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眼 3
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俺は忘れない。
彼女との恋を。
あの日常を。
そして、お前への憎しみを。
布田 龍兎。
俺はお前を必ず…………
────────────
「それじゃ、あんたの事を聞かせてくれ。」
白い着物をだらしなく着崩した白髪の銀眼があぐらをかき、無田へ視線を送る。
それに続き、三毒の魔族と巫女の逆矛 一重が視線を送る。無田はその視線を受けて、少し考える。無田はこの世界の人間ではなく、神に仕える、神に使われる存在の「神使」なのだ。「神使」は本来、人に見られず気付かれないようにはびこる「歪み」の「修正」もしくは「抹消」しなければならない。そして、鉄則を思い出す。『その世界の主人公であっても記憶は消さなければならない』その鉄則だった。無駄な事を悩んだと肩の力を抜き、自分の全てを語る。なぜ、神の使いになったのか、何のために神の命や言いつけを守るのか。そのすべてを洗いざらい話した。黙って聞いていた三毒と一重、ハクラの四匹と一人は緊迫した表情になったり、涙ぐんだりところころと表情を変えた。そして、話し終わるころにはチ―、ジン、トンが無田の肩へ手を優しく置いた。
「頑張ったんだな…………」
「そうだね…………」
「辛かったろうに………おーいおいおいおい……」
「辞めてくれ。恥ずかしい。」
三毒は何かシンパシーを感じたのか、無田に仲間意識を向けている。
その三毒をどかし、無田は一重とハクラの方へと近寄る。
「面白い人間だの。」
「信じられないけど、あの魔族を一瞬で倒したから信じてあげる。」
一重はお茶を一口飲むと回数の多くなった瞬きを誤魔化すようにわざと横を向いたり無田とは目を合わせないようにしている。それに気付いたハクラは一重の後頭部に人差し指で軽く突くと一重はかくんと項垂れ、完全に眠ってしまった。その様子に三毒達は一重を担ぎ寝床へと運んだ。それを見送ったハクラは無田に向き直りながら、お茶で唇を湿らせる。
「毎日遅くまで頑張ってるんだ。今日はお前とも出会ったし、あの三バカ共の世話で疲れがピークに達したんだろうね。」
無田は何ら意味のない事をつらつらと喋るハクラをただ見つめるだけだった。そして、中身のない話を続けようとした喋りの腰を折るように口を開く。
「お前、白羅真黒羅だろ。」
話を止められ、そして、自身の正体の言及でハクラの口は止まる。
「なぜ、そう思った?」
「”何となく”……では、納得してくれないからな、説明してやる。」
「歪み」にも種類がある。
世界に必要な「歪み」物語における七枚目。実悪。つまり黒幕、ラスボスである。
この種の「歪み」は絶対的に必要な「歪み」である。この「歪み」がない世界は物語がないにも等しい。他にも、その世界での「不可解な現象」「不思議で」「不気味な」出来事もこれに該当する。これは話しだしたらキリがない。
では、世界に不要な「歪み」とは何か。これは簡単、外世界からきた「歪み」または「歪み」に等しい者である。これは現在無田が追っている魔族と無田自身に言える事だ。
そして、無田はその必要な「歪み」と対峙して悟った。目の前のこのハクラと言う少女の形をした魔族が「歪み」「七枚目」「実悪」であると。
「そうだ。と言ったら?」
「いや、俺は何もしない。いや、できないといった方が正確か。」
歪みを修正、抹消するのが「神使」の仕事だが、例外が鉄則外にある。
それはもちろん至極当然で、呼吸をするときに空気を肺に取り込み吐き出すような自然の節理の如き当たり前の事なのだ。
世界に必要な「歪み」をその世界の主人公が淘汰する必要があるからだ。
だから、外の世界の無田がそれをすることは絶対に許されない。
「難儀な奴だの。」
「あぁ、とても面倒だ。」
食器を片づけ、白羅は再び座に就く。
そして、胡坐を掻き頬杖を突く。
「して、我に聞きたいことがあるのだろう?申してみ」
「そうだな。本当は一重に聞きたかったが、お前でもいい。」
無田は白羅になったハクラの迫力に意外にも押されそうになり、少し口に詰まる。
だが、軽く息を整え他愛ない質問をする。
