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美船 葵のライブ当日。
本日の天気、曇りで今にも雨が降りだしそうな色の空。満干にある大きめのドームに蛇の様に並ぶドルヲタ共は今か今かと美船 葵のライブを楽しみにしている。そして、約一時間が経つ頃、入場の合図と共にドルヲタ共はスタッフに入場券を渡し入場して行く。
ライブなどは普通、一斉に入場するはずだが昨年度、あまりにも興奮したファンがドミノ倒しになってしまい大事故が起こってしまったため今年からチケットに同封されている整理券をスタッフに見せて順番に進むという方式にしたのだ。ドルヲタの蛇がだんだんと短くなっていき総勢一万人がドームへと入っていく。
「ぼ、ボクの、葵ちゃん……」
黒のキャップを深くかぶった男は無理やり口角を上げて列へと戻っていった……
舞台裏──────
二班の面々は部隊スタッフに扮し各々見回りをしていた。
「こちら、はんちょ~異常なし~」
『こちら海辺、異常はないです。』
『こ、こちら、せ、旋風寺…こちらも異常は、な、ないです……』
『こちら、台地。こっちも異常はねぇ……』
そして、それぞれ通信を切ると台地は頭をひねる。
「結局、魔族はあのあと、今日まで何も仕掛けて来なかったな…」
ライブが始まる……
────────────
時を同じくして、晴山優吾の自宅。
朝から頭痛がひどく、汗も滝のように流れている。頭の中に流れてくる映像も鮮明になっており五感も共有されている。ドームで盛り上がる観客の上に振ってくる屋根とはっきりと伝わってくる頭がつぶれる感覚。その感覚や感情までもが伝わってくる。起き抜けに嗚咽を伴ったみぞおちの苦しみでトイレへ駆け込み、恐怖を汗と流すようにシャワーを浴びる。
それでも拭えない感覚を押し殺すように朝食の準備をする。その音に気付いたのか、彩虹寺が起きてくる。
「おはよう……」
「顔色が悪いな…体調不良か?」
優吾はいつもの如く誤魔化しながら彩虹寺のぶんのベーコンと目玉焼きを彩虹寺の前へ出す。彩虹寺は誤魔化されていると思いながらも朝食の準備を手伝う。朝食を済ませたあと、優吾は胃薬を飲み自室へと戻ろうとする、
「おい、晴山。体調は……」
「あぁ……大丈夫だ。」
優吾は自室へ入りベッドに入り込む。そして、ひたすらに頭の中の映像を忘れるように目を瞑った。
「治まれ……治まれ……治まれ……」
縮こまる優吾の側に人影が現れる。
「なに躊躇してんだ?」
いつものように頭の中に響く声ではなく、すぐそこにいる声。優吾は声の正体を見ようと勢いよく布団をどける。そこには白髪に片目を隠した緋色の瞳の少年がいた。優吾は思わず魔装をしようと石を握るが、少年はその手を止める。
「やめとけ。」
「お前は、誰だ…」
浮世離れした雰囲気の少年に優吾の視線が突き刺さる。少年は優吾の手に触れたまま口を開く。
「そんなことより、今日の惨事が起こる前にもう、ドームに向かった方がいいんじゃないか?」
「そんなことできたら苦労しねぇ……俺に誓約があるんだ。それを破ったら、これを没収される。」
優吾の言葉に少年は、優吾の手を離し歩く、そして優吾の部屋の窓を開ける。窓が勢いよく開けられるとカーテンが尾ひれのように揺れ外の黒い空を見え隠れさせる。窓を開けた少年はその縁に手をかける。
「これから、戦えなくなるのを取るか、それとも目の前で大勢が死ぬのを取るか…主人公には、もう選択肢がない…大勢のために戦え…たとえ、これから戦えなるとしても…」
そのまま少年は縁に腰を掛け、そして、落下する。優吾は慌ててその手を掴もうと駆け寄ったがそこには少年の影も形もなくなっていた。
「今のは誰だったんだ…?」
疑問に思いながらも優吾は窓の外をみる。今にも降りだしそうな厚い黒い雲が空を覆い、町は重々しい雰囲気になっている。その空を見ながら、優吾は深呼吸をする。そのまま石を握り、魔装した。それと同時に、彩虹寺が部屋へと入ってきた。彩虹寺は胃薬と水の入ったコップを盆にのせていたが、優吾を止めようと魔法を打つ構えに移る。
「今すぐ、魔装を解除しろ。そうしないと撃つ。」
優吾は無言で視線を窓の外へ移す。彩虹寺は優吾が外へ飛び出そうとするそぶりを見せたので魔法を打ち出す。
「二光…アクアボール!!」
青色、藍色の重なった水の弾が優吾の背後に襲い掛かるが、優吾はその魔法を胸で受け止める。
「吸収……」
