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暴食
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獰猛な怒り、湧き上がる嫉妬、それらが灰のように崩れ落ちる。
そして彼には猛烈な食欲のみが残った……
肉を喰らい、血を飲み干し、それだけでは飽き足らず、大地を喰らい、海を飲み干す。毒や訳の分からない有害物質までも彼の胃の中では、分解され消化されるようになってしまった。人々は彼のそんな姿を見ては、口を揃えてこう言った。
「暴食」だ。と……
────────────
龍兎は今にも動き出しそうな球体を指さし無田を見つめる。
「で、あのカニバリズム野郎どうするよ。」
「俺の能力を忘れたか?今回はイージーゲームだ。」
「へぇへぇ、そうですか。んじゃ、さっさとやってくれます?」
無田は二人の間を押しのけ、能力を使用する。視界に映す異能的な現象、存在、その他効能を無効し、抹消する瞳。その瞳はアジア人特有の黒色から灰色に近い白色へと変化する。
その瞳の先、黒い球体に包まれた七つの大罪暴食の罪グラン=グラトニーグラトニーはその視線と自分の視線がぶつかるのを感じた。その瞬間、能力はあたかもそこには存在していなかったかのかように能力が消える。
「まただ。能力が解除された。神の使いの黒髪のほう。君がやっているのかい?」
無田はそのまま能力を行使し続ける。その間、龍兎と四夜華は暴食へと距離を詰める。
「創造:日本刀」
「鉄糸式魔法術:ワイヤートラップ!!」
暴食は空気に光る糸を見つめ、そのままその糸に絡めとられ身動きが封じられる。
龍兎はその身動きの取れない状態の暴食へ日本刀(標準装備1)で切りかかる。
「惜しいな。」
そういうと、暴食は黒い渦に包まれ始める。やがて、暴食の姿が歪み渦の中へと飲み込まれていく。その際にワイヤートラップは渦へと飲まれ暴食は解放される。
「おい、無田。イージーゲームじゃないんかよ?どうなっている。」
「能力は発動している。だが、何か様子がおかしい。」
やがて、暴食は黒い球体になった。龍兎と四夜華はその状態の暴食から距離を置こうとバックステップで後ろへと下がる。暴食はその隙を見逃さず、二人へと突進する。
「創造:シールド」
追いつかれた龍兎は銀色の盾を作り出すが、暴食は構わずその盾ごと龍兎の腕を喰らった。
綺麗な肉の断面が見えるが、龍兎はその傷に騒ぐでも痛がるでもなく、次の行動に出る。
「創造:デザートイーグル」
アメリカ合衆国ミネソタ州のミネアポリスにあるM.R.Iリミテッド社の発案、そして、イスラエル・ミリタリー・インダストリーズ社とマグナムリサーチ社が生産している自動拳銃。
砂漠の鷲の名を持つ拳銃を龍兎は片手で持ち、構え、即発砲した。拳銃と言えど、マグナムなので片手で発砲使用ものなら脱臼へとつながる。
ゼロ距離、そして、創造して約10秒での発砲。ゼロ距離でも発砲の為、暴食が避けられる間合いではないが、黒い渦により弾丸は粉々になり消滅する。そして、発砲した龍兎は肩を脱臼し、体勢を崩す。その際も痛がる様子も泣き叫ぶ様子もなく、即座にデザートイーグルを消滅させ、創造以外の能力を使用する。
「分離」
分離する能力。書いて字の如くありとあらゆる物体、概念を分離する能力。一つのモノを二つにだけでなく、一つしかないモノも無理やり二つに分けることができる。
その能力で喰われた腕の”傷”と脱臼した肩の”傷”を分離する。すると、喰われた腕はいきなり生え、脱臼はなかったかのように治る。
この間わずか5秒。
そして、龍兎は回復した両手で四夜華を抱いて、突進の進路から抜け出す。
