セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&

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見知らぬ大地に降り立ちて 8

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キーツの姿は食堂兼会議室兼事務室へ移っていた、2人で使用した場合も伽藍とした広さに寂しさを感じたものであったが、1人になると猶更で、40人は余裕で食事の摂れる空間で、キーツはいつものレプリケーターの側に陣取っている、そこは部屋の隅にあたるものだから1人の侘しさが増すばかりであった。

困ったねと言いつつキーツはハンドモニターを虚空に捧げつつジルフェからの報告書に目を通す、報告内容は多岐に渡りクラシカルな百科辞典何冊分かと意味もなく文字数をカウントしてページ数を計算してしまう。

施術した拘束具の具合は大変好調で施術箇所の痒みも無く、違和感も感じない、ジルフェ相手に使用テストを何度か繰り返したがキーツ本人にその変化は実感しにくく、アナログ時計を見ながら認識速度の調整を試したが中々に楽しいと感じてしまう。
しかしとキーツは思う、スーパーパワーを持つ同僚刑事を何人も見てきたが、それは地球人に比してのスーパーパワーであって彼らの常識的生活内では彼等はあくまで一般人なのであった、筋力が強すぎて持ち上げるだけで粉砕してしまう物品や、反応が遅すぎて会話にもならない隣人に囲まれて、その常識的日常と生活習慣を抑制しなければならない彼等の心中を想像すると、これはイラつくよなと素直に理解できた、かと言って事あるごとに地球人をネタにした罵詈雑言を浴びせられた事や、地球人であるというだけで専ら後方支援に回されていた事に対する怒りは消えるものでは無い、いつかぶっ飛ばすと何度も本気で思ったがそれも叶うかなと考え少しばかり溜飲を下げた。
あ、俺とアヤコの扱いの違いは看過出来ないなと、まるで奴隷と貴族のような扱いの差別を思い出し、やっぱりぶっ飛ばすと心に決めた、それが出来る力を手に入れたし、正攻法でぶっ飛ばす、その為には・・・。少々後ろ向きであったが本部に帰還する新しい動機を手に入れた。

「マスター、お困りですか」
後ろ暗い妄想に逃避していたキーツを見かねジルフェが声を掛ける、キーツは目頭を押さえ妄想を振り払うとハンドモニターに視点を合わせ、中々頭に入ってこない専門用語と数字の羅列に改めて向き合った、しかし、駄目である、キーツは魂の抜けた目でジルフェを見上げると困ったよと呟く、

「やっぱり、アヤコがいないと駄目だなぁ、情報処理は苦手というより面倒でね、軍人時代にこの手の処理はゲロを吐く程やったから、それにこの端末はアヤコ用にカスタムしてないか、今ひとつこうなんとも」

困惑はやがて愚痴に変わって、ぶつぶつと言葉にならない戯言を生成し続ける。
やがてその声も途切れハンドモニターをテーブルに置きスッと立ち上がると腰を伸ばした。

「身体に違和感ですか?モニター値は正常です」

「あぁ、ありがとう、お気遣い無く」
はぁーと息を吐くと、御目付け役か子守役かはたまた口うるさい家庭教師かとぐちぐち言いつつ椅子へ座り直すと、

「うん、遊んでられない、ジルフェ、報告内容が細かすぎる、まずは、アヤコについて分った事は」

「はい、現在ソウヤ4番艦を地上及び周辺宙域にて捜索中、救難信号無し、機影無し、次元通信痕跡無し、動力炉反応識別難、全通信チャンネルにて応答を要請しておりますが返信ありません」

ジルフェの返答を受けゆっくりと思考する、既に観測衛星及び調査衛星共に予定の軌道に入り各種データが送られてきている、ハンドモニターにはこの惑星の地図も雲の厚い部分を除いて完成しているとの報告もあった、キーツの考えうる対応策はジルフェの提案するそれを超えるものでは無く、アヤコの捜索についてはこのままジルフェに一任するのが得策であろう、キーツは歯噛みながらもそうせざるを得ないと結論付ける、

「引き続き捜索を続けてくれ、捜索に於いて問題は?」

「次元痕跡が多数惑星上に観測されております、この痕跡が捜索に何らかの影響を及ぼしている可能性があります。また同様の痕跡が周辺宙域にも確認されており、こちらは惑星上のものと比し大規模なものです、この規模の次元口は銀河連合に於いては禁止される規模です」

「禁止レベル?すごいな、そこまでいくとどれだけのエネルギーが必要になるか」
あぁ計算しなくていいよとキーツは続け、

「俺の知る限り、次元口は自然発生するものではないと思うが」

「はい、銀河連合の記録によると自然発生と思われる次元口は2例確認しておりますが、学術的な検証はされておりません」

「つまり、それは・・・原因不明って事だろ」

「はい、そうですね2例共にその可能性があるとされている程度です」

「するとこの惑星には次元技術を持った存在があるという事?」
俄然面白くなってきた、

「はい、その可能性が高いです、ですが本惑星に我々の技術水準に到達している文明があるとは考えられません、惑星全域の技術程度は石器~鉄器時代初期と推測されます、次元技術の根幹装置には少なくとも炭素精製が必要となります」
キーツはハンドモニターを手にすると惑星地図を立体表示させた、続いて痕跡をオーバーラップ表示させる、

