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本章
見知らぬ大地に降り立ちて 9
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「保護した現地知性体についてですが」
ジルフェは続ける、その言葉を聞いた瞬間キーツは顔面から血の気が引く音を実感し、あぁー忘れてたと頭を抱えた、
「もしかして、助けたままほったらかし?」
「はい、本艦外部に簡易キャンプを作成し時間凍結処理をしております」
「モニター出せる?」
瞬時に現場映像がハンドモニターに映る。
艦外は昼であった、艦内での状況対応が長引いた為ごっそりと時間感覚を無くしている事に気付く、さっそく修正された時刻表示を確認すると昼をやや過ぎた時刻で、そういえば食事を摂っていないなと気付くも空腹感は感じなかった、モニター映像から見る野外は柔らかい日差しが落ち周囲の草木が若干の風に煽られ気持ちよさげに揺れていた、川風かなとふと思う、遊びのキャンプには良い環境だな等と詮無い事を考えてしまう。
映像が動き簡易設置型の環境制御装置を中心にした絵になる、この装置を中心に青色の半透明ドームが生成されその内側が時間凍結処理の効果範囲となる、ドーム内は風雨を遮り気温・湿度管理が可能、その上時間制御・重力制御・大気制御(真空処理)も可能である等緊急時には大変重宝される装置である。
無機質な装置を中心に4体の生命体が同心円状に寝かせられていた、叢に寝台も無く横たわっている、うち一体には片腕が無く治療装置が肩を覆っていた、その一体のみ身なりが整っている、柔らかそうな薄手の半袖と長ズボンを身に着け、その上から革製の簡易的な鎧に膝まで覆うブーツ状のサンダル、一際目を引くのが厚手の黄色いマント、ベルトにはその主は失われているが革製の鞘が大小2つと雑貨類を収める為と思われる幾つかのポーチが括り付けられている、特筆すべきはベルトから伸びる大腿部側面を覆う垂れであろうか、鋲と焼き印で衣装が凝らせれており美しくも雄々しい馬のような生物の絵が記されている、それらは彼自身の出血と泥と草汚れで大変薄汚い。
他3体の身に着けているものはとても衣服とは呼べない代物であった、麻に似た材質で袋状の品物に顔と腕を出す穴を開けた程度の代物である、袋の大きさは共通している為か小柄な2体は膝まで覆われ、やや大柄な1体は太ももが露わになっている。手足の戒めは解かれており顔を覆っていた袋を外されていた、痛々しさはだいぶ和らいでいたがこの3体と鎧の1体の関係を想像すると良好なものではないかもしれない。
さらにそれぞれの外観を観察すると、鎧を来た1体は濃い茶色の癖毛に浅黒い肌、これは日焼けの為かと思われる、髪と同色の不精髭が顔面下部を覆っている、地球人を例にとれば地中海周辺の民族を思い出させた、露出した腕の筋肉は充分以上に発達し、残った右手はごつごつとして非常に無骨である、良く鍛えていると評せる肉体である、見た目だけでは年齢について判断できない。
拘束された比較的大柄な1体はとても美しい金色の髪が腰まで伸びている、癖の無い直毛でアヤコの例を引くまでも無く手入れが大変そうである、肌は白いが生物的な血色ではなく人工的な白色で陶磁器を思い出させる、さらなる観察が必要であるが体毛は無いか薄く、髪以外の毛は眉毛と睫毛程度であろうか、産毛すら無さそうである。顔の作りは地球人と変わりないが耳は笹の葉のように長く尖っている、それが頭部に沿って後方へ伸びていた、ある種の髪留めのようにも見える。筋肉は少なく手足は細く長い、対して胴は短く頭部も小さい、生物としては大変儚げな印象を受ける、恐らく女性か、女性であって欲しいなとキーツは何となく思ってしまうそれほど美しいと表される容姿であった、その為身形から受ける印象の乖離が酷く、その置かれた社会的状況を想像すると何とも複雑な気持ちにさせられる。
