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魅惑の聖女様

13 甘いケア

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◇◆◇◆◇◆◇◆


 激しい腰の痛みで起こされれば、思い出したくもない昨日の惨劇で頭がパンクした。

 誰か嘘だと言ってくれ。求められるままに応えて、挙げ句の果てに嫁になる?!
この国は異性婚が常識じゃボケェ!!

 何、アシルって僕のこと好きだったの?
そして僕も満更でもないわけ?
 快楽に負けたんだよな。そうであって欲しい。
でないと昼間っから始めて、夕食も食べずに夜まで続けるとかあり得ない。人間じゃない。


「起きたのか。調子はどうだ。起き上がれそうか?」
「ふぎゃあっ! エロ大魔神!」
「旦那に向かって、なんつー言いようだ」
「旦那っ、いやまだ旦那じゃない。違うぞ」
「ふ~ん? アシルのお嫁さんになるって言って、あんあん喘いでたのは誰だっけか」
「うわあー! 聞きたくない。知りたくない!
僕は男だ。お前も男だ。よって結婚はできない。無効だよ、アシル君」


 初めては、可愛い女の子と過ごすはずだったのに。
それをあんな、あんな獣の交尾みたいな!
僕は盛りのついた犬か。
 こんなのが、団長の耳にでも入ったら……クビ、いやドルツ家ごと消される。
建国の時からの忠臣だぞ、ラジート伯爵家は。
終わった。次期当主が男色家なんて、それも僕のせいで。


「往生際が悪いな、ディオン君。
俺がそんな間抜けだと思うのか」
「え」
「騎士の宣誓は知ってるな」
「アシル、まさか」


 騎士の宣誓をしたのか?
 騎士が生涯を捧げ、忠誠を尽くす相手に誓う魔力の契約を?
あれって、本来王族とかに仕える時に誓う、騎士の憧れというか、魂みたいなもんだよな。
え、マジ? やっちゃったのか、アシル。
魔力結んじゃったの? 僕と。


「これでいつまでも一緒だな」
「なんてことをっ。この先、王様や殿下に選ばれる名誉があっても、誓うことができないんだぞ?
聖騎士にだってなれたかもしれないのに!」


 王族から直接、剣を下賜されれば、騎士にとってこれ程名誉なことはない。
今まで下賜された騎士の中に、その場で誓いを立てなかった者はいなかった。
国に忠誠を捧げる聖騎士だって、宣誓ができなければ資格がない。


「別に構わない。名誉や地位より、ラジート家を継なぐ方が大切だし、ラジート家よりディオンの方が大切だ。
むしろ正しい選択だとは思わないか」
「思わねーよ。1回、医者に診てもらおう。頭の検査しよう」
「至って正常だ。心配するな」


 ラジート伯爵家の皆さん。お宅、子供の育て方間違ってませんか。
順調に足を踏み外しておいでです。息子さん。


「神殿行って、取り消せないか聞こう」
「無駄だ。そんな簡単に取り消せるなら、魔力を使った誓いの意味がない」
「諦めるなよ」
「俺が望んでやったことだ。それとも不都合でもあるのか? 俺から逃げられるとでも?」


 すんごい悪役顔で言われても、1mmもときめかない。
 どうせ僕が何を言っても無駄なんだ。
それなら、アシルが飽きるまで付き合ってやろう。
とことん、僕に尽くさせてやる。
……なんか、自分で言ってて恥ずかしい。


「お腹空いた。何か食べたい」
「そうだな、何が食いたい」
「具沢山のスープと柔らかいパン、デザートも」
「くくっ。仰せのままに、お姫様」


 くそ、寝起きからわがまま攻撃したつもりだったのに。
 アシルは、先にベッドから立ち上って、シャツを羽織ると、外出の準備を始めた。
僕はこんなに全身が痛いのに、余裕そうでムカつく。
というか、調子良さそう。活力に漲ってるじゃん。


