら、他人に託すな、と。
僕は彼にこう答えた。
「ケネスに頼んでいるんじゃない。警察官に頼んでいるんだ」と。
学年代表になれば、生徒会に入れば、生徒総監になれば、学校内の権力を握ることができれば、きみを守ることができると思っていた、浅はかな僕を笑ってくれ。僕にはその権力を使いこなせるだけの、頭脳も人望もなかったようだよ。
それなのに、尊大にも、きみを守ると豪語していたなんてね。きみが僕に呆れるのも無理はないよね。
ケネスなら、必ずきみを守ってくれる。信じるに値する奴だよ。
でも、僕は諦めないよ。
いつの日かきみに本当の自由を取り戻し、
魂の解放をもたらすことができるのは僕だと、信じている。
そのために、学び続ける。
だからどうか、
きみの心が誰を思っていたとしても、
友人として、きみの傍にいることを許して欲しい。
きみの魂の、日々の平穏を心から祈って。
永遠にきみを愛する
ジョナス・A・ミルドレッド
僕はいまだに、僕のこの判断が正しかったのかどうかが、判らない。
きみをこの学校に一人残して卒業するくらいなら、僕も留年してきみと一緒に卒業しようかと、どれほど迷ったことか。
その話をする度に、きみは「馬鹿だなぁ」と笑ったけれど、僕はかなり本気で言っていたんだよ。
ずっときみの傍にいたい。きみを守りたい。
本当に僕は、このことだけを考えていたんだよ。どうすれば、それが叶うのか?
きみを毎夜襲う悪夢から、どうすればきみを救いだすことができるのか?
きみが眠れないと言う夜の数だけ、僕も眠らずにずっと考えていたんだよ。
きみが入院して治療を受けていた間、僕も試験勉強の傍らずっときみを苦しめる病の勉強をしていたんだ。きみの苦しみを知れば知るほど、僕は自分の罪深さに胸を掻きむしられる想いだった。
僕はきみが好きなのに、愛しているのに……。
それなのに、きみが僕を疎ましく思う理由が、紐解いた薬物治療の本には、まるで僕に宛てて書かれたもののように、書いてあった。
きみと僕のような関係は、愛で結びついているのではない。それは愛に見せかけた支配であり、共依存関係だと。
僕がきみを守りたいという想い、愛おしいという想い、きみに傷ついて欲しくないという想い、薬物から離れて正しい道を選び取って欲しいと想うことが、薬物依存という、底なし沼に引きずり込まれる苦しみと闘っているきみを支配するための、方便にすぎないと。
僕はこれを読んだ時、
僕は違う。
他の誰がそうであっても、僕だけは違うと、そう思った。
僕は違う。僕はきみを愛しているのだ、きみだって解ってくれている、と。
決して、きみを支配して、僕の言いなりにさせたい訳ではない。きみという個性を尊重しているのだ、と。
だけど、そんな僕の傲慢な想いはあっけなく打ち砕かれてしまった。
きみを愛している、その想いを伝えるための行為が、きみに取っては他の誰とも変わらない、ただきみを犯し、傷つけ、貪るだけの行為と変わらないと、きみに告げられた時の、僕の絶望がきみに解ってもらえるだろうか?
そして、きみが決して、僕を絶望させるためにあんなことを告げたのではないという事実が、僕には堪らなく哀しかった。
僕が愛だと信じていた想いが、きみを傷つけていたのだろうか?
きみはずっと心の中で、僕を拒んでいたのだろうか?
きみの言葉も、きみの笑顔も全部、全部嘘だったのだろうか?
僕の愛は、本当に愛だったのだろうか?
僕は間違っているのかもしれない。
これは、薬物依存症に苦しむきみと、そんなきみを救いたいと想う僕の、陥りやすい共依存関係なのかもしれない。
本に書かれている通り、僕はきみが癒されることを願いながら、自分自身が癒されることを願っていたのかもしれない。きみが僕を頼ってくれることにこそ、僕は自分自身の価値を見出していたのかもしれない。
それでも僕は、きみを失いたくないんだ。
きみこそが、僕の魂のともし火。
もう、光を知る前の世界には戻れない。
そんな堂々巡りの思索の中、たどり着く答えは一つしかなかったよ。
きみを愛している。
きみを愛していると、どうやってきみに伝えればいいのだろう?
どうすれば、きみは解ってくれるのだろう?
どうすれば、愛を信じられないきみに、僕の愛を受け取ってもらえるのだろう?
そして、
もし仮に、僕が間違っていたとして、
本当に共依存だったとして、
僕の歪んだ心からきみを救いだす道はあるのだろうか?
僕が、きみの傍を離れ、きみを自由にすること。
それできみは、僕の監視を恐れ、僕を傷つけることを恐れ、僕の庇護を失うことを恐れて、誰かを愛することを諦めなくてもすむ。
優しいきみが、僕の傲慢で、偏狭で、強欲な支配にため息をつきながらも付き合ってくれていた、僕の幸せな時間を終わらせること。
それが、きっと、今の僕が唯一きみにしてあげられる最善のこと。
これからは、きみの横にはケネスがいてくれる。だから何の心配もいらない。
彼は、僕みたいに愚かではないから、きみと健全な友情を築いてくれる。僕にはできなかった正しい関係をね。
彼の留年が決まった時、僕は迷わず彼のところに行ったんだ。
きみのことを頼む、と。
きみを一人残して卒業するなんて、どうしてもできなかったから。
彼は、「そんな魅力的な子なら、僕が恋に落ちるかもしれないよ?」と笑って言った。
大切な子なのなら、他人に託すな、と。
僕は彼にこう答えた。
「ケネスに頼んでいるんじゃない。警察官に頼んでいるんだ」と。
学年代表になれば、生徒会に入れば、生徒総監になれば、学校内の権力を握ることができれば、きみを守ることができると思っていた、浅はかな僕を笑ってくれ。僕にはその権力を使いこなせるだけの、頭脳も人望もなかったようだよ。
それなのに、尊大にも、きみを守ると豪語していたなんてね。きみが僕に呆れるのも無理はないよね。
ケネスなら、必ずきみを守ってくれる。信じるに値する奴だよ。
でも、僕は諦めないよ。
いつの日かきみに本当の自由を取り戻し、
魂の解放をもたらすことができるのは僕だと、信じている。
そのために、学び続ける。
だからどうか、
きみの心が誰を思っていたとしても、
友人として、きみの傍にいることを許して欲しい。
きみの魂の、日々の平穏を心から祈って。
永遠にきみを愛する
ジョナス・A・ミルドレッド
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