セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

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逃避行 漁村とオーガ 10

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「原着、慣性制御、着陸致します」
流れる景色を愉しむ間も無くキーツは現場に到着し街道の中央部にその姿を表した、周囲には人影は無くやや離れた場所に巨大な傷だらけの生物とその周囲を囲む複数人を見止めた、キーツはジュウシから降り警棒を構えるとゆっくりと集団へ近付いて行った、近付くにつれ獣の威嚇音が不愉快に鳴り響きその声に隠れる様に若者達の悲鳴とも罵声ともとれる叫び声が認識できた。

現場は凄惨な状況であった、一体の巨大な生物に五人の若者が対峙しており、やや離れた林の側に血みどろになった野人と獣人と思われる肢体が転がっている、オーガと呼ばれるその巨大な生物の左手には野人が握られておりその手足には力が無くだらしなく垂れさがっていた。
オーガはオークよりも畏怖される存在である事は一目で理解できた、オークよりも巨大な体躯は筋骨隆々として陽の光を受け赤銅色に輝き、大木を思わせる四肢は長く太い、頭部には3本の角が生え厳めしい顔は野人のそれに似通っているが知性の代わりに凶暴性のみを増した面相をしている、武器は持っていない、手にした獣人を振り回し新たに現れたチンピラ達を牽制している。
幸運な点はオーガは既に手負いであった事である、先に倒れた警備兵と獣人によって身体の各所に傷を負い背中には数本の矢が刺さったままであった。

対してチンピラ達は実に腰の抜けた様相であった、キーツの見立てでは首領格であろう二人がオーガから最も遠い場所に位置し、手下の三人がそれぞれの武器を構えオークの前に立っているが完全にオークの意気に飲まれ手足を震わせ泣き顔であった。

キーツは状況を確認し、どう対応すべきかを決定した、生きている者と戦う者を助ける、単純で良い。分かり易いのが一番だ、そう決心し二度大きく息を吸い、両足と下腹に力を籠めると、オーガを圧倒する雄叫びを上げた、場を圧倒する声量と地を轟かす振動にオーガは威嚇音を止め若者達は仰天し背後を振り返る、

「・・・あっ、あんた」
キーツに近い首領格の一人が呆気にとられた顔でそれだけを言葉にする、

「戦うぞ、いいか」
キーツは続けざまに叫んだ、若者達は呆然とキーツを見ていたがその言葉の意味を理解しあらためてオーガに向かう、

「戦うぞ、いいか」
さらにキーツは叫ぶ、しかし返答は無い、

「気概で負けるな、返事が無い、戦うぞ、いいか」
さらに叫んだ、前衛の三人から囁くような声が聞こえる、

「聞こえん、戦うぞ、いいか」

「は、はい」
やっと返答がある、女将の息子の声であった、

「聞こえん、もう一度、戦うぞ、いいか」

「はい」
前衛の三人から聞こえる程度の返答がある、

「足りん、腹から声を出せ、敵を圧しろ、戦うぞ、いいか」
キーツはさらに叫ぶ、

「はい」
やっと気迫の乗った声が響いた、

「足りん、もう一度、戦うぞ、いいか」

「はい」
キーツには及ばないまでも気迫の一歩先、圧が感じられる声量となる、

「足りん、相手を殺す意を籠めろ、殺意を見せろ、強者であると胸を張れ、叩き潰す気概を見せろ、いくぞ、戦うぞ、いいか」

「はい」
三人の声は見事に雄叫びとなりオーガを圧した、彼等の震えは収まり四肢に力が漲ってくる、逆に首領格の二人は完全にその場に呑まれあわあわとキーツとオーガそれと前衛の三人をキョロキョロと見比べるだけになってしまう。

「指揮を取る、弓持ち五歩下がれ、剣持ちオーガの向かって右側を牽制、近付きすぎるな注意を向けさせろ、斧持ちオーガの足を狙え」
キーツは指示を飛ばしつつ戦場に踏み込んでいく、三人は指示に従いその立ち位置を変えた、

「お前ら二人はいらん」
キーツは役に立たないと踏んだ二人の顔面を警棒で殴りつける、突然の暴力に二人はなすすべもなくそのまま意識を失い後方へ倒れ伏した、キーツはそのままずかずかとオーガへ近寄っていく、

「弓持ち、矢は何本だ?」

「15です」

「10迄好きに撃って良い、目を狙え」

「はい」
実に明瞭な返答がある、

「剣持ち、牽制を続けろ、斧持ち突っ込むぞ足を狙え、俺は腕だ獣人を助ける」

「はい」
返答を待たずにキーツは走り込む、

「レベル10、麻痺、距離0」
警棒のダイヤルを確認する、

完全に意を呑まれたオーガは左側へ注意を取られていた、キーツは走り込みつつ跳躍し向かって左腕の肘関節部を狙って警棒を打ち下ろす、鈍い音が響きオーガは声に鳴らない叫び声を上げ打たれた右腕を抱え込んだ、捕らわれた獣人が投げ出される、

