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魔法使いの愛
3 サーラのおねだり
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せっかく重なった休日を2人で過ごしたかったアシルだが、メアリーとサーラの猛プッシュにより、ディオンと共に伯爵邸に泊まることが決まった。
ブツブツと文句を連ねるアシルだが、メアリーの「ディオンだけ置いていけばいい」という発言で、黙らざるを得なかった。
「では、こちらの部屋をお使いください」
「ありがとうございます。すみません、部屋まで用意してもらって」
「ほほ、いいのですよ。私も成長なされたディオン坊ちゃんのお世話ができて、喜ばしい限りです」
「ダダンさんっ」
「ディオン坊ちゃんっ」
ダダンがディオンを客室に案内し、再会を喜び合っている頃、応接室に残ったアシルは、サーラの抱っこ攻撃を受けていた。
「ディオン兄様のお泊まり嬉しい!
サーラ、一緒に寝てもらうの」
「ディオンは、俺と寝るから諦めろ」
「どうして? お兄様は、ご自分のお部屋があるじゃない。サーラは4歳の誕生日に会ったっきりよ!
やだやだ、ディオン兄様と一緒に寝るのー!」
ラジート家の嫡男として、度々伯爵邸に戻っていたアシルと違い、ディオンは入団以来、伯爵邸を訪れていない。
サーラの誕生日も、サーラが駄々を捏ねて宿舎まで押しかけたのだ。
「3ヶ月後には9歳だろ。一緒に寝るとしても7歳までだ」
「うー、まだ8歳だもん! それに9歳でも、まだ子供よ。ディオン兄様と一緒に寝たって、問題にはならないわ」
「立派なレディーになるんじゃなかったのか」
膝に座るサーラの頭を撫で、アシルは幼い妹に諦めるよう促した。
「なるもん。………それにディオン兄様は、お兄様と結婚するのでしょ」
「ああ」
「だったら家族なんだから、いいじゃない!
サーラが10歳でも、デビュタントしても、家族だから構わないわ」
上手いところを突いてくるなとアシルは感心したが、さすがにデビュタント後は問題でしかない。
サーラの教育に、兄として一抹の不安を覚えた。
「そうか。なら、結婚相手の俺と一緒に寝るから、サーラは遠慮してくれ」
「ハッ!! ぐぬぬぅ~、もうっ! お兄様嫌いっ」
アシルの膝から下り、サーラはグリースの元へ走った。
グリースの脚にしがみつき、サーラはぐりぐりと頭を押しつける。
「サーラは女の子だから、ちょっとね。ディオンさんに迷惑をかけるから我慢しよう」
「えっ」
当然、味方をしてもらえると思っていたサーラは、ショックで固まる。
「それから、兄様も。大人気ないよ、8歳の妹に」
「そうか?」
「そうだよ。あと、ディオンさんは客室で、ゆっくり休んでもらいます。兄様は、自分の部屋で寝てください」
「……何故だ」
「サーラだけに我慢させるんですか?
だいたい、教育上も良くないです」
弟は自分を何だと思っているのか。
さすがに、挨拶に来た日に実家で行為に及ぶ程、節度がないわけではない。
ましてや、経験のない弟が何処まで想像できたのか、甚だ疑問である。
しかし、アシルはそれを口にせず、静かに瞼を伏せた。
それを言及してしまえば、自ら墓穴を掘る気がしたからだ。
「もう、もう、もうっ!
