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本章
帝国 城内にて 2
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次はと廊下を走りだし突き当りの大部屋の扉を叩く、軍の執務室であった、長身の騎士に招き入れられるとボアルネ筆頭将軍とカミュ将軍が談笑していた、騎士に用向きを伝えようと口を開いた瞬間ボアルネの大声がガネスを襲う、
「どうした、ガネス、何事だ?」
室内を震わせる濁声にガネスはビクリと反応し、騎士は困った顔でボアルネを見てからガネスにどうぞと道を開けた、
「こちらの内容を吟味して頂きたく」
ガネスは将軍二人の元へ歩み寄ると巻物を差し出す、カミュ将軍が受け取り机に広げると二人の将軍は揃って書面を確認する、小さな書類を覗き込む大柄な上に武装した将軍の姿は何とも可愛らしく見えてしまう。
「布告文か、もはや定型文ですなぁ」
カミュ将軍は辛辣な感想を言う、
「大いに結構、何も問題は無い」
ボアルネ筆頭将軍の感想は簡潔である、
「であれば、宜しいかと、何事も根回しが重要でありますから」
ガネスはそう言って笑顔を見せる、まぁ座れとボアルネ筆頭将軍は目の前の椅子を顎で差した、カミュ将軍は書類に視線を落したままである、ガネスは言われるまま椅子を曳いて腰掛けた、
「西の情報は聞いているか?」
ボアルネ筆頭将軍は唐突に切り出す、
「西と言いますと、辺境大要塞ですかそれともスフォルツァ伯領?」
「どちらもですよ、今朝のあれは何だったんです?」
カミュ将軍の冷たい目がガネスに向けられた、
「まったくよ、あれが皇帝暗殺の刺客であったらどうしていたのだ」
ボアルネは一際険しい目である、
「そう言われましても、私は調整役でしかないですよ、伯爵家の封蝋である事は確認しましたし、その使者が直接お渡しするようにと言って来ればあぁならざるをえませんです」
ガネスは冷や汗をかきながらしどろもどろに弁明する、
「だからといって越権行為である事は咎めなかったのですか?」
「申し訳ないのですが朝議はあくまで朝議、実はあの会議は公的な物ではないのです」
「というと」
カミュ将軍の目がさらに細く鋭くなる、
「陛下が開催を指示されたのはもう何年も前ですが、その際のお考えとして公的な場では話せない事を語らう場として設定されております、実際に朝食を頂きながらのざっくばらんな会談が本来の趣旨でして、政に関わる者とその代理となるとあの場では断れないのですよ」
「だからといって、陛下へ直接談判等と」
「申し訳ないですが、陛下へ伝えたければ街中で出来ますでしょう、今も日課の散歩中ですよ昼過ぎ迄戻らないのではないですか」
ガネスの何とも頼りない発言に二人の将軍は黙るしかなかった、
「まして、陛下を傷つける事のできる者がこの世にいるとはとても思えません」
この意見にも二人は困ったような顔になる、至極真っ当な見解であった、
「まぁ、そのとおりだな、いや、済まない」
カミュ将軍は書類を丸めガネスに手渡す、
「今朝の件は何とも収まりが悪くてな、秘書官もそう思わんか?」
「・・・確かに、お二人がそう感じられるのであればそうなのでしょう」
「コロー親子に確認の報を入れようと思っていてな」
コロー親子とはスフォルツァ伯領の西、魔族との国境にあるキオ辺境大要塞に駐屯するケクラン軍団と第三セドラン軍団の軍団長である、魔族軍の侵攻は現在は落ち着いてはいるがいつ侵攻を開始するか不明であり、また小競り合いは日常であった、その為2個軍団を駐屯させ、さらにスフォルツァ伯軍が支援する形で防備を固めている。
「定期報告には何と?」
ガネス秘書官は怪訝そうに問うた、
「定期報告に遅れは無いし異常は無い、スフォルツァ伯との関係も良好と思われる、・・・が」
カミュ将軍は言葉を区切った、
「やはり一度顔を見に行くか、久しぶりに大コローと呑みたいしな」
ボアルネ筆頭将軍はそう言って腰を上げる、