残り2体は良く似ているがそれは遠目であればと条件を付ける必要がある、2体共に顔はおろか全身が黒く濃い体毛で覆われており、衣服の下は確認できないが恐らく尻尾が存在するであろう、顔は獣のそれである、地球基準で考えれば一体は犬か狼、もう一体は野性の猫を思い出させる、狼顔の個体は力強い牙が白くその口元を彩っており凶暴性が感じられ、それに比すれば猫顔の個体は大変愛くるしい印象を受けた、共に子供なのであろうか、キーツの持つ常識からすると獣型の知性体は大柄である事が多い、そう思って観察すると閉じた目と顔の比率、それから頭頂部の耳の配置等がその仮定を補完していると感じる。
4体共に共通するのは2足歩行である点と腕が2本である点、銀河連合の標準的知性体とされる生物群の特徴に合致する、これは連合の「原初知性体発生学」で最も重大な研究テーマとされているもので、社会性を持ち様々な技術を開発した挙句銀河に進出した知性体には共通点が多い、その共通性が惑星環境によるものか発生段階によるものか様々な論が噴出し活発に議論されている学問であるが、この惑星の知性体と仮定して保護した生物もその例に漏れないようだ、地球人と良く似た生物が2種、獣型と分類される生物が2種、キーツが同化浸透するのは難しくないようであった。
モニター越しに知性体を観察しつつ、そういえばとキーツは口を開く、
「彼らを保護してからの経過時間は?」
「現地時間で3日と13時間20分です」
ゲッ、とキーツは驚く、再び頭を抱えつつ先に確認しておくべきだったと呟く、というかやはりパートナーかアシスタントの必要性を強く感じ、うがぁとわざとらしく悲鳴を上げた、
「大丈夫ですかマスター?」
勿論だと返答し、さてとと映像へ目を移す、
「彼らの状態は?」
「保護した知性体は4種4体、麻痺状態を治療し就眠状態です、片腕を欠損した個体に対して表面細胞を培養固定処理しております、また、4体共に若干の栄養不足でしたので経口にて非常食を流し込んであります」
「彼らの個体経過時間は?」
「こちらへ搬入してから3時間程度です」
「なにか情報は取り込んだ?」
「いいえ、知性体からの情報収集はマスター又はミストレスの指示が必要です、その方法について及び収集事項も指示願います」
「できるだけ肉体・精神共に影響が少ない方法で具体的手技は任せる、取り合えず言語・文字・社会習慣について重点的に収集して欲しい、技術的観点と周辺地域の名称も必要かな?」
「了解致しました、時間は掛かりますが睡眠下での口頭審問、イメージ誘導による脳内映像の抽出・解析を致します。この手技であれば対象に対する負荷は少ないものと思われますが、未知の生物ですので薬剤を用いた手技は忌避する事とします、尚、遺伝情報と寄生生物・共生細菌の調査も提案致します、今後マスターがこの惑星上で活動するのであれば、細菌類への対応が必要であると考えます」
「あぁ、そうだね、俺は異物だったな」
地球へ派遣される前も大変不愉快な思いをして細菌類への適応処理をしたものだと思い出す。
ちょっと待てとキーツは言って、
「もしかしてあの処理をまた受けるの?」
キーツは悲し気にジルフェを見上げる、
「あの処理がなにを指しているかが分かりません」
キーツは、あぁと呻きつつ目を閉じて天を仰ぐ、
「要望を言わせてもらうと、できれば経口摂取と全身滅菌程度で適応処理をお願いしたいのですが」
「惑星環境適応処理については調査・分析結果をお待ちください、処理内容についてはその後提案させて頂きます」
なるべく優しくしてねと弱弱しく答える、
「4時間程度時間を頂きます、手技を始めて宜しいですか?」
許可するとキーツが答えると、映像内にジルフェが8体飛び込んできた、内4体は医療装置付きである。
しかしとキーツは思う、本格的にこの惑星上での活動を考えなければならない、アヤコの捜索、連合への帰還が最重要として、成り行きと使命感で保護してしまった彼等をせめて生存できる環境へ戻してやりたいし、自分自身の生存という問題もある、艦内に引きこもれば生存に関しては何ら問題は無いとしても、せっかくの知性体揺籃惑星の発見なのだ、この星を探検してみたいとの気持ちが湧いてきていた。
