セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&

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本章

見知らぬ大地に降り立ちて 4

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キーツが森から引き返し洞の中を覗き込んでいると、ジュウシが合流する、
「マスター、発見されたのは湧き水だけではないようですね」

「あぁ、中々興味深い洞窟のようだ、恐らく知能を持つ動物の群れが此処を根城にしていると思う、予想としては中型生物、全高1.5m程度」

「なるほど、音響探査の上構造を表示します」
ジュウシは洞の前に立ち腰部に装備されたユニットセンサーを起動する、球体がジュウシの胸の高さまで浮遊し赤く点滅すると再び腰部に格納された、

「構造でました、送ります」
ジュウシは顔を180度回転させそう言った、キーツはバイザーに映る構造図に眼を走らせる、洞窟は入り口から急激な坂道となって10m程度下り、20m四方の大部屋に繋がる、そこから4つの小部屋が繋がり、1本の廊下を通じてもう一つの大部屋へと繋がっていた、入り口は眼前の洞だけ、6つの空間を持つ洞窟であるらしい。奇妙な点はその最奥の大部屋に幾つもの穴が確認される点である、深さ約2m程度の竪穴が掘られ内容物も確認できる、その詳細までは不明であるが人工物である事は間違いなかった。

「動体反応ありません、生物反応微弱です、音響探査に対する反応ありません」

「了解、恐らくここの主は外出中だ、大まかに調査して撤収しよう、ジュウシはここで待機、5km四方の動体反応チェック、湧き水の調査も可能であればすませてくれ」

「コピー、湧き水調査、後衛待機致します」
ジルフェは洞窟の入り口から湧き水へ移動し、キーツはそろそろと洞窟内に踏み込む、入り口から入る光はあっという間に途切れ洞窟内は簡単に闇へと落ちた、キーツはポーチを弄り浮遊ランタンを天井ギリギリに固定浮遊させると明るさを調整しながら歩を進める、急な坂道は湿って柔らかく壁に手を添え慎重に降りていく、やがて大部屋に至るとそこは広く乱雑として荒らされた倉庫を思い出させる空間であった、散乱した物品は多岐に渡り敗れた衣服、皮革製品、錆びた鉄製の何か、割れた樽と木箱、大型動物の白骨等々、それらは他の部屋へ繋がるであろう通路を形成するように積み重ねられている、

「この惑星の文明度を測るには丁度良い貝塚だな」
キーツは足元に転がる木製の残骸を手に取る、円盤状に形成され中央付近に持ち手がついており所々鋲で補強されている、持ちての反対側恐らく表側には大小様々な傷が有りその程度からするとこの物品は恐らくその用途に耐える代物では無くなっていた、

「円盾か、クラシックだね」
宇宙船で意図せず来訪することとなったキーツにとって、この惑星の産物はほぼ全てクラシカルな品になるのは必然である、地球に至った際も極めて同じ感想をあらゆる品々に感じたものだ、

「ジルフェ、こちらのセンサーを介して物品の情報収集を頼む」

「はい、各種センサー起動し接続します」

「できるだけ収集して欲しい、博物館に紛れ込んだ気分だ」

「コピー、対物センサー起動、スキャン開始します」
ヘルメットの側面がスライドし幾つかのセンサーが姿を表す、バイザーモニターに手にした円盾のスキャン結果が流れ始めた。

キーツは興味深げに他の品に手を伸ばす、どれもこれも破損しその用を為すとは思えなかったが、材質、加工方法、用途等技術度を測る上で重要な情報を手にする事ができた。

「ジルフェ、スキャンを続けたままにしてくれ、他の部屋に入る」
了解と簡単な返答を耳に受けつつ小部屋へ向かう、扉のような仕切りは無く腰程度の高さの開口部を屈んで潜る、大部屋に比べ物品は少なく泥と何かに汚れた皮か布らしきものが不規則に並べられていた、これがこの洞窟の主の寝所なのであろうか、その汚れたベッドには対になるように桶や割れた土瓶に水が溜められており、それらが個体毎に設えられている様子である、ベッドは50cm四方で極めて小さい。キーツが予想する1.5m程度の体長ではこのベッドでは小さいだろうと訝しむが、予想が外れている可能性もあり、洞窟の主の生態に俄然興味が湧いてくる、他の小部屋も同様の設えであったが、一部湧き水が壁面から滴り落ち小さな水溜まりを形成している部屋があり、その側に並べられた毛皮は他の寝所とは異なり大振りで、キーツでも充分に横になれる広さである、ここがボス格の私的空間なのであろうか、その小部屋のみ壁面にはなにやら壁画めいた文様が彫られ、描かれる際に用いたと思われる棒切れや塗料替わりの壁面の土とは明らかに違う色の土塊等が散乱している。

「ジルフェ、この文様の分析を頼む」
キーツは文様をなぞる様に視線を動かす、

「はい、考古データベースより類似文様を検索します」
ややあって、
「マスター、類似文様は多種に渡ります、意味合いも様々で推定される文章だけでも2千を越えます、言語データベース、紋章データベースの検索も有効かと考えますが、如何致しますか?」