「腰痛い、身体だるい、歩くのやだ」
「ああ、俺のせいだな。
今日も休みだろう? 1日ゆっくりすればいい。
全部、俺が面倒見てやる」


 何だよっ、嬉しそうに笑いやがって。
そして僕の休みを何故把握している。


「き、着替えも、面倒臭い。服着せて」


 意地になって、ん、と両手を広げてアピールすると、アシルは一瞬固まって、直ぐに声を上げて笑った。
世話させるつもりが、とんだ恥をかいてしまった。


「あとで身体も洗ってやろう。また着替えさせてやるよ」


 着心地が良くて、ついついだるんだるんになるまで着古した部屋着をチョイスし、アシルは着させてくれた。
アシルには早く買い換えろって言われてたけど、今これを選んでくるあたり、僕を良く分かっている。


「アシルは、どうするの」
「まずはお前のメシ買って、部屋に着替えを取りに行って来る」
「そっか、ご飯よろしく」
「ああ」


 確かにアシルは昨日の服のままだ。
上着を脱いでいるから、団服とは分かりにくいが、団員が見たら職務中と勘違いするかもしれない。




 珍しく、アシルも1日休みだったようで、甲斐甲斐しく僕の世話をし続けた。
ただ、やり過ぎて鬱陶しい。
ご飯は自分で食べさせてくれないし、お風呂も丁寧に身体洗われて、移動はお姫様抱っこ。
 僕が悪かった。だから、普通にして欲しい。


「で、部屋はいつ引っ越す。俺の部屋なら、この辺の家具も入るぞ」


 備え付けの家具とは違い、僕が自分で買ったテーブルや飾り棚を指してアシルが言った。
本気で言ってたの? 隊長の部屋に同居とかあり得ないし、1人部屋じゃなくなるのも嫌だ。


「僕は、この部屋が気に入ってるから」
「俺が移動するには、手狭だろうが」
「当たり前だっ。アシルが僕の部屋に来る気?
無理だよ。変なこと言わないで」
「………ディオン」


 そんな顔されても無理ですからね。
昨日の今日で何なんだ。この激変ぶりは!


「嫌なものは嫌」
「何故だ。一緒にいるんじゃなかったのか?
聖女様の護衛がいつまで続くか分からないのに、これでは会えない」
「え、あ……そっか。ん~、じゃあ時々泊まりに行くのはどう? 休みの日に限らず、僕がアシルの部屋に泊まるの。
そうしたら、タイミングが良ければ会えるだろ?」
「毎日来い」
「時々ね。あんまりしつこいと、きっ、キスしてあげないよっ!」


 正直僕が言っても気持ち悪いだけだと思ったが、アシルには効果覿面だったようだ。
雷に打たれたように固まっている。
イケるかもしれない。
 昨日の記憶を辿っても感じたが、存外アシルは甘えられることに弱い気がする。
よくよく思い起こせば、アシルは昔から僕が羨ましがったり、欲しがったりすると、全部与えようとしてくれた。
乳母の母さんには、怒られてたけど。奥様は笑っていたな。



「この話は終わり。僕と、ちゅーしたくないの?」


 うえっ、キモ。軽くホラーだ。
さあ、どうだアシル。帰る気になったか?
 ちらっとアシルの様子を盗み見ると、やけに静かだった。


「アシル? っ、わあ、何」
「俺の花嫁が、まさかこんなに積極的だとは思わなかった」
「え? え? え?」
「キスはする。当然、その先も」
「待っ、ん……んや」


 やめろ、僕のライフはゼロなんだ。
 胸を触りながら、キスするな。


「ベッド、お前のだと小さいな。
新しいの買いに行こう」
「んあ、文句言うなら、あっ……帰れぇ」
「帰る? ディオンのココは、もうこんなになってるのに?」


 くそぉっ。僕の正直者ーー!!



 こうして僕はまた、アシルに泣かされた。








「もう戻っていいかなー」
「……やめておきなさい、ウィリデ」
「うー。ディオンに会いたいよー」
「殺されるわよ、あの騎士に」
「っ、それはヤダー。うう、ディオン。ウィリデ、寂しい~」
「仕方ないわね。愛し子のとこにでも行きましょ」
「愛し子? うん、行くー」
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