セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&

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ギャエルは魚を平らげ残った骨を焚火に投げ入れると杯を呷った、獣人を見るとどうやら頭から骨、尻尾の先まで綺麗に胃に収めたようでその食習慣の違いが垣間見えた、少女はあまり食が進まないのか最初に渡した魚に少々手を付けた状態で何とも悲し気に魚を見詰めている、

「これほど美味いトリイトは初めてだ」
ギャエルは大きなゲップと共に感嘆の吐息を漏らす、それは良かったとキーツは微笑む、

「腹も膨れた、武器はあるか?」

「武器ですか?お渡しできるのは長剣があるかと思いますが」

「重ね重ね申し訳ないがそれを頂けないだろうか、早々に原隊へ復帰したいのだ」
キーツは少々驚いた顔をして、

「まだ、夜中ですよ、行動するのは陽が出てからでも」

「そういう訳にはいかんのだ、私の任務は奴隷運搬の護衛であった、その隊が壊滅した事を早急に報告しなければならないし、ゴブリンは蹴散らしたと聞いたがあの規模のゴブリンが存在するという事はこの森に他のゴブリンが群れを成している可能性が高い、そちらの対応も急がれる」

キーツはギャエルの杯に白湯を注ぐ、ギャエルはその杯を傾けながら続けた、
「恐らくだが、この数年この辺の自警団にしろ街道警備隊にしろ自衛が精一杯で森の中迄は手が回らなかったのだろう、それに奴隷狩りの隊は北の方へいっている、そちらから逃れた魔物が南へ下った可能性もある、どちらにせよ森の街道は重要な交通路だ、東へ向かうのにはあそこしかないからな」

確かにとキーツは答えた、キーツは続けて彼等の杯も頂けますかとギャエルに伺うと、あぁお前ら有難く頂けと鷹揚に返答がある、ギャエルに顎で指図された少女は不安気に立ち上がるとキーツから直接ポットを預かり自席に戻った、すぐさま獣人の杯と自分の杯に白湯を注ぐ、ギャエルはその行為には難癖を付ける事無く言葉を続ける。

「戦争が長引いているからな、まぁ、我が軍としては戦争と呼ぶのもおこがましい程簡単な相手だが、そうとしても周辺環境への影響はあるだろう、現戦況で推移するとなれば後三年程度で落ち着くとは思うが、今までのつけが形になったのだ、これは軍としても放置はできない」

ギャエルは高揚して言を連ねる、死の縁から生還した事と腹が満ちた事が重なって興奮状態にあるのかもしれない、
「しかしだ、我が隊は五人の精鋭でもって護衛に当たっていたのにも関わらずこのていたらくだ、ゴブリン共の数も問題であったが、こちらの練度にも問題はあったと思う、冬が開けて気が抜けていただけならば言い訳もたつが、いや言い訳も何もないなゴブリン程度に四人も殺られるとは・・・不甲斐ない、挙句俺はこの様だ、これ以上の恥の上塗りは俺の矜持が許さない」

随分と明け透けに自分語りをするものだとキーツは思う、貴族とはこういうものなのか、彼がそういう人間なのか、ギャエルは暫し焚火を見詰め残った手でガシガシと頭を掻いた。

「いや、すまない、貴殿には関係の無い事だな」

「そうでもないです、街道や森が安全になれば私も旅をしやすいですし」

「そうだな、それが平民には最も大事で、帝国の安定にも繋がる、市民を活かせぬ国家等棒で叩いて砕いて捨てろ・・・我がボアルネ伯爵家の初代の言葉だ」

「それは何とも素晴らしい、とても暴力的ですが」
にこやかに受け止めた、

「力こそだよ、どれほど才があろうと領地を持とうと言葉に長けていても力には負ける、力無くして帝国は生まれなかった、力無くして魔族には勝てなかった、皇帝陛下はそれをその身で証明してみせた素晴らしい人だ、俺はそう思っている」

やや熱い言葉を吐き出してギャエルは一息吐く、
「しかし、この腕ではな、身の振り方も考えねばらん・・・では、行くか」

ギャエルはすっくと立ち上がる、しかしあっという間に尻餅をついて座り込んでしまった、キーツは慌てて近寄りその背を支える、

「だから、言わない事ではないですよ、腕を無くしているのです、そんなすぐには動けないでしょう」

ギャエルは乾いた笑みを浮かべそれもそうだと弱弱しく答えるも再び全身に力を籠めて立ち上がる、今度はややふらつきながらも直立した、膝に手を当て軽い屈伸運動を繰り返し、

「うむ、万全とは言えぬが充分ではある」
とキーツをやんわりと遠ざけると三人に声を掛ける、

「行くぞ、立て」
三人はそれぞれ顔を見合わせ少女はふるふると顔を横に振る、拒絶の仕草である、

「何だそれは、立て、行くぞ」
癇に障ったのかギャエルは大声を出す、

「ギャエル殿、落ち着いて下さい、本気で闇夜の森に入るつもりですか」
キーツは止めに入った、

「あぁそうだ、何が悪い私は戻らねばならんのだ、一刻も早くな」
焚火が彼を下から照らす、影の指したその顔に浮かぶ双眸は正気ではあっても何か胡乱に見えた。
やばいかなとキーツは感じ懐の電磁警棒に手を伸ばしたが、より温厚な方法で解決を試みる事とする。