お兄様達なんか知らない!!」
「あっ、サーラ……
兄様が変な意地を張るから」
「お前だって止めただろう」
意地悪なアシルに腹を立てたサーラは、部屋を飛び出し、そのまま客室へ向かった。
客人として戻って来たディオンをもてなす為、伯爵邸の使用人達が忙しなく廊下を行き交う中、令嬢らしくない走りっぷりを披露する。
何人かのメイドが声をかけるが、全て無視した。
「まあ、どうされたのかしら。いつもおしとやかなお嬢様が」
「ふふ。ディオン坊っちゃんがいらしたからよ」
「お客様の………どう関係があるんですか?」
声をかけた1人が、驚きながら先輩メイドに聞いた。
「貴女は、まだ1年だったものね。
今では貴族令嬢らしく振る舞っていらっしゃるけど、アシル様達が伯爵邸で暮らしていた時は大変だったのよ」
「ええっ? あのお嬢様がですか!?」
「旦那様は、今よりずっと忙しくされていて、あまり戻って来られなかったし、奥様も断れない付き合いばかりだったわ。アシル様は後継者教育の大詰め、騎士団の訓練にも混ざっていらしたしね。グリース様は、教育が本格的になったばかりで、私達とディオン坊っちゃんが中心にお世話していたの。
だからお嬢様にとっては、アシル様やグリース様以上にディオン坊っちゃんがお兄様なのよ」
「そうだったんですね」
「本当、大変だったわ。ディオン坊っちゃんも一緒に騎士団に入団するってなった時………。
アシル様が入団したことで、旦那様がお帰りになる回数は増えたんだけど、毎日大泣きでね。
大変だったわ、本当に、大変だったの」
思い出しただけで一気に老け込んだ先輩メイドの顔を見て、新人メイドは、当時雇われていなくて良かったと胸を撫で下ろす。
「ディオン兄様! サーラよ、入っていい?」
「どうぞ」
勢い良く客室のドアが叩かれ、ディオンはすぐさまドアを開けた。
ずっと待ち望んでいた再会に、サーラは喜びを爆発させる。
ドアが開くと同時にディオンに突進し、抱きつく。
「おっと。大きくなったね、サーラちゃん」
「ディオン兄様ぁ~!
サーラ、寂しかったんですよ! どうして全然会いに来てくださらなかったの?」
「え、あー、忙しくて。ごめんね」
まさか伯爵夫妻から、躾の為に会わないようにしてくれと頼まれたとは言えず、ディオンは言葉を濁す。
自分とアシルの関係をどこまで知らされているのか分からないが、変わらず慕ってくれている様子に、ディオンはホッとした。
「ねえ、これからはこの屋敷で暮らすのよね?」
「んん~、僕は騎士団に入ってるからな~。アシルも警護で忙しいだろうし」
「お兄様はどうでもいいのっ。サーラは、ディオン兄様と暮らしたいのです!」
「僕と? はは、嬉しいな」
元々サーラにデレデレだったディオンは、彼女の言葉を素直に喜んだ。
部屋に招き入れ、ソファーに並んで座る。
だが、サーラのひっつき虫具合は治らず、ディオンの腰に抱きついて離さない。
よほど甘えられたことが嬉しかったのか、緩み切った顔でディオンはサーラの頭を撫で続けた。
「ディオン兄様は、お兄様と結婚するんでしょ?」
「え゛」
「だから、これからはサーラ達と暮らしましょ。
お母様もディオン兄様を指導するって言ってらしたわ」
「あー、そうだね。奥様にはお世話になるんだけど、毎日ってわけじゃないんだ。決まった日に、お邪魔する感じかな」
実兄が男と結婚することも、母が指導する意味も、幼い彼女は理解しているのだろうか。
嫌われなくて良かったと安心する一方で、貴族にしては純粋すぎるサーラが心配になる。
「そんなぁっ。サーラ、楽しみにしてましたのよ。
せっかく、ディオン兄様が帰って来たと思っていましたのに」
「ごめんね。でも、また定期的に会えるから。たぶん」
そもそも伯爵邸は帰る場所ではない、なんて言葉を言えるはずもなく、ディオンは甘えたなサーラのご機嫌取りに励んだ。
「今日は、サーラと一緒に寝てくださるわよね」
「一緒に? そうだな……サーラちゃんが眠るまで一緒にいようか」
「あら、寝るのも一緒よ! サーラ、夜になったら枕を持って来ますわ」
「この部屋に?」
「当たり前でしょ。サーラのベッドは、少し小さいもの」
可愛らしい申し出なのだが、これは一存では決められない。どう誤魔化すかを考え、思案する。
しかし、ディオンの沈黙を拒絶されたと勘違いしたサーラは、泣き出してしまった。
ディオンに成長した姿を見せるべく練習した言葉遣いまでが、剥がれ落ちる。
「ううっ、ぐす、ディオン兄様まで、ダメだって言うの?
ひどいわ! サーラ、楽しみにしてたのにぃ~!」
「わあ、ごめん! 違うんだよ、サーラちゃん。
嬉しいんだけど、今後の為というか、慣習的に避けるべきというか」
「うわーん! ディオン兄様に嫌われたぁ!!」
「嫌ってない、嫌ってない!
