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プロローグ

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私はとある広告会社に勤めるどこにでもいるようなOL、強いて特徴を言えば会社がややブラックなところだろうか。
ここ1週間…、いや、今月、というか入社してからほぼ終電ぎりぎりで電車を捕まえて帰宅し始発で出社するような社会人生活を送っている。

「だぁぁぁぁぁ!!!あんのクソ上司!!!全部私が出した案却下する癖に毎回改善点違うし発言が支離滅裂なんだけど!!!!」

帰宅するやいなや怒りを込めてベッドに鞄を投げつける。
息苦しいスーツを脱ぎ捨て、部屋着に着替えるといそいそと晩飯の準備に取り掛かった。
まあ、準備といっても買ってきた弁当をレンチンするぐらいだが。

絶対いつか見返してあの上司より上の役職ついてふんぞり返ってやる…。
そう恨みを込めながら今日もコンビニで買ったビールを喉に流し込んだ。晩御飯はいつも決まってコンビニ弁当、それに少しのつまみと缶ビール。
正直ここまで夜遅いとコンビニぐらいしか開いている店がない。特に美味しいとも思わなくなった食事と鬱憤晴らしの酒を流し込む日々。

「昔は楽しかったんだけどな…。社会人ってこんなもん?思い描いてた姿と全然違うんだが?」

一日の疲れがどっと押し寄せ机に項垂れると目線の先には今では時間が無くなりほぼプレイすることの無くなった数々のゲームが陳列された棚が目に入った。
今はブラック企業の社畜として日々奴隷のように働いているが、学生時代は幅広いジャンルのゲームをやり込んだ、所謂ゲーマーだった。

「シューティングゲームとかここら辺懐かし…うわボス戦の回避位置とかもう忘れてるかも…危うい。」

懐かしのゲームをビール片手に物色する。久々に時間が取れたらやりたいな…と思いつつ明日も仕事でそんな時間はないという現実は今は見て見ぬふりをした。

「あー…やったねえこれ。乙女ゲームとか無縁の人間だと思ってたけどキャラのビジュがよくて買っちゃった奴。私には攻略サイト見ないと全ルートのスチル回収できなかったわぁ。」

色々なジャンルに手を付けながらもシューティングゲームや格ゲーとか男性のプレイ人口が多いゲームを好んでプレイしていた私には乙女ゲームなんて無縁の存在だと思っていたが、女友達に勧められて連れてこられた乙女ゲームコーナーでビジュアルが好みだったゲームを購入してみたところ以外にも面白くてハマってしまった。

青春のせの字も無かった私はイケメンキャラの一挙一動にドキドキさせられ、疑似恋愛体験ができたのでまあいい経験だったのではと思っているが、私の乙女ゲームの適正は無いらしく自力で解放できたのはヒロインらしくない行動をとることで逆に攻略キャラからの好感度が上がる通称「へえ、おもしれえ女…」ルートと特に誰とも結ばれずに終わる友情エンドのみ。(ちなみにこの話を友人にしたら爆笑された。)

結局攻略サイト片手に全ルート解放に至ったある意味思い出のゲームである。

「このゲーム主人公達は甘々だけど悪役達のラスト悲惨なんだよな…魔法とか魔物とかいるせいで余計に処刑がえぐい。」

懐かしいなーと現実逃避に浸っていると気づけばもう帰宅してから1時間も経っていた。

「やっば!!明日も早いんだからもう寝なきゃ、あー…2時間は寝れるかな。」

物色していたゲームをさっさと片付けベットにダイブ。目が覚めたら楽しい楽しい社畜ライフの始まりだ。ガンバルゾー(棒読み)




















「…うーん。久しぶりに良く寝た気がする…。」

ふかふかのベッドにふかふかの枕、きれいに整えられたシーツの上で目を覚ました私は大きく伸びをした。こんなに気持ちよく眠れたのはいつぶりだろうか。

社会人になってからというもの、毎日夜遅くに帰宅して2~3時間しか寝れてなかったしな。久々に良い休日をすごした…ん?いや、今日平日のはずでは?出社では?間違いなくこの感覚は寝過ごしたのでは?

「やばいやばいやばい遅刻怒られる!!タクシーでかっ飛ばすしか…ええと、まずは会社に連絡しなきゃ…スマホ…え、スマホは?」

いつも枕元に置いているはずのスマホが見当たらない。というか、私のベッドこんなに綺麗だったか?それになんかサイズでかくない?

「ていうか、ここ、どこ。」

落ち着いて辺りを見渡すと明らかにそこは私の部屋ではない。まるで高級ホテルかのような内装、豪華な家具、どこかは皆目見当もつかないがとりあえず私の部屋ではない。どこだここは。

「ひとまず髪結んで、状況整理をしよう、うん。いつものルーティーン大切よ。プロのスポーツ選手とか日本代表が言ってるんだから間違いないのよ…ん?こんなに髪長かったっけ私?黒髪じゃない…だと!?後なんか手が子供っぽくない!?いや子供の手だぞこれは!?」

まさかのルーティーンから新たな問題点を見つけてしまった私はパニック状態。
ベットの上で呆然と座り込みながら頭をフル回転させているとコンコン、と部屋の扉がノックされる音が聞こえた。

「お嬢様、お支度のお時間でございます。失礼してもよろしいでしょうか?」

「え、お嬢様?私?私しかいないよな?」

「…お嬢様?いかがなさいました?」

「…え、あの、その。あ、どうぞ!」

「…?失礼いたします。」

慌てて返事をするとメイド服に身を包んだ女性がきれいな装飾が施された箱をもって部屋に入ってきた。

「おはようございます、クレアお嬢様。いつもと様子が違うようでしたが、いかがなさいましたか?」

「お、おはようございます…?何でもないのでお気になさらないでください…。」

「まあ、クレアお嬢様が気品に溢れるお方なのは存じておりますが、私達使用人の前では肩の力を抜いてくださって構いません。敬語は不要ですわ。」

メイド服の女性が心配そうに顔を覗き込んできたのでとりあえずごまかそうとつい敬語で返すも、逆に母性み溢れる微笑みで返されてしまった。

(…どう返すのが最適解なんだろう…状況がまずわかんないし、ん?クレア?クレアお嬢様って言ったよねこのメイドさん。)

クレアという名で一つだけ心当たりがある。もしかして、いやそんなことがあり得るのか。はっとした私は食いつくようにメイドに問いかけた。

「あの!鏡はありますか!?」

「え、ええ。鏡でしたら、こちらに。」

急に食い気味で話す私にびっくりしながらもメイドは箱の中から鏡を取り出しこちらに向けてくれた。

鏡に映る自分の顔をぺたぺたと触りながら確かめる。

(この銀髪…サファイアみたいに青い瞳…色白な肌…何よりこんなに内心パニクってるのにピクリとも動かないこの仏頂面!間違いない!)

「うそでしょ…。」

クレア・ ヴィルデンブルフ。「氷帝」と呼ばれた冷徹公爵令嬢。私がプレイしていた乙女ゲームの悪役の一人。

私、乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったみたいです。
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