セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

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本章

逃避行 漁村とオーガ 5

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「で、その隊商はどうなった?」

「はい、私が逃げ出した時には、その・・・皆散り散りになっていて、乗ってた馬でそのまま後ろも見ずに、はい、それで迷って道に出ましてそのままこの村へ」

訥々と語るキーツを睨み付けながら隊長はその話を吟味している様子で、
「ふむ、そうか、ま、そんなもんだよな」
と言って立ち上がると同席した二人も立ち上がった、

「一応、情報として話は回しておく、しかし、ルチル伯領の問題で俺らは何ともできん、命があっただけ良かったと思いな、じゃあな」
そう言って連れ立って戸口へ向かった、

「隊長、それだけかい?」
女将が料理を手にして顔を出した、

「何ともならんよ、それよりはぐれオーガの方が大事なんだわ」
また来るよといって三人は外に出る、

「まったく、適当だねぇ」
ぶつくさと言いながら女将はキーツの前にパンと焼き魚、茹でた野菜とナイフを並べる、

「お代は先払いね、締めて7枚」

キーツは慌てて革袋を出し慣れない手付きで銅貨を7枚テーブルに置いた、女将は確かにといって銅貨を確認し、

「ボルジア貨幣が入ってるよ、キオ貨幣で払っとくれ」
と2枚の銅貨をキーツへ押し返す、キーツは事前情報にあった貨幣の価値の差異を思い出し改めて革袋の中を確認しつつキオ銅貨を2枚女将に手渡すと、

「正直な店だね、ボルジア貨幣の方が価値はあるだろう」
と女将を見上げて訊ねる、

「ふん、お褒め頂きありがとう、この店はね誠実さとタタソースでもってるんだよ、婆様からの伝統さ」
腰に手を当て胸を張り、満面の笑顔を浮かべる、キーツは女将の笑顔につられて笑顔になった、しかし疑問が一つ浮かびすぐに口に出す、

「タタソース?」

「そう、タタソース、その野菜に添えた白いクリーム、美味いよ」

女将は隊長達の皿を片付けながらごゆっくりと言って厨房へ戻った、キーツはふぅと吐息を付き並べられた料理に視線を落す、林で待つ三人には悪いがなりゆきだから仕方がないよなとパンを千切って口へ運んだ。
それは固く乾燥した味気の無いものでこれが標準的なパンだとするとキーツの用意した乾パンが如何に美味であったかがよく分かる代物であった、テインが気にするのも納得できる、今口にしているパンは小麦かそれに類するものを練って焼いただけの純粋なパンなのであろう、栄養価を考え添加物がドッサリ入り味も調整された連合謹製の乾パンと比べてはいけない代物であった。
口に残ったパンを昼ワインで流し込み焼き魚に手をつける、与えられた食器は小ぶりのナイフのみであった、まぁ丸かじりで良いかと手を伸ばす、内蔵を抜き干物にした魚である肉厚でその表面には薄っすらと油が浮いている、一口噛り付くとその旨味に驚かされた、塩味が絶妙で身はイワシに似た味であった、獣人に配慮して塩も振らない焼き魚を主食としてきたここ数日の食生活に比して、味があるというだけで軽い感動を覚えてしまう。

「美味いね、この魚」
思わず口にした、

「そりゃ良かった」
耳聡い女将がヒョイと顔だけ出してニンマリしている、キーツはあっという間に魚を平らげ茹で野菜とタタソースとやらに手を伸ばす、ナイフの先に野菜を突き刺しタタソースを軽く付けて口へ運んだ、実に美味い、茹で野菜のみずみずしさと柔らかさにタタソースの濃厚な味と風味が加味され見事な料理として完成していた、

「これは凄いね」
モゴモゴと口を動かしつつ感嘆の声を上げる、女将はニヤニヤと言葉も無くこちらをみている、ゴクリと飲み込んで改めて美味さを伝えた。

「だろ、美味いんだよ、婆様直伝の味さ」
なるほどと良く分からないが納得して茹で野菜を完食した、残ったパンを千切りつつ昼ワインで流し込みしっかりと触れた腹をさすっていると、

「で、これからどうするんだい」

女将は生来面倒見が良い人間なのであろう、柔和な瞳にうっすらと翳りを見せつつキーツに問うた、

「そうですね、取り合えず私も商人の端くれです、各地で何か仕入れつつ要塞に向かおうかと考えてました」

「一人でかい?」

「えぇ、一人の方が襲われにくいかと、此処に来る迄も無事でしたし」
キーツは曖昧に微笑む、

「そんなもんかねぇ」
女将はあからさまに呆れている、

「ついては、このタタソース、売ってくれません?」
キーツは薄く残ったソースを指で掬って口に運ぶ、ソースだけでも独特の香りと酸味、口当たりの良さが程良く美味である、

「そう来ると思ったよ」
女将は笑う、
「でもね、日持ちしないんだよ、作るのも手間掛るし」

「日持ちはどれくらい?」

「冬場で十五日、夏場で七日、持てば良い方かな、実際売りたいって言ってくれる人は多いし、大量に売った事もあったけど次は無かったね」

「そうですか、うーん、女将がそう言うならしょうがないでしょうか、なら」
とキーツは代案を出そうとした瞬間、

「作り方は教えないよ、絶対ね」
女将は絶妙に機先を制する、キーツは言葉を無くしそうですかと苦笑いを浮かべた、

「干物なら大量にあるよ、工房も教えられるけど?」

「確かにこの干物も美味しかった、何か特別な事を?」

「さぁねぇ、それも教えられないかな、うちのは一手間加えているから」
再びニヤリと笑みを浮かべる、

「分かりました、では、干物を何枚かそれとやはりタタソース、これを少しでも分けて頂けませんか、商品というよりも道中に食べたいかなと思いまして、それと」
キーツは立ち上がり店内の商店側へ向かう、
「いろいろと雑貨が欲しいですね、服はあります?」

「服?都会じゃどうか分からないけど、ここらじゃ服は自分で縫うもんだよ、服用の布ならそこに、若干高いよ」
女将は商店の一角を指差す、確かに反物が何種類か重ねて置かれている、キーツは屈みこんで反物をいくつか手にすると会計台に置き、他にはと店内を物色する、乱雑に置かれた商品は照明の無い暗い店内のお陰でその用途が分かりにくいものが多くいちいち女将に確認しながら商品を会計台に持っていく、その中に獣人用のブラシもあった、戦争前にはエルフの行商人が獣人相手に販売していたそうで毛繕いには必須の商品であるという、その通商が絶たれた為に大量に売れ残っているそうだ、

「であれば要塞で売れるかな、奴隷用に」
台詞のような言葉を発し箱ごと仕入れる事にした。
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