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色欲 終幕
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私はただ、それでも私でありたかった。
サキュバスとして落ちこぼれでも
魔族として劣っていても
それでも、私は私でありたかった。
子供と遊ぶのが好きだった。
周りはそれを異常と罵ったが、私はそれでもよかった。
それで、いいのだ。
「自分を召喚した主に殺される。」
生前も経験していた。
この体を呪う。
この生涯を呪う。
ただ、最後に言わせてほしい。
私のせいで死んでしまった者たち。
ごめんなさい。
────────────
「お前にその記憶は必要ないからな。」
その声と共に見知らぬ青年が私の視界を奪った。
暗くなったかと思うと、全身に血液が巡り始め身体が暖かくなっていき、そして目を覚ます。
私は自分の所有する小屋の茶の間で眠っていた。朝日が直接目に入らないように窓のカーテンは閉じており、その隙間からは穏やかな光が差している。
頭の中もだんだんと覚醒してきたが、それでもどこかにある違和感は抜けなかった。
山に入ってきた大学生たちを見送った後の記憶が曖昧だ。銃を撃った記憶もあるが、直接撃った記憶はない。ただ、でも、何発も引き金を弾いた記憶が”身体”に染みついているような気がした。
「何か、忘れている?」
ふと、記憶の整理をしようとカレンダーを見ると、6/8(日)の日付を差している。
時間が飛んでいる?などとありえないことを考えながら、朝食の準備を始める。
基本、金曜日、土曜日は一日中パトロールをして、日曜は午前中までパトロールをして、午後は家で過ごしている。ぼうっと朝食を食べながら、やはり違和感の抜けない頭の中を振り切るように、パトロールをして帰宅した。玄関へ入ると、目に飛び込んできたのは見知らぬサンダルだった。綺麗に整頓されていてボロボロではあるが、「綺麗に履きつぶしている」という印象が第一印象だった。初めて見るはずのそんなサンダルだが、どこかで一度見ているような気がした。違和感だらけの頭はそんなことを気にすることなく、祖父と顔を合わせようと居間へ足を運ぶ。戸を開くと、私と同い年、または少し上年齢の男性が祖父と話している。祖父は私に気づくと、手を軽く上げ、笑いかけてきた。
「お~、おかえり~」
「ただいま。」
ふと、男性の方を見ると視線がぶつかった。向こうは軽く会釈すると私も無言で会釈を返す。
そして、机に目をやるとお茶を用意してないことに気づき、私は慌ててお茶をの準備をしようと、台所へと向かった。
「おじいちゃん。お客さん来てるのにお茶準備してないの?」
「おう。場所がわからんくてな。すまん。」
溜息をつきつつも、お茶を淹れて男性とおじいちゃんの前に差し出す。
「おう、ありがと。そうだ!こちら遠い親戚のお孫さんのリュウト君だ。リュウト君。こちらは儂の孫の優菜だ。二人とも歳が近かったよな?」
「俺が、22歳で優菜ちゃんは確か16歳くらいじゃなかったっけ?」
「そうかい。意外と離れてんな~」
ひらひらと手を振るリュウトという男性と再び目が合う。どこか見覚えがある。
ぼうっとそう考えていると、顔を覗かれ心配している様子だった。
「大丈夫?」
「え?あ、ハイ。では、私はこれで。」
なぜか、気まずくなった私は自室へと早足で向かった。
ベッドに横になり、そして突然リュウトさんと似た人の顔を思い出す。
「そうだ。あの人に似ている。」
そして、ふいに頬を流れる暖かいものをなでた。
「……?フフ…私なんで泣いてるんだろう。」
その涙に少し、嬉しいような、悲しいような気持ちになった。
────────────
結果的に、式守優菜という少女からは俺と、その関連の記憶を消した。
いや、正確には”分離の能力で記憶を優菜から分離した”が正解だ。
何かの拍子に記憶は呼び戻されるが、俺が彼女の前に二度と現れなければその心配もない。
そもそも、神使の能力が人間に破られることは決してない。
神との制約上、かかわった人間の記憶は消すか、隠さないといけない。俺の場合は”消す”能力は持ち合わせていないので、”分離”して隠しているのだ。
もし、消し忘れや、隠し忘れはその世界の新たな「歪み」の発生源になる。
これを踏まえて、俺は人間にあまりかかわりを持とうとは絶対にしない。
しかし、今回は別だ。
彼女、式守優菜はこの世界においての主人公という位置にいたからである。
主人公は物語のかなめなので問題を解決し、成長しなければならない。
そのため、俺たちが助けるのは必然である。
ただ、ここにもネックな部分があり、記憶を消さなければ、主人公がシステム的に機能しなくなる。
期待、希望、甘え、これらの要素をこの式守優菜の物語からは消さなければならない。
彼女の成長のため、彼女が主人公を無事終わらせるため。
「なんか、悲しいな。」
潮風を受けながら、神代町を背にアイスクリームを口へ運び、冷たい息を吐いた。