銀河連合での経験も地球での経験もそれぞれが新しい発見と冒険と勉強の日々であったが、それらはある程度成熟した文明の上に成り立った事象であった、技術は成熟し大系化され、人命を尊重する社会と規範が根底に育まれ、他者との関わりは形式を経て友誼へと昇華される、それらは恐らく知性体の群れとして到達できうる最高峰にあると思われるし、幾つかの文明に触れたキーツ本人も、幼少期に教えられたお題目が決して論で終わらずに実際の結果として和を生み出している事を経験し、その利を享受してきた。
しかし、キーツが知らない常識がこの星にはまだ存在しているようだ、それは銀河連合に参画できる文明社会がとうの昔に経過した社会常識である、その社会が今目の前にあるのだ、これは書に頼るしか歴史を知りうる方法が無い連合加盟国にとってはまたとない事例研究となる、巨大な次元口の調査やエーテルの研究も勿論だが、キーツにとってはこの発展途上の文明社会がより探求心をそそられた。
とどのつまりは冒険したいのである、探検したくなったのだ、知性体が死と常に隣り合わせの畜生らしく生きている文明社会が目の前にあるのだ、剣と鎧の世界である、獣人や人形のように美しい生物が存在し、それらを軽々と屠る醜い外敵もいる、都合の良い事にキーツと似た知性体もいるのだ、冒険するなと探検するなと言うのは無理な話である。
興奮しているな、と思考の一片が警告する、らしくない、冷静になれとさらに警告がする。
キーツは頭を掻いて伸びをすると、エーテルの影響かしら等と考えつつ、暴走気味であった思考を制した、
「ジルフェ、少し相談に乗ってくれ」
言葉にする事にする、少しは思考も整頓させるだろう、
「はい、マスター何か?」
ジルフェがふらっと視界に入る、
「今俺が置かれている状況を整理したい、何が出来て何が出来ないか」
「はい、まずはマスターに対する法的問題についてですが」
「いや、ごめん、そうじゃない」
キーツは遮り言葉を選んで口を開く、
「アヤコの件と連合への帰還、これが第一」
いいねと念を押す、ジルフェは肯定で答えた、
「次に保護した知性体の・・・世話といっては失礼だな、返還?安全域への送達というべきか」
「はい、マスターがそのように処理方法を決定したのであればそれを尊重します、連合規則に準じた場合、知性体保護条例に照らしても適法と判断できます」
「その為にはこの惑星での浸透同化が必要となる、その為の情報は現在収集中であると・・・、これは認められる?」
ジルフェは二度三度回転し、
「浸透同化に関しては可能であります、現状を連合規約に照らしますと乗員の保護が最優先となり、次に技術情報の隠蔽になります、惑星上での活動を禁止する規約は存在しません、それと言うのも今回のように事故による未発見惑星への漂着例は5例、さらに知性体揺籃惑星が対象となると前例はありません、その上、連合との通信途絶状態であります、以上の条件を勘案し判断致します」
ジルフェは何気に規約条項を説明する、かなりの要約っぷりであったが彼の行動規範の根底に存在するものである以上、キーツがそれを理解する事が最善であると判断したのであろう。
「すると、俺は、ある程度自由に行動できる訳だ」
「はい、我々は続けてサポートが可能ですし、本艦の装備も利用可能であります」
それは良かったとキーツは答えると、但しとジルフェは続け、
「マスター本人の死去若しくは精神情報の経時的断絶が確認され、ミストレスの不明状態が解消されなかった場合、本艦は自律行動へ移行しやがて自壊行動を取ります、その点御了解下さい」
「・・・その場合、囚人は?」
「艦と運命を共にします、現在彼等は、存在権を失効し本艦の備品扱いです」
怖いねと薄く笑って、晴れやかにこう続けた、
「ありがとう、となれば俺の価値観で動くよ、今まで通りのサポートを頼む」
「はい、マスター」
とても良い返事を背に立ち上がると、
「プレイルームに行く、現地情報の収集が終わったら声を掛けてくれ」
「はい、マスター、その前に活動記録についての確認修正ですが」
と出鼻を挫かれた、キーツは思わずノーと叫ぶ、
「モニターへ転送します、御確認下さい」
冷徹なジルフェの言葉とモニターに踊る文字列を視界の端に捉え、キーツは再びノーと叫んだ。
ジルフェは続ける、その言葉を聞いた瞬間キーツは顔面から血の気が引く音を実感し、あぁー忘れてたと頭を抱えた、
