セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&

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見知らぬ大地に降り立ちて 7

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酷く曖昧な夢を見た、独特の浮遊感がそうさせるのだろう、キーツは医療カプセルの中で覚醒した、この短期間に2度の医療カプセル行きは彼にとっても初めての事である、不愉快なのは前回と一緒、地球人用のを作れと叫びたくなるのは毎度の事である、

「ジルフェ、状況説明を」
慣れた口調で言葉を投げる、

「マスター、御気分は如何ですか」
落ち着いた女声である、その声に導かれるように曇天の中にある雑多な意識が集合していくのを感じた、ゆっくりとその力を取り戻しつつある脳みそが実感され、奇妙な思考速度の上昇を俯瞰しつつ言葉を繋ぐ、

「気分は悪くない、しかし、この身体に何があった?」
覚醒しながら記憶を探り出し、倒れた直前の自身の行動を振り返る、特別な事は無かった筈だ、強いて言うなら棍棒の一撃であろうか、しかしそれも大したダメージでは無かった筈である。

「はい、昏倒の原因は本惑星の大気内に存在する未知のエネルギーによるものと推測されます」

「えっ、・・・あぁ、確かになんかそんな事言ってたよね」

「はい、簡単な報告を致しましたが、マスターの肉体に対してこのような影響が出るとは予想しておりませんでした」
キーツは改めてカプセル内の自身の状態を確認した、カプセル内は青色の液体で満たされ四肢と胴体には至る所にセンサーが突き刺さりペニスには採尿管、肛門からも何やら管が伸びている、酸素マスクが顔面を覆いこれのお陰で会話が可能であったのかと認識する。

「さっきよりも大袈裟な状態でないかな?これ」

「はい、非常に興味深い状態です、詳細な検査と各臓器・神経への負荷試験を行いました」

「・・・興味深いとは?というかこの身体は正常?に動けるのか」
キーツは意識して四肢の稼働を試みていなかったが、ふと不安になる、思考は徐々に回復し、身体からも異常が感じられる部分は無い、下腹部に違和感はあるもののそれは排泄口に接続された管のお陰であろう、

「はい、興味深い点については、レポートを確認下さい、また身体については業務に差し障りは無いと考えられます」

業務ってとキーツは思いつつ、眼前に投影されたレポートを目で追っていく、それは検査項目とそれに伴う結果及び処置内容を項目毎に羅列したものであった、かなりの分量である、しょうがないかと覚悟を決め慣れない視線操作に戸惑いつつ要点を把握する。

「・・・つまり、身体能力が異常に活性化していると考えていいのかな、これは」
キーツはややあってそう結論付けた、

「はい、但し数値上の結果であり、実際に運動テストを受けて頂く必要があります」

「・・・そうだよね、数値だけ見ると・・・怖いな、地球人の数値ではないよね」

「はい、この結果から大変興味深いと申し上げた次第です、さらに付け足しますとズイザボ4号星人の平均値を上回る数値となります、これでオラ巡査に揶揄われないですみますね」
ジルフェが珍しく冗談めいた事を言った、いや、ジルフェとしては至極真っ当な見解なのであろうが、

「・・・笑えないかな、・・・しかしだ、これの原因がその未知のエネルギーなのか?というか大気中に散在するエネルギーってなんだ?発生源は特定できるのか?そもそも・・・」
と乏しい科学知識を総動員してエネルギーとは何かを論じようとするがまるで頭が働かず言葉は尻すぼみに小さくなる、ジルフェは言葉を持っていたが続かないようだと判断し、会話を繋いだ、

「エネルギーと呼称しておりますが暫定であります、本艦に搭載しております分析機器では対応しかねる存在です、その為連合より研究艦と専門家の派遣が必要と考えます」

「・・・つまり何も分らないって事か、・・・いよいよ新宇宙探検の世界だな」

「はい、このエネルギーに対してはその分布と濃度の調査は可能です」

「・・・それは・・・」
困ったなと言葉に出来ず飲み込んで、いや、困ったのかと自問する、暫し沈思し心を落ち着けた、

「わかった、取り合えずカプセルから出してくれ」

「はい、排出準備に入ります、睡眠導入処理致します、排出可能となりましたら覚醒させます、おやすみなさい」
キーツはそのまま医療カプセルの為すがままに任せる、ゆっくりと失われていく視野の中に見慣れない金属片が舞漂う、なんだっけと思考してアヤコと一緒に首に掛けたペンダントトップである事を思い出した瞬間、すとんと意識を無くした。

