セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&

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接触 4

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雄弁な貴族の去った焚火を囲む四人は沈黙の中にあった、三人がキーツへの警戒感を解くことは無く六つの目が爛乱とキーツを射貫く、それではとキーツは立ち上がりジュウシから布袋を携えて戻った、

「お嬢さん、お嬢さんで良かったかな?」
キーツはまず少女に話し掛ける、少女は尚無言であったが、

「こちらを試してみて」
布袋から乾パンを二欠片程取り出すと自分の口へ運んだ、固く乾いたそれに口中の水分を持っていかれるも独特の甘味と歯ごたえが心地良くとても美味しい。

どうぞと布袋をそのまま彼等に押しやると少女は渋々受け取り袋を覗く、一欠片を手にし焚火に翳し確認すると安心したように口にした、
「・・・美味しい・・・」
彼女はそっと呟くと隣の二人にも分け与える、

「良かった、魚は苦手だったかな?」
キーツはそう言って微笑んだ、彼女の魚は何時の間にか獣人の腹に納まったらしい、その姿を確認する事は出来なかったが無駄にならなかったのであればそれで良いとも思う。

三人は乾パンを貪りつつ杯を呷り続けた、
「待って、慌てないでお湯沸かすからポットを頂戴」

楽しそうにそう言ってポットを受け取り川から水を汲む、焚火に戻るとやや落ち着いたのか獣人の二人はその手を止めており、少女は食事を続けていた。

「さてと、まずはどうしようか」
キーツはポットを火に掛け少女を見詰める、言葉を変えて彼女の言語で語り掛けてみた、少女は驚いた顔でこちらを見返し獣人二人も同様に大きな瞳でこちらを見ている、

「私達の言葉がしゃべれるのですか?」
少女はやっと会話に応じてくれたようだ、

「良かった、通じたみたいだね、随分昔に習ったものだから」
変じゃない?と微笑んで見せる、

「いえ、どこも変ではないです、でも」
と少女は口籠り、

「変でないのが変です」
と続ける、その言葉に再び冷や汗を掻いた、恐らくやり過ぎたのである上手過ぎたのだ、訛りや抑揚の付け方を調整すれば良かったか、

「そ、そう?そんなに上手だった?嬉しいなぁ、昔結構頑張ったのよね」
慌てて誤魔化そうとするが難しいようであった、少女の怪しむ目はその眼光を鋭くし口元に咥えた乾パンもそれ以上口中に送り込もうとしない、キーツはどうやって取り繕うかと思案するも冷や汗が吹き出るばかりであたふたとポットの様子を確認したり薪を追加したりと行動まで不審になる。

「どのようにお呼びすればよいですか」
少女はキーツの内心を知ってか知らずか静かにそう問い掛ける、キーツはその言葉を受け一切の動作を止め少女の瞳を伺った、その瞳には様々な感情が表れていたがその言葉の意味する事は彼女は自分の立場を受け入れているという事であった、否、それは言葉だけのようである、キーツが伺うその瞳の奥には静かな反抗心が灯りこの瞬間にも思考が渦巻き続けその一挙手一投足はおろか髪の毛の先、睫毛の先端迄をも生存という一事に掛ける思念が表出している、今彼女はその全霊を持って生き残る事にしたのだ。

キーツは心中で見事と快哉を叫びたくなった、地球で何人もの被害者を救ったがこれ程迄に生に貪欲で雄々しい意思を感じた事は無かった、地球での被害者は打ちひしがれ弱った上にその存在を抹消するようにキーツに懇願するものまで居たのだ、奴隷という立場に置いてなお全力で己を確固するその意思の強さと行き汚さはこの時代故か彼女の本質か、いずれにしろ助けて良かったとキーツは心底感じる。