珍しく困惑した声が返ってきた、それはきついなとキーツは苦笑いを浮かべ記録しておいてくれと指示を出し大部屋に戻ると、奥の部屋へと足を向けた。

最奥の部屋は構造図で見た通りに幾つもの穴が掘られており、大部屋と同規模の空間であった、しかし天井は低くキーツが直立できる程の高さは無い、この部屋の主たる目的はこの穴にあるのだろう、穴は直径2m程度深さは個々で違う様子である、手近な一つを覗き込むとその醜悪さに言葉を失った。

穴の中は肉溜りとなっていた、生物の死骸であろう肉塊が乱雑に放り込まれ惹き付けられた小動物がその表面を蠢き貪る、主を失った眼球が虚ろに空を睨み、乱暴に引き千切られた四肢が力無く死骸の坩堝に横たわる、キーツは一瞬不覚に陥るも頭を振って意識を保つ、

「マスター、御注意をメタンガスを検出しております、大気内の細菌類も劇的に上昇しております」
ジルフェの注意喚起を切っ掛けに大きく深呼吸をし、静かに穴の中を観察すると、

「ありがとう、原因は判明している、この穴の中をスキャンしてくれ、生物サンプルとして活用できないか?」
キーツは変わらぬ声音で語りかける、

「了解、C型スキャン体を投下願います、映像情報から数種の野生動物と推測されますが、穴の底で動体反応もあります、その点も御注意下さい」

「わかった、C型スキャン投下、操作頼む」

キーツはヘルメットの側頭部から銀色の立方体をを取り出し穴へ投下した、肉塊の上にポトリと落ちたそれは蠢く小動物に翻弄されながら起動する、正方形のスキャン体は瞬時に肉塊の表層を霧状に散開し静かに沈降していった。

「スキャン開始します、お待ち下さい」

ジルフェの声を受けキーツはその場を離れ他の穴を確認する、どの穴も内容物は変わらなかったが奥に行くほど新鮮なものであるらしかった、膝立ちで不安定な足元を移動する労苦に根を上げ始めた頃最も奥の穴に辿り着く、その穴には明らかに人と思われる頭部と四肢が確認できた、金色の髪が泥と血に塗れ絡み合い苦悶に引き攣った表情のまま血の気の失せた皮膚がテラテラとランタンの光を照り返す、詳しい調査が必要ではあるが数日以内に遺棄されたものであろう、頭部は視認できるだけで4つ、キーツは暫し思案し逡巡しながらその一つに手を伸ばした、

「マスター、スキャン結果でました、モニターへ映します」
頭部に指が触れるか触れないかでジルフェの通信が入る、そこで手を止めジルフェへ返答する、

「結果は?」

「はい、死骸から6種のDNAを検出、残存骨格から10体分の残骸であると推測できます、他生存する小動物が13種、中型生物の幼体と思われる生物が1種15匹確認できました」

「幼体?」

「はい、中型生物は底部にて活動しております、死骸から栄養を接収し生息している様子です」

「すると、この穴は巣穴?」

「より正確には育児穴と呼称できるかと考えます、同様の生態を持つ生物としてはユグナス惑星系ヨルノ星に生息するリックイ種、マルホ連星系キュレン7号星に生息するニュマンダ種等があります、これらの生物は土中に胚と栄養となる食物を埋めます、胚が成長し幼体になるとその食物を摂取し成体になります」

「なるほど、するとこの穴全てにその生物の幼体が収められていると」
キーツは振り返り室内を見渡した、

「では、こちらも確認してくれ、人の頭部に見えるがどう思う」
キーツは伸ばした手を戻しつつジルフェに問い掛ける、

「はい、人体の頭部に酷似しております、標準的知性体として認定可能な容姿であると考えますが、頭部のみでそれを判断できません」

「回収して調査しよう、比較的新しいから脳内データも劣化が少なそうだ」
キーツは思い出した様に手を合わせて黙祷する、地球で身につけた鎮魂の礼であった、それから手の届く範囲で頭部のみを拾い上げる、視認できた4つと埋もれていた2つを慎重に取り上げそっと床に置いた、一つ一つの苦しげに見開いた瞳を閉じ口元の汚れを拭う、遺体は頭部と四肢が胴体から切り離され、胴体は胸部と腹部に切断されている、切断面は刃物を用いた綺麗なものから力任せに千切られたものもある、それらが乱雑に放り込まれているように思えたが胴体部が下層へそれ以外が上層へと恣意的に積まれているようにも見える、それらは皆裸体であり、遺体の一部には入れ墨も確認できた。入れ墨は単純な文様で、手首に2重の輪を黒色で掘られている、これも文化を示す貴重な情報であると思い立ちその腕も回収する事とした、キーツは腰部ポシェットから回収袋を取り出すと慎重に収集物を収めその部屋を後にする。
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