えーと、そうだ、うん、そう! アシルと約束してたんだ! そう約束!」
「ぐすっ、お兄様と?」
「そうなんだよ。先に約束しちゃったから、破るのは良くないだろう? だから、サーラちゃんには悪いけど、ごめんね」
苦し紛れに口から出た言い訳は、直ぐに看破されてしまいそうな稚拙な嘘だった。
アシルと約束などしていないし、約束していたとしても、優先されるべきは、久方ぶりに会った彼女だ。
だが、言ってしまったからには、引くに引けない。
畳みかけるように、ディオンは嘘を重ねていく。
「最近、時間が取れてなくて、急いで決めなきゃいけないことがあるのに、話し合えてないんだ。だから、その話を今日中に」
「分かりましたわ。お兄様とお話が終わるまで、サーラが待っていればいいのね?」
「あー、そうきたか。
遅い時間まで待たせるのは悪いし、健康に良くないから、僕はオススメできないな」
「………ディオン兄様も、お兄様と一緒なのね。
お兄様は、ディオン兄様と結婚するから、一緒に寝るって言ってたの。サーラが邪魔なんだわ。ディオン兄様も、ただの妹より、夫婦の時間を大切にしたいと仰るのね!」
「ちょっ、誰に聞いたの、そんな言葉!
別にそういうわけじゃないから。ただ、話し合わなきゃいけないことがあるだけだから」
サーラの斜め上を行く反撃がディオンを襲う。
何気ない言葉なのか、解っていてそういうことを含んだ言葉を選んだのか。自分の知らない空白期間に、彼女がどんな成長を遂げたにせよ、一度交友関係を改めた方がいい。
サーラに不釣り合いな教えを授けた人物を、炙り出す必要がある。ディオンは、静かに兄バカを発動させた。
「サーラ、知ってるもん! 結婚したら、子を成すのが妻の務めだって! 夫婦が一緒にいれば、赤ちゃんが出来るんでしょ? 聞いたんだから!」
あまりの衝撃発言に、ディオンは言葉を失う。
それと同時に、怒りが沸々と湧き上がるのを感じた。
サーラに余計なことを吹き込んだのは、誰か。
必ず、鉄槌を下す。そう静かに決意した。
「サーラちゃんに、誰が変なことを教えたかは別にして、本当に違うから」
「でも、お兄様も結婚するから、今日一緒に寝るって言ってたわ」
「わあ、ポンコツ。
アシルの言うことの半分は無視していいからね」
サーラの泣き声で飛んで来たメイドに止められるまで、サーラの駄々は続いた。
ブツブツと文句を連ねるアシルだが、メアリーの「ディオンだけ置いていけばいい」という発言で、黙らざるを得なかった。
「では、こちらの部屋をお使いください」
「ありがとうございます。すみません、部屋まで用意してもらって」
「ほほ、いいのですよ。私も成長なされたディオン坊ちゃんのお世話ができて、喜ばしい限りです」
「ダダンさんっ」
「ディオン坊ちゃんっ」
ダダンがディオンを客室に案内し、再会を喜び合っている頃、応接室に残ったアシルは、サーラの抱っこ攻撃を受けていた。
「ディオン兄様のお泊まり嬉しい!
サーラ、一緒に寝てもらうの」
「ディオンは、俺と寝るから諦めろ」
「どうして? お兄様は、ご自分のお部屋があるじゃない。サーラは4歳の誕生日に会ったっきりよ!
やだやだ、ディオン兄様と一緒に寝るのー!」
ラジート家の嫡男として、度々伯爵邸に戻っていたアシルと違い、ディオンは入団以来、伯爵邸を訪れていない。
サーラの誕生日も、サーラが駄々を捏ねて宿舎まで押しかけたのだ。
「3ヶ月後には9歳だろ。一緒に寝るとしても7歳までだ」
「うー、まだ8歳だもん! それに9歳でも、まだ子供よ。ディオン兄様と一緒に寝たって、問題にはならないわ」
「立派なレディーになるんじゃなかったのか」
膝に座るサーラの頭を撫で、アシルは幼い妹に諦めるよう促した。
「なるもん。………それにディオン兄様は、お兄様と結婚するのでしょ」
「ああ」
「だったら家族なんだから、いいじゃない!