「北方はどうされます?」
「貴様とギレムに任せる、蜥蜴とは本気でやり合ってみたいしな、まぁこの夏くらいは耐えてくれるだろう、辺境大要塞を視察してからでも間に合うだろうさ」
「では、将軍がいらっしゃる前にかたを付けましょう」
「言ってくれる、そうでなくてはな」
ボアルネ筆頭将軍は大口を開いて笑った、
「さらに西と砂漠の方の情報は無いのか」
カミュ将軍は思い出したようにガネスに問うた、
「・・・特には、事務官レベルでの情報ではどちらも平穏・・・は言い過ぎですね、小さな騒乱はある様子ですがこちらにまで問題が波及する段階ではないようです」
カミュ将軍はそうかと短く答え沈思する、ボアルネ筆頭将軍はその後ろ頭を睨みつつ側仕えの騎士から長剣を受け取ると腰に下げた、
「いつもの胸騒ぎか?」
「そうですね、事が起こる時は複数の事案が同時に発生するものです、あらゆる方向へ意識を向ける必要があるかと思いますが」
カミュ将軍は振り返ってそう言った、
「そうだな、どう思う秘書官、我が軍の事務総長は心配性だ、貴様もそう思わんか」
「いや、何とも・・・しかし将軍、その心配性に何度も救われたのでは無いですか?」
ガネスが楽しそうにそう言うと、
「はっ、これは言われてしまったわ、口では勝てんよ貴様らには」
ボアルネ筆頭将軍は破顔した、
「では、お二人共に御納得頂けたという事で宜しいですか?」
ガネスは巻物に目を移す、二人は同意を示した、
「ありがとうございます、こちらをアーチ語とエルフ語にて作成した上で布告の際には事務官により読み上げる必要があると考えます、カミュ将軍、その点の段取りをお願いしたいと考えますが」
「心得た、エルフ語の達者な事務官を選定しておこう、蜥蜴語を操れる者がいれば尚良しだが、私の記憶する限り・・・いないな、うん」
「用向きは済んだか?俺達はこれから国防軍の視察だ、秘書官も同行するか?面白そうだぞ」
ボアルネ筆頭将軍はソワソワと楽しそうである、
「・・・いえ、私は、お手間を取らせました、失礼致します」
ガネス秘書官はそそくさと席を立ち扉へ向かうと、
「カミュ、早く支度せい」
ボアルネ筆頭将軍の怒声が響き、宥めるような弱弱しいカミュ将軍の声がそれに続いた。
「どうした、ガネス、何事だ?」
室内を震わせる濁声にガネスはビクリと反応し、騎士は困った顔でボアルネを見てからガネスにどうぞと道を開けた、
「こちらの内容を吟味して頂きたく」
ガネスは将軍二人の元へ歩み寄ると巻物を差し出す、カミュ将軍が受け取り机に広げると二人の将軍は揃って書面を確認する、小さな書類を覗き込む大柄な上に武装した将軍の姿は何とも可愛らしく見えてしまう。
「布告文か、もはや定型文ですなぁ」
カミュ将軍は辛辣な感想を言う、
「大いに結構、何も問題は無い」
ボアルネ筆頭将軍の感想は簡潔である、
「であれば、宜しいかと、何事も根回しが重要でありますから」
ガネスはそう言って笑顔を見せる、まぁ座れとボアルネ筆頭将軍は目の前の椅子を顎で差した、カミュ将軍は書類に視線を落したままである、ガネスは言われるまま椅子を曳いて腰掛けた、
「西の情報は聞いているか?」
ボアルネ筆頭将軍は唐突に切り出す、
「西と言いますと、辺境大要塞ですかそれともスフォルツァ伯領?」
「どちらもですよ、今朝のあれは何だったんです?」
カミュ将軍の冷たい目がガネスに向けられた、
「まったくよ、あれが皇帝暗殺の刺客であったらどうしていたのだ」
ボアルネは一際険しい目である、
「そう言われましても、私は調整役でしかないですよ、伯爵家の封蝋である事は確認しましたし、その使者が直接お渡しするようにと言って来ればあぁならざるをえませんです」
ガネスは冷や汗をかきながらしどろもどろに弁明する、
「だからといって越権行為である事は咎めなかったのですか?」
「申し訳ないのですが朝議はあくまで朝議、実はあの会議は公的な物ではないのです」
「というと」
カミュ将軍の目がさらに細く鋭くなる、