「ギャエル殿、ではせめて剣をお持ち下さい」
キーツはジュウシに走り寄り脇に指した長剣の一本を抜き取る、ギャエルもその背を追って焚火を離れた、これをとすぐ背後に迫ったギャエルに手渡すと彼は満足そうに受け取り長剣を片手で構え二度三度虚空を切りつける、やはり足元はふらつき腰が入っていない、体幹の均衡が取れていないのだ彼にはもう暫くの養生が必要だろうと判断する、

「なかなか良い剣だ、礼を言おう」
ギャエルは上機嫌となる、その場を動かない三人はまさに刃物を持った狂人を見る目で二人を見詰める。

「今回の諸々の功績に対して何らかの返礼を与えなければならないが、如何せん現状では何ともしようがない、原隊に復帰の後何らかの褒賞を考えたいと思うが」

ギャエルは雄弁に話しつつ剣を鞘に収めた、少々きつかった様だが綺麗にそれは納まる、
「やはり、剣の重みが在ると腰の落ち着きが違うな」

そう独り言ちて腰を二度叩く、
「それで褒賞の件だが」

「今、頂く事は出来ますでしょうか」
キーツは賭けにでる事とした、この交渉が上手くいかなれば力づくも難しく無いのは確認出来た、むしろそちらの方が楽ではあるが、当初の予定通り平和的解決を優先しよう。

「今?だからそれが難しいと言っているではないか」

「いいえ、難しくはありません、貴方が所有している者があるではないですか」
キーツは焚火の側で縮こまる三人を見る、視線の先を追ったギャエルの眉間に皺が寄る、

「・・・そういう事か、それもまた一つだが・・・」
ギャエルは難しい顔を崩さず思案に暮れている、キーツは彼の思考を邪魔しないよう沈黙を維持しつつその顔色を伺う、

「知ってはいるだろうが、奴隷売買には厳しい約定がある、契約書と事務官の立ち合いが必須だ」

「勿論、存じています、しかし、彼等がこのままギャエル殿に付いていくとは思えません」
そこでとキーツは畳み掛ける、

「ギャエル殿の何らかのお墨付きが欲しいのです、証文と言うべきですか、彼等を軍に返還した際に何らかの礼を頂戴するという内容で、そうすれば後程彼等を軍に引き渡した際に私は礼を受け取り、失礼ですがギャエル殿は面目を保つことができましょう、さらに軍はその資産を担保でき、ギャエル殿は今すぐに行動に移れます、何よりその方が彼等にとっても貴方にとっても安全ではないですか」
如何でしょうとキーツはその言を締めた、ギャエルは渋面を崩さぬまま思案を続けるが一度三人に視線を合わせ溜息を吐く、

「貴方の言う通りかもしれんな」
そう言って腰のポーチから小さな羊皮紙を一枚それと金属片を苦労して取り出すと、焚火に戻りドカッと胡坐をかいて座りキーツにそこに座る様に視線で誘導する、キーツが従い彼の側に座ると、

「この羊皮紙はギャル家専用のものだ紋章が入っているのが分かるな」
羊皮紙を焚火に透かしその紋章を確認させる丸い和の中に獅子と羊が描かれている、

「おっと、蝋が溶けるぞ気を付けろ」
ギャエルはそう言ってキーツの手から羊皮紙をふんだくると、

「証文として軍配下の奴隷三人を一時的に預ける事、軍へ返還の際にはその市場価格の半分を受け取る権利を有する事、期間は20日間としその期間を過ぎた場合この証文は無効である事、他には何か必要か?」
焚火の明りがあるとは言え難儀しながら小さい羊皮紙に書き込んでいく、金属片は黒鉛であった、ギャエルの右手は徐々に黒く染まっていくが彼はそれをさして気にしていない様子である、

「はい、ギャエル殿の良きにして頂ければ」
キーツは当たり障りなくそう答える、

「では、以上だ、これとその三人を共に北方要塞に連れてくれば報酬を支払おう、事務官にはその旨通知しておく」
すっと紙片をキーツの前に差し出す、キーツはそれを恭しく受け取り、

「ありがとうございます、路銀も心許なかったもので」
と下卑た笑みを浮かべる、ギャエルはふんっと憤り結局金かと吐き捨てる、

「それから、先も言ったが奴隷売買は厳密に行われる、決して裏に流すような事はするな、それと売春行為も厳禁だ、知ってはいると思うがな」

「はい、勿論でございます」
キーツはそういって深く頭を下げた、

「では、これで良いな、要塞で会うのを楽しみにしているぞ」
ギャエルはそう言って立ち上がる、今度はしっかりとした足取りのまま屹立した、

「お前らはキーツ殿に従え、無駄死にするなよせっかく助かった命だ」
自分の事は棚に上げて何を言っているのかとキーツは思うもそれを口にする事はせず、この川にそって森を往けば街道に出られますと助言する、

「そうだな、ありがとう、ではな」
ギャエルは離別の言葉も簡単に踵を返すと森に入っていった、キーツはすぐさまジルフェを呼び出すと彼を監視するよう命令する、彼がこちらへ戻ってこないようにする事とせめて要塞までは見守ってやろうとの考えからであった、といっても何かあったとして助けに行く気はさらさら無かったが。
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