サーラが10歳でも、デビュタントしても、家族だから構わないわ」
上手いところを突いてくるなとアシルは感心したが、さすがにデビュタント後は問題でしかない。
サーラの教育に、兄として一抹の不安を覚えた。
「そうか。なら、結婚相手の俺と一緒に寝るから、サーラは遠慮してくれ」
「ハッ!! ぐぬぬぅ~、もうっ! お兄様嫌いっ」
アシルの膝から下り、サーラはグリースの元へ走った。
グリースの脚にしがみつき、サーラはぐりぐりと頭を押しつける。
「サーラは女の子だから、ちょっとね。ディオンさんに迷惑をかけるから我慢しよう」
「えっ」
当然、味方をしてもらえると思っていたサーラは、ショックで固まる。
「それから、兄様も。大人気ないよ、8歳の妹に」
「そうか?」
「そうだよ。あと、ディオンさんは客室で、ゆっくり休んでもらいます。兄様は、自分の部屋で寝てください」
「……何故だ」
「サーラだけに我慢させるんですか?
だいたい、教育上も良くないです」
弟は自分を何だと思っているのか。
さすがに、挨拶に来た日に実家で行為に及ぶ程、節度がないわけではない。
ましてや、経験のない弟が何処まで想像できたのか、甚だ疑問である。
しかし、アシルはそれを口にせず、静かに瞼を伏せた。
それを言及してしまえば、自ら墓穴を掘る気がしたからだ。
「もう、もう、もうっ!
お兄様達なんか知らない!!」
「あっ、サーラ……
兄様が変な意地を張るから」
「お前だって止めただろう」
意地悪なアシルに腹を立てたサーラは、部屋を飛び出し、そのまま客室へ向かった。
客人として戻って来たディオンをもてなす為、伯爵邸の使用人達が忙しなく廊下を行き交う中、令嬢らしくない走りっぷりを披露する。
何人かのメイドが声をかけるが、全て無視した。
「まあ、どうされたのかしら。いつもおしとやかなお嬢様が」
「ふふ。ディオン坊っちゃんがいらしたからよ」
「お客様の………どう関係があるんですか?」
声をかけた1人が、驚きながら先輩メイドに聞いた。
「貴女は、まだ1年だったものね。
今では貴族令嬢らしく振る舞っていらっしゃるけど、アシル様達が伯爵邸で暮らしていた時は大変だったのよ」
「ええっ? あのお嬢様がですか!?」
「旦那様は、今よりずっと忙しくされていて、あまり戻って来られなかったし、奥様も断れない付き合いばかりだったわ。アシル様は後継者教育の大詰め、騎士団の訓練にも混ざっていらしたしね。グリース様は、教育が本格的になったばかりで、私達とディオン坊っちゃんが中心にお世話していたの。
だからお嬢様にとっては、アシル様やグリース様以上にディオン坊っちゃんがお兄様なのよ」
「そうだったんですね」
「本当、大変だったわ。ディオン坊っちゃんも一緒に騎士団に入団するってなった時………。
アシル様が入団したことで、旦那様がお帰りになる回数は増えたんだけど、毎日大泣きでね。
大変だったわ、本当に、大変だったの」
思い出しただけで一気に老け込んだ先輩メイドの顔を見て、新人メイドは、当時雇われていなくて良かったと胸を撫で下ろす。
「ディオン兄様! サーラよ、入っていい?」
「どうぞ」
勢い良く客室のドアが叩かれ、ディオンはすぐさまドアを開けた。
ずっと待ち望んでいた再会に、サーラは喜びを爆発させる。
ドアが開くと同時にディオンに突進し、抱きつく。
「おっと。大きくなったね、サーラちゃん」
「ディオン兄様ぁ~!
