魔装戦士

河鹿 虫圭

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魔導書グリモアとは、大魔導師が後世に己の技術を残そうと考えて書いたものであり、本来はそこらにある本と変わらないはずだった。その本質を変えたのが”闇の大魔導師アレイスター=クロウリー”である。闇の魔導……世間で言われている黒魔術であるが、その黒魔術を駆使して”永遠の生”を望んだクロウリーは実験の一環として自分の意識、記憶を本に保存できないかと考え、それを実行した。結果は成功、無事自分の意識と知識が入った本ができたのだ……いや、そのせいで魔導書グリモアが誕生してしまったというのが正確だ。というのも、現行の全ての魔導書グリモアはクロウリーの原本をもとにした粗悪な模造品なのだ。

クロウリーは死んだあと、早速自分の書いた本に意識を移したが、それはもはや意味を成さなかった。クロウリー死後、オツムの足りない学者達がいろんな手段を使いクロウリーの家に侵入。そして、その遺品を無断で盗み自分の魔法、魔術の為に使っていた。その中で扱いが難しかったのが、魔導書グリモアである。魔力量が一定量に達していない状態で本を開けば、五感とそれ以外の感覚に作用して全てを破壊して本を開いた者を殺すのだ。そこで考えた当時の学者達は魔導書グリモアのページを一枚ちぎって分け合った。全、数千ページ近くの魔導書グリモアはバラバラにされ、そして、それをもとにコピーが多く作られ、粗悪品の魔導書グリモアが誕生したのだ。

粗悪品は原本よりもひどく、五感以外の感覚に作用し、クロウリーの使っていた魔術、魔法と言ったものではなく、本を開いて死んだ者達の憎悪、憤怒、悪意と言った呪いに近いものを流し込んでくる。そのせいで本を見た者は暴走し、周りのモノを破壊しつくす為に見境なく暴れまわる。これに加えて、粗悪品は操る人間を探すため自ら行動し気にった人間や魔族を魔法で操る。

────────────

文献を閉じると、彩虹寺 綾那の頭に疑問が現れる。

──それではなぜ、魔導書グリモアは晴山優吾の形見の石を執拗に狙っていたんだ?

彩虹寺はベッドで目を開かない晴山優吾の顔をジッと見つめる。本を近くの机に置き、再び優吾の顔を見つめる。

「君は、一体何者なのだ?」

いや、晴山優吾が何者かは分かっているが、それでも、彩虹寺は疑問が拭えなかった。そのまま数時間待っていると、優吾はゆっくりと瞼を開けた。

「晴山…!」

彩虹寺は思わず、優吾を抱きしめる。優吾は落ち着かせるように彩虹寺を引き離す。

「生きているから。やめろや……」

「す、すまない…思わず……」
「いや、いいよ…それよりも、琉聖さん達呼ばなくてもいいのか?」

彩虹寺はハッとすると星々達を呼びに病室を出ていった。その背中を見送った優吾は形見の石を首にかけようと探したが思いだした。

「そうだった…あの時…」

よぎる記憶。目の前で形見の石が粉々に砕かれる光景。うつむきながら待っていると星々、焔、夢希が彩虹寺を先頭に病室に入ってくる。真っ先に星々は優吾へ近寄ろうとしたが、それを押しのけて夢希が出てきて優吾へ平手打ちをする。

「ちょ、夢希ちゃん……」

「何を考えているんですか!?バカなんですか!?一般人が協力者になっただけで調子に乗らないでください!!」

優吾は何も言い返せずにそのままうつむく。夢希は言いたいことを言ったのかそのまま病室を出ていった。星々はそんな夢希の背中を追おうとしたが、焔に止められ焔はそのまま病室を出ていった。星々は改めて優吾へ向き直る。

「本当にすまなかった…あの場で真っ先に動くべきだったのは班長の僕の役目だった。」

「いいですよ……というか、どうやってあいつから逃げてきたんですか?」

星々は彩虹寺と顔を見合わせて眉をひそめる。そして、優吾はもう一つ気づく。病室の雰囲気がいつもと違う。星々は改めてあのあとどうなったか話し始める。優吾の石を破壊した玲央はそのまま町の方へ向かい破壊を始めた。銀色の使徒はその騒ぎに便乗してどこかへ消え、玲央を止められるのは実質魔法術対策機関だけとなり、星々はすぐに応援を呼び、優吾は本部の地下の病室へ入れられ、現在、町は二班が住民を避難させながら戦っている。三班は森林調査で帰ってくるのは丸一日かかるそうだ。