「斧持ち、いまだ、足へ叩き込め」

「おうさ」
大きく振り被った斧の一撃が足の甲に突き刺さった、キーツは獣人を助け起こしつつオーガの背後へ走り抜ける、オーガは足への衝撃に雄叫びを上げ蹲った、斧はオーガに突き刺さったまま突き刺した若者は転がるようにオーガの腕を搔い潜る、

「斧持ち、逃げろ、弓持ち目を狙え」
キーツは振り向きざま指示を飛ばしつつ獣人の身を草原に横たえた、まだ息はあるが消耗が激しい様子であった、

「待っていろ、助けるからな」
キーツはテインの言葉で優しく話しかける、獣人は辛うじて頷いて見せた、キーツは足元に転がる長剣を掴むと武器を無くした若者へ投げ渡す、
「これを使え」

「はい」
大きく気の籠った返答である、

「もう一本の腕を狙う、剣持ち二人は牽制」
キーツは警棒を構え直しオーガの残った腕を目掛けて走り込んだ、しかしオーガも頑健である、ゆらりと立ち上がると残った腕を大きく振り回し外敵から距離を取ると大きく咆哮した、大気を震わせるその振動は四人の足を止めるのに充分なものであり、さすがのキーツも内蔵からこみ上げる恐怖を感じてしまう、戦闘に慣れていない若者達はすっかりその覇気を挫かれたようであった、

「すげぇ、確かにオークとは違うな」
キーツはニヤリと笑う、出来ればオークの首を若者達に取らせてやりたいと考えていたが無理はしない方が良いかなと考え始める、

「おっさん、指示をくれ」
弱気になっていたキーツに向かって女将の息子が声を掛ける、

「そうだ、どうする」

「まだ10本はあります、どうしますか」
若者はそれぞれにやる気のようであった、そのやや甲高い声を受けキーツは苦笑いを浮かべた、

「よし、やるぞ、剣持ち二人とも動かない腕を狙え、動く方を俺が叩く」
了解の意を待たずにキーツは走り出しオーガの大きく振り被った左腕の真下に入り込む、

「おっさん、あぶねぇぞ」

「知ってるよ」
キーツはそう言ってオーガの一撃を紙一重で躱すと、その一撃により舞い上がった土埃の中から再び肘関節を狙った一撃を叩き込んだ、オーガは再び言葉にならない呻き声を上げる、今度は両腕をだらりと力無く下げ両膝を着いてしまった、オーガの動きは完全に停止しその口元からは大量の涎が滴り落ちている、次の瞬間オーガの顔面は大きく仰け反った、

「やっと、当たった」
弓持ちが歓声を上げる、オーガの片目には深々と矢が刺さっていた、

「剣持ち、今だ胸を貫け」
キーツがそう言った瞬間、

「勿論だ」
「おうよ」
威勢の良い叫び声が二つ響き土埃の中に二つの影が走り込みオーガの巨大な胸に2本の剣が突き刺さった、

「どうだ」
剣持ち二人はすぐさまその場を離れ肩で大きく息をしながらオーガの様子を伺う、オーガは不動であった、突き刺さった2本の剣から体液が染み出し始めゆっくりとオーガの下半身を染めていく、しかしその鼓動は止まる事が無く、天を仰いだその口からゆっくりと黒い煙のような蒸気が発生していた、

「あの煙?なんだ?」
キーツは素直に疑問を口にする、

「わからねぇ、おっさん知らねぇのか」
若者たちは口々に未知である事を表明する、

「なんだかわからんがやばそうだ、逃げろ」
女将の息子の声が切っ掛けとなり四人は散開した、キーツは助けた獣人の元へ走りその身を林の中へ移す、それを見た三人も近場の警備兵や獣人、倒れた二人の仲間を物陰に移した、その作業が終るか否かの瞬間、轟音を伴って巨大な炎の柱がオーガの口から天へ向かって放たれた、

「うお、熱い」
火の粉が飛散し、衝撃波が周囲を圧する、轟音は続きキーツは木の陰で獣人に覆い被さるように時を待った、やがて音は止み恐る恐るオーガを見るとそこには頭部と両腕、胸から上の部分を無くしたオーガの亡骸が佇んでいるばかリであった。

「オーガブレスだよ」
キーツに組み敷かれた獣人が弱弱しく言った、

「凄いね、どういう事だあれ」

「オーガの最後っ屁さ、オーガを殺る時は首を落すんだよ、知らなかったのか?」

「あぁ、初めて戦った、今後気を付けるよ」
キーツが笑って見せると獣人も微かに笑ったようであった。
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