「あっぶな.………」
「腕、大丈夫……か?」
怪我の瞬間を見ていた四夜華は龍兎の腕をさするが、そこには回復した綺麗な腕があった。
「舐めんな。お前より場数は踏んでる。心配は無用だ。」
────────────
『おかしい。能力の効果が弱まっている。なぜだ?』
突進してくる空間を削り取る球体を前に、無田は能力を使い続ける。暴食の能力は確かに無効され、抹消されているはずだが、能力の切れるスパンが明らかに短くなってきている。
最初に能力を使って、10分。先程能力を使い、5分。そして今、能力を使い続けるが。秒単位で能力が切れている。もうすぐ黒い球体は無田の方へとたどり着く。だが、無田は自分の能力に絶対的な自信があるためまだどかない。
「まだ、まだ、効くはずなんだ。俺の能力はこんな事では。」
そして、暴食が横を通り過ぎる。
「教えてあげようか。」
小声でささやくと、暴食は無田の右肩から先を全て喰らって無田の後ろへと回る。
「ワタシの能力は空間を削り取る能力。空間と共に時間も削り取っている。つまり、ワタシが能力を発動しながら、動きまわれば君の能力の制限時間の残りも喰らい、制限時間を短くしているのサ。」
詳しくは違う。”動き回れば”ではなく、暴食が能力を発動しながら、能力発動中の無田にだんだんと近づけば、無田の能力の制限時間を空間ごと削り、短くしているのである。
「ならば……」
無田はなくなった右肩先をかばいながら、距離を取り始める。そして、能力を使用する。
無田の能力抹消無効の制限時間は10分きっかり。距離を一定に保てれば、常に能力を使い続け、ほぼ無抵抗で暴食をとらえられる。
「おい、布田。攻略法をつかめた。」
「次は信じていいんだな?オレとこいつは何すりゃいい。」
無田は腕の感覚を取り戻しながら、暴食を見つめる。
「俺を守りながら戦え。」
龍兎は少しムッとした顔でそして、口角を上げた。
「合点。」
「三人で何をお話しているんだい?」
その殺気に三人は視線を動かす。そこにはすでに暴食が迫ってきておりほぼ避ける事は不可能な位置だった。
「裂けよ空。うなれ雷雲。雷の鉄槌」
雷の魔術と共に現れたのは龍兎の後ろを走っていた晴山大介だった。
大介の放った魔術は暴食へ命中し、暴食は感電しその場で能力も解除した。
「いまの内に行こう。」
大介が三人に駆け寄ると四人は頷き、暴食から離れた場所へと走った。
「あれ、いなくなった……?でも……暴食の貪眼」
暴食は目を見開くと、四人の”臭い”をその目に映す。
”暴食の貪眼”は暴食が生涯で手に入れてしまった副産物。嗅覚でしか感じることのできない臭い(又は匂い)をその目に映すことができ、獲物の残り香すらも見逃さない魔眼の一種である。
「ワタシの眼からは逃げられない。」
臭いの追跡。一つは灰色の匂い。先程喰らった龍兎の腕の血肉の匂いと一致する。どうやら、四人はこの先で一人ずつに分かれたようだった。
「惜しいな……一緒に行動すれば、勝機は十分あったはずなのに………」
すぐそばの木を見上げると、龍兎が剣を創造し突き立てながら落下してきた。
「やれ。無田……!!」
掛け声と共に、暴食の身体に違和感が走る。その違和感の正体は能力の抹消、無効化だった。身体から黒い渦が消えていく。
「そうだったね……ワタシは灰黒の君からじゃないと厄介なことになるんだった。」
”灰黒の君”と呼称された無田と目が合うと、暴食は一瞬で無田の方へと向かえなかった。
「ワイヤー…………?」
赤と青のマーブルの匂い。その匂いの先にはワイヤートラップをする四夜華の姿があった。
距離は先程より進んでおらず、制限時間はそのままいつも通りに過ぎていきはじめる。
「これは………」
