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本章
逃避行 漁村とオーガ 6
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「そうかい、なら、これも引き取っておくれよ」
女将は小さい巾着袋が並んだ底の浅い箱を取り出す、
「それは?」
「獣人用のノミ・シラミ除去剤、こいつも売れ残ってね」
キーツは興味深げに一つを取り上げ開けてみる、確かに薬剤と思われる白い粉が詰まっていた、
「どうやって使うの?」
「毛繕いの時に一緒に使うって聞いたかな?直接毛に振り掛けてブラシで梳いてあげるのよ」
多分ねと女将は笑う、
「適当だねぇ、安くしてくれれば貰っていくよ」
キーツはニヤリと笑う、女将はしょうがないねそいつは半額でいいよと分かりやすく溜息を吐いた。
「これは?」
商品棚の手前、最も手が届きやすい所に乾燥させた長く大きな葉を束にしたものが積まれている、
「トウキビの葉だよ、南では使わないのかい?」
南の話題を振られると大変困るなぁと思いながら沈黙で答えとすると、
「便利だよ、食材を包んでよし、加工して籠を作ってもよし、用を足した後にもね」
あぁ、とキーツは納得して、
「そうだよね、いや、俺の故郷では家で作るもので、売っているのを見たのは始めてだと思うよ、まるで印象が変わるもんだね、なるほど、なるほど」
さも見当違いをしていた風を装った、確かに便利だと続け数束を手に取る。
「ちょっとあんた、買ってくれるのは嬉しいけどさ、どうやって持っていくの?」
女将の一言にハタと手を止める、
「・・・考えてなかった」
キーツは何とも間抜けな事を言う、だろうねぇと女将は呆れて言った、どうしようかとキーツは考え、
「荷車は・・・売ってないよね」
何とも情けない言葉で伺うと、
「馬はあるんだろう?荷馬車なら譲ってもいいものがあるけどどうする?」
是非見せてくれとキーツは嬉々として答え、女将に食堂側の出入口から裏の納屋へ通された、かなり広い納屋でその横には鳥が飼われておりその臭気は酷くまた鳴き声もなかなかの騒音である、女将はそれらを意に介さずに納屋の戸を開けた、その中もまた雑然としているが入り口付近はまだ整頓されており奥の方に件の荷馬車が置かれていた、
「一頭立ての荷馬車だからね、それほど荷は詰めないが今のあんたには丁度良かろう」
女将は言いながら荷馬車に乗せられた箱をどかし全体像をキーツに見せる、こじんまりとした木製の荷馬車で所々に傷が有り見た目はかなりみすぼらしいものであった、
「見た目は気にしないでよ、頑丈だしまだまだ現役さ」
女将は荷台を何度か叩いて見せる、その度に埃が舞ったが確かに頑丈そうではあった、
「まぁ、背に腹は代えられないよ、いくら?」
キーツは見た目だけで判断し値段を確認する、正直な所キーツにこの類の目利き等出来はしないのだが、精一杯の強がりを言葉に乗せたつもりであった、
「銀貨5枚かな、7か10は欲しいけど」
女将は前掛けに付いた埃を払いつつキーツの顔を伺う、ここが勝負所かとキーツは渋い顔をしつつ、あらためて荷馬車を観察する、商売人の振りをする事が今の自分には必要で、商売人とは相手の足元を探り合うものだと大いに偏見を含んだ持論をキーツは持っている、当たらずとも遠からずの持論であるがこの文化社会においてはその偏見はより冗長させた方が商売人らしかろうと考えた。
たっぷりと時間をかけて吟味すると、ではとキーツは口を開く、
「そこの木箱は何?それだけ綺麗だよね」
「目ざといね、見るかい去年取れた果物だ」
女将は口元を歪ませつつ入り口のすぐ隣に積まれた箱の一つを床に下ろし蓋を外す、やや埃っぽいが確かに果物で拳二つ分程度の赤い実がギッシリと詰まっていた、林檎に似た果物である、
「ここらへんの特産なの?」
「まぁね、エルフの里の果物らしいよ、これも婆様からの伝統だね、美味いよ」
「女将の美味いよは本当だからな、こうしよう、これを2箱付けて5枚でどうだ?」
その来歴を聞いてキーツは僥倖であると自分を褒めたくなった、テインへの手土産に丁度よさそうである。
「うーん、銀5、銅20、これ以上は勘弁してくれよ、言っただろう誠実さがうちの伝統だって」
女将は演技臭い困った顔をしてみせる、下手な交渉を続けて御破算になるよりもとキーツは手を打つこととする、
「よしそれで、あまり女将を困らせちゃぁな、助けてくれているんだし、荷馬車出せる?」
と素直に言って、荷馬車に手を掛ける、
「あぁ待っとき、商品は綺麗にして渡すもんだ、うちの小僧にやらせるよ、あんたは店で待ちな、他にも買ってくれるんだろう、荷馬車も手に入ったし」
