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初めての寮生活
しおりを挟む初日のオリエンテーションが終わり、私が向かっているのは、これから生活することになる寮部屋である。
取り巻き(仮)達の放課後のアポは全て丁重にお断りしておいた。さすがにちょっと初日は慎重に行きたい、何よりも心が休まらない。
他の生徒の波に乗って寮に行けばいいだろうと思ったのだが、教員から「貴方はこっちの寮では無いですよ」と別の場所を案内されてしまった。
どうやら私の寮は別の場所にあるらしい。
案内された場所に辿り着き、寮官らしき女性に話しかけると別の場所から出てきたメイド服の女性に部屋へと連れていかれた。
「こちらがクレア様のお部屋でございます。」
案内された部屋に入ると私は驚愕した。
何せゲームの中で見た寮部屋とはあまりにも違っていたからだ。
(えっ豪華すぎない!?)
「こちらの学園で過ごされるにあたって、不自由無くお過ごしになれるようできる限りの準備はさせて頂きました。各フロア担当のものが何名かおります。御用がございましたらドア近くのベルを鳴らしてお呼びくださいませ。」
部屋を見渡すと見覚えのある家具が目につく、クローゼットを開けるとやはりこちらも何回か目にした覚えのあるドレスやら洋服やらが詰まっていた。
(もしかして、入学前にせっせと使用人達が準備していたのはこれ?)
まさかの実家持ち込みだったとは。
でもおかげで毎日ニーアがいなくても何とかなりそうだ。
どうやら着替えなど必要なことがあれば直ぐにベルを鳴らしてメイドさん達を呼んでいいらしい。
至れり尽くせりだなぁと感心していると「それとこれを」と1枚の封筒を手渡された。
封筒を手渡したメイドはこれにて失礼します、と部屋を出ていってしまった。
この封筒がなんだったのか聞きたかったのだが、まあそれは開ければ済む話か。
さっきちらりと引き出しを見た時に実家で愛用している文房具セットの箱を見つけた。
もし内容が変わってなければ…
「お、あったあった。」
レターナイフを取り出し封蝋を開ける。
(誰も見てないし、いいよね)
部屋のベットに制服のまま倒れ込み封筒の中身を確認する。
封筒もそうだが紙質が中々良く丁寧な装飾がされていた。
実家からかと思っていたがどうやらそうでは無さそうだ。
「春麗会…」
そこには春麗会のお知らせと書いてあった。
春麗会とは中等部、高等部に存在するプリンシパルと呼ばれる集団が主催するちょっとしたウェルカムパーティーのようなものだ。
プリンシパルとはその者の家柄、学内成績など様々な点を加味して選ばれる超エリート集団である。
プリンシパルに選ばれた者は制服が違う、特別なサロンを利用出来るなど色々優遇措置が取られると共に、生徒の憧れの的である。
一応生徒会とは別に存在しているが、代々生徒会長、生徒会メンバーの大半をプリンシパルが務めることが多く実質学内権力を握っている集団でもある。
プリンシパルは毎年選考が行われるが1度入った者が抜ける事は滅多になく、また勿論だが入る難易度もめちゃくちゃ高い。
そして春麗会は進級のお祝い&プリンシパルに新規加入するメンバーの歓迎会が主な目的だが次期プリンシパル有力メンバーを招待することもあるのだ。
ちなみに、ゲーム本編では生徒会長だったノイシュが面白半分に成績優秀者だった主人公のアンナを招待し、平民をプリンシパルに入れるつもりか!とウルティアやクレアとバチバチに揉めるイベントだ。
まあ要するに、お偉いさんがいっぱい集まるので主要人物もいっぱい来る=今後の私に関わる一大事なのである。
「まさか初等部の時、しかも入学早々招待来るとは思ってなかった…。」
ゲームでは確かに招待を受けている人達がぽつぽつといたが確認できる限りどれだけ早くても中等部か初等部高学年辺りからだったので、さすがに入学早々は来ないだろうと思って油断していた。
まあよくよく考えれば4つしかない公爵家のうち3人+第2王子が初等部に集まってる怪物世代なのでおかしくは無いのかもしれないが。
「春麗会ってなるとプリンシパル今どの世代だ?主要人物誰?…いや、本編出てこない人いっぱいいるよな。でも後々の生活を考えると仲良くしておかないと…」
頭をうんうんと悩ませていると寮の扉がコンコン、とノックされた。
「どなたですか?」
「突然申し訳ございません、隣の部屋のマーガレット・ミラーと申します。宜しければご挨拶を、と思いお伺いしたのですが…。」
扉を開けるとそこには栗毛色の髪の毛に綺麗な緑の瞳の女の子が立っていた。
「ご丁寧にありがとう、私は…」
「えっ!?あ、」
私が顔を出した瞬間明らかに慌てだしたマーガレット。理由がわからず思わず挨拶の途中できょとんとしてしまった。
「す、すみません。まさか隣がヴィルデンブルフ公爵のご息女だとは思わなくて…!」
「あら、私の事ご存知だったの?」
「それは勿論!恐らくこの学年で貴方様のことを存じて無い方などいらっしゃいませんわ。それぐらい注目の的でしたもの。」
一目でわかるほど注目を浴びているのはそれはそれで気まずい。クラウスとか王子とかウルティアとかいるからちょっと紛れてると思ったのに…。
「そうなのね…。そういえば、ご用件はなんだったかしら。」
「私としたことが、舞い上がってしまってお恥ずかしいですわ。ご挨拶にと思って大したものでは無いですが茶菓子と茶葉をお持ちしましたの。宜しければ召し上がって下さい。」
「とても美味しそうね、ありがとう。後で頂くわ。」
「お口に合うといいのですが…あ、そうですわ!宜しければこの後一緒に校内を回りませんか?2個上の学年に姉がおりまして、姉に案内をお願いしていたところなんです。」
(ふむ…。これはどうしようか。)
見たところ私だとわかって挨拶に来たようでは無さそうだし、どんなところがあるのか知っておきたい気持ちはある。
同じクラスでは無かったはずだし他のクラスの生徒ともある程度交流しておくべきか。
「ええ、それではお言葉に甘えようかしら。」
私が了承すると彼女はぱっと表情を輝かせた。
「はい!それでは後ほど準備が出来次第またお部屋にお伺いしますね!」
姉に声をかけてくるので待っててくださーい!と走り出し何処かに行ってしまった。
(なんだろう…犬みたいにしっぽふりふりしてる姿が見えそうなぐらい愛嬌のある子だったわね…。)
さて、春麗会のことはとりあえず後にして、彼女が訪ねてくるまで部屋のソファに腰掛けて待つことにしようかしら。
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