セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&

文字の大きさ
上 下
54 / 62
本章

逃避行 漁村とオーガ 7

しおりを挟む


「いやぁ、まじで生き返りました!村長ありがとう!」

「そんなそんな!ご満足いただけたようでよかったです。」

体力も芸素もギリギリだった俺は村長のお宅にお邪魔して早めの夕食を一緒に取らせてもらった。シリウスは外に散策にでかけている。

1年前は洪水と土砂崩れで畑が潰れて、しかも別の村に買いに出ることもできなかったからほぼ水のようなスープや噛み応えしかないようなパンを食べていた。けれど今はナッツのたくさん入ったパン、カボチャのシチュー、シカのハーブ焼きが並んでいる。去年夏までに2回も小麦や野菜を収穫でき、国や帝国からも支援金が出たおかげで意外とリッチらしい。

「アグニさん、あなた様が作って下さった灌漑かんがい用水路のお陰で農地が広がったんです!水の流れも安定的で、掃除もしやすいですし、水も運びやすい……本当に、ありがとうございました。」

村長とその奥さんが俺に深々と俺に頭を下げた。

「ん?かんがい?かんがいって何ですか?」

「あ、大変失礼しました。アグニさんが1年前に作って下さった水の道のことです。あれを「灌漑かんがい用水路」と呼ぶことになりました。エール公国が正式にその名で発表したようです。」

「へぇ~!すいません、俺無知で……」

「いえいえ!!!!アグニさんが作ったものです!本来はあなた以外の人間が付けた名前で呼びたくないのですが……」


   よかったそんなに気に入ってもらえて。
   ちゃんと使えてるようだし安心した。


「ちょっと…畑を見てもいいですか?」

「ええ、もちろん!」




・・・





実を付けた小麦が風に揺られている。まだ黄金ではなく、若々しい緑色だ。大切に育てられているのだろう。どれもとても健康で綺麗だった。

「…天使の血筋様はどちらに行かれたのでしょうか?」


   あ、たしかに。ずっと見てないな。
   外にもいないし。どこ行ったんだろ?


「いないっすね……。まぁ、山でしょうね。」

村長はシリウスが近くにいないことに少しほっとしたようだった。

「正直…私も村のみんなもあのお方を前にすると緊張しすぎてしまって……上手く呼吸ができないのですよ」

「え、そんなに?普通の人ですよ?ちょっと髪の色が明るいだけの」

村長は俺の表現に目を見開いた。そして申し訳なさそうな顔をした。

「我々には…同じ人間とは思えないのです…。天使の血筋は神と同等に崇められる存在です。1年前にあの御業みわざを見てしまって……この考えはより絶対的なものになりました。」

1年前にシリウスが解名かいなで見せた「天変乱楽てんぺんらんがく」と「げい

この時の印象が村の人たちに相当強く根付いているのだろう。

「あぁ!もちろんアグニさん、あなたはこの村の英雄です、。大変尊敬しております。感謝も伝えきれません。けれどあのお方には…「凄い」という感情すらも不敬にあたってしまう気がして……」


  俺のことは同じ場所に立つ「凄い人」で、
  シリウスは天に立つ「神」に見えるのか。


1年前の時はこんなにシリウスを…ひいては天使の血筋に対する信仰心が上がるとは思わなかった。言い方は悪いが…彼らの信仰心はシリウスの見た目と芸のレベルの高さで釣れたものだ。つまり、演出次第では誰でも「神」になれるってことだ。なのにその神は。信仰することを悪い事だとは思わないが…なんだかとても危うく思えてしまった。


   もし何かが起きた時は…


『アグニ』

後ろに束ねた白金が風でなびいていた。

「あぁ……あれ、どこ行ってたの?」

『近くの森にね。強めの芸獣と普通の獣も狩ってきたから、村の人に運ぶように言ってくれる?』

「あ、ああ。わかった。」




・・・





夜、村全体で俺とシリウスのための宴が開かれた。この世界では芸獣を食べる習慣があまりないのでシルウスが狩ってきた普通の獣を調理して振舞ってくれた。

そして今、村総出で俺らのお見送りをしてくれている。

「じゃあみんな、元気でな!!またな!」

俺が明るく声をかけると村人全員が跪き、頭を下げた。

「一度のみならず二度もこの村に訪れてくださり、誠にありがとうございました。永遠の忠誠とあなた様方の幸せを願い続けます。」

『いらないものを押し付けないでくれる?』

「おいシリウス!」

シリウスが突然厳しい声色を出した。しかし村人達は一切表情も姿勢も変えることなく述べた。

「……大変失礼を致しました。どうか、お気をつけて…」

「お、おう!!じゃ、じゃあな!ほらシリウス!」

俺は彼らの信仰対象であるシリウスにこんな風に邪険にされたら村人らが傷つくのではないかと思った。彼らに優しい言葉をかけてほしかった。けれどシリウスは態度を変えることなく、彼らに笑顔も見せず、振り返りもせずに言った。