「もしかして、助けたままほったらかし?」
「はい、本艦外部に簡易キャンプを作成し時間凍結処理をしております」
「モニター出せる?」
瞬時に現場映像がハンドモニターに映る。
艦外は昼であった、艦内での状況対応が長引いた為ごっそりと時間感覚を無くしている事に気付く、さっそく修正された時刻表示を確認すると昼をやや過ぎた時刻で、そういえば食事を摂っていないなと気付くも空腹感は感じなかった、モニター映像から見る野外は柔らかい日差しが落ち周囲の草木が若干の風に煽られ気持ちよさげに揺れていた、川風かなとふと思う、遊びのキャンプには良い環境だな等と詮無い事を考えてしまう。
映像が動き簡易設置型の環境制御装置を中心にした絵になる、この装置を中心に青色の半透明ドームが生成されその内側が時間凍結処理の効果範囲となる、ドーム内は風雨を遮り気温・湿度管理が可能、その上時間制御・重力制御・大気制御(真空処理)も可能である等緊急時には大変重宝される装置である。
無機質な装置を中心に4体の生命体が同心円状に寝かせられていた、叢に寝台も無く横たわっている、うち一体には片腕が無く治療装置が肩を覆っていた、その一体のみ身なりが整っている、柔らかそうな薄手の半袖と長ズボンを身に着け、その上から革製の簡易的な鎧に膝まで覆うブーツ状のサンダル、一際目を引くのが厚手の黄色いマント、ベルトにはその主は失われているが革製の鞘が大小2つと雑貨類を収める為と思われる幾つかのポーチが括り付けられている、特筆すべきはベルトから伸びる大腿部側面を覆う垂れであろうか、鋲と焼き印で衣装が凝らせれており美しくも雄々しい馬のような生物の絵が記されている、それらは彼自身の出血と泥と草汚れで大変薄汚い。
他3体の身に着けているものはとても衣服とは呼べない代物であった、麻に似た材質で袋状の品物に顔と腕を出す穴を開けた程度の代物である、袋の大きさは共通している為か小柄な2体は膝まで覆われ、やや大柄な1体は太ももが露わになっている。手足の戒めは解かれており顔を覆っていた袋を外されていた、痛々しさはだいぶ和らいでいたがこの3体と鎧の1体の関係を想像すると良好なものではないかもしれない。
さらにそれぞれの外観を観察すると、鎧を来た1体は濃い茶色の癖毛に浅黒い肌、これは日焼けの為かと思われる、髪と同色の不精髭が顔面下部を覆っている、地球人を例にとれば地中海周辺の民族を思い出させた、露出した腕の筋肉は充分以上に発達し、残った右手はごつごつとして非常に無骨である、良く鍛えていると評せる肉体である、見た目だけでは年齢について判断できない。
拘束された比較的大柄な1体はとても美しい金色の髪が腰まで伸びている、癖の無い直毛でアヤコの例を引くまでも無く手入れが大変そうである、肌は白いが生物的な血色ではなく人工的な白色で陶磁器を思い出させる、さらなる観察が必要であるが体毛は無いか薄く、髪以外の毛は眉毛と睫毛程度であろうか、産毛すら無さそうである。顔の作りは地球人と変わりないが耳は笹の葉のように長く尖っている、それが頭部に沿って後方へ伸びていた、ある種の髪留めのようにも見える。筋肉は少なく手足は細く長い、対して胴は短く頭部も小さい、生物としては大変儚げな印象を受ける、恐らく女性か、女性であって欲しいなとキーツは何となく思ってしまうそれほど美しいと表される容姿であった、その為身形から受ける印象の乖離が酷く、その置かれた社会的状況を想像すると何とも複雑な気持ちにさせられる。
残り2体は良く似ているがそれは遠目であればと条件を付ける必要がある、2体共に顔はおろか全身が黒く濃い体毛で覆われており、衣服の下は確認できないが恐らく尻尾が存在するであろう、顔は獣のそれである、地球基準で考えれば一体は犬か狼、もう一体は野性の猫を思い出させる、狼顔の個体は力強い牙が白くその口元を彩っており凶暴性が感じられ、それに比すれば猫顔の個体は大変愛くるしい印象を受けた、共に子供なのであろうか、キーツの持つ常識からすると獣型の知性体は大柄である事が多い、そう思って観察すると閉じた目と顔の比率、それから頭頂部の耳の配置等がその仮定を補完していると感じる。