サーラ、寂しかったんですよ! どうして全然会いに来てくださらなかったの?」
「え、あー、忙しくて。ごめんね」
まさか伯爵夫妻から、躾の為に会わないようにしてくれと頼まれたとは言えず、ディオンは言葉を濁す。
自分とアシルの関係をどこまで知らされているのか分からないが、変わらず慕ってくれている様子に、ディオンはホッとした。
「ねえ、これからはこの屋敷で暮らすのよね?」
「んん~、僕は騎士団に入ってるからな~。アシルも警護で忙しいだろうし」
「お兄様はどうでもいいのっ。サーラは、ディオン兄様と暮らしたいのです!」
「僕と? はは、嬉しいな」
元々サーラにデレデレだったディオンは、彼女の言葉を素直に喜んだ。
部屋に招き入れ、ソファーに並んで座る。
だが、サーラのひっつき虫具合は治らず、ディオンの腰に抱きついて離さない。
よほど甘えられたことが嬉しかったのか、緩み切った顔でディオンはサーラの頭を撫で続けた。
「ディオン兄様は、お兄様と結婚するんでしょ?」
「え゛」
「だから、これからはサーラ達と暮らしましょ。
お母様もディオン兄様を指導するって言ってらしたわ」
「あー、そうだね。奥様にはお世話になるんだけど、毎日ってわけじゃないんだ。決まった日に、お邪魔する感じかな」
実兄が男と結婚することも、母が指導する意味も、幼い彼女は理解しているのだろうか。
嫌われなくて良かったと安心する一方で、貴族にしては純粋すぎるサーラが心配になる。
「そんなぁっ。サーラ、楽しみにしてましたのよ。
せっかく、ディオン兄様が帰って来たと思っていましたのに」
「ごめんね。でも、また定期的に会えるから。たぶん」
そもそも伯爵邸は帰る場所ではない、なんて言葉を言えるはずもなく、ディオンは甘えたなサーラのご機嫌取りに励んだ。
「今日は、サーラと一緒に寝てくださるわよね」
「一緒に? そうだな……サーラちゃんが眠るまで一緒にいようか」
「あら、寝るのも一緒よ! サーラ、夜になったら枕を持って来ますわ」
「この部屋に?」
「当たり前でしょ。サーラのベッドは、少し小さいもの」
可愛らしい申し出なのだが、これは一存では決められない。どう誤魔化すかを考え、思案する。
しかし、ディオンの沈黙を拒絶されたと勘違いしたサーラは、泣き出してしまった。
ディオンに成長した姿を見せるべく練習した言葉遣いまでが、剥がれ落ちる。
「ううっ、ぐす、ディオン兄様まで、ダメだって言うの?
ひどいわ! サーラ、楽しみにしてたのにぃ~!」
「わあ、ごめん! 違うんだよ、サーラちゃん。
嬉しいんだけど、今後の為というか、慣習的に避けるべきというか」
「うわーん! ディオン兄様に嫌われたぁ!!」
「嫌ってない、嫌ってない!
えーと、そうだ、うん、そう! アシルと約束してたんだ! そう約束!」
「ぐすっ、お兄様と?」
「そうなんだよ。先に約束しちゃったから、破るのは良くないだろう? だから、サーラちゃんには悪いけど、ごめんね」
苦し紛れに口から出た言い訳は、直ぐに看破されてしまいそうな稚拙な嘘だった。
アシルと約束などしていないし、約束していたとしても、優先されるべきは、久方ぶりに会った彼女だ。
だが、言ってしまったからには、引くに引けない。
畳みかけるように、ディオンは嘘を重ねていく。
「最近、時間が取れてなくて、急いで決めなきゃいけないことがあるのに、話し合えてないんだ。だから、その話を今日中に」
「分かりましたわ。お兄様とお話が終わるまで、サーラが待っていればいいのね?」
「あー、そうきたか。
遅い時間まで待たせるのは悪いし、健康に良くないから、僕はオススメできないな」
「………ディオン兄様も、お兄様と一緒なのね。
お兄様は、ディオン兄様と結婚するから、一緒に寝るって言ってたの。サーラが邪魔なんだわ。ディオン兄様も、ただの妹より、夫婦の時間を大切にしたいと仰るのね!」
「ちょっ、誰に聞いたの、そんな言葉!
別にそういうわけじゃないから。ただ、話し合わなきゃいけないことがあるだけだから」
サーラの斜め上を行く反撃がディオンを襲う。
何気ない言葉なのか、解っていてそういうことを含んだ言葉を選んだのか。自分の知らない空白期間に、彼女がどんな成長を遂げたにせよ、一度交友関係を改めた方がいい。
サーラに不釣り合いな教えを授けた人物を、炙り出す必要がある。ディオンは、静かに兄バカを発動させた。
「サーラ、知ってるもん! 結婚したら、子を成すのが妻の務めだって! 夫婦が一緒にいれば、赤ちゃんが出来るんでしょ? 聞いたんだから!」
あまりの衝撃発言に、ディオンは言葉を失う。
それと同時に、怒りが沸々と湧き上がるのを感じた。
サーラに余計なことを吹き込んだのは、誰か。
必ず、鉄槌を下す。そう静かに決意した。
「サーラちゃんに、誰が変なことを教えたかは別にして、本当に違うから」
「でも、お兄様も結婚するから、今日一緒に寝るって言ってたわ」
「わあ、ポンコツ。
アシルの言うことの半分は無視していいからね」
サーラの泣き声で飛んで来たメイドに止められるまで、サーラの駄々は続いた。
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