そして、暴食は気付く。四人は孤立しているのではなく、自分を囲むように配置に着いただけだと。身動きの取れない状態。そして、頭蓋に突き刺さる鋭利な衝撃。そのまま、背骨へと到達した龍兎の剣は暴食の背筋を真っすぐに強制的に固定し、骨盤と背骨を二等辺三角形のように直角にする。
もちろん、暴食への特攻が入っていない攻撃は無傷と同義だが、強制的に伸ばされる背中には違和感しかない。
「くっ………抜きなさい。」
公共施設で見る美しい噴水のように二股の放物線を描く鮮血はその場に血だまりを作り始める。暴食は一心不乱に突き刺さった剣を抜こうと手を伸ばすが、乗っかったままの龍兎がそれを邪魔する。
「まだ、まだだぜ。これからもっと痺れるような炎がお前を焼くんだからな。」
そういうと、暴食は魔眼を使い先程から微動だにしない匂いの先を目で追う。
「焔華滅却、来楽雷雷。痺れるような炎に身を焦がせ。雷炎!!」
落雷のような衝撃と共に、だんだんと燃えるような痛みが全身を包み込む。
じわりじわりと体内の熱と体外の熱が反発し合い、そして、膨れ上がる。
「熱い…………」
異常な熱にやがて、暴食は猛烈な喉の渇きに襲われる。
「み、水………水…………喉が…………」
そのうち暴食はその場に膝をつき、やがてその場にのたうち回りだす。喉を押さえ、開きっぱなしの口からは唾液が大量に溢れる。
「逃がさねぇ…………ここで決める。」
龍兎は雷炎に耐えながら、懐からカギを取り出す。
「哀れなる魂よ。有るべき場所へと還せ」
虚空から現れる扉が開くと、龍兎は分離を使い、暴食の傷を治療しながら、扉へと押し込む。扉が閉まろうとしたその時、辺りの時間が遅くなる。
時間にして+10秒。
世界は遅くなる。
体感重病が過ぎた頃。
その遅い空間で唯一通常よりも速く動く影が一つ。
その影はゆっくりと歩き、光に照らされる。
『こいつ…………原初の悪魔の一人…………』
その姿は醜悪に例えられる。
便器に座り、誰よりも人間を嫌い。
そして、誰よりも人間を見る悪魔。
だが、その言い伝えとは真逆の容姿の巻いた角を生やした背の高い男が暴食の手を引っ張り、扉から引きずりだす。
「怠惰の悪魔……ベルフェゴール…………だと?!」
男は余裕な様子で溜息混じりのあくびを一つ吐く。
「くわぁ………暴食の窮地のため、参上した所存。ベルフェゴールでであル。」
ゆっくりと歩き、ベルフェゴールは龍兎もあばら骨を4本ほど叩き折る。
ベルフェゴールの能力なのか、あばらを折られた龍兎には痛みがじわりじわりと大きくなっていく感じがした。人生で一度も体験したことのない痛みに今まで死んでいた龍兎の痛覚は数万年ぶりに敏感になった。
「ぐふぅ…………」
せり上がる血の匂いに久しい不快感が味覚と嗅覚を襲う。
そして、ベルフェゴールはワイヤーを操る四夜華に近寄り、顔に傷をゆっくりと着ける。大介には右手の指を一本ずつ丁寧にゆっくりと折っていき、右腕を切り落とす。
そして、この空間で唯一ベルフェゴールの半分の速さで動ける無田は視線を合わせるや否や、能力を使用する。だが、能力の効果が届くよりも先にベルフェゴールは無田の側にいた。
『速い……?時間を遅くするだけのはずだろう。』
無田の表情からベルフェゴールは考えを大体察し、無言で無田のみぞおち付近をゆっくりとしかし、力強く殴りつける。
「周りを遅くするだけではないのだ。私の能力は。」
そして、能力解除の瞬間。今までの痛み、衝撃、時間がフィードバックする。
遅くなった時間の痛みと能力解除時の痛みは世界の基準としては別のものとして扱われ、能力解除時、全てがフィードバックする。
ベルフェゴールは自身の速度を二倍にしているので実質二倍攻撃をしているに等しい。
