魔装戦士

河鹿 虫圭

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7:監視

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体が重い。比喩ではなく、本当に何か重たい塊が体全体に乗っかっているように重い。指先を動かすと、体全体に血液が循環し始める。それに伴い、体全体が暖かくなって、言いえぬ痛みで目が覚める。痛みとともに起き上がったのだが、そのせいでまた体全体に鈍痛がいきわたる。

「あいたっ……」

白いシーツに薬品の匂い。そして、見たことのある景色の窓に俺の体には患者衣が着せられている。点滴に右手に包帯。それだけなら、まだ「あぁ…昨夜の戦闘の後に俺は倒れて運ばれたんだなぁ」と理解できるが、カレンダーを見て驚愕する。戦闘から一週間も経っているのだ。俺は急いであの戦闘の後どうなったかを聞くために病室を出ようとベッドの縁に手をかけた直後、声が聞こえた。

「晴山さん目が覚めたんですね!」

声の方へ振り返ると、女性の看護師さんが目を見開きながらも冷静に俺を見つめていた。

「は、はい…何とか……」

俺が言葉を返すと、看護師さんは俺の体を触診して何も異常が見られないと分かると急いで病室を飛び出した。

「先生ぇ!!!晴山さん目が覚めましたよ!!!」

廊下からでも分かるような大声に俺は呆気に取られながらもおとなしく病室で先生を待った。数分後、慌てた様子の白衣の女性と、第一班の皆が病室へと入ってきた。

「わ、ホントだ。目覚めてる。」

白衣の女性はそう言うと看護師さんと同じように触診して異常がないことを確認する。俺は筋肉痛がひどいとだけ伝えると「異常なしだね!」と笑顔でカルテに異常なしの判を押された。

「さて、異常なしなので明日にでも帰宅でいいかな。」

「はい、そうしてくれるとありがたいです。」

「んじゃ、明日にでも帰れるようにしておくね……さて、私はそろそろ戻ろうかな……後ろの人達がそわそわしてるからね。」

女医さんはそう言って看護師を連れて病室をあとにした。そして、始まる尋問タイム。まずは星々さんが椅子に座りながら、質問する。

「さて、となぜ、あの日石を使って戦っていたね?」

「はい。」

「僕は君には有り余る力だと言ったよね?」

「はい。」

そして、星々さんは俺と目を合わせると、静かにうなずく。そして、当時の事情聴取を始める。俺は事細かに当時覚えている範囲の記憶を淡々と話していく。石の声、そして、未来視のようなもの、蜘蛛男のとの会話、その全てを星々さんに話した。

「……優吾くんのところではそういう風に見えていたんだね……よし、それじゃ、これで事情聴取は終わりだね。それじゃ、僕は報告書に付け足してくるよ。」

星々さんはそういって病室を出ていった。そして、次は女子三人による尋問……拷問タイムになるかもしれん。病室に入ってきた時に真っ先に怒りの表情をしていたのは、女医と看護師を覗く三人の女子だった。うち二人は恐らく呆れも入っているだろう。
黒髪のロングヘアとショートヘアのボーイッシュが近づいてくる。黒髪ロングは俺に詰め寄ると冷たい視線で言葉をかける。

「あなた、死にたいんですか……?」

その視線は体温が一気に下がるほどに冷たかった。

「す、すみません……でした……」

「あなた、今回は魔族と鉢合わせずに安全にあの鎧を纏えたようですが、あなた自身に戦闘能力がないことは忘れてないですよね?あんな無茶は……というか、今後、我々の任務中に我々の前に現れないでください。」

冷ややかにとういうと、ボーイッシュを連れて黒髪ロングは病室を後にした。そして、三人目、俺の同級生、彩虹寺 彩那だ。彩虹寺は俺に詰め寄り、無言で見つめる。数分見つめ合った俺と彩虹寺は彩虹寺が椅子に座ることで話が進んだ。

「君は……誰も心配していないと思っているのか?」

そんなわけない。そんなことない。話してて、第一班は毛嫌いしている奴が約二名ほどいるが心配していなかったらあんな言葉は言わないだろうし、星々さんもそうだ、あんなに心配そうな顔はしない。以前の俺なら恐らくいないと答えてそのままふてくされていたかもしれないが、今は違う。こんなにも、涙を流して俺のことを心配してくれている人が目の前にいるのだ。だからこそ、今、この言葉を自然に心から言える。

