セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&

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帝国 昇宮 3

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家族は歓喜の熱が冷め少々冷静になると街中で大騒ぎした事がなにか後ろめたく感じ、妙に縮こまってしまう、威丈高に振舞うのが常の警備兵に先導されての登城である、罪人でもないし捕縛された訳でもないが、かと言って無駄に胸を張るのも違う気がした、つまり、妙に居心地が悪いのである。

特に父親は酒に頼った訳でも無いのに感情を爆発させた為、その反動はとても大きく見えた、
「第二セドラン軍団・第三大隊ですか、私は第一セドラン軍団でした」
静かになった父親へ警備兵が声を掛ける、和ませる為か、話し好きなのか、それともただの郷愁か、セドラン軍団は第一・第二共に再編成され現在は第三軍団のみが運用されていた、第二セドラン軍団の紋章は黒薔薇で第一セドラン軍団は白百合である、

「あぁそれは嬉しい、奇遇ですね、というと貴方も北部出身?」
父親の顔が明るくなり歩を進めると警備兵と並び歩く、警備兵は北部の都市名を答え、

「訛りがまだあるでしょう、こっちに来て長いけどなかなか抜けなくて」
と破顔した、とても魅力的な笑みである、年齢的には父親と変わらない様子である、

「中隊長を1度、100人長を3度ですか、凄い」
警備兵は父親の腰部を見てそう続ける、近寄った事で鞘に記された焼き印の詳細を確認できたようだ、

「いやぁ、中隊長は記念ですよ、退役前の1週間だけ」
父親は謙遜し、懐かしそうに腰にさした短剣を摩る。
短剣は兵役を全うした証であった、軍で使用したものをそのまま受け渡され、その鞘には軍団を表す紋章と大隊・中隊・小隊名が記される、さらに隊長歴も記されていた。鞘はベルトの前面に横に挿すのが一般的であるが、最近の流行りは左の腰に縦挿しするらしい、帝都でも数人がそのように挿していた、実用的だなと父親は横目に眺めていた。どのように挿すにせよ、その短剣と鞘の刻印は兵役を勤め上げ生還した帝国市民の証明である、義務を全うした成人の誇りでもあった。

「いえいえ、記念の中隊長は私の部隊でもありましたが、皆素晴らしい兵士でしたよ」
警備兵は尚褒めちぎるも、

「すっかり、脾肉がついちゃってね、あの頃が懐かしい」
父親は鞘に触れていた手を腹に移動させ撫でさする、

「国では何を?」

「大麦と葡萄、家畜が少々、それと・・・まぁこれも名誉職でね、自警団を纏めとおります」
それは凄いと警備兵は目を丸くする、

「自警団も大変でしょう、最近獣が増えていると聞いております」

「そうですね、うちの周りはそうでもないかな、奥まってますし荒野からも離れてますから、もう少し忙しくても良い位でね、すっかり楽しておりますよ」

「それは良かった、平穏が一番ですよ、大麦と葡萄というと酒造ですか?」

「分かりますか、父親が生きてるときは酒もやってたんですがね、今は、畑が主でね、これでも奴隷が2人います」

「それは凄い、やり手じゃないですか」

「どうでしょうね、先代から受け継いだものと運が良かったので何とかかんとか・・・といった所ですよ」
なぁと母親に語り掛ける、二人の会話を何となしに聞いていた母親は何となしにそうねと相槌を打った、

「故郷の酒が懐かしいですよ、北の酒はこちらには少なくて」
薄いんですよね比較的と続けた。

タイスは二人の背中を見上げながら母親に手を曳かれちょこちょこと歩いている、お酒が無くても話が盛り上がっている二人を珍しそうに眺めていたが、さっき迄話題の中心であった自分がもう普段と変わらない扱いになった事に少々憤慨していたし、大人2人の会話は聡い少女とはいえまるで興味の湧く内容ではなかった、しかし、首都の警備兵と親し気に会話する父親はまるで別人に見えて誇らしく思えた、凱旋式の件もそうだが今日は父親への見識が大きく変わる日のようだ、旅は様々なものを見せくれるなと改めて感得する。