四人が一斉に吹き飛ばされ、怠惰と暴食は急いでその場を離脱した。
続く。
そして彼には猛烈な食欲のみが残った……
肉を喰らい、血を飲み干し、それだけでは飽き足らず、大地を喰らい、海を飲み干す。毒や訳の分からない有害物質までも彼の胃の中では、分解され消化されるようになってしまった。人々は彼のそんな姿を見ては、口を揃えてこう言った。
「暴食」だ。と……
────────────
龍兎は今にも動き出しそうな球体を指さし無田を見つめる。
「で、あのカニバリズム野郎どうするよ。」
「俺の能力を忘れたか?今回はイージーゲームだ。」
「へぇへぇ、そうですか。んじゃ、さっさとやってくれます?」
無田は二人の間を押しのけ、能力を使用する。視界に映す異能的な現象、存在、その他効能を無効し、抹消する瞳。その瞳はアジア人特有の黒色から灰色に近い白色へと変化する。
その瞳の先、黒い球体に包まれた七つの大罪暴食の罪グラン=グラトニーグラトニーはその視線と自分の視線がぶつかるのを感じた。その瞬間、能力はあたかもそこには存在していなかったかのかように能力が消える。
「まただ。能力が解除された。神の使いの黒髪のほう。君がやっているのかい?」
無田はそのまま能力を行使し続ける。その間、龍兎と四夜華は暴食へと距離を詰める。
「創造:日本刀」
「鉄糸式魔法術:ワイヤートラップ!!」
暴食は空気に光る糸を見つめ、そのままその糸に絡めとられ身動きが封じられる。
龍兎はその身動きの取れない状態の暴食へ日本刀(標準装備1)で切りかかる。
「惜しいな。」
そういうと、暴食は黒い渦に包まれ始める。やがて、暴食の姿が歪み渦の中へと飲み込まれていく。その際にワイヤートラップは渦へと飲まれ暴食は解放される。
「おい、無田。イージーゲームじゃないんかよ?どうなっている。」
「能力は発動している。だが、何か様子がおかしい。」
やがて、暴食は黒い球体になった。龍兎と四夜華はその状態の暴食から距離を置こうとバックステップで後ろへと下がる。暴食はその隙を見逃さず、二人へと突進する。
「創造:シールド」
追いつかれた龍兎は銀色の盾を作り出すが、暴食は構わずその盾ごと龍兎の腕を喰らった。
綺麗な肉の断面が見えるが、龍兎はその傷に騒ぐでも痛がるでもなく、次の行動に出る。
「創造:デザートイーグル」
アメリカ合衆国ミネソタ州のミネアポリスにあるM.R.Iリミテッド社の発案、そして、イスラエル・ミリタリー・インダストリーズ社とマグナムリサーチ社が生産している自動拳銃。
砂漠の鷲の名を持つ拳銃を龍兎は片手で持ち、構え、即発砲した。拳銃と言えど、マグナムなので片手で発砲使用ものなら脱臼へとつながる。
ゼロ距離、そして、創造して約10秒での発砲。ゼロ距離でも発砲の為、暴食が避けられる間合いではないが、黒い渦により弾丸は粉々になり消滅する。そして、発砲した龍兎は肩を脱臼し、体勢を崩す。その際も痛がる様子も泣き叫ぶ様子もなく、即座にデザートイーグルを消滅させ、創造以外の能力を使用する。
「分離」
分離する能力。書いて字の如くありとあらゆる物体、概念を分離する能力。一つのモノを二つにだけでなく、一つしかないモノも無理やり二つに分けることができる。
その能力で喰われた腕の”傷”と脱臼した肩の”傷”を分離する。すると、喰われた腕はいきなり生え、脱臼はなかったかのように治る。
この間わずか5秒。
そして、龍兎は回復した両手で四夜華を抱いて、突進の進路から抜け出す。
「あっぶな.………」
「腕、大丈夫……か?」
怪我の瞬間を見ていた四夜華は龍兎の腕をさするが、そこには回復した綺麗な腕があった。
「舐めんな。お前より場数は踏んでる。心配は無用だ。」
