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バリスタ、転生する
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───スリスリ
んん、何だこの感触。こそばゆい。
つうか、くしゃみが出そう。
目を開くと、つぶらな瞳と目が合った。
「ナニコレ、ユメデスカ」
「うわーんっ! 良かった、慧君。 目が覚めたんだねぇっ!」
顎先に乗る鳥が、バサっと翼を広げ、高速で頬に頭を擦り付けてくる。
よく分からんが、可愛い。
えーっと、どうしたんだっけか。
倒れて、それでえーっと。
「おーい、慧君?」
「鳥が喋った!
っていうか、その声、オーナー?!」
「うわーんっ、会いだがったよおぉ~!」
「ちょっ、オーナーやめてください。
急に顔擦りつけないで………あれ、何ですか、このもふもふ、ふわっふわな感触は。ずっと触っていたい」
「ん? 僕の羽毛気に入ったかい?」
「………(なでなで)」
「慧君、聞いてる?
この前話してる途中で、気を失っちゃってさぁ。
しかも3日も寝たままだよ!
僕もう心配で心配で!
子爵家からは閉め出されちゃうし。会えないかと思った」
ああ、そうだった。
オーナーの巻き添えで転生したんだった。
「3日も寝てたのか………お? そういえば声が出てる?」
「そうなんだよ! また何年も寝たままだったらって恐くなって、妖精さんに頼んだんだ」
「妖精、ですか」
小人に羽根が生えてる、あの?
「うさんくさそうに見ないの!
事実、キミは喋れるようになった。手足も少しなら動かせるはずだよ」
マジですか。
おっ、ほんとだ!
ちょっと指が動くぞ。
「妖精ってすごいんですね」
「うん。だけど、まずは僕を褒めるべきじゃない?
妖精に頼んだの僕」
「あ、すみません。ありがとうございます、オーナー。
どうやって頼んだんですか?」
「ヒーリングが得意な妖精を探して、体力を回復させてって頼んだんだよ。そうしたら、子爵家の人が妖精の気配に驚いちゃって、家の中に入らないように窓を全部閉めてねー。
会えて良かったー」
だから、どうやったら頼めたんだよ。
伝えるだけで了承してくれるのか? 妖精は。
「閉め出されたのに、どうやって入ったんです?」
「カゴを持って外出していたメイドさんがいたから、こっそり隠れて来た!」
「よく気づかれませんでしたね」
「まあ、精霊が見える人の方が少ないから」
なるほど。忍び込んだんだ。
何はともあれ、オーナーには感謝だ。
植物状態だったはずなのに、喋れるし、身体も少しは動く。
現代医学では考えられないよな。
「すごいっすね。ありがとうございます。
その妖精にもお礼を言いたいんですが、会えますか?」
「もちろん会えるよ!
交換条件だから」
「交換条件?
………やっぱり、タダで助けてくれたわけじゃないのかっ」
「お願いごと聞いてくれたら、慧君を助けてくれるって言うから」
オーナー、貴方って人は!
妖精のお願いって何だ?
それは人間の俺に叶えられることなのか。
できるか分からない約束をするなんて!
よく、あの店潰れなかったな、おい。
「はあっ。願いの内容は聞いてるんですか」
「さあ? 慧君なら簡単だって言ってたよ」
「俺なのか。やっぱり対価を払うのは俺か!
オーナー、助けてくれたのは本当に有り難いですけど、大丈夫なんですかね、それ」
「たぶん」
たぶんて。
疲れた。癒しが足りない。
「オーナー、とりあえずモフらせてください。
腕は動きそうにないんで、手先まで移動してもらえると助かります」
「もふ……? え、これでいいの?」
「!」
感じる! 高級感溢れるふわふわな綿毛の感触!
ほんのり温かい、至高のもふもふ!
今なら全力で撫で回せそうな気がする。
むしろ動け、俺の身体。今動かないで、いつ動くんだ。
「……あの、慧君?」
「ふおー」
「え、気持ち悪い。慧君、いや白川君!?」
「あとちょっと」
「ちょっとってどれくらい?
僕の毛並みが台無しじゃないか」
俺の手から逃れて、ボサボサ状態のオーナーが枕に飛んで来た。
もう少し堪能したかったのに。
しかし、ボサボサになったシマエナガ擬きも、また衝撃のビジュアルだ。
「可愛い……」
「慧君!?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「グレン様、どちらへ?
お供いたしますか」
「いや、1人で大丈夫だ」
エドアルドの兄、グレン・カードウェルは、本邸からすぐの別邸へ向かっていた。
別邸には、カードウェル家の宝物が眠っている。
これは、使用人はもとより、領民でさえ知っている話だ。
貴族の別邸と言うには、あまりにみすぼらしく、貧相な外観だ。しかし、グレンからすると、本邸よりも整って見えた。
「もう3年経ったんだな……」
12歳のグレンにとって、それはとても長い時間だった。
3年前。派手ではないが、カードウェル領主家として、それなりの暮らしをしていた。
だが、初めての弟が生まれた日。その日からグレンの生活は一変した。
徐々に質素になる食事。お下がりを縫い直した服。減っていく使用人の数。
だんだんと荒れてゆく庭。やつれていく母。
時間を作っては、遊んでくれていた父も、朝早くから遅くまで金策に走り回っていた。
エドアルドは、魔力が大きすぎるゆえ、身体が拒絶して寝たままらしい。
母に説明された時、ショックで大泣きした。
ただ、心配から苛立ち、嫉妬に変わっていくのに、時間はかからなかった。
いつも、弟ばかり。弟だけが、宝物。
その弟が3日前、ついに目覚めた。
すぐに眠ってしまったらしいが、ますます母が弟につきっきりになることだけは分かった。
「ちょっと、顔を見るだけ」
んん、何だこの感触。こそばゆい。
つうか、くしゃみが出そう。
目を開くと、つぶらな瞳と目が合った。
「ナニコレ、ユメデスカ」
「うわーんっ! 良かった、慧君。 目が覚めたんだねぇっ!」
顎先に乗る鳥が、バサっと翼を広げ、高速で頬に頭を擦り付けてくる。
よく分からんが、可愛い。
えーっと、どうしたんだっけか。
倒れて、それでえーっと。
「おーい、慧君?」
「鳥が喋った!