「さぁ、こちらです」
警備兵がこちらを振り向いてそう告げた、正面に一際高い塀が立つ、何者の手によるのか装飾が素晴らしい、堀を渡る跳ね橋を挟んで左側から物語が始まり右側で終わる一人の男の物語が描写されている、誰でもなく現皇帝その人の物語であった。
騎士への叙勲に始まり、一度目の魔軍戦、捕囚生活、荒野での冒険、二度目の魔軍戦、三度目の魔軍戦、魔王との一騎打ち、凱旋式の様子、王族との結婚、王との戦い、そして即位、塀を装う物語は大きく11場面に別れていて現皇帝の栄誉を讃えていた。

「素晴らしいですね、これは見逃せない」
父親はそう言って塀を見上げる、母親もタイスも呆気にとられ言葉も無く見上げた、塀は成人男性四名分の高さはあるだろうか、大路では見晴らしの悪さもあってその全容を認識できなかったが、塀を取り巻く堀の淵に立つと見る者を圧する威容が訪問客を睥睨する。
四人の立つ位置からは叙勲の場面と即位の場面しか見えていない、全場面を見るには堀をぐるりと散策する必要があった、それを日課にしている貴族もいるという。

「お嬢様には堀の中も良いんじゃない?」
警備兵はそういってタイスに堀を指差す、こちらも石造りの堀にふんだんに水が張られその中を魚が泳いでいた、川魚だろうか故郷の川にいるそれより各段に大きく数も多い、見た事の無い種類もいそうだ、

「すごいお魚だ、大きい」
タイスは見たものをそのまま口にしてその場に座り込む、堀には柵は無く地面との縁はブロック一個分の段差しかない、落ちないようにと警備兵は言って、

「大きいでしょう、でも、釣っても駄目、突いても駄目、網なんて以ての外」
捕まえなくちゃいけなくなっちゃうと警備兵は楽しそうに続けた、タイスは笑顔で彼を見上げ初めてこの警備兵に好感を持った。

但しと彼は続けポーチから小さなパンを取り出しタイスに渡す、
「餌はあげてもいいですよ、これを粉にしてあげてみて」
タイスはパンを受け取った、乾燥した古びたパンで食べるにはちょっと抵抗感がある代物であった、それを両手で粉にすると少量ずつ川へ撒く、すると川に浮いたパン屑に何匹もの魚が喰い付いた、

「すごい、楽しい、魚ってパン食べるんだ」
初めて知ったとタイスははしゃぐ、三人は釣られて笑顔になった、

「ここまで水を上げているのですか?」
母親が警備兵に問い掛ける、

「うーん、上げているというよりも引き込んでいます、ここら周辺は丘になっているでしょう、何気に高台なんですよ、緩やかなので分かりづらいですが、実は帝都で一番高い場所です、まぁ城ですしね」
と警備兵は笑顔を見せる、

「ですので城の裏側に前帝国の水道がありまして、それの下水分を堀に流しているのです、下水口は見えないですが、上水はほらあそこ」
と指を指す先に城壁と同じ高さの高架水道が見えた、城に引かれた水道を市街へ通し最後にはソンム川へ流れ込む、三本の高架水道が帝都を縦横に通っていた、

「他にも井戸からの水と湧き水も流れ込んでると聞いた事がありますが、水道の割合が大きいと思います」

「お魚は?」
楽し気にパン屑を撒き乍らタイスは警備兵を見上げる、警備兵は一瞬首を傾げるも、

「お魚は実は陛下のお魚です、堀が完成した際に戯れで放流されたそうで、きっと陛下の御威光ですねこんなに大きくなったのは」
警備兵は楽しそうに堀を見下ろす、

「パンが無くなったらいきましょうか、すぐそこです」
と警備兵は父親に告げ、父親はそうですねと了承する、母親も手伝ってパン屑を処理するとタイスは立ち上がり二度三度手を叩いてパン屑を落とす。
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