セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&

文字の大きさ
上 下
59 / 62
本章

帝国 城内にて 1

しおりを挟む
城内を一人の老人がパタパタと走っている、その姿とその仕草は城内では見慣れたものであった、擦れ違う士官や騎士達は日常の事と微笑ましくその背中を見送り、訪問客は何事かと腰を上げた、正装の高位にある老人が慌ただしく走る様を見れば彼を知らない人間は驚くのも無理は無い、老人は法務大臣の執務室の前で一度立ち止まると息を整え扉を叩いた、すぐに法務大臣の秘書官が扉を開き老人を招き入れる、

「法務長官は居られるか?」
老人は秘書官にこの部屋の主の所在を問う、

「ガネス秘書官、城内はお静かにと御注進致しましたでしょう」
奥からカリエール法務大臣がのそりと姿を現す、その声は厳めしくも柔らかくガネス秘書官を窘めた、

「確かにお言葉は謹んで拝領致しておりますよ」
ガネス秘書官もまた口元に柔らかい笑みを浮かべた、

「息せき切っていらっしゃる程の御用件でしょうな?」

「意地の悪いおっしゃりようで、この文章の確認をお願いしたいと思いまして」
ガネス秘書官は手にした巻物を開いて見せる、

「なるほど、ではこちらへ」
カリエール法務大臣は応接室へガネス秘書官を誘い着席した、机の上に巻物を広げるとその内容を吟味し始める、

「布告文としては充分かと思いますが、私の所に来たという事は法的な確認という事ですな」

「はい、前例を踏襲した内容ではありますが、一応の確認をと思いまして」
巻物は宣戦布告文であった、朝議において開戦の期日が決定した為それに先立ち降伏勧告とその条件を含めた布告文となる、対象はグアニア族である、ケイネス族・レオパルディ族の中心部族は制圧が完了し多くの奴隷を得た、本年からグアニア族の制圧を開始し、最終的にはエルフの国、西パドメを陥落し北方平定の宿願は成就するのである。

「布告対象が不明瞭ですね」

「確かに、あの国は我々で言えば長老議会が中心である様子でして、その首魁を対象にと探りをいれたのですが不明であります、もしかしたら、存在しないのかも、ですので対象は長老議会員全員とその国家に対してとしてあります」

「条件はあの土地の返還・・・、まぁいつもの難癖・・・いや、失礼この部分には口出し無用ですな」
カリエール法務大臣は眉根を寄せ口をつぐんだ、暫く書面を凝視すると顔を上げる、
「私の立場からは修正する点は無いかと思います、しかし」
再び黙り込む、眉間には深い皺が刻まれていた、

「しかし?」
ガネス秘書官は先を促す、カリーエル法務大臣とは教会時代からの長い付き合いであった、もう数十年、妻との付き合いよりも長く、思考の方向性もある程度推測できる程の仲である、

「・・・この土地の返還は、いつ見ても何とも飲み込めない」

「そうですか?」
ガネス秘書官は書面に視線を落す、

「戯言と笑ってくれて良いし、私が思慮する点ではないのだがね、・・・救世主教会臭くてね」
カリエール法務大臣はそう言って溜息を吐いた、

「まぁ、確かに」
カリエール法務大臣もガネス秘書官も元は救世主教会の教会側の人間であった、現皇帝が即位し教会改革を推し進める際に反救世主教会として皇帝側に組し、現在の聖母教会の成立に共に尽力した人間である、

「これも私が言ってはいけないのだが、救世主教会独特の覇権主義的な教義を良しとしていなからこその聖母教会の慈愛主義があると思うのだが、聖母を旗印として他国を攻めるのは、まして土地を俎上に乗せるとなると・・・」

「・・・言わんとしている所は理解できますが、この布告文は皇帝の名で出されるものです、聖母教会は関係せず、さらに聖母は旗印ではありますが象徴に過ぎない」

「分かっているよ」
カリエール法務大臣は短く答える、

「私だって元教会の人間です、あの頃のように教会が先頭に立って戦争に向かう状況では無いのがせめてもの救い、教会のみを見れば我々の求める教会になっていますし、戦争は国が若しくは民族が主導するべきであるという点では歩調は一つになると考えますが」
ガネス秘書官は自身に語るように訥々と言葉を重ねた、

「分かっているよ」
同じ答えが返って来る、カリエール法務大臣は書面を改めて読み直し丸めるとガネス秘書官へ渡した、
「助言があるとすれば何語で送るかだな、蜥蜴共は字を持たないだろう?」

「えぇ、ですので帝国語とアーチ語それとエルフ語で送ります、合わせて軍の事務官に読み上げさせるのが適当かと」

「その3種の言語で碑文でも作るか、新しい街の中心に蜥蜴征伐記念として、気が早いかな」
口元だけで笑いを見せた、

「それも面白いですね」
ガネス秘書官はニコリと笑い、では、と短く言って退出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

とある会社の秘密の研修

廣瀬純一
SF
男女の性別を入れ替えて研修を行う会社の話

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

処理中です...