『私のことは忘れなさい。邪魔だ。』

「おい!!!」

「かしこまりした。もう二度と、あなた様の事を口に出しません。」

「えぇ?!」

シリウスは何も言わず、そのまま村を出て走り始めた。

「あ、ちょっ!!!あ、じゃみんな!また!」

「はい。お気をつけて…………」




「シリウス!なんであんな態度取るんだよ!かわいそうだろ!」

俺は走るシリウスになんとか追いつき、会話を始めた。シリウスは感情の何もこもっていないような目で言い切った。

『ははっ。かわいそう?欲しくないものを勝手にあげて、こちらがいらないって言ったら向こうがかわいそうなの?じゃあほとんどの犯罪者はかわいそうだね。』

「あれはシリウスに対する好意だろ?素直に喜べばいいだろ?」

シリウスは立ち止まって、自虐的に笑ってみせた。

『ねぇ、知ってる?あの人たちさ、僕があんな態度取っても「直接お言葉を頂いた!」って喜ぶんだよ?』

「………。」

『もうね、何しても許されるんだよああなったら。僕は何しても許されるの。』

「そんなことねえだろ……」

『ふふっ…。君は許されないからねぇ…』

「………。」



『あ、そうだ忘れてた。』

そう言ってシリウスは周りをきょろきょろし始めた。

「なに?どうしたの?」

『あ、あった。』

シリウスは近くに咲いている青色の花畑から一輪の花を摘んで、裾の中に入れた。いつも通り、シーラにあげるお土産の花だろう。シリウスはどこかに出かけたら、出かけた先で必ず花を持って帰る。

今摘んだ花は小さくてかわいいがすぐ近くに別の花が咲いていて、俺はそっちの方が華やかだしお土産にはいいんじゃないかと思った。

「シリウス、あっちは?」

『あぁ…あれはランだね。こんなとこに生えてるなんて…すごい珍しいな。』

「じゃああっちをお土産に持って帰れば?」

シリウスはじっとランの花を見て、首を横に振った。

『あれはあげない。こっち。』

「へ?そうなの?なんで?」

『いいのいいの。こっちだって可愛いでしょ?』

「そりゃまぁ、可愛いけど…」

『じゃ、そろそろ行くよ!ほら!!』

「うへ~い………」

そして俺らはまた、直線距離で帝都へ帰っていった。




・・・・・・






「あら、おかえり。」

『さすが。きちんと夕飯前に帰ってきたな。』

シーラと公爵は書斎にいた。公爵はたぶん仕事をしている途中のようで、シーラはそれを邪魔しているっぽかった。

「ただいま~もう無理、もう無理!!疲れた!!」

俺が怒鳴りながら中に入ると公爵は笑いながら言った。

『シーラもお腹が空いたようでさっきから私の邪魔ばかりするんだ。すぐ夕食にしてもいいかい?』

『ああ、構わないよ。』

「全然あり!お腹空いた!!!」

『じゃあこのままみんなでダイニングへ行こう。』


移動が辛かったことや村の様子を簡単に話しながら夕食を取り、食べ終わって一息ついたところでシリウスが衝撃的なことを言った。

『アグニ、そろそろ学院に戻らなきゃだよ。』

「ふぁ?!!!!!!」


   ま、まじかよ!!!!
   こんなに疲れてるのに?!そろそろ?!
   というか明日からまた授業?!!


『ハーローの所にも寄らなくてはならない。早めに支度しなさい。』

公爵にそう言われてセシルのことを思い出した。行きと同じように帰りもセシルと寮へ行く予定だったのだ。

「そ、そっか……。うぅ…準備してきます……」

『ふぁいと~』

こうして俺の最初の週末が終わった。

もう二度とこんな無茶なスケジュールは立てないと固く心に誓って、らいの月2週目1の日…また授業が始まったのだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

元Sランクパーティーのサポーターは引退後に英雄学園の講師に就職した。〜教え子達は見た目は美少女だが、能力は残念な子達だった。〜

アノマロカリス
ファンタジー
主人公のテルパは、Sランク冒険者パーティーの有能なサポーターだった。 だが、そんな彼は…? Sランクパーティーから役立たずとして追い出された…訳ではなく、災害級の魔獣にパーティーが挑み… パーティーの半数に多大なる被害が出て、活動が出来なくなった。 その後パーティーリーダーが解散を言い渡し、メンバー達はそれぞれの道を進む事になった。 テルパは有能なサポーターで、中級までの攻撃魔法や回復魔法に補助魔法が使えていた。 いざという時の為に攻撃する手段も兼ね揃えていた。 そんな有能なテルパなら、他の冒険者から引っ張りだこになるかと思いきや? ギルドマスターからの依頼で、魔王を討伐する為の養成学園の新人講師に選ばれたのだった。 そんなテルパの受け持つ生徒達だが…? サポーターという仕事を馬鹿にして舐め切っていた。 態度やプライドばかり高くて、手に余る5人のアブノーマルな女の子達だった。 テルパは果たして、教え子達と打ち解けてから、立派に育つのだろうか? 【題名通りの女の子達は、第二章から登場します。】 今回もHOTランキングは、最高6位でした。 皆様、有り難う御座います。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

処理中です...