セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&

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帝国 教会地下にて 2/3

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「本日も御機嫌麗しく、陛下」

皇帝が地下三階へ至ると影の中に小柄な男が深々と頭を下げている、地下三階の主イニャスであった、黒の教会服を纏い束にした羊皮紙を胸に抱えている、だらしなく伸ばし放題の薄い髪、形の悪い髭面、陰気を放つ目と不健康な肌色が教会服にまるで似合っていない、皇帝はその男に一瞥もくれずに歩を進め篝火と蝋燭に囲まれた執務机に向かいドサッと席に着く、

「報告はこれか」
皇帝はイニャスの返事を待たず机上に整頓された羊皮紙を一枚手にした、そこには帝国民の使用する文字でもエルフの文字でも無い独特の文字が羅列されている。

皇帝は二枚目三枚目と流れる様に書類に目を通し、書類を一旦置いて机の前に畏まるイニャスの頭の一つ上に視線を合わせて、

「エルフとゴブリンの生産量が落ちているな」
と呟いた、

「はっ、一時的なものであります陛下、10日単位で見ますれば平均的数量であると考えます」
俯き畏まったままイニャスは答える、

「今日、城で食したエルフは不味かったぞ、あれの生産期はいつだ?」

「それは申し訳ありません」
イニャスは慌てた様子で手にした羊皮紙の束を捲る、しかし、暫く待っても答えがでないようであった、

「まぁいい、同じ生産期のエルフは像に入れる、纏めておけ」

「はっ畏まりました」
イニャスは束を閉じさらに畏まってしまう、

「それから今後ゴブリンの生産を増やしたい、北方で実戦に使おうと思う」

「それは、それは、遂に我がゴブリン軍団が陽の目を見るのですか」
イニャスは嬉しそうに顔を上げる、

「国防に送った数はどれくらいになる?」

「累計で3000で御座います」
そうかと皇帝は沈思する、

「ニュールとも相談するがどれほど生産を増やせる?」

「現状の施設ですと月300が精一杯でして、それも生産数になります、加工致しますと使用に耐えるのは100を切るかと、加工作業は鋭意精進しておりますが、良質な材も足りない状態でして」

「前線から少々廻した、近いうちに詳細報告がある筈だ、国防に届けさせる、が、それでも足りんだろうな、市場で奴隷を調達すればよいだろう」

「おぉ、ありがとうございます、前線からとなると新鮮な獣狼とエルフでしょうか、自然のままの材は有難い、しかし市場での調達はやや難があるかと存じますが」
と言葉を濁した、それもそうかと皇帝はイニャスの言葉に納得しつつ、

「エタンを呼べ、上の仕事は奴にやらせる」

「はい、すぐに」
とイニャスは机の端にある呼び鈴を鳴らした、すぐに施設の奥から教会服を纏った男が走り寄るが皇帝の姿を確認しその足を一瞬止め、頭を垂れると静々とその歩調を変えて進み出る、

「ゲール教会長をここへ、皇帝のお召であると伝えよ」
教会服の男はさらに低頭しクルリと踵を返すと上階へ足早に消えた、

「施設の件だが」
と皇帝は話題を変える、

「国防の基地を使えないか、ここは手狭であろう?」

「はい、手狭である点は否めませんが、恐れながら我々の行為は陽の当たる場所やまして衆人の目がある所ではとても」
良識的な事をと皇帝は鼻で笑って、

「国防ならその点は問題ないと思うが」
嫌なのかと続ける、

「決して嫌などでは」
イニャスは慌てて首を振る、暫し考え、

「生産施設の建設は容易ですので、生産部分だけでもそちらへ移すとすれば、こちらも広く使えるかと」
と答える、柔軟な発想であった、

「となれば、良い人材をニュールに推挙させよう、国防に教会服は似合わないからな、向うの人材で回した方が向うも都合良かろうし」
はい仰せのままに、とイニャスは畏まる、

