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神殺し

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空白。上も下も右も左もない空間。その空間に影が一匹入ってきた。

「許可した覚えはないけど?」

名もなき者は頭上におり、歪み特有の違和感を感じ、空間を整えはしないもののその歪みへ目を向け、耳を立てる。名もなき者を頭上にその歪みは嗤い話始める。

『やはり、魂を集めれば集めるほど名もなき者おまえへ近づくことができるようだね。』

名もなき者は鼻で嗤い、男の足元をちょろちょろしている影だと気が付く。

「やぁ、君か。物語の演者がこんな舞台裏まで来ちゃいけないじゃないか。」

影はなおも嗤いながら、名もなき者へ煽るように話す。

『台本はおろか、舞台監督や裏方のいない舞台じゃ、演者がいつ休もうがそれは演者の勝手だろう?今更、ボクがこっちに来ようが関係のない話だろう?』

「そうだね。それで?何か言いに来たんだろう?こう見えて聞き上手なんだよ。」

影は金色の瞳を少し歪め、名もなき者へ宣戦布告する。

『今から、ボクは君に挑戦する。その資格が今のボクにはある。これは宣戦布告と同時に君への勝利宣言でもある。覚えておくことだね。』

名もなき者は肘置きに頬杖をつき、興味がないような態度をとり、一息開けて喋り始める。

「楽しみにしているよ。ただ一つ。今回の物語、君は彼に敗北する。」

その言葉に影は遂に怒りをあらわにし、犬歯をむき出しに名もなき者を指さす。

「そんなこと言えるのも今のうちだ!今に見えていろ!私が完全体に成れば、次に貴様が見るのは玉座に座る神々しい私の姿だ!!」

「キャラがブレてきているよ。」

その言葉に影はハッと我に返り、最初のニヤケ面で空白へ扉を作り出ていった。

『それじゃ、伝えたいことは伝えた。あとは結果を待つのみだ。』

出ていった影の背中に名もなき者は溜息を着いた。

「はぁ、何度も言うけど、この物語はハッピーエンドで終わる。ボクが、僕が、私が、我が、儂が、わたくしが、俺が、俺様が、朕が、やつがれが……ぼくが言うのだから、間違いない。絶対だ。」

表に出せない感情をその時は久しく、表に出した。

────────────

細いが一本の光が空へ向かって伸びた。その光景に皆無は龍兎に何かあったのかとその方向へと目を向ける。その瞬間時間が遅くなる。背中に寒気と殺気が迫ってきた。間に合わない。これは避けられない。皆無は振り向くと同時に今出せる最大出力の能力を使用する。

抹消無効ゼロ!!」

無効化は間に合ったが、皆無の右上半身は暴食の黒い球体によって喰われる。
暴食はその味に身を震わせ、もう一度皆無の肉を抉ろうと走るが皆無が能力を完全に無効化する。

わたくしの能力を無効化しなくてもよろしいのですか?」

「関係ないな。お前の能力を無効化しようがしまいが、お前は俺には勝てないさ。」

大口をたたく皆無に怠惰は面倒くさそうな態度で早急に決着を付けようと能力を最大限に発揮する。自分の速度を二倍に、周りの速度を0.5倍にする。その勢いのまま光の剣で皆無にとどめを刺そうと切り付ける。だが、皆無はその攻撃を読んでいたかのように移動し、好悪劇を避ける。

『能力の無効化か?』

無効化ではない。抹消でもない。なら、なぜ皆無は怠惰の攻撃を避けられるのか。気合で済ませればそれでもよかったのだろうが、そんな簡単な事ではない。能力の詳細を知っていたとしてもそれを実行する狂気は誰も兼ね備えていない。机上、言葉の説明としては反応処理を云十秒も先にしているのだ。脳の処理を無理やり速めていると言えばもっと簡単に聞こえるだろう。だが、実際にそれをするというのは完全に不可能である。やろうとすればするほどできないのである。どれだけ処理速度を速めても身体はその速度には追いつけない。追いつきようがないのである。

「とんだ狂人ですね。」

「誉め言葉として受け取っておくさ。」

皆無は血涙を流し、鼻血を出しそれでも目の前の標的に向かって組み付く。組み付かれた怠惰は皆無を振りほどこうと羽を広げようとするが、ほぼリミッターを外した状態の皆無の力は異能力を使ってもいないのに怠惰は羽を広げる事ができない。しかし、怠惰はそんな皆無に無表情で語りかける。