っていうか、その声、オーナー?!」
「うわーんっ、会いだがったよおぉ~!」
「ちょっ、オーナーやめてください。
急に顔擦りつけないで………あれ、何ですか、このもふもふ、ふわっふわな感触は。ずっと触っていたい」
「ん? 僕の羽毛気に入ったかい?」
「………(なでなで)」
「慧君、聞いてる?
この前話してる途中で、気を失っちゃってさぁ。
しかも3日も寝たままだよ!
僕もう心配で心配で!
子爵家からは閉め出されちゃうし。会えないかと思った」
ああ、そうだった。
オーナーの巻き添えで転生したんだった。
「3日も寝てたのか………お? そういえば声が出てる?」
「そうなんだよ! また何年も寝たままだったらって恐くなって、妖精さんに頼んだんだ」
「妖精、ですか」
小人に羽根が生えてる、あの?
「うさんくさそうに見ないの!
事実、キミは喋れるようになった。手足も少しなら動かせるはずだよ」
マジですか。
おっ、ほんとだ!
ちょっと指が動くぞ。
「妖精ってすごいんですね」
「うん。だけど、まずは僕を褒めるべきじゃない?
妖精に頼んだの僕」
「あ、すみません。ありがとうございます、オーナー。
どうやって頼んだんですか?」
「ヒーリングが得意な妖精を探して、体力を回復させてって頼んだんだよ。そうしたら、子爵家の人が妖精の気配に驚いちゃって、家の中に入らないように窓を全部閉めてねー。
会えて良かったー」
だから、どうやったら頼めたんだよ。
伝えるだけで了承してくれるのか? 妖精は。
「閉め出されたのに、どうやって入ったんです?」
「カゴを持って外出していたメイドさんがいたから、こっそり隠れて来た!」
「よく気づかれませんでしたね」
「まあ、精霊が見える人の方が少ないから」
なるほど。忍び込んだんだ。
何はともあれ、オーナーには感謝だ。
植物状態だったはずなのに、喋れるし、身体も少しは動く。
現代医学では考えられないよな。
「すごいっすね。ありがとうございます。
その妖精にもお礼を言いたいんですが、会えますか?」
「もちろん会えるよ!
交換条件だから」
「交換条件?
………やっぱり、タダで助けてくれたわけじゃないのかっ」
「お願いごと聞いてくれたら、慧君を助けてくれるって言うから」
オーナー、貴方って人は!
妖精のお願いって何だ?
それは人間の俺に叶えられることなのか。
できるか分からない約束をするなんて!
よく、あの店潰れなかったな、おい。
「はあっ。願いの内容は聞いてるんですか」
「さあ? 慧君なら簡単だって言ってたよ」
「俺なのか。やっぱり対価を払うのは俺か!
オーナー、助けてくれたのは本当に有り難いですけど、大丈夫なんですかね、それ」
「たぶん」
たぶんて。
疲れた。癒しが足りない。
「オーナー、とりあえずモフらせてください。
腕は動きそうにないんで、手先まで移動してもらえると助かります」
「もふ……? え、これでいいの?」
「!」
感じる! 高級感溢れるふわふわな綿毛の感触!
ほんのり温かい、至高のもふもふ!
今なら全力で撫で回せそうな気がする。
むしろ動け、俺の身体。今動かないで、いつ動くんだ。
「……あの、慧君?」
「ふおー」
「え、気持ち悪い。慧君、いや白川君!?」
「あとちょっと」
「ちょっとってどれくらい?
僕の毛並みが台無しじゃないか」
俺の手から逃れて、ボサボサ状態のオーナーが枕に飛んで来た。
もう少し堪能したかったのに。
しかし、ボサボサになったシマエナガ擬きも、また衝撃のビジュアルだ。
「可愛い……」
「慧君!?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「グレン様、どちらへ?
お供いたしますか」
「いや、1人で大丈夫だ」
エドアルドの兄、グレン・カードウェルは、本邸からすぐの別邸へ向かっていた。
別邸には、カードウェル家の宝物が眠っている。
これは、使用人はもとより、領民でさえ知っている話だ。
貴族の別邸と言うには、あまりにみすぼらしく、貧相な外観だ。しかし、グレンからすると、本邸よりも整って見えた。
「もう3年経ったんだな……」
12歳のグレンにとって、それはとても長い時間だった。
3年前。派手ではないが、カードウェル領主家として、それなりの暮らしをしていた。
だが、初めての弟が生まれた日。その日からグレンの生活は一変した。
徐々に質素になる食事。お下がりを縫い直した服。減っていく使用人の数。
だんだんと荒れてゆく庭。やつれていく母。
時間を作っては、遊んでくれていた父も、朝早くから遅くまで金策に走り回っていた。
エドアルドは、魔力が大きすぎるゆえ、身体が拒絶して寝たままらしい。
母に説明された時、ショックで大泣きした。
ただ、心配から苛立ち、嫉妬に変わっていくのに、時間はかからなかった。
いつも、弟ばかり。弟だけが、宝物。
その弟が3日前、ついに目覚めた。
すぐに眠ってしまったらしいが、ますます母が弟につきっきりになることだけは分かった。
「ちょっと、顔を見るだけ」
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