4体共に共通するのは2足歩行である点と腕が2本である点、銀河連合の標準的知性体とされる生物群の特徴に合致する、これは連合の「原初知性体発生学」で最も重大な研究テーマとされているもので、社会性を持ち様々な技術を開発した挙句銀河に進出した知性体には共通点が多い、その共通性が惑星環境によるものか発生段階によるものか様々な論が噴出し活発に議論されている学問であるが、この惑星の知性体と仮定して保護した生物もその例に漏れないようだ、地球人と良く似た生物が2種、獣型と分類される生物が2種、キーツが同化浸透するのは難しくないようであった。
モニター越しに知性体を観察しつつ、そういえばとキーツは口を開く、
「彼らを保護してからの経過時間は?」
「現地時間で3日と13時間20分です」
ゲッ、とキーツは驚く、再び頭を抱えつつ先に確認しておくべきだったと呟く、というかやはりパートナーかアシスタントの必要性を強く感じ、うがぁとわざとらしく悲鳴を上げた、
「大丈夫ですかマスター?」
勿論だと返答し、さてとと映像へ目を移す、
「彼らの状態は?」
「保護した知性体は4種4体、麻痺状態を治療し就眠状態です、片腕を欠損した個体に対して表面細胞を培養固定処理しております、また、4体共に若干の栄養不足でしたので経口にて非常食を流し込んであります」
「彼らの個体経過時間は?」
「こちらへ搬入してから3時間程度です」
「なにか情報は取り込んだ?」
「いいえ、知性体からの情報収集はマスター又はミストレスの指示が必要です、その方法について及び収集事項も指示願います」
「できるだけ肉体・精神共に影響が少ない方法で具体的手技は任せる、取り合えず言語・文字・社会習慣について重点的に収集して欲しい、技術的観点と周辺地域の名称も必要かな?」
「了解致しました、時間は掛かりますが睡眠下での口頭審問、イメージ誘導による脳内映像の抽出・解析を致します。この手技であれば対象に対する負荷は少ないものと思われますが、未知の生物ですので薬剤を用いた手技は忌避する事とします、尚、遺伝情報と寄生生物・共生細菌の調査も提案致します、今後マスターがこの惑星上で活動するのであれば、細菌類への対応が必要であると考えます」
「あぁ、そうだね、俺は異物だったな」
地球へ派遣される前も大変不愉快な思いをして細菌類への適応処理をしたものだと思い出す。
ちょっと待てとキーツは言って、
「もしかしてあの処理をまた受けるの?」
キーツは悲し気にジルフェを見上げる、
「あの処理がなにを指しているかが分かりません」
キーツは、あぁと呻きつつ目を閉じて天を仰ぐ、
「要望を言わせてもらうと、できれば経口摂取と全身滅菌程度で適応処理をお願いしたいのですが」
「惑星環境適応処理については調査・分析結果をお待ちください、処理内容についてはその後提案させて頂きます」
なるべく優しくしてねと弱弱しく答える、
「4時間程度時間を頂きます、手技を始めて宜しいですか?」
許可するとキーツが答えると、映像内にジルフェが8体飛び込んできた、内4体は医療装置付きである。
しかしとキーツは思う、本格的にこの惑星上での活動を考えなければならない、アヤコの捜索、連合への帰還が最重要として、成り行きと使命感で保護してしまった彼等をせめて生存できる環境へ戻してやりたいし、自分自身の生存という問題もある、艦内に引きこもれば生存に関しては何ら問題は無いとしても、せっかくの知性体揺籃惑星の発見なのだ、この星を探検してみたいとの気持ちが湧いてきていた。
銀河連合での経験も地球での経験もそれぞれが新しい発見と冒険と勉強の日々であったが、それらはある程度成熟した文明の上に成り立った事象であった、技術は成熟し大系化され、人命を尊重する社会と規範が根底に育まれ、他者との関わりは形式を経て友誼へと昇華される、それらは恐らく知性体の群れとして到達できうる最高峰にあると思われるし、幾つかの文明に触れたキーツ本人も、幼少期に教えられたお題目が決して論で終わらずに実際の結果として和を生み出している事を経験し、その利を享受してきた。