「ここ最近この辺に石像が多数、突然出現しているようだが、何か知らないか?」
「さぁな。ただ、ここ最近妙な魔力を持つ魔族がいることは分かる。我はお前かと思ったが、もう一匹別のどこかにいるようだの。」
「場所は分からないのか?」
白羅はムッとした顔で無田を見つめる。
「我に何を期待しておる。主人公とやらならば、己の力で探すのが”せおりー”というものではないのか?」
無田は溜息をつき、口を開く。
「恥ずかしい話だが、時間がかなりない。そのため協力をしてほしい。」
白羅も溜息をつき、胡坐から涅槃の体勢になる。
「それこそ、あっちで寝ている一重と一緒に探すのが”せおりー”であろう?我に頼ってもいいのか?」
「お前には今、「歪み」の要素が少ない。つまりまだ、役割は三枚目というわけだ。」
「だから、大魔族に頼る。か。それで本当は?」
「足手まといになる。それだけだ。」
「そうか。「一人で片づけたい」と」
「それはお前の勝手な想像だな。」
ハクラはゆっくりと立ち上がると帝京とは真逆の反対の方向、森や林の方向を指さす。
「あっちに強い魔力を感じる。」
「間違いないな?」
「我、大魔族ぞ?」
首を傾げ白羅は戸を開けると神社の林の方へと向かった。
無田はその後を追う。
「何だ?」
「聞きたいことがある。」
白羅は耳だけを貸し、続けろと無言で合図する。それを見た無田は話を続けた。
「お前は「歪み」に生まれ、いずれ一重(あいつ)と戦う事になる。」
白羅は少しうつむき、それでも耳を無田の方へと向ける。
「今、こんな事をしてあいつに情は湧かないか?」
白羅は無数の星を見上げ、一重との出会いから今日までの事を思い出す。
そして、潤んだ瞳を閉じ、一切容赦のない瞳を無田へと向ける。そして、こう言った。
「湧いてしまったかもな。でも、我も、もちろん一重も手加減はしないよ。絶対に。」
「なぜ…………?」
「なぜって、あいつが……一重が好きだからな。もし、死合うなら全力がいい。」
「好きだからか?」
「好きであり、嫌いでもある。」
ハクラはその言葉と共に、林の明るい緑へと消えていった。
無田は崖の淵にいることに気付く。そして、辺りが明るくなっている事に気付く。
「好きで嫌い、か。」
無田はハクラが指を差した方向を見る。
彼女との恋を。
あの日常を。
そして、お前への憎しみを。
布田 龍兎。
俺はお前を必ず…………
────────────
「それじゃ、あんたの事を聞かせてくれ。」
白い着物をだらしなく着崩した白髪の銀眼があぐらをかき、無田へ視線を送る。
それに続き、三毒の魔族と巫女の逆矛 一重が視線を送る。無田はその視線を受けて、少し考える。無田はこの世界の人間ではなく、神に仕える、神に使われる存在の「神使」なのだ。「神使」は本来、人に見られず気付かれないようにはびこる「歪み」の「修正」もしくは「抹消」しなければならない。そして、鉄則を思い出す。『その世界の主人公であっても記憶は消さなければならない』その鉄則だった。無駄な事を悩んだと肩の力を抜き、自分の全てを語る。なぜ、神の使いになったのか、何のために神の命や言いつけを守るのか。そのすべてを洗いざらい話した。黙って聞いていた三毒と一重、ハクラの四匹と一人は緊迫した表情になったり、涙ぐんだりところころと表情を変えた。そして、話し終わるころにはチ―、ジン、トンが無田の肩へ手を優しく置いた。
「頑張ったんだな…………」
「そうだね…………」
「辛かったろうに………おーいおいおいおい……」
「辞めてくれ。恥ずかしい。」
三毒は何かシンパシーを感じたのか、無田に仲間意識を向けている。
その三毒をどかし、無田は一重とハクラの方へと近寄る。
「面白い人間だの。」
「信じられないけど、あの魔族を一瞬で倒したから信じてあげる。」
一重はお茶を一口飲むと回数の多くなった瞬きを誤魔化すようにわざと横を向いたり無田とは目を合わせないようにしている。それに気付いたハクラは一重の後頭部に人差し指で軽く突くと一重はかくんと項垂れ、完全に眠ってしまった。その様子に三毒達は一重を担ぎ寝床へと運んだ。それを見送ったハクラは無田に向き直りながら、お茶で唇を湿らせる。
「毎日遅くまで頑張ってるんだ。今日はお前とも出会ったし、あの三バカ共の世話で疲れがピークに達したんだろうね。」