「ざっと、こんな感じだね……」

「俺が……俺の……」

「違うよ。優吾君。それは違う。君はその中で最善の行動ができていた。」

「それで、最悪な状況を生んだんだったら、意味ないでしょ!!!」

優吾は、瞳に涙を溜める。星々は、図星なのか、何も言い返せずただ黙る。沈黙のあと、星々の通信機に着信が入る。星々はすぐに通信に応じ状況を確認する。

「……はい……はい……わかりました…」

通信を切って、彩虹寺に目で合図する。二人はそのまま病室を出ようとする。去り際、星々は優吾へ声をかける。

「優吾君。何度も言うけど、君のせいじゃないからね。だから、あとは僕らに任せて。君は怪我を治すことだけを考えてね?」

優吾は、無言でうなずくと星々と彩虹寺は病室を後にして戦闘へ向かった。

「俺は……ッ!」

優吾は包帯が巻かれた拳を握る。その手のひらには爪が食い込み、血がにじんでいた。

────────────

満干中央。無差別に町を破壊しているLE央は、魔法術対策機関からの攻撃が止んだことに違和感を覚え辺りを警戒する。静まり返った町中は黒い煙の匂いと炎がはじける音、そして、降り注ぐ雨の音しか聞こえなくなった。数分の沈黙の後、玲Oは歩き始める。

「かかった……」

二班 班長 天々望てんてんぼう四夜華しよかは指を引き、ワイヤーでLE央をからめとる。身動きが取れなくなった玲Oはワイヤーを引きちぎろうとしたが、殺気に視線が周りへ向いた。

水の槍を構える二班 副班長 海辺 海斗。

海皇伸の槍シー・アロー!!」

魔術式を掻き終え、詠唱をし札を投げる二班 班員 台地 陸丸。

「大岩はそれを押しつぶす。漠大岩破サンドロック・ブレイク!!」

数メートル離れた位置でスコープを覗き、引き金を弾いた二班 班員 旋風寺 初風。

風の狙撃エアロ・スナイプ

初風の放った風の弾丸は海辺と陸丸の魔法、魔術がLE央に触れる前に先にLE央の目と鼻の先に到達する。だが、玲Oはその弾丸を最小限の動きで避け、その隙にワイヤーを引きちぎり、向かってきてる二人を腕一本で振り払う。二人が瓦礫へ衝突したのを確認すると、四夜華につながっているワイヤーを思い切り引っ張り四夜華を自分の目の前まで降ろし、そのまま蹴り飛ばす。そして、初風の方へ視線を向けると、大きな瓦礫を持ち上げ初風のいるビルの方へ投げてそのビルを破壊する。初風は足場がなくなったビルから飛び降り足を骨折する。LE央は動かなくなった二班を見渡し再び歩き出す。二班の位置から数キロ離れると第一班が横一列に並んで玲Oの行く手を阻んだ。

「皆、行こうか……」

星々の低くうなるような声に一班の三人は静かに頷き、各ポジションに着いた。

手を地面につける焔。

影縛りシャドーチェーン:」

焔から伸びた影がLE央に巻き付く。焔の「点火イグニッション」の掛け声でその影は一気に燃える。燃えている最中に次は、夢希が玲Oの心臓目掛けて引き金を弾く。

氷造形クラフトS&Wスミスアンドウェッソン……」

氷の弾丸は玲Oの心臓へ接近する。LE央は先ほどと同じような対応をしようとしたが、弾丸は急に速度を上げてその胸に命中する。だが、弾丸は鎧に弾かれる。玲Oは誰が弾丸を加速させたのか辺りを見るが、誰もいない。

「よそ見をするな……三光トリプルフレアボール!!」

彩虹寺の七色に輝く炎球はLE央の後頭部へ見事命中する。そのまま前へ押される形となった玲Oは目線を彩虹寺へ向けて闇の魔力が凝縮された球を手のひらから打ち出そうとしたが、その手は何かに弾かれる。

