聖女様の推しが僕だった

ふぇりちた

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「ディオン・ドルツ、時間だ。来い」
「はい」


 ノイシュ・ゼフマン卿。第一王子の近衛騎士である彼に直々に連行……げふん、案内され、何処へ連れて行かれるというんだ。

 そもそも、王城に縁もゆかりもない僕が、何故こんな厳重警備の中、歩いているんだ。
思い当たる節も、尋問される覚えもない。
何としても捻り出すんだ。
まさか、知らぬ間にドルツ家が悪事に加担していたのか?
いや、そんなはずはない。
それに実家ではあるが、爵位を継がない僕は、平民と変わらない。兄さんが家督を継ぐ頃には、僕もただのディオンだ。
一族郎党と言われても、家さえ出ていれば!
………まだドルツの姓を名乗っているからアウトか。

 我が家に悪事を働く人間なんていません。冤罪です。
皆んなチキン野郎なんです!
かと言って褒賞を受ける才があるやつもいない!
どっちだ。僕は今、名誉人として呼ばれているのか、犯罪者として呼ばれているのか。

ああ~、ただの人違いであってくれ!



 重々しい沈黙が流れる中、王族の居住エリアへ。
 ますます分からない。
だが、犯罪者を居住エリアには招かないだろう。
良かった。冤罪?→尋問→拷問→処刑のルートはなくなったぞ!


「止まれ。この場で待つように」
「は、はい」


 びっくりした。急に止まるから、ぶつかるかと思った。


「殿下は中に?」
「ハッ! ゼフマン卿をお通しするよう、指示を受けております」
「そうか」


 王族のどなたかの寝室であろう大きなドアの前に、衛兵が2人。
必要なんだろうけど、自分の部屋の前に2人も大人がいたら嫌だよな。ご愁傷様です、などと思っていたら、ゼフマン卿は今、何と言ったか。
殿下と言わなかったか?
 そうだよね。ゼフマン卿だもん。第一王子しかいないよ。
あはは。くそっ、泣きたい。


 3分程経っただろうか。
ゼフマン卿は、片方のドアを大きく開き、僕を呼んだ。



「中へ入れ」
「……はい」


 この世に生を受けて22年。それなりに苦労もしてきた。
 神様、僕がいったい何をしたというのです。
しがない男爵家の三男坊が国の王子を前に、息ができるとでも?!
しかも王太子。さらに今話題の聖女に骨抜き状態で、問題だらけらしい。


 アシル、助けてくれ。今こそ、長年の恩を僕に返すべきじゃないか!
乳母兄弟、兼お守り役の僕を助けろ~!!


「グズグズするな」
「はいっ!」


 痺れを切らせたゼフマン卿の鋭い声が脳天を直撃する。
さようなら、穏やかな日々。はじめまして、まだ見ぬ恐怖──────…


「失礼いたします!」
「殿下、この者が第一騎士団所属のディオン・ドルツです」
「そうか。ことね、彼で間違いないのかい?」


 煌びやかな装飾品で統一された、王族らしい部屋の主は、やはり王太子のエリオット殿下だった。
 華やかな目鼻立ちに、スラリと伸びた背、ガッシリとした体幹は、男の僕でも見惚れるほどだ。
どうりで、肖像画がバカ売れするわけである。
 まあ、問題は王太子殿下ではない。
その隣で可憐に微笑んでいる、女性。
もしかしなくてももしかするのか。
 額から頬に冷や汗が伝うのが分かる。


「はい! この方で間違いありません!」
「ふむ。おい、ディオンと言ったな」


 ヤバい、ヤバい、ヤバい!
 何で、聖女に知られてるの、僕。


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