セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

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帝国 昇宮 6

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担当官が立ち上がり窓から二人の背中を視認する、暫くの間担当官はそうしていた、彼等が戻ってこない事を確認すると、フードを外しフンと一息吐く、担当官はエルフであった、銀色の真っすぐな長髪が窓際の陽光を捉え鮮やかに照り輝き、毛穴の無い真っ白い肌もそれに負けじと照り輝く、涼し気な切れ長の目、エルフには珍しく瞳は黒色である、それは黒色というにはあまりに黒く、まるで周囲の光を吸い付くそうとしているようだった、額には中心に大きな緑色の宝石を嵌めたサークレットを着けている、華奢なその風貌にはまるで釣り合わない無骨な品である、両耳の先を繋ぐエルフ独特の髪飾りがその無骨さを幾分か和ませているようだ、特徴的な耳の先端を木製の留め具で掴み緑色の宝石で装飾された紫色の飾り紐で両耳を繋ぎ止めている、担当官は自席に戻るとタイスに向き直る、

「私は宮の担当官、インゲラと申します」
語り口調は静かである、フードが無いせいか声はより透き通って聞こえた、独特の圧がある、先程迄の両親が同席した時とは違う空気がその場を支配する、

「貴方は宮に招かれました、とても栄誉な事です、もう、悩み苦しむ事はありません」
冷たい黒目がタイスを捉えサークレットの宝石もその目と同調しタイスを睨み付けている、口調は変わらず淡々と事務的であった、しかし、タイスは動けなかった、返答も儘ならない、インゲラと名乗ったエルフの声も届いていない、只両親の去った戸口を見詰め呆然としていた、小刻みに身体が震えて思考は戻らない、頬を流れる涙は途切れずそれは喉元を過ぎて襟元を濡らしている。

はぁと言葉にならない溜息を吐くとインゲラは立ち上がりタイスの視線を遮るようにタイスと戸口の間に割って入ると、腰を落としてタイスの目を真っすぐに覗き込んだ、

「貴方は宮に招かれました、とても栄誉な事です、もう、悩み苦しむ事はありません」
定型文なのであろうか繰り返し語り掛ける、二度、三度、回を増す毎にその口調はゆっくりとそしてハッキリとしたものになる。

六度目が終る頃タイスはやっと思考が戻った、視点がインゲラの瞳に合わさりやがて緑色の宝石へ、再びインゲラの瞳に合わさると、
「・・・どうして・・・」
やっと言葉を紡ぐ、そしてやっと身体が動いた一足飛びに戸口に駆け寄ると外に出る、半身が陽光を浴び人の行き交う庭園を目にした瞬間に足が竦んだ、

「た、助けて」
そう叫びたかったが囁き声になってしまう、道行く人は誰もタイスを一瞥もしない、
「タイス、戻りなさい」

背後から声がする、冷たい声である、駄目だ戻ったら駄目だ、そうタイスは思う、本能が危機を告げ一人の寂しさが足を前に出そうと食い縛る。

「タイス、戻りなさい」
再び声がする、より強い声音である、言葉はゆっくりとタイスの身体に染み渡ってやがて両足を支配していた力みがふっと消えた、前に出ようと、庭園に出て両親の背に追い縋ろうとする意識も柔らかく凝固され落ちていった。
タイスはゆっくりと振り向き後ろ手に戸口を閉めると自席へ戻る、その顔には恐怖の相も混乱のそれも無い、ゆっくりとした歩みで自席に着くと泣き腫らした赤い目でインゲラを見詰める、

「貴方は宮に招かれました、とても栄誉な事です、もう、悩み苦しむ事はありません」

インゲラは同じ言葉を繰り返す、タイスはインゲラの黒目に骨の髄から何かを抜き取られるような感覚を感じると同時に頭の中に幾つかの言葉が浮かんで消えて残った言葉を繋ぎとめ、
「はい、この上なくありがたきことで、幸せでございます」
そう呟いた、その瞬間息苦しさから開放された、大きく空気を吸い込んで吐き出した。

身体の隅々まで明るい元気が充ちるのが実感できる、その場で空に向かって駆け出したくなった、

「良い返事です、では、これに着替えて、その服はこちらへ」

インゲラは足元の籠から自身の物と同一の白の長衣と純白の布を一枚それと布と木で作られた履物をテーブルに置き、その籠をタイスの足元に置いた。

タイスは従順に着衣を脱いでいく、腰に着けたポーチを外し籠へ落とす、少量の硬貨と巡礼の証である各協会で集めた護符が入っている、護符は将来結婚する際の腰飾りにしようと大事にしていたものだ、外套を脱ぎ服を脱ぐその服は旅に出るにあたり母親が新調してくれた大事な余所行きである、タイスの好きな色の布を奮発して貰い母と二人で裁縫したものだ、旅に出る前からこんな素敵な事があるのかとタイスははしゃいでいた、その大事な余所行きを籠へ落とす、サンダルを脱ぎこれも籠へ素足で床に触れると冷たさがじんわりと伝わってくる。

タイスの持つ思い出が一つ一つ籠の中へ納まると、全裸になりテーブルの布に手を伸ばす、下着であろうと思って手にしたがどう身に着けてよいか分らなかった、表裏を確かめつつ思案していると、インゲラが優しくその布を受け取りタイスの腰に巻き付ける、独特の着け方であった、父親の下着に似ているなと思うもそれとはまた違う様子でもある。インゲラは履物に手を伸ばすと片足ずつ履かせていく、履き心地はすこぶる良かった靴裏は木になっているが足裏に布と綿の裏張りがしてある、足そのものを覆う布も肌触りの良い上等な品である、タイスの足にはやや大きかったがインゲラは構わずに長衣を手に取るとタイスの頭から被せ両袖を通す、それは見た目に反しとても軽く暖かであった、インゲラは軽くタイスの長衣の皺を伸ばし埃を払ったタイスの肩幅に合わせ長衣のバランスを整えるとフードを被せる、タイスは不意に視界を奪われるもぐっと頭と背を反らし目深く下ろされたフードの縦長の隙間からインゲラの顔を見上げた。

「それでは、着いて来て下さい、離れないようにこれを持って」
インゲラは自分の左袖をタイスに握らせると自身もフードを被る、二人はそのまま言葉少なにその部屋を退出した。
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