セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&

文字の大きさ
上 下
22 / 62
本章

帝国 昇宮 6

しおりを挟む
担当官が立ち上がり窓から二人の背中を視認する、暫くの間担当官はそうしていた、彼等が戻ってこない事を確認すると、フードを外しフンと一息吐く、担当官はエルフであった、銀色の真っすぐな長髪が窓際の陽光を捉え鮮やかに照り輝き、毛穴の無い真っ白い肌もそれに負けじと照り輝く、涼し気な切れ長の目、エルフには珍しく瞳は黒色である、それは黒色というにはあまりに黒く、まるで周囲の光を吸い付くそうとしているようだった、額には中心に大きな緑色の宝石を嵌めたサークレットを着けている、華奢なその風貌にはまるで釣り合わない無骨な品である、両耳の先を繋ぐエルフ独特の髪飾りがその無骨さを幾分か和ませているようだ、特徴的な耳の先端を木製の留め具で掴み緑色の宝石で装飾された紫色の飾り紐で両耳を繋ぎ止めている、担当官は自席に戻るとタイスに向き直る、

「私は宮の担当官、インゲラと申します」
語り口調は静かである、フードが無いせいか声はより透き通って聞こえた、独特の圧がある、先程迄の両親が同席した時とは違う空気がその場を支配する、

「貴方は宮に招かれました、とても栄誉な事です、もう、悩み苦しむ事はありません」
冷たい黒目がタイスを捉えサークレットの宝石もその目と同調しタイスを睨み付けている、口調は変わらず淡々と事務的であった、しかし、タイスは動けなかった、返答も儘ならない、インゲラと名乗ったエルフの声も届いていない、只両親の去った戸口を見詰め呆然としていた、小刻みに身体が震えて思考は戻らない、頬を流れる涙は途切れずそれは喉元を過ぎて襟元を濡らしている。

はぁと言葉にならない溜息を吐くとインゲラは立ち上がりタイスの視線を遮るようにタイスと戸口の間に割って入ると、腰を落としてタイスの目を真っすぐに覗き込んだ、

「貴方は宮に招かれました、とても栄誉な事です、もう、悩み苦しむ事はありません」
定型文なのであろうか繰り返し語り掛ける、二度、三度、回を増す毎にその口調はゆっくりとそしてハッキリとしたものになる。

六度目が終る頃タイスはやっと思考が戻った、視点がインゲラの瞳に合わさりやがて緑色の宝石へ、再びインゲラの瞳に合わさると、
「・・・どうして・・・」
やっと言葉を紡ぐ、そしてやっと身体が動いた一足飛びに戸口に駆け寄ると外に出る、半身が陽光を浴び人の行き交う庭園を目にした瞬間に足が竦んだ、

「た、助けて」
そう叫びたかったが囁き声になってしまう、道行く人は誰もタイスを一瞥もしない、
「タイス、戻りなさい」

背後から声がする、冷たい声である、駄目だ戻ったら駄目だ、そうタイスは思う、本能が危機を告げ一人の寂しさが足を前に出そうと食い縛る。

「タイス、戻りなさい」
再び声がする、より強い声音である、言葉はゆっくりとタイスの身体に染み渡ってやがて両足を支配していた力みがふっと消えた、前に出ようと、庭園に出て両親の背に追い縋ろうとする意識も柔らかく凝固され落ちていった。
タイスはゆっくりと振り向き後ろ手に戸口を閉めると自席へ戻る、その顔には恐怖の相も混乱のそれも無い、ゆっくりとした歩みで自席に着くと泣き腫らした赤い目でインゲラを見詰める、

「貴方は宮に招かれました、とても栄誉な事です、もう、悩み苦しむ事はありません」

インゲラは同じ言葉を繰り返す、タイスはインゲラの黒目に骨の髄から何かを抜き取られるような感覚を感じると同時に頭の中に幾つかの言葉が浮かんで消えて残った言葉を繋ぎとめ、
「はい、この上なくありがたきことで、幸せでございます」
そう呟いた、その瞬間息苦しさから開放された、大きく空気を吸い込んで吐き出した。