────────────
『おかしい。能力の効果が弱まっている。なぜだ?』
突進してくる空間を削り取る球体を前に、無田は能力を使い続ける。暴食の能力は確かに無効され、抹消されているはずだが、能力の切れるスパンが明らかに短くなってきている。
最初に能力を使って、10分。先程能力を使い、5分。そして今、能力を使い続けるが。秒単位で能力が切れている。もうすぐ黒い球体は無田の方へとたどり着く。だが、無田は自分の能力に絶対的な自信があるためまだどかない。
「まだ、まだ、効くはずなんだ。俺の能力はこんな事では。」
そして、暴食が横を通り過ぎる。
「教えてあげようか。」
小声でささやくと、暴食は無田の右肩から先を全て喰らって無田の後ろへと回る。
「ワタシの能力は空間を削り取る能力。空間と共に時間も削り取っている。つまり、ワタシが能力を発動しながら、動きまわれば君の能力の制限時間の残りも喰らい、制限時間を短くしているのサ。」
詳しくは違う。”動き回れば”ではなく、暴食が能力を発動しながら、能力発動中の無田にだんだんと近づけば、無田の能力の制限時間を空間ごと削り、短くしているのである。
「ならば……」
無田はなくなった右肩先をかばいながら、距離を取り始める。そして、能力を使用する。
無田の能力抹消無効の制限時間は10分きっかり。距離を一定に保てれば、常に能力を使い続け、ほぼ無抵抗で暴食をとらえられる。
「おい、布田。攻略法をつかめた。」
「次は信じていいんだな?オレとこいつは何すりゃいい。」
無田は腕の感覚を取り戻しながら、暴食を見つめる。
「俺を守りながら戦え。」
龍兎は少しムッとした顔でそして、口角を上げた。
「合点。」
「三人で何をお話しているんだい?」
その殺気に三人は視線を動かす。そこにはすでに暴食が迫ってきておりほぼ避ける事は不可能な位置だった。
「裂けよ空。うなれ雷雲。雷の鉄槌」
雷の魔術と共に現れたのは龍兎の後ろを走っていた晴山大介だった。
大介の放った魔術は暴食へ命中し、暴食は感電しその場で能力も解除した。
「いまの内に行こう。」
大介が三人に駆け寄ると四人は頷き、暴食から離れた場所へと走った。
「あれ、いなくなった……?でも……暴食の貪眼」
暴食は目を見開くと、四人の”臭い”をその目に映す。
”暴食の貪眼”は暴食が生涯で手に入れてしまった副産物。嗅覚でしか感じることのできない臭い(又は匂い)をその目に映すことができ、獲物の残り香すらも見逃さない魔眼の一種である。
「ワタシの眼からは逃げられない。」
臭いの追跡。一つは灰色の匂い。先程喰らった龍兎の腕の血肉の匂いと一致する。どうやら、四人はこの先で一人ずつに分かれたようだった。
「惜しいな……一緒に行動すれば、勝機は十分あったはずなのに………」
すぐそばの木を見上げると、龍兎が剣を創造し突き立てながら落下してきた。
「やれ。無田……!!」
掛け声と共に、暴食の身体に違和感が走る。その違和感の正体は能力の抹消、無効化だった。身体から黒い渦が消えていく。
「そうだったね……ワタシは灰黒の君からじゃないと厄介なことになるんだった。」
”灰黒の君”と呼称された無田と目が合うと、暴食は一瞬で無田の方へと向かえなかった。
「ワイヤー…………?」
赤と青のマーブルの匂い。その匂いの先にはワイヤートラップをする四夜華の姿があった。
距離は先程より進んでおらず、制限時間はそのままいつも通りに過ぎていきはじめる。
「これは………」
そして、暴食は気付く。四人は孤立しているのではなく、自分を囲むように配置に着いただけだと。身動きの取れない状態。そして、頭蓋に突き刺さる鋭利な衝撃。そのまま、背骨へと到達した龍兎の剣は暴食の背筋を真っすぐに強制的に固定し、骨盤と背骨を二等辺三角形のように直角にする。