水の弾は優吾の鎧の中心に溶けて吸収されると青く光る。そのまま優吾は窓の縁に手足をかけ思い切り跳躍する。彩虹寺は優吾の後を追うように優吾の家を飛び出すが、優吾はすでに住宅街の屋根に飛び乗りそのまま町へと向かっていた。彩虹寺は必死に優吾を目で追いながら走るが、その距離をだんだんと話される。さらに彩虹寺の行く手を阻むように雨が降ってきた。彩虹寺は上を見ながら走っていたので地面の小石に気づかずにつまずいてしまう。肩で息をする彩虹寺の身に弱々しく雨粒が落ち始める。彩虹寺はフラフラと立ち上がると第一班みんなへ通信を入れた。
「こちら、彩虹寺…監視対象が静止を振り切り戦場へ赴いた模様…」
『了解。方角はどこに?』
「あの方向はドームです。美船 葵のライブをしているドームの方向です……」
『了解。僕らはすぐに向かう。彩虹寺ちゃんもすぐに向かって!』
彩虹寺は通信を切るとそのまま、手をぶらりと力なく降ろす。
「晴山……なぜ……君は……」
涙か、雨粒かその一粒は彩虹寺の頬を滴っていった。
────────────
満干ドーム周辺の林──────
手枷をつけられた白鳴はサソリ男に連れられ歩いていた。そして、その枷を外し耳元でささやかれる。
「ここに君の親友がいる……君の望みを叶えるチャンスだ。」
「嫌だ!私はもう、葵の前に出られない…!」
サソリ男は注射器を取り出し、白鳴の首元へ撃ち込む。注射器の中身を撃ち込まれた白鳴は震え始め、そのままうずくまる。そしてその姿を魚魔族へ変える。
「ほら、行きなさい…あなたの友達も、ここにいる人々も皆、仲間にしましょう。」
嫌だ嫌だという白鳴は頭を地面に打ち付け抵抗するが、注射器の中身のせいなのかその声はだんだんと醜いうめき声へと変わっていく。
「ヴヴッ……!」
「おっと…量を間違えたみたいですね…まぁ…いいでしょう……行きなさい。」
魚魔族はサソリ男と目を合わせて首をかしげる。サソリ男はため息をつくと魚魔族へ背中を向けてそのまま消える。
「ヴヴッ?」
魚魔族はドームを見つめるとその記憶に葵の顔が思い浮かぶ。
「あ”…あ”お”い”?」
そうつぶやくとドームへとその歩みを進める。数分もしないうちにドームの前へ着くと魚魔族は首を傾げたりしてさらに近づく。その魚魔族の前に人影が降ってくる。そこには鎧を纏った勇吾がいた。
「行かせない……」
「ヴヴッ!!」
魚魔族は優吾の顔を見ると嫌悪の顔で牙をむき出しにする。雨粒が一つ、その間に落ちると、二人の戦いも開演した。
18:了
本日の天気、曇りで今にも雨が降りだしそうな色の空。満干にある大きめのドームに蛇の様に並ぶドルヲタ共は今か今かと美船 葵のライブを楽しみにしている。そして、約一時間が経つ頃、入場の合図と共にドルヲタ共はスタッフに入場券を渡し入場して行く。
ライブなどは普通、一斉に入場するはずだが昨年度、あまりにも興奮したファンがドミノ倒しになってしまい大事故が起こってしまったため今年からチケットに同封されている整理券をスタッフに見せて順番に進むという方式にしたのだ。ドルヲタの蛇がだんだんと短くなっていき総勢一万人がドームへと入っていく。
「ぼ、ボクの、葵ちゃん……」
黒のキャップを深くかぶった男は無理やり口角を上げて列へと戻っていった……
舞台裏──────
二班の面々は部隊スタッフに扮し各々見回りをしていた。
「こちら、はんちょ~異常なし~」
『こちら海辺、異常はないです。』
『こ、こちら、せ、旋風寺…こちらも異常は、な、ないです……』
『こちら、台地。こっちも異常はねぇ……』
そして、それぞれ通信を切ると台地は頭をひねる。
「結局、魔族はあのあと、今日まで何も仕掛けて来なかったな…」
ライブが始まる……
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時を同じくして、晴山優吾の自宅。
朝から頭痛がひどく、汗も滝のように流れている。頭の中に流れてくる映像も鮮明になっており五感も共有されている。ドームで盛り上がる観客の上に振ってくる屋根とはっきりと伝わってくる頭がつぶれる感覚。その感覚や感情までもが伝わってくる。起き抜けに嗚咽を伴ったみぞおちの苦しみでトイレへ駆け込み、恐怖を汗と流すようにシャワーを浴びる。
それでも拭えない感覚を押し殺すように朝食の準備をする。その音に気付いたのか、彩虹寺が起きてくる。
「おはよう……」
「顔色が悪いな…体調不良か?」
優吾はいつもの如く誤魔化しながら彩虹寺のぶんのベーコンと目玉焼きを彩虹寺の前へ出す。彩虹寺は誤魔化されていると思いながらも朝食の準備を手伝う。朝食を済ませたあと、優吾は胃薬を飲み自室へと戻ろうとする、
「おい、晴山。体調は……」
「あぁ……大丈夫だ。」
優吾は自室へ入りベッドに入り込む。そして、ひたすらに頭の中の映像を忘れるように目を瞑った。
「治まれ……治まれ……治まれ……」
縮こまる優吾の側に人影が現れる。
