セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

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逃避行 漁村とオーガ 4

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店の前の杭にジュウシを繋ぐ振りをして恐る恐るとその扉を叩く、やってるよと快活な女性の声が聞こえキーツはやっと安心して扉を開けた、内部は陽の光が入っているにも関わらず薄暗く若干の埃臭さを感じる、奥に広い作りであるらしく手前の空間は両壁の棚に雑然と商品が置かれた商店となっており、中程に厨房件会計、奥に食堂があるらしい、食堂側にも扉が有りそちら側は開け放されていた、食堂では数名の客が食事をしているようで籠った会話が響いている、
「いらっしゃい」
厨房内から明るい声が響き恰幅の良い女性が顔を出す、この店の女将であろうか、キーツは商品棚を眺めながら彼女に近付いた、

「見ない顔だね、何か、お探しかい」
会計台に手を付いて女性は親し気に話しかけてくる、柔和な眼差しと丸々とした体形から安心感が醸し出され、笑い皺の刻まれた顔は対面商売を生業として来た人間特有の開放的な明け透け感でキーツを迎え入れる、厨房の奥にはこの女性の夫であろうか男性が一人鍋を前に奮闘し、食堂にはめんどくさそうに床掃除をする若者と数人の剣を下げた男が食事をしていた、

「あぁ、いろいろと」

「南の訛りだね、行商かなにか?」
たった二語で訛りが分かるのかとキーツは関心しつつ話を合わせる、

「確かに南だが、良く分かったね」

「そりゃ、わかるよ、慣れたもんだ、で、何用だい、飯?それとも仕入れ?」

「うーん、取り合えず色々かなぁ、隊商とはぐれてしまってね、どうしたもんかと右往左往してたら此処に辿り着いたんだ、宿はある?」

「宿はないよ、隊商宿舎なら泊まれると思うけど、あそこは泊まれるだけだから、飯はうちで済ませていきな、まだ午前様だけどさ」

「そうか、ところで此処は何て村なんだ?」

「ヌゲーヌだよ、知らないだろ」
女将は当然のように答える、

「・・・確かに聞いた事ないな」
キーツは大袈裟に知らないふりをした、知らないのは事実であるがそれがさも疑問である事を強調する、

「だろうね、どこの領主にも属してない独立集落だよ、まぁいつまで持つかは分からないけどね」

「なるほど、軍がそこまで来てるし?」

「そうそう、獣狼と山猫を駆逐しているんだろ、今度は蜥蜴だって?その次はエルフかねぇ、いやお陰で畑が荒らされたりもしててさ、エルフの土地に獣狼と山猫が避難しているらしいんだよ、道中で悪さするんだろうね、そりゃ焼け出された避難民じゃしょうがないさねぇ」

「へぇ、エルフの土地にねぇ、此処は通り道ど真ん中になるのかな?」
キーツは女将の長話に合わせて答えた、しかし心中では良い情報を得たとほくそ笑む、テインの主張の通りエルフの土地にエルステとフリンダの同族も避難しているらしい、この旅の目的は正しかった様だ、確信を得た事により不安の一つが解消された。

「地理的には多分ね、あんまり地理は詳しく無くてさ、取り合えず東に行けばエルフの土地、西に行けば獣人の土地、ってその程度だよ私は」
そう言って女将はカラカラと笑う、

「まぁ、運が良いだけなのか、向うが怖がっているのか、直接この集落が襲われる事は無いんだけどさ、今まではよ、今後はどうなるか、実際襲われたらさ、自警団もいるけど、やっぱり本職の軍か冒険者っての?あぁいう手合が欲しくなるさ、そしたら此処も何処かの領主様の庇護に入らないとね、何されるか分かったもんじゃない、といってもここだとルチル公爵様になるんだろうけどねぇ」

「そうか、いや、独立集落ってのも珍しいとは思うけど、大変そうだなぁ」

「そうでもないよ、税金も無いし、胡散臭い聖母教会も無いし良いことづくめだよ、魔物退治くらいじゃないかい、面倒くさいのは、最近増えてきたしね、勿論獣人は悩みの種にはなるけど軍が頑張っている間は大丈夫そうだしね」

「そうなんだよ、俺も魔物にやられちまってね、安心だと聞いたからこっちに来たのにさ、隊商がゴブリン?オーク?だかに襲われてこの様なんだ、まったくどうしたもんだか」
キーツは肩を竦めかぶりを振る、

「ふーん、情報があれば自警団に伝えておくよ、あぁ、丁度隊長さんが飯食ってるし、隊長さん、魔物の情報だって」
女将は食堂の方へ声を掛ける、隊長と呼ばれた男がこちらを見ると立ち上がりのっそりと近寄ってきた、

「なんだ、行商人か、どこで何に襲われたんだ?」
酷くめんどくさそうに聞いて来る、

「隊長さん、しっかりしてよ、夜勤明けだっていってもさ、折角のお客様なんだから」

「いや、俺の客じゃねぇよ、あぁ、んな顔すんなよ、わかったよ」
隊長と呼ばれた男は女将の非難がましい目に右手を振り、後ろ頭を掻きながらキーツを見ると、

「飯食いながら聞かせてくれ、それから女将、エールか昼ワインか出してくれ、他に何か食いたかったら頼んでくれよ、そっちは自腹な」
隊長は銅貨を1枚女将に投げるとキーツを伴って食堂に移り自席に着いた、その食卓には他に二人の男が座っており、こちらも覇気の無い目でキーツを迎える、キーツは空いた席に座ると取り合えず自己紹介をした、

「それで行商人のキーツ様はどこで魔物に遭遇したんで?」
隊長は胡乱な目でキーツを見る、

「あ、はい、此処から南へ2日程度の所だと思います、多分ゴブリンで20匹は居たかなと」
キーツは自信なさげに答える、

「2日?徒歩で?」

「いや、馬です、外に繋いでます」

「なら分かるかな、ルチル伯領の端あたりか、要塞に行く途中?ってことは奴隷商人かい?」
要塞とはギャエルの言っていた要塞の事であろう、

「いえいえ、でもまぁ見習いです、はい」

「見習いでもなんでも商人は商人で、奴隷商人は奴隷商人だろうが」
隊長はキーツの態度に眉間に皺を寄せて凄んで来る、

「すいません、はい、その通りです」
キーツはさらに縮こまり俯いて答えた、

「隊長、なに怒ってるのさ」
女将が昼ワインだよといってカップをキーツの前に置いた、

「盗み聞きして悪いけど、腹も減ってるんじゃないのかい、適当に持ってくるよ」
女将は気を利かしてか話しかけてくる、

「では、お勧めを、お金はありますんで、はい」
はいよと女将は明るく答え厨房へ消えた、

「まぁ、呑みな、美味くはないが不味くもねぇよ」
隊長は顎でカップを差し自身も手にしたカップをあおった、頂きますとキーツは答えカップを手にして軽くあおる、中身は薄いワインであった、昼ワインと呼んでいたが恐らくワインを水で割ったものであろう、確かに美味くも無いが不味くも無かった、酔えるほどの濃さも無く気軽に飲むには丁度良い塩梅である。
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