もちろん、暴食への特攻が入っていない攻撃は無傷と同義だが、強制的に伸ばされる背中には違和感しかない。
「くっ………抜きなさい。」
公共施設で見る美しい噴水のように二股の放物線を描く鮮血はその場に血だまりを作り始める。暴食は一心不乱に突き刺さった剣を抜こうと手を伸ばすが、乗っかったままの龍兎がそれを邪魔する。
「まだ、まだだぜ。これからもっと痺れるような炎がお前を焼くんだからな。」
そういうと、暴食は魔眼を使い先程から微動だにしない匂いの先を目で追う。
「焔華滅却、来楽雷雷。痺れるような炎に身を焦がせ。雷炎!!」
落雷のような衝撃と共に、だんだんと燃えるような痛みが全身を包み込む。
じわりじわりと体内の熱と体外の熱が反発し合い、そして、膨れ上がる。
「熱い…………」
異常な熱にやがて、暴食は猛烈な喉の渇きに襲われる。
「み、水………水…………喉が…………」
そのうち暴食はその場に膝をつき、やがてその場にのたうち回りだす。喉を押さえ、開きっぱなしの口からは唾液が大量に溢れる。
「逃がさねぇ…………ここで決める。」
龍兎は雷炎に耐えながら、懐からカギを取り出す。
「哀れなる魂よ。有るべき場所へと還せ」
虚空から現れる扉が開くと、龍兎は分離を使い、暴食の傷を治療しながら、扉へと押し込む。扉が閉まろうとしたその時、辺りの時間が遅くなる。
時間にして+10秒。
世界は遅くなる。
体感重病が過ぎた頃。
その遅い空間で唯一通常よりも速く動く影が一つ。
その影はゆっくりと歩き、光に照らされる。
『こいつ…………原初の悪魔の一人…………』
その姿は醜悪に例えられる。
便器に座り、誰よりも人間を嫌い。
そして、誰よりも人間を見る悪魔。
だが、その言い伝えとは真逆の容姿の巻いた角を生やした背の高い男が暴食の手を引っ張り、扉から引きずりだす。
「怠惰の悪魔……ベルフェゴール…………だと?!」
男は余裕な様子で溜息混じりのあくびを一つ吐く。
「くわぁ………暴食の窮地のため、参上した所存。ベルフェゴールでであル。」
ゆっくりと歩き、ベルフェゴールは龍兎もあばら骨を4本ほど叩き折る。
ベルフェゴールの能力なのか、あばらを折られた龍兎には痛みがじわりじわりと大きくなっていく感じがした。人生で一度も体験したことのない痛みに今まで死んでいた龍兎の痛覚は数万年ぶりに敏感になった。
「ぐふぅ…………」
せり上がる血の匂いに久しい不快感が味覚と嗅覚を襲う。
そして、ベルフェゴールはワイヤーを操る四夜華に近寄り、顔に傷をゆっくりと着ける。大介には右手の指を一本ずつ丁寧にゆっくりと折っていき、右腕を切り落とす。
そして、この空間で唯一ベルフェゴールの半分の速さで動ける無田は視線を合わせるや否や、能力を使用する。だが、能力の効果が届くよりも先にベルフェゴールは無田の側にいた。
『速い……?時間を遅くするだけのはずだろう。』
無田の表情からベルフェゴールは考えを大体察し、無言で無田のみぞおち付近をゆっくりとしかし、力強く殴りつける。
「周りを遅くするだけではないのだ。私の能力は。」
そして、能力解除の瞬間。今までの痛み、衝撃、時間がフィードバックする。
遅くなった時間の痛みと能力解除時の痛みは世界の基準としては別のものとして扱われ、能力解除時、全てがフィードバックする。
ベルフェゴールは自身の速度を二倍にしているので実質二倍攻撃をしているに等しい。
四人が一斉に吹き飛ばされ、怠惰と暴食は急いでその場を離脱した。
続く。
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