しかし、キーツが知らない常識がこの星にはまだ存在しているようだ、それは銀河連合に参画できる文明社会がとうの昔に経過した社会常識である、その社会が今目の前にあるのだ、これは書に頼るしか歴史を知りうる方法が無い連合加盟国にとってはまたとない事例研究となる、巨大な次元口の調査やエーテルの研究も勿論だが、キーツにとってはこの発展途上の文明社会がより探求心をそそられた。
とどのつまりは冒険したいのである、探検したくなったのだ、知性体が死と常に隣り合わせの畜生らしく生きている文明社会が目の前にあるのだ、剣と鎧の世界である、獣人や人形のように美しい生物が存在し、それらを軽々と屠る醜い外敵もいる、都合の良い事にキーツと似た知性体もいるのだ、冒険するなと探検するなと言うのは無理な話である。
興奮しているな、と思考の一片が警告する、らしくない、冷静になれとさらに警告がする。
キーツは頭を掻いて伸びをすると、エーテルの影響かしら等と考えつつ、暴走気味であった思考を制した、
「ジルフェ、少し相談に乗ってくれ」
言葉にする事にする、少しは思考も整頓させるだろう、
「はい、マスター何か?」
ジルフェがふらっと視界に入る、
「今俺が置かれている状況を整理したい、何が出来て何が出来ないか」
「はい、まずはマスターに対する法的問題についてですが」
「いや、ごめん、そうじゃない」
キーツは遮り言葉を選んで口を開く、
「アヤコの件と連合への帰還、これが第一」
いいねと念を押す、ジルフェは肯定で答えた、
「次に保護した知性体の・・・世話といっては失礼だな、返還?安全域への送達というべきか」
「はい、マスターがそのように処理方法を決定したのであればそれを尊重します、連合規則に準じた場合、知性体保護条例に照らしても適法と判断できます」
「その為にはこの惑星での浸透同化が必要となる、その為の情報は現在収集中であると・・・、これは認められる?」
ジルフェは二度三度回転し、
「浸透同化に関しては可能であります、現状を連合規約に照らしますと乗員の保護が最優先となり、次に技術情報の隠蔽になります、惑星上での活動を禁止する規約は存在しません、それと言うのも今回のように事故による未発見惑星への漂着例は5例、さらに知性体揺籃惑星が対象となると前例はありません、その上、連合との通信途絶状態であります、以上の条件を勘案し判断致します」
ジルフェは何気に規約条項を説明する、かなりの要約っぷりであったが彼の行動規範の根底に存在するものである以上、キーツがそれを理解する事が最善であると判断したのであろう。
「すると、俺は、ある程度自由に行動できる訳だ」
「はい、我々は続けてサポートが可能ですし、本艦の装備も利用可能であります」
それは良かったとキーツは答えると、但しとジルフェは続け、
「マスター本人の死去若しくは精神情報の経時的断絶が確認され、ミストレスの不明状態が解消されなかった場合、本艦は自律行動へ移行しやがて自壊行動を取ります、その点御了解下さい」
「・・・その場合、囚人は?」
「艦と運命を共にします、現在彼等は、存在権を失効し本艦の備品扱いです」
怖いねと薄く笑って、晴れやかにこう続けた、
「ありがとう、となれば俺の価値観で動くよ、今まで通りのサポートを頼む」
「はい、マスター」
とても良い返事を背に立ち上がると、
「プレイルームに行く、現地情報の収集が終わったら声を掛けてくれ」
「はい、マスター、その前に活動記録についての確認修正ですが」
と出鼻を挫かれた、キーツは思わずノーと叫ぶ、
「モニターへ転送します、御確認下さい」
冷徹なジルフェの言葉とモニターに踊る文字列を視界の端に捉え、キーツは再びノーと叫んだ。
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(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
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巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
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