「これで運動テストは終わり?」
キーツは呼吸管理のマスクを外し、側のテーブルへそっと置いた、その姿は医療室を出てプレイルームと名付けられた環境再現室にあった、医療室から私室を3つ挟んだ距離にあるその部屋へ辿り着く間に様々な違和感があったが、まぁ気のせいだろうとジルフェの用意したテストを黙々と熟していた、時々小さな歓声が口から溢れてしまったが、

「はい、マスターお疲れさまでした」

「なかなかに、超人?スーパーマン?、いやすごい肉体になってしまってるね」
我知らず口元が綻ぶ、不謹慎かとふと思ったが簡単な運動で気持ちの良い汗を掻いた事も手伝って気分は高揚し、カプセルから出たばかりの不快感は綺麗に無くなっていた、さらに想像した以上の身体能力に我が事ながら驚きを隠せない、地球時代の地球人では到底到達できない能力を持つ同僚異星人達にも引けを取らないだろう、彼らに作戦上付いていけずに歯痒い思いをさせられたが、今なら彼らを後塵に置いて少々の憂さを晴らす事も可能かもしれない。

「結果を表示します、素晴らしいを通り越してとんでもないですね」
ジルフェが普段使わない表現を使用してそう評価を下す、

「あぁ、すごいね、それに自分の身体に振り回されるのがこれほど快感だと思わなかったよ、もう暑苦しい戦闘スーツに頼らなくてもいいかもね」
そうですねとジルフェは実に機械的に返答し、

「しかし、肉体強度は変わりません、戦闘時にはハードスーツ以上の装備使用を推奨致します」

「・・・普通に傷を負うということか・・・それはそうだよね、鱗が生えた訳じゃなし」
キーツは露出した両腕を摩る、生物的な柔軟性は無くしていない、確かに刃物にも銃弾にも光学兵器にも弱そうである、今まで通り、

「ロボットになった訳でもないんだし?」

「それはジョークと承っていいのでしょうか?」
ジルフェは不思議そうにそう言った、そうだよとキーツは答え、笑うべきですかと問うジルフェに、あまり虐めるなよと口角を上げた。

「最後のテストです、テスト開始から現在迄の経過時間をお答え下さい」

「経過時間?1時間は経っていない、45分かな」

「45分ですね、以上でテストを終了します」
ジルフェはクルクルとその場で回転する、珍しく思考中のようだ、しかしその回転はとても緩慢であった。

「どうした、何か不都合か?」
キーツが訝し気に問い質すと、

「はい、いいえ」
と回転しながらジルフェは曖昧に答える、ややあって静止すると、

「イーア型拘束具の使用を提案致します、拘束具の利点としまして・・・」
キーツはその言葉を遮り、

「ちょっと待って、イーア型?リオル巡査が使っていたってやつ?そこまで必要か?」

「必要です」
珍しくもジルフェは断定し、

「イーア型拘束具の利点としまして、身体能力及び思考速度の段階的抑制、簡易な施術、詳しくは機能一覧を確認下さい」
テーブルモニターにカタログの一部が表示される、せっかくのテスト結果に上書き表示されてしまった。

「しかし、そこまで・・・」

「必要です」
再びジルフェに断定される、根拠はとキーツが問うと、

「3分12秒です」

「何が?」

「テストに掛かった時間です、さらに言いますと現在私の会話機能は通常の25倍の速度で処理されております」

「・・・えっ、あぁ、そうなの?」
間の抜けた声がキーツの喉を通り、瞬間的に快感に酔っぱらた幸福感が若干の混乱を含んだ頭痛に取って代わった。

「イーア型拘束具を作成致しました、現物を確認下さい」
サイドテーブルに5本のテープ状の装置が転送された、一見してその用途にまるでそぐわない代物である、とても薄く頼りない。

「・・・あぁ、待って、ちょっと待て」
とキーツはこめかみを抑えつつ大きく息を吐くと、

「現状を把握したい、この肉体についてだがもう少し詳しく説明してくれるか」

「はい、業務に支障が無い点については説明致しました、健康状態は必要十分と判断致します、必要であれば先程の検査データを確認下さい、運動能力についても同様です先程のデータを確認下さい」

「うーん、何というか、そういうのでは無くてな」

キーツはさらに眉根を寄せてテーブルに腰掛ける、こういう時アヤコがいれば自分に必要な要点だけを伝えてくれた、砂漠の砂のように雑多で大量な情報から対象にとって必要なそれを導き出す事は高度な対話能力と緊密な人間関係に依拠する所が大である、ジルフェを始めたとした情報知能はどれほど発展進化しようとどうしてもその点は生身の生物に劣る点があった。