水平線から生える入道雲がいつの間にかこの世界の夏を伝えてきた。
色欲の章 終幕
サキュバスとして落ちこぼれでも
魔族として劣っていても
それでも、私は私でありたかった。
子供と遊ぶのが好きだった。
周りはそれを異常と罵ったが、私はそれでもよかった。
それで、いいのだ。
「自分を召喚した主に殺される。」
生前も経験していた。
この体を呪う。
この生涯を呪う。
ただ、最後に言わせてほしい。
私のせいで死んでしまった者たち。
ごめんなさい。
────────────
「お前にその記憶は必要ないからな。」
その声と共に見知らぬ青年が私の視界を奪った。
暗くなったかと思うと、全身に血液が巡り始め身体が暖かくなっていき、そして目を覚ます。
私は自分の所有する小屋の茶の間で眠っていた。朝日が直接目に入らないように窓のカーテンは閉じており、その隙間からは穏やかな光が差している。
頭の中もだんだんと覚醒してきたが、それでもどこかにある違和感は抜けなかった。
山に入ってきた大学生たちを見送った後の記憶が曖昧だ。銃を撃った記憶もあるが、直接撃った記憶はない。ただ、でも、何発も引き金を弾いた記憶が”身体”に染みついているような気がした。
「何か、忘れている?」
ふと、記憶の整理をしようとカレンダーを見ると、6/8(日)の日付を差している。
時間が飛んでいる?などとありえないことを考えながら、朝食の準備を始める。
基本、金曜日、土曜日は一日中パトロールをして、日曜は午前中までパトロールをして、午後は家で過ごしている。ぼうっと朝食を食べながら、やはり違和感の抜けない頭の中を振り切るように、パトロールをして帰宅した。玄関へ入ると、目に飛び込んできたのは見知らぬサンダルだった。綺麗に整頓されていてボロボロではあるが、「綺麗に履きつぶしている」という印象が第一印象だった。初めて見るはずのそんなサンダルだが、どこかで一度見ているような気がした。違和感だらけの頭はそんなことを気にすることなく、祖父と顔を合わせようと居間へ足を運ぶ。戸を開くと、私と同い年、または少し上年齢の男性が祖父と話している。祖父は私に気づくと、手を軽く上げ、笑いかけてきた。
「お~、おかえり~」
「ただいま。」
ふと、男性の方を見ると視線がぶつかった。向こうは軽く会釈すると私も無言で会釈を返す。
そして、机に目をやるとお茶を用意してないことに気づき、私は慌ててお茶をの準備をしようと、台所へと向かった。
「おじいちゃん。お客さん来てるのにお茶準備してないの?」
「おう。場所がわからんくてな。すまん。」
溜息をつきつつも、お茶を淹れて男性とおじいちゃんの前に差し出す。
「おう、ありがと。そうだ!こちら遠い親戚のお孫さんのリュウト君だ。リュウト君。こちらは儂の孫の優菜だ。二人とも歳が近かったよな?」
「俺が、22歳で優菜ちゃんは確か16歳くらいじゃなかったっけ?」
「そうかい。意外と離れてんな~」
ひらひらと手を振るリュウトという男性と再び目が合う。どこか見覚えがある。
ぼうっとそう考えていると、顔を覗かれ心配している様子だった。
「大丈夫?」
「え?あ、ハイ。では、私はこれで。」
なぜか、気まずくなった私は自室へと早足で向かった。
ベッドに横になり、そして突然リュウトさんと似た人の顔を思い出す。
「そうだ。あの人に似ている。」
そして、ふいに頬を流れる暖かいものをなでた。
「……?フフ…私なんで泣いてるんだろう。」
その涙に少し、嬉しいような、悲しいような気持ちになった。
────────────
結果的に、式守優菜という少女からは俺と、その関連の記憶を消した。
いや、正確には”分離の能力で記憶を優菜から分離した”が正解だ。
何かの拍子に記憶は呼び戻されるが、俺が彼女の前に二度と現れなければその心配もない。
そもそも、神使の能力が人間に破られることは決してない。
神との制約上、かかわった人間の記憶は消すか、隠さないといけない。俺の場合は”消す”能力は持ち合わせていないので、”分離”して隠しているのだ。
もし、消し忘れや、隠し忘れはその世界の新たな「歪み」の発生源になる。
これを踏まえて、俺は人間にあまりかかわりを持とうとは絶対にしない。
しかし、今回は別だ。
彼女、式守優菜はこの世界においての主人公という位置にいたからである。
主人公は物語のかなめなので問題を解決し、成長しなければならない。
そのため、俺たちが助けるのは必然である。
ただ、ここにもネックな部分があり、記憶を消さなければ、主人公がシステム的に機能しなくなる。
期待、希望、甘え、これらの要素をこの式守優菜の物語からは消さなければならない。
彼女の成長のため、彼女が主人公を無事終わらせるため。
「なんか、悲しいな。」
潮風を受けながら、神代町を背にアイスクリームを口へ運び、冷たい息を吐いた。
水平線から生える入道雲がいつの間にかこの世界の夏を伝えてきた。
色欲の章 終幕
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