「なに躊躇してんだ?」
いつものように頭の中に響く声ではなく、すぐそこにいる声。優吾は声の正体を見ようと勢いよく布団をどける。そこには白髪に片目を隠した緋色の瞳の少年がいた。優吾は思わず魔装をしようと石を握るが、少年はその手を止める。
「やめとけ。」
「お前は、誰だ…」
浮世離れした雰囲気の少年に優吾の視線が突き刺さる。少年は優吾の手に触れたまま口を開く。
「そんなことより、今日の惨事が起こる前にもう、ドームに向かった方がいいんじゃないか?」
「そんなことできたら苦労しねぇ……俺に誓約があるんだ。それを破ったら、これを没収される。」
優吾の言葉に少年は、優吾の手を離し歩く、そして優吾の部屋の窓を開ける。窓が勢いよく開けられるとカーテンが尾ひれのように揺れ外の黒い空を見え隠れさせる。窓を開けた少年はその縁に手をかける。
「これから、戦えなくなるのを取るか、それとも目の前で大勢が死ぬのを取るか…主人公には、もう選択肢がない…大勢のために戦え…たとえ、これから戦えなるとしても…」
そのまま少年は縁に腰を掛け、そして、落下する。優吾は慌ててその手を掴もうと駆け寄ったがそこには少年の影も形もなくなっていた。
「今のは誰だったんだ…?」
疑問に思いながらも優吾は窓の外をみる。今にも降りだしそうな厚い黒い雲が空を覆い、町は重々しい雰囲気になっている。その空を見ながら、優吾は深呼吸をする。そのまま石を握り、魔装した。それと同時に、彩虹寺が部屋へと入ってきた。彩虹寺は胃薬と水の入ったコップを盆にのせていたが、優吾を止めようと魔法を打つ構えに移る。
「今すぐ、魔装を解除しろ。そうしないと撃つ。」
優吾は無言で視線を窓の外へ移す。彩虹寺は優吾が外へ飛び出そうとするそぶりを見せたので魔法を打ち出す。
「二光…アクアボール!!」
青色、藍色の重なった水の弾が優吾の背後に襲い掛かるが、優吾はその魔法を胸で受け止める。
「吸収……」
水の弾は優吾の鎧の中心に溶けて吸収されると青く光る。そのまま優吾は窓の縁に手足をかけ思い切り跳躍する。彩虹寺は優吾の後を追うように優吾の家を飛び出すが、優吾はすでに住宅街の屋根に飛び乗りそのまま町へと向かっていた。彩虹寺は必死に優吾を目で追いながら走るが、その距離をだんだんと話される。さらに彩虹寺の行く手を阻むように雨が降ってきた。彩虹寺は上を見ながら走っていたので地面の小石に気づかずにつまずいてしまう。肩で息をする彩虹寺の身に弱々しく雨粒が落ち始める。彩虹寺はフラフラと立ち上がると第一班みんなへ通信を入れた。
「こちら、彩虹寺…監視対象が静止を振り切り戦場へ赴いた模様…」
『了解。方角はどこに?』
「あの方向はドームです。美船 葵のライブをしているドームの方向です……」
『了解。僕らはすぐに向かう。彩虹寺ちゃんもすぐに向かって!』
彩虹寺は通信を切るとそのまま、手をぶらりと力なく降ろす。
「晴山……なぜ……君は……」
涙か、雨粒かその一粒は彩虹寺の頬を滴っていった。
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満干ドーム周辺の林──────
手枷をつけられた白鳴はサソリ男に連れられ歩いていた。そして、その枷を外し耳元でささやかれる。
「ここに君の親友がいる……君の望みを叶えるチャンスだ。」
「嫌だ!私はもう、葵の前に出られない…!」
サソリ男は注射器を取り出し、白鳴の首元へ撃ち込む。注射器の中身を撃ち込まれた白鳴は震え始め、そのままうずくまる。そしてその姿を魚魔族へ変える。
「ほら、行きなさい…あなたの友達も、ここにいる人々も皆、仲間にしましょう。」
嫌だ嫌だという白鳴は頭を地面に打ち付け抵抗するが、注射器の中身のせいなのかその声はだんだんと醜いうめき声へと変わっていく。
「ヴヴッ……!」
「おっと…量を間違えたみたいですね…まぁ…いいでしょう……行きなさい。」
魚魔族はサソリ男と目を合わせて首をかしげる。サソリ男はため息をつくと魚魔族へ背中を向けてそのまま消える。
「ヴヴッ?」
魚魔族はドームを見つめるとその記憶に葵の顔が思い浮かぶ。
「あ”…あ”お”い”?」
そうつぶやくとドームへとその歩みを進める。数分もしないうちにドームの前へ着くと魚魔族は首を傾げたりしてさらに近づく。その魚魔族の前に人影が降ってくる。そこには鎧を纏った勇吾がいた。
「行かせない……」
「ヴヴッ!!」
魚魔族は優吾の顔を見ると嫌悪の顔で牙をむき出しにする。雨粒が一つ、その間に落ちると、二人の戦いも開演した。
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