「あぁ、分かった、こう聞けばいいのか、現在の俺の身体の利点と欠点を簡単に説明してくれ、簡単に言葉で頼む」
ジルフェはくるりと一回転し、

「はい、現時点での評価であります事をご理解下さい。尚、長期的にモニターしていきますがこれは通常モニターと同等の処置となります。次に質問に対する答えですが、利点を上げますと身体能力・思考能力の劇的な向上、これはマスターの通常データに比して20倍~50倍程度となります。欠点は銀河連合に於ける通常時間での活動が非常に困難になる事、対処としましては提案致しましたイーア型拘束具による全身に対する拘束負荷が有効と判断しました。この処置はイーア2号星人他通常時間帯での活動が困難な知性体の標準的な対処方になります。次に筋肉組織の負荷に対し骨組織が耐えられない点があります、これは現時点ではその可能性がある程度の問題です、未知のエネルギーによる影響はマスターの全身に及んでおりますが、骨組織に対してはその影響が遅いようです、他、脳を含んだ神経系への負荷、精神への影響も未知数であります、この点についてもイーア型拘束具が有効であると判断致しました」
以上であります、ジルフェはそう言って言葉を閉めた。

ありがとうとキーツは天井を見上げて返答する、左手で拘束具を弄びつつ良い事ばかりでは無いよねと虚空に呟いた。

ふと、アヤコの顔が思い出される、彼女が自分と同様にこの星へ来ていた場合、その可能性が非常に高いが、同じ症状になるであろう事を考えると、彼女はどう対処できるであろうかと心配になる、なにせ彼女の身の回りには3台のジルフェと探査艇しかないのであるから。

「アヤコが心配だね」

「ミストレスに関する探査状況を報告致しますか?」

「見付かったの?」

「いいえ」
にべもなく答えるジルフェをジロリと睨みふーっと溜息を吐くと、

「つまり、このスーパーパワーは確かに便利だが、日常生活が不便な上に不明な点が多すぎて、さらに俺の身体は耐えられないかもしれないという事だね、確かに骨がギシギシいってるような気がするな、まだ・・・気のせいかな」
右手を左肩に当てグルグルと左腕を回してみる、違和感を若干感じた、

「マスターの肉体を継続的に観察調査致します、それにより今後の対応を変更する必要があるかもしれなません、また、エネルギーそのものの研究が必要です、その為には・・・」

「それは聞いた、そうだね、まずその未知のエネルギーってのが不便だな」
右手人差し指で額を何度かこすり、

「エーテルと名付けよう」

「はい、良い名前です、さらに申し上げれば学名候補として」

「そこまでは必要無いよ」
眉根を寄せてそう答えると、

「まぁいい、スーパーパワーには憧れていたが、その手のモノが代償無しに手に入る道理は無いからね」
さらに言えば代償があっても手に入るモノでも無いかと続け、

「あれは、スペアは使えない?」
と妙案を思い付く、スペアとは文字通り予備である、それもキーツとアヤコそれぞれの肉体が3体分常備されていた、

「使用は可能です、地球を離れた時点で作成したスペアが最新ですがそちらであれば記憶の移行で対処可能です、しかし、この惑星の大気を吸う度に同じ状態になります、勿論この惑星の動植物を摂取しても同様と考えられます」
それもそうかとキーツは答え、他に代案も無さそうかなと独り言ち、

「アヤコの捜索と帰還方法の探索、あぁそれと救出した現地人対応もあったか」
しっかり忘却していた現地人の事を思い出す。

「はい、諸々の課題が山積しております、現状この惑星に順応する事が最適と判断します」

「よし分った、こいつを付けてくれ」
デスクモニターをざっと眺めつつワザとらしくスーパーパワーとはおさらばかと声に出す、空元気のつもりであった、

「了解しました、簡易ベッドを設置します」

「それから外部端末が必要とあるが・・・」

「はい、なにか適当な物があれば提案下さい、なければ・・・」
これにと言ってキーツはペンダントを胸元から引き出す、出来そう?と言葉を続けると、

「可能かと思いますが、複製スキャンを、複製物に端末を仕込みます」
クルリと回転し、

「制御スイッチは接触音声式となります、全体若しくは一部に触れた上で音声にて制御して下さい、またこちらへその起動の旨を通達頂ければ起動可能でありますその場合は音声のみで起動致します、尚、どちらかの面にダイヤルを設けますがどちらが宜しいですか?」
普通裏面だろとペンダントを外しつつ答えると、

「すいません、裏面はどちらで」
宝石の付いてない方と答えると理解しましたと返答があった、キーツは何となく苦笑いを浮かべた。
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