と柔和に笑うと納屋から出て店に一声かける、キーツはそうえいばと硬貨の入った革袋を開け中を確認する、大量に複製したはいいが彼女の言うキオ貨幣がどれ程入っているのかまでは把握しておらず少々不安になったのだ、中の硬貨をザラザラと掻きまわしつつ硬貨に関する情報を再確認した。
この社会では3種類の貨幣が流通している、キオ貨幣、ボルジア貨幣、ボルド貨幣である、その他にテインの社会で流通しているベルグ貨幣というものもあるらしいがそちらはギャエルは所持していなかった。
キオ貨幣は現帝国が発行している貨幣であり最も流通量が多く一般的に使用されている貨幣となる、硬貨の裏表共に皇帝とされる人物の横顔が鋳造されておりその鋳造技術は最も高いとされるが、各貨幣の主金属の含有量は最も低いらしい、その為貨幣価値としては他2種に及ばないとされている。
ボルジア貨幣は南方連合国家発行の貨幣となっておりボルジア公国が鋳造している為その名で呼ばれている、本来であれば連合国家貨幣とでも呼ぶべきなのであろうか、こちらは表に鉱山裏には鋳造所が表されている、キオ貨幣より価値は高く現在のレートだと1:1.25だそうである、これはギャエルから得た情報でこのレートはここ10年は変動していないそうである。
ボルド貨幣は最も価値の高い貨幣とされている、前帝国が発行した貨幣となり表に歴代皇帝の顔、裏面は鋳造施設が表されている、細かく査定した場合歴代皇帝毎にその価値は変動するそうで、これは主金属の含有率が変動している為であるが、現在はその多くが回収されキオ貨幣に鋳造し直されているそうである、その為含有率の問題もあるがその希少性もあいまって最も価値が高くキオ貨幣に対し1:2と同じ硬貨でも2倍の価値を有していた。
硬貨も3種類、単純に金貨、銀貨、銅貨である、金貨1枚辺りの価値はキオ貨幣を例にとると銀貨150枚銅貨7500枚である、こちらは発行量等から価値が変動するらしくギャエルは2度改定を経験しているらしい。
各硬貨の市場価値のおおよその目安として、銀貨1枚で兵士又は書記官の最低等級の1日分の給与、これは前帝国時代から変わらない、他に金貨2枚で奴隷が1人、こちらは奴隷によって大幅に値段は変わるが金貨1枚以上4枚迄と上下限が決められている、また銅貨一枚で大型のパン1本である。
恐らくであるがこのパンの市場価格を軸に硬貨の流通量を制御していると思われ、金融政策の指標はパンと銅貨と言ってもよさそうであった。
これらはギャエルから引き出した情報である、彼はそれなりに勉強家であり為政者の感覚をしっかりと持った貴族らしい貴族と言って良い人物であった。
女将は小さい巾着袋が並んだ底の浅い箱を取り出す、
「それは?」
「獣人用のノミ・シラミ除去剤、こいつも売れ残ってね」
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「どうやって使うの?」
「毛繕いの時に一緒に使うって聞いたかな?直接毛に振り掛けてブラシで梳いてあげるのよ」
多分ねと女将は笑う、
「適当だねぇ、安くしてくれれば貰っていくよ」
キーツはニヤリと笑う、女将はしょうがないねそいつは半額でいいよと分かりやすく溜息を吐いた。
「これは?」
商品棚の手前、最も手が届きやすい所に乾燥させた長く大きな葉を束にしたものが積まれている、
「トウキビの葉だよ、南では使わないのかい?」
南の話題を振られると大変困るなぁと思いながら沈黙で答えとすると、
「便利だよ、食材を包んでよし、加工して籠を作ってもよし、用を足した後にもね」
あぁ、とキーツは納得して、
「そうだよね、いや、俺の故郷では家で作るもので、売っているのを見たのは始めてだと思うよ、まるで印象が変わるもんだね、なるほど、なるほど」
さも見当違いをしていた風を装った、確かに便利だと続け数束を手に取る。
「ちょっとあんた、買ってくれるのは嬉しいけどさ、どうやって持っていくの?」
女将の一言にハタと手を止める、
「・・・考えてなかった」
キーツは何とも間抜けな事を言う、だろうねぇと女将は呆れて言った、どうしようかとキーツは考え、
「荷車は・・・売ってないよね」
何とも情けない言葉で伺うと、
「馬はあるんだろう?荷馬車なら譲ってもいいものがあるけどどうする?」
是非見せてくれとキーツは嬉々として答え、女将に食堂側の出入口から裏の納屋へ通された、かなり広い納屋でその横には鳥が飼われておりその臭気は酷くまた鳴き声もなかなかの騒音である、女将はそれらを意に介さずに納屋の戸を開けた、その中もまた雑然としているが入り口付近はまだ整頓されており奥の方に件の荷馬車が置かれていた、
「一頭立ての荷馬車だからね、それほど荷は詰めないが今のあんたには丁度良かろう」
女将は言いながら荷馬車に乗せられた箱をどかし全体像をキーツに見せる、こじんまりとした木製の荷馬車で所々に傷が有り見た目はかなりみすぼらしいものであった、