蠍の槍スコルピオン……さて、僕にかまけていたら、綾那ちゃんから目線が外れれるぞ?」

LE央はハッと彩虹寺の方を見上げるが、彩虹寺はすでに魔法の準備を終えていた。

「これで終わらせる……七光スペクトルインフェルノ!!」

七色に光った黒い炎はLE央へ迫る。大爆発すると第一班は距離を取り観察する。すると、炎は全て玲Oを中心に渦巻き、吸収されていった。

「優吾君と同じこともできるのか……」

目が赤く光ったLE央は一班の目の前まで一瞬で移動し、星々以外の三人を目で追うことが不可能な速さで吹き飛ばす。残った星々は手を構えると、反応が早かった玲Oが星々の腕をつかみ、骨を握りつぶす。

「あ”っ!!」

そのまま投げられ宙を舞う星々。地面が近づき魔法で相殺しようと手を構えて時、誰かが、走ってきて星々を受け止める。その姿は、病院着を着た晴山優吾だった。優吾と星々はそのまま地面へ落ち、優吾は背中を強打する。

「優吾君……なぜここに……!」

優吾は無言で、立ち上がり星々に微笑みかけた。そのままLE央の前まで歩く。玲Oはそんな優吾の様子に首を傾げ、魔法を打つ準備をする。

「やめろ。無茶だ!!」

「俺だって……戦う……何もできなくても……俺は…戦士だから……」

いつものように胸を握り、そして拳を固める。玲Oはそんな優吾をゴミでも見るかのような目で少ない動作で裏拳をする。優吾はそのまま吹き飛ぶが、ボロボロの体をたたき起こし足を引きづってでもLE央へしがみつく。玲Oはそんな優吾に膝打ちをして優吾の体が一瞬宙へ浮かぶとその反動を生かしそのまま投げ捨てる。玲Oは転がった優吾が動かなくなったのを見ると再び星々へ近づく。

────────────

驕り高ぶっていたんだ。俺は、今まで石のおかげで生きていたのに。調子に乗って戦いなど挑まなければ、こんなことには……俺のせいで……俺が弱いせいで……

『力が欲しいか?』

石はなくなったはずなのに、声が聞こえてきた。

『力が欲しいかと聞いているのだ。』

それより、あんたは何者だ?

『我が名は、アレイスター・クロウリー。黒魔術を生業としている者だ。』

なんの用だ。

『貴様に、この、粗悪品を倒す力をやろう。』

できるのか?石はないぞ?

『石……?あぁ……ロゼたちが作っていたあの石か……我は参加していなかったな……まぁ、そんなことは良いのだ……我は目の前の粗悪品を通して貴様に話している。粗悪品から、我の本の原本を手に入れられれば、貴様の持っていた石の力に匹敵…あるいはそれ以上の力が手に入る。』

どうすればいい?

『簡単だ、先ほど、そこに転がっている小娘が撃った弾丸が当たった箇所が丁度印になっている。そこに手を伸ばせ。あとは我がどうにかする……』

なるほど、分かった……

『そうだ……伝え忘れる前に伝えておこう……力が手に入ったとて貴様がそれに耐えられる保証はないそれでも良いか?』

背に腹は代えられねぇ……なにより……もう足手まといは懲りごりだ。

『よし、いい心意気だ……さぁ、来い!』

俺は、笑っている膝を叩き、頬も叩き気合を入れる。そして、痛む体を引きづりながら足を速めていく。腕の折れた琉聖さんは手を構え魔法の準備をするが、俺はそこへ飛び込んでいった。

「優吾君!!!」

琉聖さんの声が聞こえるが、そんな声は無視して俺は、黒い鎧へしがみつく。黒い鎧は俺のことなど気にも留めずそのまま琉聖さんを掴もうと腕を伸ばし始める。俺はその間も鎧に着いた弾丸の痕を探す。胸、胸、胸……そして、見つけた。鎧についている弾丸の白い跡。俺はそこに手を触れる。