「ごめん。」

彩虹寺はその言葉を聞くと、俺の手を勢いよく握る。力の籠る手と涙の熱で手は暖かくなる。

「悪かったと思っている。でも、俺はお前に死んでほしくなかったんだよ……」

彩虹寺の手にさらに力が入る。そして、数分病室には彩虹寺のすすり泣く声が響く。そして、落ち着いたのか、顔を上げて赤く腫らした目を俺に向ける。

「な、何だよ……も、もういいだろ?謝ったし……さ」

そういうが、なおも腫らした目を俺に向ける。

「わ、分かったよ、これからは戦わない。これでいいか?」

「そうじゃない……」

「は?」

何を言っているんだ、この子は。謝ったよな、俺。何が足りないんだ?肩を抱いた方がいいのか?でも、それは恋人にすることだろう?いや、もっと別の何か儀式的なものが必要なのか?そう思っていると、彩虹寺は話始める。

「これは、許すとか、許さないとかのやつじゃない。私は……いや、やっぱりなんでもない。」

そういうと手を離し、椅子から立ち上がる。彩虹寺はそのまま無言で病室を出ると俺は何か取り残されたような気分になった。

「結局、何が言いたかったんだ?」

そのまま今日は過ぎ、あっという間に俺はいつもの日常へ戻された。と思っていたのに……

──────学校──────

久々の学校で俺はいつも通り、教室には居場所がないので、そこらへんでぶらぶらするかと考えていると、廊下の真ん中で仁王立ちする彩虹寺が見えた。周りは生徒も歩いているので普通に奇異な目で見られている。俺と目を合わせるや否や、無言で迫ってくる。俺は気おされてそのまま後ろにのけぞりそうになるのをこらえる。彩虹寺はそんなのお構いなしに胸ぐらをつかみ、俺の顔を引き寄せる。

「な、ななんだよ……」

「お前の監視係になった。だから、こっちに来い。」

「は?」

訳の分からないことを言うと、俺は教室へ連れて行かれる。俺の席に無理やり座らされると彩虹寺はノートを取り出し、机に叩きつける。

「どう、これ、なん、なんだよこれ。」

「私のノートだ。自分のノートに書き写せ。」

「いや、いやいやいや、待て待て待て。百歩譲って、監視役するのはいいけどよ。これは監視役というより、教育係では?」

「何を言っている。テストで赤点取って補修しているときには監視の目を離れるだろ?これは私が君を監視しやすくするための工夫だ。いいから、ノートを写せ。」

そして、俺は言われるがまま彩虹寺のノートを写す。10分の休み時間、この間に俺は屋上に不正に入り今日を満喫するはずだったのに……休み時間残り僅か彩虹寺は大量のノートをしまい、次の授業の準備を始める。

「今回はこれまで、次の休み時間も写してもらう。」

「はいはい、んじゃ、俺はこれにて……」

席を立とうとしたその時、彩虹寺が殺気に満ちた目を向ける。その視線に背筋が凍り俺は席に座り直す。

「すんません。」

「授業の準備をしないと席から立ってはいけないというルールにしよう。」

「お、おま、お前、もしかしてこれからずっとこんな感じか?」

「あぁ、監視命令が終わるまでな。」

教室で盗み聞きしていた女子は小声でキャーなどと言って盛り上がっており、男子はどこか背中がすすけた奴が増えた。いや、叫びたいのは俺の方だし、残念がってるやつは俺の状況を知らんからそんな態度ができるんだよ。と言いたかったが、立場が立場なので俺はため息をつく。

「俺の、学校生活……」

「どのみち、このままだと2年に上がれないだろう?私が手伝ってやる。」

「いや、結構なんだが、俺は俺でやるし。」

「だから、監視役を任されたからそれは無理だ。」

俺は先ほどから監視役という言葉が気になっているのだが、それは学校に言われたのかそれとも機関に言われたのかはもう、この際、探るのはめんどくさいのでやめることにした。そして、授業開始の鐘が鳴る数分前、彩虹寺は俺の隣の男子に何か話している。そして、話し終わると彩虹寺がもともといた場所にその男子が移動する。

「はぁ?お前、それは違うだろ。」

「安心しろ、担任にも許可は取っている。これで、私の監視がしやすくなる。」

「あぁ……俺の学校生活……」
うなだれると、授業開始の鐘が鳴った。そして、今日は教室に入ってくる教科担任全員が目を見開き、驚きながら入ってくる。まぁ、今まで授業をバックれてたやつがいるとそりゃ驚くよな。そして、彩虹寺。授業中はさすがに授業に集中しているかと思いきや、俺の手元を見て、分からない問題やことを勝手に横からしゃべってくるのだ。それでも先生に注意される前に辞めて授業に取り掛かる。そして、意を決して寝ようとすると、雷魔法で首筋に弱めの電気を流してきやがるのだ。そして、この調子で昼休みに突入する。

──────昼休み──────

購買部でパンを買って俺は周りに彩虹寺がいないことを確認する。辺りをキョロキョロしながら、俺はそそくさと屋上へと登った。ここまで彩虹寺がいないことに違和感を覚えつつも屋上のドアへと手をかけて勢いよく開ける。だが、そこには仁王立ちで待ち構えていた彩虹寺がいた。

「げぇ……」

「やっぱりここか…」

「なんで、ここが!?」

「君の行きそうな場所など把握済みだ。さ、教室で私と食べるぞ。」

手を引かれて、連れて行かれそうになるのを俺は跳ね除け、大声で言い放つ。

「お、お前、俺のこと好きなのかよ!!!昼飯くらいは一緒じゃなくてもいいだろが!!」

俺の言葉に驚いたのか、動揺したのか、彩虹寺は目を見開き、俺を凝視する。そのまま固まってしまい、手の力が抜けているのを確認すると、俺は彩虹寺をそのままにして屋上を後にした。

♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥

私が、こいつのことを好き?