「見た目は気にしないでよ、頑丈だしまだまだ現役さ」
女将は荷台を何度か叩いて見せる、その度に埃が舞ったが確かに頑丈そうではあった、
「まぁ、背に腹は代えられないよ、いくら?」
キーツは見た目だけで判断し値段を確認する、正直な所キーツにこの類の目利き等出来はしないのだが、精一杯の強がりを言葉に乗せたつもりであった、
「銀貨5枚かな、7か10は欲しいけど」
女将は前掛けに付いた埃を払いつつキーツの顔を伺う、ここが勝負所かとキーツは渋い顔をしつつ、あらためて荷馬車を観察する、商売人の振りをする事が今の自分には必要で、商売人とは相手の足元を探り合うものだと大いに偏見を含んだ持論をキーツは持っている、当たらずとも遠からずの持論であるがこの文化社会においてはその偏見はより冗長させた方が商売人らしかろうと考えた。
たっぷりと時間をかけて吟味すると、ではとキーツは口を開く、
「そこの木箱は何?それだけ綺麗だよね」
「目ざといね、見るかい去年取れた果物だ」
女将は口元を歪ませつつ入り口のすぐ隣に積まれた箱の一つを床に下ろし蓋を外す、やや埃っぽいが確かに果物で拳二つ分程度の赤い実がギッシリと詰まっていた、林檎に似た果物である、
「ここらへんの特産なの?」
「まぁね、エルフの里の果物らしいよ、これも婆様からの伝統だね、美味いよ」
「女将の美味いよは本当だからな、こうしよう、これを2箱付けて5枚でどうだ?」
その来歴を聞いてキーツは僥倖であると自分を褒めたくなった、テインへの手土産に丁度よさそうである。
「うーん、銀5、銅20、これ以上は勘弁してくれよ、言っただろう誠実さがうちの伝統だって」
女将は演技臭い困った顔をしてみせる、下手な交渉を続けて御破算になるよりもとキーツは手を打つこととする、
「よしそれで、あまり女将を困らせちゃぁな、助けてくれているんだし、荷馬車出せる?」
と素直に言って、荷馬車に手を掛ける、
「あぁ待っとき、商品は綺麗にして渡すもんだ、うちの小僧にやらせるよ、あんたは店で待ちな、他にも買ってくれるんだろう、荷馬車も手に入ったし」
と柔和に笑うと納屋から出て店に一声かける、キーツはそうえいばと硬貨の入った革袋を開け中を確認する、大量に複製したはいいが彼女の言うキオ貨幣がどれ程入っているのかまでは把握しておらず少々不安になったのだ、中の硬貨をザラザラと掻きまわしつつ硬貨に関する情報を再確認した。
この社会では3種類の貨幣が流通している、キオ貨幣、ボルジア貨幣、ボルド貨幣である、その他にテインの社会で流通しているベルグ貨幣というものもあるらしいがそちらはギャエルは所持していなかった。
キオ貨幣は現帝国が発行している貨幣であり最も流通量が多く一般的に使用されている貨幣となる、硬貨の裏表共に皇帝とされる人物の横顔が鋳造されておりその鋳造技術は最も高いとされるが、各貨幣の主金属の含有量は最も低いらしい、その為貨幣価値としては他2種に及ばないとされている。
ボルジア貨幣は南方連合国家発行の貨幣となっておりボルジア公国が鋳造している為その名で呼ばれている、本来であれば連合国家貨幣とでも呼ぶべきなのであろうか、こちらは表に鉱山裏には鋳造所が表されている、キオ貨幣より価値は高く現在のレートだと1:1.25だそうである、これはギャエルから得た情報でこのレートはここ10年は変動していないそうである。
ボルド貨幣は最も価値の高い貨幣とされている、前帝国が発行した貨幣となり表に歴代皇帝の顔、裏面は鋳造施設が表されている、細かく査定した場合歴代皇帝毎にその価値は変動するそうで、これは主金属の含有率が変動している為であるが、現在はその多くが回収されキオ貨幣に鋳造し直されているそうである、その為含有率の問題もあるがその希少性もあいまって最も価値が高くキオ貨幣に対し1:2と同じ硬貨でも2倍の価値を有していた。
硬貨も3種類、単純に金貨、銀貨、銅貨である、金貨1枚辺りの価値はキオ貨幣を例にとると銀貨150枚銅貨7500枚である、こちらは発行量等から価値が変動するらしくギャエルは2度改定を経験しているらしい。
各硬貨の市場価値のおおよその目安として、銀貨1枚で兵士又は書記官の最低等級の1日分の給与、これは前帝国時代から変わらない、他に金貨2枚で奴隷が1人、こちらは奴隷によって大幅に値段は変わるが金貨1枚以上4枚迄と上下限が決められている、また銅貨一枚で大型のパン1本である。
恐らくであるがこのパンの市場価格を軸に硬貨の流通量を制御していると思われ、金融政策の指標はパンと銅貨と言ってもよさそうであった。
これらはギャエルから引き出した情報である、彼はそれなりに勉強家であり為政者の感覚をしっかりと持った貴族らしい貴族と言って良い人物であった。
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