「陛下が開催を指示されたのはもう何年も前ですが、その際のお考えとして公的な場では話せない事を語らう場として設定されております、実際に朝食を頂きながらのざっくばらんな会談が本来の趣旨でして、政に関わる者とその代理となるとあの場では断れないのですよ」
「だからといって、陛下へ直接談判等と」
「申し訳ないですが、陛下へ伝えたければ街中で出来ますでしょう、今も日課の散歩中ですよ昼過ぎ迄戻らないのではないですか」
ガネスの何とも頼りない発言に二人の将軍は黙るしかなかった、
「まして、陛下を傷つける事のできる者がこの世にいるとはとても思えません」
この意見にも二人は困ったような顔になる、至極真っ当な見解であった、
「まぁ、そのとおりだな、いや、済まない」
カミュ将軍は書類を丸めガネスに手渡す、
「今朝の件は何とも収まりが悪くてな、秘書官もそう思わんか?」
「・・・確かに、お二人がそう感じられるのであればそうなのでしょう」
「コロー親子に確認の報を入れようと思っていてな」
コロー親子とはスフォルツァ伯領の西、魔族との国境にあるキオ辺境大要塞に駐屯するケクラン軍団と第三セドラン軍団の軍団長である、魔族軍の侵攻は現在は落ち着いてはいるがいつ侵攻を開始するか不明であり、また小競り合いは日常であった、その為2個軍団を駐屯させ、さらにスフォルツァ伯軍が支援する形で防備を固めている。
「定期報告には何と?」
ガネス秘書官は怪訝そうに問うた、
「定期報告に遅れは無いし異常は無い、スフォルツァ伯との関係も良好と思われる、・・・が」
カミュ将軍は言葉を区切った、
「やはり一度顔を見に行くか、久しぶりに大コローと呑みたいしな」
ボアルネ筆頭将軍はそう言って腰を上げる、
「北方はどうされます?」
「貴様とギレムに任せる、蜥蜴とは本気でやり合ってみたいしな、まぁこの夏くらいは耐えてくれるだろう、辺境大要塞を視察してからでも間に合うだろうさ」
「では、将軍がいらっしゃる前にかたを付けましょう」
「言ってくれる、そうでなくてはな」
ボアルネ筆頭将軍は大口を開いて笑った、
「さらに西と砂漠の方の情報は無いのか」
カミュ将軍は思い出したようにガネスに問うた、
「・・・特には、事務官レベルでの情報ではどちらも平穏・・・は言い過ぎですね、小さな騒乱はある様子ですがこちらにまで問題が波及する段階ではないようです」
カミュ将軍はそうかと短く答え沈思する、ボアルネ筆頭将軍はその後ろ頭を睨みつつ側仕えの騎士から長剣を受け取ると腰に下げた、
「いつもの胸騒ぎか?」
「そうですね、事が起こる時は複数の事案が同時に発生するものです、あらゆる方向へ意識を向ける必要があるかと思いますが」
カミュ将軍は振り返ってそう言った、
「そうだな、どう思う秘書官、我が軍の事務総長は心配性だ、貴様もそう思わんか」
「いや、何とも・・・しかし将軍、その心配性に何度も救われたのでは無いですか?」
ガネスが楽しそうにそう言うと、
「はっ、これは言われてしまったわ、口では勝てんよ貴様らには」
ボアルネ筆頭将軍は破顔した、
「では、お二人共に御納得頂けたという事で宜しいですか?」
ガネスは巻物に目を移す、二人は同意を示した、
「ありがとうございます、こちらをアーチ語とエルフ語にて作成した上で布告の際には事務官により読み上げる必要があると考えます、カミュ将軍、その点の段取りをお願いしたいと考えますが」
「心得た、エルフ語の達者な事務官を選定しておこう、蜥蜴語を操れる者がいれば尚良しだが、私の記憶する限り・・・いないな、うん」
「用向きは済んだか?俺達はこれから国防軍の視察だ、秘書官も同行するか?面白そうだぞ」
ボアルネ筆頭将軍はソワソワと楽しそうである、
「・・・いえ、私は、お手間を取らせました、失礼致します」
ガネス秘書官はそそくさと席を立ち扉へ向かうと、
「カミュ、早く支度せい」
ボアルネ筆頭将軍の怒声が響き、宥めるような弱弱しいカミュ将軍の声がそれに続いた。
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