身体の隅々まで明るい元気が充ちるのが実感できる、その場で空に向かって駆け出したくなった、

「良い返事です、では、これに着替えて、その服はこちらへ」

インゲラは足元の籠から自身の物と同一の白の長衣と純白の布を一枚それと布と木で作られた履物をテーブルに置き、その籠をタイスの足元に置いた。

タイスは従順に着衣を脱いでいく、腰に着けたポーチを外し籠へ落とす、少量の硬貨と巡礼の証である各協会で集めた護符が入っている、護符は将来結婚する際の腰飾りにしようと大事にしていたものだ、外套を脱ぎ服を脱ぐその服は旅に出るにあたり母親が新調してくれた大事な余所行きである、タイスの好きな色の布を奮発して貰い母と二人で裁縫したものだ、旅に出る前からこんな素敵な事があるのかとタイスははしゃいでいた、その大事な余所行きを籠へ落とす、サンダルを脱ぎこれも籠へ素足で床に触れると冷たさがじんわりと伝わってくる。

タイスの持つ思い出が一つ一つ籠の中へ納まると、全裸になりテーブルの布に手を伸ばす、下着であろうと思って手にしたがどう身に着けてよいか分らなかった、表裏を確かめつつ思案していると、インゲラが優しくその布を受け取りタイスの腰に巻き付ける、独特の着け方であった、父親の下着に似ているなと思うもそれとはまた違う様子でもある。インゲラは履物に手を伸ばすと片足ずつ履かせていく、履き心地はすこぶる良かった靴裏は木になっているが足裏に布と綿の裏張りがしてある、足そのものを覆う布も肌触りの良い上等な品である、タイスの足にはやや大きかったがインゲラは構わずに長衣を手に取るとタイスの頭から被せ両袖を通す、それは見た目に反しとても軽く暖かであった、インゲラは軽くタイスの長衣の皺を伸ばし埃を払ったタイスの肩幅に合わせ長衣のバランスを整えるとフードを被せる、タイスは不意に視界を奪われるもぐっと頭と背を反らし目深く下ろされたフードの縦長の隙間からインゲラの顔を見上げた。

「それでは、着いて来て下さい、離れないようにこれを持って」
インゲラは自分の左袖をタイスに握らせると自身もフードを被る、二人はそのまま言葉少なにその部屋を退出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

強制フラグは、いりません! ~今いる世界が、誰かの二次小説の中だなんて思うかよ! JKと禁断の恋愛するなら、自力でやらせてもらうからっ!~

ハル*
ファンタジー
高校教師の俺。 いつもと同じように過ごしていたはずなのに、ある日を境にちょっとずつ何かが変わっていく。 テスト準備期間のある放課後。行き慣れた部室に向かった俺の目の前に、ぐっすり眠っているマネージャーのあの娘。 そのシチュエーションの最中、頭ん中で変な音と共に、俺の日常を変えていく声が聞こえた。 『強制フラグを、立てますか?』 その言葉自体を知らないわけじゃない。 だがしかし、そのフラグって、何に対してなんだ? 聞いたことがない声。聞こえてくる場所も、ハッキリしない。 混乱する俺に、さっきの声が繰り返された。 しかも、ちょっとだけ違うセリフで。 『強制フラグを立てますよ? いいですね?』 その変化は、目の前の彼女の名前を呼んだ瞬間に訪れた。 「今日って、そんなに疲れるようなことあったか?」 今まで感じたことがない違和感に、さっさと目の前のことを終わらせようとした俺。 結論づけた瞬間、俺の体が勝手に動いた。 『強制フラグを立てました』 その声と、ほぼ同時に。 高校教師の俺が、自分の気持ちに反する行動を勝手に決めつけられながら、 女子高生と禁断の恋愛? しかも、勝手に決めつけているのが、どこぞの誰かが書いている某アプリの二次小説の作者って……。 いやいや。俺、そんなセリフ言わないし! 甘い言葉だなんて、吐いたことないのに、勝手に言わせないでくれって! 俺のイメージが崩れる一方なんだけど! ……でも、この娘、いい子なんだよな。 っていうか、この娘を嫌うようなやつなんて、いるのか? 「ごめんなさい。……センセイは、先生なのに。好きに…なっちゃ、だめなのに」 このセリフは、彼女の本心か? それともこれも俺と彼女の恋愛フラグが立たせられているせい? 誰かの二次小説の中で振り回される高校教師と女子高生の恋愛物語が、今、はじまる。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...