わたくしにかまけていてよろしいのですか?」
その言葉に皆無は自らの能力の制限時間を思い出し、すぐに背中に目をやった。それと同時、黒い球体は皆無の背中を抉った。内臓に到達する前に皆無は怠惰から離れたが、背中を触ると骨がむき出しの状態になっているのが分かる。
「くそ、さすがに一人じゃ無理だな。」

能力で傷を抹消すると傷が跡形もなくなった直後に怠惰は攻撃を仕掛ける。

世界は遅くなりやがて朽ちるスロー&スラッシュ

光の斬撃に皆無は防御出来ずにもろに斬撃を喰らう。

────────────

神殺し。それは誰にも成し遂げられた事のない偉業。

だが、語られぬ歴史の中で一度だけ神を殺した男がいる。

その男は神殺しの♤1と呼ばれ、神界はおろか地獄も天国もあの歪みでさえ恐怖した存在である。

────────────


光線を避けたはいいものの、龍兎の片目は完全に潰されている。不安定な視界の中、死角から重い一撃が飛んでくる。恐らく憤怒の攻撃だと理解はするが、片目が潰されるているという状況は完全にハンデ以上のものを抱えていた。龍兎はすぐに死角への反撃をしようと銃を創造し引き金を引くが、憤怒はすでに移動し目の前にいる傲慢はすでに次の攻撃準備をしている。

「クッソ……」

傲慢の光の斬撃をその身に受け、袈裟斬りにされる。右肩から入った光の刃は左わき腹へ抜けて龍兎の身体は綺麗に真っ二つにされる。自分の身体の断面が目に入るとすぐに能力で傷と身体を分離する。身体はくっつくき、剣を創造し傲慢に振り回すが傲慢はその攻撃を躱し、龍兎の胴を前蹴りして距離を離す。胸の防御が甘くなった龍兎に傲慢は光の斬撃を連続で当てる。

「ほれ、ほれ、ほれほれほれぇ!!!」

背中から落ちる龍兎。その隙を見逃さずに傲慢に心臓に刃を突き立てようと両手で光の剣を持つ。後数センチで光の刃は龍兎の胸に到達しようとしていたが、傲慢の手が止まる。

「な、んだ…よ……」

「貴様、その魂…”皆殺し”いや、”神殺し”のミナか……」

龍兎はその言葉に思わず制約を破り能力を複数使用し、傲慢を飛ばす。傲慢はその態度に刃を納め、龍兎へ向き直る。
「図星か?」

「どこでその名を?」

「いやなにコキュートスにいれば、色々な噂が聞こえてくるのでな。いつかのどこかで聞いただけさ。」

龍兎の目は依然としていつもより険しく殺気が籠った目をしていた。傲慢はその視線に身を震わせつつ、さらに煽る。こいつの本気を引き出したい。魂の色を見た傲慢は目の前のこのぼんくらが本当に”神殺し”のミナなのか確証を得たかった。

「神殺しがいまや神の犬とはな……傑作だな。」

龍兎は無言で剣を数千本創造した。ただの剣ではない。ヨーロッパはイングランドの伝承。その剣を岩から抜けば王になれると言われた剣。アーサーがその剣を抜き血筋と威厳を示したと言われた代物。全てを切り裂き、未来を切り開くと言われた伝説の剣。

総てを切り開く剣エクスカリバー五月雨レイン

降り注ぐ伝説級の剣は傲慢はおろか、憤怒、周りも巻き込み一帯を伝説の光で飲み込んで行く。傲慢はその隙の無い雨を避けることができず思わず退散しようと後ろに跳躍するが、誰かが背中にぶつかる。憤怒かと後ろを振り向くとそこには総てを切り開く剣エクスカリバーを手に持った龍兎がいた。

「お前如きに1割の力を使うのは不愉快だが、お前が煽ったんだからな?覚悟しろよ?」

両手に力を込めると総てを切り開く剣エクスカリバーは光り輝き、その魔力に傲慢は背を向けたまま無言で絶望した。

「死ね。そして、後悔しろ。」

オレが死のうが、主の目的は達成される。」

震える唇から出たのは強がりかそれとも事実か傲慢は意味深に言葉をつぶやいた。
そして、龍兎が剣を振り下ろした瞬間夜空は昼のように明るく光り、そして、辺りは白と黒の一色になった。

続く。
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