無田は何ら意味のない事をつらつらと喋るハクラをただ見つめるだけだった。そして、中身のない話を続けようとした喋りの腰を折るように口を開く。
「お前、白羅真黒羅だろ。」
話を止められ、そして、自身の正体の言及でハクラの口は止まる。
「なぜ、そう思った?」
「”何となく”……では、納得してくれないからな、説明してやる。」
「歪み」にも種類がある。
世界に必要な「歪み」物語における七枚目。実悪。つまり黒幕、ラスボスである。
この種の「歪み」は絶対的に必要な「歪み」である。この「歪み」がない世界は物語がないにも等しい。他にも、その世界での「不可解な現象」「不思議で」「不気味な」出来事もこれに該当する。これは話しだしたらキリがない。
では、世界に不要な「歪み」とは何か。これは簡単、外世界からきた「歪み」または「歪み」に等しい者である。これは現在無田が追っている魔族と無田自身に言える事だ。
そして、無田はその必要な「歪み」と対峙して悟った。目の前のこのハクラと言う少女の形をした魔族が「歪み」「七枚目」「実悪」であると。
「そうだ。と言ったら?」
「いや、俺は何もしない。いや、できないといった方が正確か。」
歪みを修正、抹消するのが「神使」の仕事だが、例外が鉄則外にある。
それはもちろん至極当然で、呼吸をするときに空気を肺に取り込み吐き出すような自然の節理の如き当たり前の事なのだ。
世界に必要な「歪み」をその世界の主人公が淘汰する必要があるからだ。
だから、外の世界の無田がそれをすることは絶対に許されない。
「難儀な奴だの。」
「あぁ、とても面倒だ。」
食器を片づけ、白羅は再び座に就く。
そして、胡坐を掻き頬杖を突く。
「して、我に聞きたいことがあるのだろう?申してみ」
「そうだな。本当は一重に聞きたかったが、お前でもいい。」
無田は白羅になったハクラの迫力に意外にも押されそうになり、少し口に詰まる。
だが、軽く息を整え他愛ない質問をする。
「ここ最近この辺に石像が多数、突然出現しているようだが、何か知らないか?」
「さぁな。ただ、ここ最近妙な魔力を持つ魔族がいることは分かる。我はお前かと思ったが、もう一匹別のどこかにいるようだの。」
「場所は分からないのか?」
白羅はムッとした顔で無田を見つめる。
「我に何を期待しておる。主人公とやらならば、己の力で探すのが”せおりー”というものではないのか?」
無田は溜息をつき、口を開く。
「恥ずかしい話だが、時間がかなりない。そのため協力をしてほしい。」
白羅も溜息をつき、胡坐から涅槃の体勢になる。
「それこそ、あっちで寝ている一重と一緒に探すのが”せおりー”であろう?我に頼ってもいいのか?」
「お前には今、「歪み」の要素が少ない。つまりまだ、役割は三枚目というわけだ。」
「だから、大魔族に頼る。か。それで本当は?」
「足手まといになる。それだけだ。」
「そうか。「一人で片づけたい」と」
「それはお前の勝手な想像だな。」
ハクラはゆっくりと立ち上がると帝京とは真逆の反対の方向、森や林の方向を指さす。
「あっちに強い魔力を感じる。」
「間違いないな?」
「我、大魔族ぞ?」
首を傾げ白羅は戸を開けると神社の林の方へと向かった。
無田はその後を追う。
「何だ?」
「聞きたいことがある。」
白羅は耳だけを貸し、続けろと無言で合図する。それを見た無田は話を続けた。
「お前は「歪み」に生まれ、いずれ一重(あいつ)と戦う事になる。」
白羅は少しうつむき、それでも耳を無田の方へと向ける。
「今、こんな事をしてあいつに情は湧かないか?」
白羅は無数の星を見上げ、一重との出会いから今日までの事を思い出す。
そして、潤んだ瞳を閉じ、一切容赦のない瞳を無田へと向ける。そして、こう言った。
「湧いてしまったかもな。でも、我も、もちろん一重も手加減はしないよ。絶対に。」
「なぜ…………?」
「なぜって、あいつが……一重が好きだからな。もし、死合うなら全力がいい。」
「好きだからか?」
「好きであり、嫌いでもある。」
ハクラはその言葉と共に、林の明るい緑へと消えていった。
無田は崖の淵にいることに気付く。そして、辺りが明るくなっている事に気付く。
「好きで嫌い、か。」
無田はハクラが指を差した方向を見る。
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