カタラレヌ・クロニクル

河鹿 虫圭

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色欲 2

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前回のあらすじ
クスィの能力に翻弄される二人。
だが、優菜の一瞬人間離れした集中力によって龍兎は攻撃するチャンスを得た。
だが、クスィもそう簡単にとらわれるほど弱くはなかった。
互いにピンチとチャンスを繰り返し、とうとう、クスィの動きを止めることに成功しようとしている。

────────────

幾度目かの乾いた一発の銃声。
その銃声と共にクスィの視界は真っ赤に染まる。
声も出す暇もなく、クスィの視界は天と地が逆さになり、体が半分も動かせないことに気づく。

「な…………!?」

後頭部から前頭葉にかけて一直線に打ち抜かれたクスィ。
血涙、鼻血、吐血をして醜く倒れたいた。
もちろん、優菜が今まで撃った弾丸ではこうはならない。龍兎が優菜に渡した二つの弾丸。
この弾丸は見た目は普通だが、中身は対物ライフル用の弾丸になっている。正確には、打ち出されるまでは普通の弾丸だが、物体に当たると対物用になるといった現実には絶対にありえない効果をもった弾丸である。龍兎の創造したオリジナルの弾丸。これは神の制約を破る行為てあることを知っていた龍兎は今回は仕方がないと割り切り、ありえない創造物を協力者へと渡したのだ。

布田龍兎、異能力の制約の一部を破る。(+1)

「ゆ…ウ…がっはぁ!!」

龍兎は優菜へ手を伸ばし、肩を貸すように口を動かす。
だが、龍兎の容態が心配な優菜はそんなことはお構いなしに龍兎に話しかける。

「りゅ、龍兎さん。今はあまりしゃべらないでください。」

胸部からのありえない大量出血に優菜は大粒の涙を流しながら、龍兎の体勢を仰向けにしてやる。
そんな出血を止めようと、優菜はバッグから包帯を取り出し、無駄な処置を始める。
龍兎はそんな優菜の手を跳ね除け、息を整えると右手を破裂した胸部へかざし能力を使った。

分離セパレート

傷部分が光ると、胸部の傷は跡形もなく消え去った。
ただ、それ以外の傷もひどいので、龍兎は優菜の肩を借りクスィのもとへ向かう。
クスィはうまく動かせない体を使い、地面を這いずろうと必死だった。
龍兎はクスィへ手えをると先ほどと同じ分離の能力を使った。
分離セパレートは龍兎の七つの能力の一つ。文字通り、分離を施す能力になる。
概念、物体、空間いろんなものを無限に分離できる能力だ。
そんな分離の能力で疑似的な回復をしたクスィは驚きの表情を龍兎へ向ける。

「なんで……」

「外傷、死亡での回収は絶対に却下だって上司に言われてんのよ。上司も言ってたけど、お前の牢を管理している奴からの頼みでもあるのよ。」

クスィは一瞬、誰のことだか分らなかったが、すぐに思い出す。
七つの大罪として独房へ放り込まれたとき、監視が幾度となく変わった。
理由は咎人であるクスィへの性的な暴力を幾度となく行ったため。
そんな中、ただ一人真摯に向き合ってくれた監視いた。その監視は今もクスィの監視委員をしており、つい最近、クスィが逃げるその時までクスィの話を聞いていた。
過去のこと、これからのこと、クスィが逃げ切るそのときも監視はクスィのことを心配していた。
クスィにとって一番優しく、暖かった監視である。
その監視のことを思い出すと、クスィの目には自然と涙が溜る。
龍兎は動けなくなったその様子を見ると、懐からカギを取り出し、ガチャリと回す。
何もない空間に扉が現れると、開く。

「ほれ。早く入りな。」

クスィは涙をぬぐうと一度足を動かすのを躊躇しながらも何か決心したようにその一歩を踏み入れようとした瞬間。何かが飛んできた。龍兎はクスィと優菜をかばうと土煙が高く舞う。
土煙が晴れると、黒いフードの男が立っている。中肉中背。男か女かわからないが、その低く隠れた声で男だと認識できた。

「色欲、お前。」

その声にクスィは一気に青ざめる。恐怖に染まった表情を浮かべ、龍兎のもとを離れて男に近づき、すぐにひれ伏す。龍兎は手を掴んだが、クスィは必死に振りほどき、男に頭を垂れた。そして、震えた声で懇願し始める。

「ご、ごめんなさい……チャ、チャンスを……こいつらから逃がしてくれたら、絶対にできるから……だから……だから、お願い………します。」


言葉虚しく、クスィは男に頭を鷲掴みにされ、そのままだんだんと足が地面から離れていく。その体格、身長から想像できないほどの怪力。そして、万力のようにゆっくりと力が入っていく。クスィはその激痛に次第に足をバタつかせ、眼球が飛び出るほど目を見開く。

「お、お願い………致します!!!」

苦しみながら懇願するクスィに対し、男は怒りからなのか口元には鋭い犬歯が見えていた。
そして、何か思いついたように力を緩める。

「…………?」

何が起こったのかクスィは男を見上げると、男の口は怒りでへの字口になっていることに気づく。

「そうだな……」

男は、クスィの肩を掴み耳元でささやく。

「貴様クラスの魔族になれば、魂は1万人分だったなぁ?」

さらに青ざめるクスィはさらに恐怖に染まった顔を男に向ける。

「な、何を考えて…………」

質問する暇もなく、クスィは一瞬にして、肉塊と化した。能力を使用したのか、はたまた、己の力のみでできたのは知らない、ただ目の前には色欲の魔族が男に肉塊にされたという事実だけが死体と共に転がっていた。破裂した身体からは無数の鮮やかな青い炎が螺旋状に空へと昇っていった。
その光景に龍兎は無表情になり、優菜は絶句する。
そして、立ち去ろうとする男に龍兎は呼び止める。

「待ちな。」

フードの男はめんどくさそうに龍兎の方へと向く。

「何だ?」

「お前、何者だ?」

男は何も答える気がないと態度で示すように無言で立ち去ろうとする。

「だんまりか?」

フードを深くかぶり直すと、男は再度立ち去ろうと踵を返す。

「待ちやがれ!」

龍兎は剣を創造し、男へ投擲する。
剣は男の頭部めがけて飛んでいくと男は剣へと手を伸ばす。
その真っすぐ飛んできた剣は男の手に巣込まれるように威力が緩み男はその剣を掴み、龍兎へと投げ返す。
龍兎は再び剣を掴むと男は目の前からすでに消えていた。

「何者だったんだ?」

疑問を口に出すも何も変わらない。ただ、いきなり、夕日の光が龍兎の目に入る。
クスィが死んだことで結界が解除されたのか、辺りの景色は優しい赤色に染まっていた。
夕日を見ながら、優菜はそこへ、へたり込む。

「つ、疲れた。」

一気に緊張がとけたせいで、優菜は龍兎が歩き出しても動けずにいた。

「大丈夫か?」

「あ、えぇ、すみません。」

手を伸ばされた優菜は龍兎の手を取ると優菜は意識を失った。

「お前にその記憶は必要ないからな。」

色欲の章 色欲 2
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