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嫉妬 終幕

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無田皆無の能力全開。残っている固有結界、ハクラの魔力、一重の札の力、男の発動している能力、そしてその全ての抹消、無効。小雨の空には星の瞬きが現れ、小川のできていた山肌は一瞬で乾き、破壊された木々も元通りになった。無田皆無は自由になり、男の腕を引き寄せ、そして顔面に拳を入れる。

「ぐっ……!」

男は後ろへ倒れようと身体それるが、その隙を利用して皆無へ蹴りを一撃入れようとするが、皆無はその足も受け止めそのまま足を地面に叩きつける勢いを利用してカウンターでもう一度拳を顔面に入れる。気を失う前に男はすぐに起き上がり皆無から距離を取ろうとする

「逃がさん。」

皆無を見たまま飛ぶ男の足を皆無は掴みまた地面へと叩きつけようとする。男は能力を使おうと地面に手をかざすが能力は発動せずそのまま地面に激突する。男は何が起こったのか訳の分からないという顔で顔面、鼻血、吐血、でボロボロになっている。

「お前、何をした。」

「あいにく、名前も教えない奴に今起こっている現象は教えない。」

皆無はそのまま能力を行使して、男の能力を封じたまま殴り続ける。つたないガードで男は皆無から逃げる隙をうかがっているがなかなか逃げられる様子はない。もどかしくなった男は何か叫ぶ。

「♢JΣ!!」

男の叫び声と共に、男の影から蠢く何かが細い靄が皆無の腕へと巻き付く。皆無はそれが能力ではないことを認識し、すぐに振り払おうとするが靄は皆無の手足に巻き付きだんだんと男と皆無の距離を放して行った。

「悪いね~この子は必要なんだ。今回は見逃してくれ。」

黒い靄はそういうと己の黒い靄を拡大させて、男ごと消えていった。

「くっ……逃がしたか……」

皆無はボロボロの身体を引きずりハクラと一重の元へと向かう。気を失うか否かの意識で二人のもとへと着くとそのまま倒れる。二人は慌てて皆無へと駆け寄る。

「ちょっと!大丈夫!?」

「先程よりも酷い……それより…………」

ハクラが目で合図すると心配した様子の一重へ皆無が手をかざすと一重は眠るように倒れた。

「我の記憶は消さなくても良いのか?」

「お前は”歪み”だからな。構わない。」

寝たまま、皆無はハクラを早く神社へ連れて行けと手で追い払う。ハクラは一重を抱えたまま踵を返し神社へと向かった。

「じゃあの。」

皆無は寝っ転がって夜明けの空を見ながら立ち上がった。

────────────

記憶の所在はどこにあるのか?
長年(と言っても100年程度だが)神の使いをやっていると記憶の所在が曖昧になる。
大体は脳に記憶が保管されていることは知っているが、それでもたまに脳にあるのか疑いたくなる。
”心”と言う者もいたが、”心”とは考えることの延長にある感覚だと俺は考える。
記憶の所存。魂の行き場、そんなものは俺にも分からない。

────────────

日常は突然終わりを迎える。

燃える町の中心で二人はにらみ合う。

「ハクラ……ッ!」

「ははは……やっとお主と戦えるのだな。」

ハクラこと、白羅真黒羅は逆矛一重と日常を過ごす他に自らの真の力を手に入れるため、五大魔獣の核をこっそりと食べて力を蓄えていた。それもこれも一重と死合う為。
白羅は自ら作り出した神器を構え、一重に目線で挑発する。一重は札で強化したお祓い棒を構える。

「今までだましてたの?」

「そうだな。」

「記憶がなかったもの、弱いふりをしていたのも。全部。」

「そうだ。全て嘘だ。」

一重はこれ以上は何も放す必要がないとお祓い棒に力を込め、白羅に叩きつける。
白羅はその棒を神器で受け止める。炎も吹き飛ばすほどの衝撃波が二人の周りを飛び交う。
鍔迫り合いの末、二人は距離を取り最後の一撃を互いに繰り出した。

「終ノ札:神殺」

「神ノ一撃」

互いの最大の攻撃。そして、最後に立っていたのは、一重だった。
虫の息のハクラへと近づき、一重は傷を治す札で治療し始める。だが、終ノ札:神殺はかすりでもすれば大魔族はおろか神すらも殺せる札使いの文字通り切り札である。そんな札を受けた者はどれだけの治療を施そうがその傷は絶対に治らない。

「なぜ、助ける?」

一重は無言で治療を続ける。だが、ハクラの傷はだんだんと広がっていく。

「もう、やめよ。我は助からない。」

一重は何かをつぶやきながら、ハクラの治療をしている。その手から札が離されることはなかった。

「一重。」

「うるさい。私は神も殺せる札使いの巫女!だったら、神も私の手で救う!」

「ムリだ。」

「ムリじゃない!!」

ハクラは一重を突き放し、立ち上がろうとする。だが、一重は消えゆくハクラを押し倒し、治療を辞めない。

「一重!」

「あんたも、行っちゃうの!?」

ハクラは一瞬、誰の事を言っているか分からなかったが、思い出す。

「お前、また自力で…………」

「分からない!でも、あいつも助けられなかったから……!」

トラウマとして残ってしまった皆無の記憶は一重の心を日々蝕んでいた。
傷ついた者を救えなかった。助けられなかった。そんな思いが一重の頭の中を今までグルグルと駆け巡っていた。

「一重。もういいんだ。」

「ダメ、あんたも家族だから。これも家族のちょっとした喧嘩だから!」
ハクラの消えゆく身体を最後は手を握る事しかできなくなった一重は涙を流し、ハクラに懺悔する。だが、それでもハクラの身体はゆっくりと消えて行く。それを大声で泣きわめき止める一重はまるで駄々をこねる子供のように地面を叩く。ハクラの手が顔が消え失せようとしたその時、一人の青年が姿を現す。

「誰?」

青年は何も言わず、ハクラの手を握り抹消無効(ゼロ)を使い、神殺の傷を治した。

「貴様!」

皆無は何も言わずその場から消えた。気が付けば、焼け野原になっていた町も何もかもが元に戻っていた。正確には抹消されていた。

「これ、は?」

「はは、最後の最後ここまでハッピーエンドが好みだったとはな。」

一重はそんな事はどうでも良くなったのかハクラを抱き寄せ肩で泣いた。遠くからそんな無理やりなハッピーエンドを見ていた皆無はコートのホコリを払い扉を開けた。

「これは協力してくれたお礼だ。」

扉が閉まると、町には日常が戻った。
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