「キーツでかまわない、敬称はいらないよ」
キーツは本来の笑みを浮かべる、ギャエルの前で見せた演技はもう必要では無かった、

「では、私達に名付けを、一時的とは言え主従であると思います」

「その件だが」
とキーツは懐からナイフを取り出すと柄を少女に向ける、

「その首輪を落としなさい・・・、この意味は分かる?」
突然の申し出に少女は躊躇いキーツの真意を測りかねている様子であった、

「どういう事?」
獣人の一人が少女に問い掛ける、少女の言語であった、やはり獣人は彼女の言葉を理解し発声する事が可能らしい、キーツには判断できなかったがある程度の訛りはあるのであろうが、

「奴隷の身分を解くという事です・・・、と思います」
少女は獣人にそう告げた、キーツはそのつもりだとその言を受ける、

「しかし、それでは貴方に利がありません」
少女は理を説く、利という単語にこの社会もそうなのだなとキーツは感じ入る、

「目的が分かりませんし道理が通らないと思いますが」
キーツは少々思案して、

「では、私の考えを説明すれば良いのかな」
手にしたナイフを地面に突き刺すと三人を見渡す、彼等は警戒しつつも関心を示している様子である、そこでキーツは訥々と嘘を並べた、ギャエルに語った内容に加え奴隷に対する嫌悪感を話すそれらは少女の言語を用いてより情緒的に物語られた、最後に探し人がその立場になっているとすれば自分は決して許さないと締め括る。

「許さないからといって貴方に出来る事は少ないでしょう」
少女は辛辣に断言する、

「少なくても、出来る事はあるんだろ」
キーツはそう返した、少女は黙り込む、キーツは柔らかく微笑んで、

「そこで、君達についてはその首輪を外した上で、君達の安全に暮らせる地まで送り届けたいと思う、先も言ったが私は旅人でこの辺の土地は不案内でね、戦争のお陰でいろいろ不安定な様子だし、君達ならある程度土地勘もあるだろうから案内を兼ねて・・・と考えたわけだ」
キーツは言葉を切り三人を観察する、その表情に変化は無いが少しは警戒感は薄れたようだ、キーツは如何かなと彼等に問い掛ける。

ややあって少女は口を開く、
「よく考えれば、貴方は命の恩人です」

獣人二人に視線を移す、その目は慈愛に満ち優し気であった、

「奴隷の契約の有無に関わらず、またそれがあったとしても恩人に対する礼が私には足りなかったようです、我々パドメの民とケイネスの民、レオパルディの民が不義理な蛮族と思われるのは沽券に関わります」
少女はキーツに視線を移す、何かしらの覚悟を決めたようだ、

「さらに我々の行く末も案じて頂ける事に深く感謝致します、キーツ様どうか暫くの間この身と友人の身をお預け致します、我々に出来うる事はどうぞ御指示下さい、全力で報いる事をお約束します、また命を救っていただいた事、食事を供して頂いた事、重ねて御礼を申し上げます」

胸に手を当て頭を垂れる、金色に輝く髪がその顔をキーツの視線から隠し、獣人もやや遅れて頭を垂れる、慣れない礼の仕方であったのだろう少女の方を伺いながら何とか似せるように努力していた。

キーツはその姿に取り合えずほっと一息吐く、浸透同化に於いては現地での協力員はどうしても必要であったしせっかく助けた彼等に自暴自棄になられても困る、

「こちらこそ、宜しくお願いしたい、取り合えず俺の事はキーツで良いよ様は要らない、君達は何と呼べばいい?・・・あぁ、それから畏まらないで、肩が凝るからね」
キーツは努めて明るい声を出す、少女は顔を上げ不思議そうな顔をする、後で聞いたところによると肩が凝るの意味が分らなかったらしい、

「・・・では、私からシェシュティン・ウーパドメ・ラーゲルレーブと申します、テインとお呼び下さい」
改めての自己紹介はどこか気恥ずかしいものがある、彼女もそのようで先程の活舌の良さは失われていた。
続いてテインは隣の獣人を促す、

「エルステ、言います」
言葉少なにペコリと頭を下げる、獣人の顔の長い狼顔の男子である。

「フリンダ」
その隣の獣人はやや食い気味にそう言って頭を下げた、獣人の猫顔の少女である。
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