鼓膜に残った残響で脳の信号がさらに早くなる感じた。

いや、そもそも、こいつの監視任務を機関から言い渡されたのは、同じ学校だからであって、そして、私はその監視役を任務で仕方なく受けたのであって私はこいつ、晴山 優吾のことが好きなどとそんなわけないだろう!

そう言おうとまとまった思考で目の前にいたはずの晴山優吾へ向けようとしたときには件の人物はもう私の目の前から消えていた。

「しまった……!」

私は急いで晴山の後を追うために階段を降りる。そして、独自リサーチの情報をあてに校舎裏へと向かったが、どこにも姿が見えない。もしや、また石の力でどこかに魔族が出ていたのかと、心配になりつつ教室へ入ると、晴山優吾の姿が見えた。自分の席でばつが悪そうにパンをほおばっている。

「どういう風の吹き回しだ?」

私がお茶を渡しながら座ると、晴山はまたもばつが悪そうにそっぽを向きながら答えた。

「お前の監視がやりやすい方がいいって思ってよ……」

なんだ、いきなりそう思っていると、加えて謝罪してきた。

「あと、さっきの、俺のことす、好きなのかとか言ってごめん、お前にも好きな奴くらいいるよな。デリカシーがなかったわ……」

「そ、それは……いや、そんなことはどうでもいいんだ、君が危ないことを一週間でもしなければ、監視は終わるからそれまでの辛抱だ。我慢してくれ……」

「おう、分かった。んじゃ、昼飯も教室で食うことにする。」

やけに素直な返事に私は少し疑いながらも昼食をとることにした。

♥♥♥♥♥♥♥放課後♥♥♥♥♥♥♥♥

最後の授業とHRを終え、俺はさっさと学校を出ようと思い、靴に履き替える。玄関でも彩虹寺は待ち構えており、俺が逃げないように警戒している。

「いや、もう、逃げねぇよ、あと家に帰るだけだし。」

「そうか……」

そういうと、彩虹寺は警戒を解き、自転車を持った俺の隣を歩く。まぁ、別に家を教えてもこいつはいたずらしないだろうし、別にいいか……俺はそのまま家に向かった。長い坂を上って家に着くと彩虹寺は無言で帰ろうとしていた。

「ちょっと、待て。」

「な、なんだ。」

なんで警戒してんだよ。まぁいいや。

「飯、食ってく?」

「いや。失礼だろうし、私はこれで」

「いや、親は二人ともいないから俺が作る。入れよ。」

「それなら…」

そういって、彩虹寺は玄関に足を踏み入れた。そして、リビングへ案内して、俺はキッチンに立つ。

「本当に君が作るんだな。」

「あぁ…」

「ご両親は何時に帰ってくるんだ?ぜひ、挨拶がしたいんだが…」

「帰ってこないよ…もうどっちもいないからな…」

空気が固まる。

「すまない。デリケートな問題だったんだな。」

「いや、中一の時にはもう一人だったからさ。最初は洗濯も飯作るのも、掃除もゴミ出しも大変だったけどよ。もう、二年もやってればなれたもんだよ。」

「だから、家に上げてくれたのか。」

「いや、父さんも母さんも多分同じことしてたと思うからさ…ほら、これ、食べてくれ。」

皿に乗った生姜焼きを手渡すと彩虹寺はそれを受け取り、他のご飯と味噌汁を運び夕飯を食べる。

「……おいしい。」

「だろ?中二んときに家庭科で先生から教わったんだよ。」

あらかた食事が終わると彩虹寺に片づけを手伝ってもらい、数分ゆっくりしてもらうことにした。

「ほら、紅茶…でいいか?」

「あぁ、何から何までありがとう。」

「いや、紅茶淹れただけだ。俺も久しぶりに人を家に上げてちょっとテンション上がってんだろうな。」

「……そうか。」

ゆったりとした時間が流れ、午後6時の校内チャイムが鳴ると彩虹寺は帰り支度を始める。

「おう、ありがとうな。」

「いや、私の方だ。ありがとう。また、食べに来てもいいか?」

「あぁ、いいぜ。」

彩虹寺はそのまま礼をすると門をくぐって帰路に帰っていった。
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