「うーん、痕跡は陸上に集中しているわけではないのか・・・」
痕跡は赤い球体で表示されているが、陸上のみならず海上にも多数点在しその高低もまちまちである、

「時系列表示は可能?」

「申し訳ありません、できません」

「ん?観測機器の能力不足?」

「はい、ショウケラの観測能力ですと時間座標の調査は不可能です」
しょうがないかと返答し、

「これが捜索の妨げになっている?」

「はい、次元技術を一般使用していない惑星であればソウヤの持つ動力炉が仮に停止していても次元歪曲を観測する事によりその存在を割り出せます、また次元通信の痕跡も同様でありますが、それが不可能であります。また、我々の次元技術と周波数帯が被るものも多数観測されておりますので、その中からソウヤの動力炉を選別する事は困難な状況です」

「それが動力炉捜索の難点か・・・、時間を掛ければ可能?」
ジルフェは高速で2度回転し、

「現在の観測機器では時間が掛かりすぎます、計算上・・・」
わかったとキーツは答え、暫し沈思する。

「今後の調査方針として、現状出来うることをフル活用してくれ、必要なものがあればすぐに相談すること、場合によっては俺の許可は必要無い、但し現地知性体に影響を及ぼす事が無いように、ま、俺が特別指示する必要は無いと思うけれども」
影響の中には知性体に発見される事・気付かれる事が第一義として定義される、

「了解致しました」

ジルフェは殊勝にそう返答するが、出来うることはほぼ実行している状況である、それはキーツも理解している所であるが、銀河連合が誇る最新鋭の巡視艇とその装備を惜し気も無く使い倒してこの体たらくは言葉にならぬ程歯痒い、まだなにか出来る事は無いかと思案を重ねるも何とも良案は浮かばなかった。
アヤコが居ればと呟きそうになり言葉をの飲み込んで、

「次は、惑星情報を頼む、詳細は・・・これか」
ハンドモニターをちょこちょこと弄り惑星地図に情報を追加してゆく、

「はい、では重要項目のみ申しますと、平均重力は0.982G、直径及び予想重量は地球とほぼ同じです、1日の時間は地球換算で25時間16分30秒、公転周期450.3381199日、陸地と海洋の面積比は35対65、現在位置は地図上へ表記されております」
ジルフェの説明を聞き流しつつより現在地を確認する、赤道と仮の北極点に対しやや赤道より、地球であれば過ごし易い地域であった、続いて詳細なデータに目を通す、

「外気は快適だと感じたけれど、現在地の温度と湿度はこれか、季節は分かる?」

「予想となりますが、現地点の冬至と夏至から判断しますと初夏であると考えられます」
これから暑くなるのか等と詮無い事を思いつつ、

「まぁ、季節の定義は曖昧だからな」

「はい、文化に依拠する所が大きいです、地球を参考に致しました事をご理解下さい」
つまらない事を聞いたと反省しつつ、

「恒星系の情報をモニターへ」
瞬時にハンドモニター内の球体が縮小し、恒星系図が表示される、巨大な天体を中心に10のそれを取り巻く円と幾つかの楕円が表示された、

「まずは、本惑星の衛星ですが、4つ観測されております、巨大な衛星が一つ、それに比して半分以下の衛星が3つとなります、その構成物質等は調査しておりません、次に恒星系についてですが、惑星数は10、これは銀河連合の惑星基準に合致した惑星のみをカウントしております、本惑星は恒星から近い順に5番目の位置になります、他、彗星と思われる動きの天体が4つ、準惑星系が4つ、小惑星群と思われるものが2つ、恒星系の調査については時間が掛かりますので、引き続き観測を続けます、尚、表記しました惑星及び衛星の軌道は予想であります事を申し加えます」
了解とキーツは答え、

「その次元痕跡についてはどうなってる?」

「はい、表示致します、詳細を述べますと本惑星の周囲、最も遠い第10惑星周囲、小惑星群中心部に集中しております、こちらもその痕跡数は観測できましたが時間座標の観測は不可であります」

「すごいね、これが禁止レベルの次元口?我々と同等以上の技術文明が存在するということかな?」
恒星系図内の最外縁にある惑星付近に惑星とほぼ同じ大きさの次元口を示す表示が重なっている、

「はい、銀河連合では作成された事の無い規模です、さらに観測を続けますが、これ以上の調査には調査団の派遣を進言します」

「そうだね、・・・けれど、こちらに直接影響が無い限り調査を優先する必要はないよ」
他に重要な事はある?とキーツが続けると、

「恒星を含め命名権があります、如何致しますか」

「・・・全部で幾つ?あっ答えなくいい、それはこの惑星の知性体に任せたいかな」

「了解致しました、その旨記録致します、次に時間基準の修正が必要と考えます」
それは大事だとキーツは同意し、24時制を採用し1秒の時間を調整する事で対応する事とした、単純に地球で慣れていた事もあるが1秒を少々長くすれば対応可能である点が簡便であったのが大きかった。

「同様に月日の設定ですが、現地知性体基準を採用する迄は銀河連合基準にて記録致します」

「了解、地球では併用してた筈だよね」

「はい、本惑星上の活動記録についての諸々の設定について検討する必要があります」

「銀河連合標準でいいんでない?」

「問題点としまして銀河連合との同期が取れておりません、通信途絶状態が長引きますと本部との基幹連携に齟齬が生じます、単独活動基準へ変更する必要がある事を提案致します」
そんな基準があったのかとキーツは答え、それは任せるよと続けた。
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