「おら、見つけたぞ!!あとは!!どうすりゃいい!!!」

『でかした。我の今持てる力を絞り出す。そのままそこに触れていろ……』

クロウリーは何か詠唱を唱え始める。英語のようだが、聞きなじみのない英語の詠唱だ。
玲Oが琉聖さんへ手を伸ばし、首を掴む。

「優吾君!!離れろ!!」

その手には力が入っているように見えた。

「おい、早くしろ!!」

『何を言うか、もう終わっておる。ほら、手を見ろ。』

俺は鎧に触れていた手に目をむける。その手には、A4サイズの紙切れが一枚あった。ボロボロで年季の入った紙切れ。

『さぁ……思い浮かべろ。自身が戦っている姿を!!そして、力を求めよ!!』

「俺は……俺が思い浮かべるのは……」

持っていた紙切れが黒く燃え始める。そのまま俺は振り落とされると、彩虹寺たちのところへ転がる。

「晴山!!」

俺は、手のひらに持っているものを見てそれを天に掲げた。

「魔装!!!!!」

黒い空へ掲げられた鈍く黒く光る石。俺の声と共に黒い鉄の塊が周りに現れる。その魔力に反応したのか、黒い鎧はこちらへ目を向ける。そして琉聖さんを放しこちらへ近づく。

「優吾君!!」

俺はそのまま鉄の塊と共に走り始める。

鉄の塊が体へ突き刺さる。その鉄の塊はやがて鎧の形を形成する。鎧を形成し終わり俺は魔装を完了した。

魔装戦士マガ=べラトル……魔装完了All Set!!!」

───────────

彩虹寺の目の前に現れたのは、黒い狼の戦士だった。唖然としていると、我に返り気を失っている夢希と焔を抱え、星々のもとへ移動する。腕の骨が折れた星々は目を見開き、優吾を見つめていた。

「あれは…一体……」

「こちらへ飛んできた晴山の手には黒く鈍く光る石が見えました。」

「じゃあ、あれは」

二人の目の前では、黒い鎧がぶつかり合っている。狼の形の鎧を纏った晴山優吾、獅子の形の鎧を纏った獅子王玲央。互いに拳をぶつける。だが、優吾の動きは今までよりも早く、拳も今までよりも固く強くなっている様子だった。優吾は、LE央の攻撃を避けながら攻撃を仕掛ける。そのまま玲Oを吹き飛ばすと、相手に攻撃をさせないようにさらに連続で攻撃を仕掛ける。

「これ、なんか、力があふれてくる。」

『小僧。そろそろ、時間だ。魔装を解除しろ。』

「は?なんで?あと少し倒せそうなんだぞ?」

『今の我の黒魔術ではこの魔力量を押さえつけるのは無理だ……これ以上は力が暴走するぞ……!』

「暴走……?」

その言葉を聞いた瞬間だった。優吾の視界がぼやけ始める。攻撃を途中で止め、眩暈と戦う。

『小僧。さっさとこの鎧を解除しろ…………もう無理か…………』

優吾の視界はブラックアウトした。吹き飛ばされた玲Oは瓦礫から立ち上がるとボーっと立っている優吾へ目を向ける。

「コワス ワタシ ガ ホンモノ」

ここへきて初めて口を開いた玲Oはすでに何者かに人格を乗っ取られていた。LE央はそのまま優吾へ近づき、

一瞬で心臓へ風穴を空けた。

玲Oは何が起こったのかわからずに、貫かれた箇所に目を向ける。穴から大量に血が流れるが、LE央は優吾への攻撃をやめない。優吾も玲Oの攻撃を見極め最小限の動きで避ける。そして、的確に玲Oの体の大事な部分へ風穴を空けていく。その光景を見ていた星々は目を見開き、彩虹寺の肩をかり立ち上がる。

「班長?」

「優吾君…………いや、あの優吾君が纏った黒い鎧を止めないと……玲央君が死んじゃう。」

彩虹寺は最初何を言っているかわからず、星々の目線を追う。そこにいたのは、返り血を浴びながら、的確に目の前の相手に対処する優吾の姿だった。優吾らしからぬ無機質な戦い方。彩虹寺はそんな優吾の姿に悪寒を覚え、急いで星々と共に優吾のもとへ行く。

────────────

どうなっている?

目の前では、的確に相手の急所を貫き対処している俺の手が見えていた。

「何が起こっている?」

『時間切れで、貴様の体が我が魔力に耐えられず暴走しているのだ。』

「暴走って…」

『元々、この原本は我以外に適応しないようになっている。粗悪品は死んでも戦い続けるが、我の場合は使っている魔力を解除すれば戻るようになっているのに………小僧、貴様ときたら……』

「どうすればいい!」

『どうもこうも、外からの解除以外はない。』

「そんな……」

『はぁ、これは外にいる奴らに祈るしかないな…』

俺は、ただ目の前の光景を見る事しかできなかった。

38:了
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