「それとも像の効果を変えるか、少々めんどくさいな」
皇帝はイニャスに聞こえぬ声でそう呟いた、イニャスが怪訝そうに皇帝の顔を見詰めると、

「やはり国防との連絡路が欲しくなるな、下水道を利用した案があったかと思ったが」

「えぇはい、こちらにあった筈です」
イニャスは壁に設えた書類棚に向かい数本の巻いた羊皮紙を開いては閉じしながら一本の羊皮紙を手に取ると皇帝に差し出す、皇帝はそれを机上に拡げ端端に重しを乗せた、

「これも今思うと悪くないが・・・」
皇帝は立ち上がり図面を俯瞰しながら呟いた、図面には地下下水道の図とそれに繋がるように連絡路の図が表記され、地上の建築物も表記されている。

「城の連絡路の中間へ繋げる案があったと思うが」
イニャスはもう一本の羊皮紙を手渡す、それを机上に拡げながら、

「城との連絡路も拡張したい所ではあるが」
と皇帝は図面に目を落とす、

「こちらの方が現実的だな」
とイニャスに同意を求めた、イニャスははい仰せのままにと静かに答える、

「高低差と沈下が不安だな、高さが欲しいが幅は必要なかろう?」
皇帝は問う、

「はい、あぁ、しかし今後オーガやオークの研究次第によってはある程度の幅は必要かと」
それもあったなと皇帝は沈思して、

「それらの研究は国防でやれば良い、こちらで生産できたとして階段は登れないぞ」
イニャスは皇帝の言に暫しぼうっとして、

「確かにそうですな、いや、その通りです」
と今日初めて笑った、やや引き攣った笑みではあったが、

「ではやはり国防にも研究施設は設置しよう、まぁ先の話にはなるが」

「はっ御意のままに」
イニャスが頭を垂れるとゲール教会長が姿を表した、足早に二人の元に進み出ると、

「御機嫌麗しゅう陛下、馳せ参じましたゲールで御座います」
と頭を垂れる、エタン・ゲールは教会長である、聖エロー教会の長であり聖母教会の首領でもあった。

イニャスの隣りに立つとその威風がより際立っていた、引き締まった長身に綺麗に纏められた金色の髪、威厳を保つためと伸ばした髭が顔の下半分をその意にそって仰々しく装飾している、鋭く知的な青色の眼光が周囲を威圧するも柔らかに笑うその目に人はより惹き付けられる。
教会長でありながら教会服にはその権威を示す物は一切装着していない、曰く権威で仕事をしているのではないそうである。

皇帝はエタンの言に反応は見せず机上の図面に視線を落としたまま、
「奴隷の買取を教会に頼みたいのだが」
と発した、

「奴隷ですか、ええ可能ですが、教会で奴隷は必要としておりません」
と事務的に返答する、

「こちらで必要なのですよ、教会長」
イニャスが補足する、

「そういう事だ、予算はイニャスから渡す、奴隷の内容に関してもイニャスの指示に沿ってくれ」
あぁそういう事ですかと教会長は納得した、

「注意点が一つ、近々前線から大量に流入する予定なのだが帝都は奴隷そのものが飽和状態でな、地方へ優先的に回すことにしてある、よって買い付けは地方でやれ、その後の搬入作業も合わせて頼むこととなる」

「なるほど、お任せ下さい陛下、教会の総力を上げて対応させて頂きます」
そこまで力を注ぎ込まなくてよいと皇帝は言って、

「以上だ、仔細は任せた、エタンは下がってよい」
ゲール教会長を下がらせると図面を巻き取りイニャスに渡す、

「奴隷の工面が着いたら連絡路の建設と国防の施設改修をやらせるか、加工したゴブリンに土木は無理だろう?」
イニャスは困り顔でそうで御座いますねと俯いた、

「あいつらは戦力になればそれで良い」

「はい、それから先程騎士が2名城より送られて来ておりますが」
と思い出したようにイニャスは報告する、騎士?と皇帝は一瞬考え、あいつらかと思い出した、

「大部屋に安置しております」

「そうか、以上だ」
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