セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&

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プロローグ 次元宇宙

帰途にて 2

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我が事ながらよく集めたなと関心しつつ呆れながら、壁面パネルから作業ポッドを呼び出す。
フォンと大気を混ぜつつ、円盤と逆三角錐が上下連結された浮遊ポッド「ジルフェ」が天井から降りてきた、

「イエス、マスター、御用件ハ?」
逆三角錐を青色に発光させつつ、合成音声が問いかける。

「倉庫の整理、収集品の検疫とレポート作成、一個一個見ていくからサポート宜しく」

「イエス、マスター」
と逆三角錐を黄色に点滅させ、了解の意思表示を見せる。

さて、どれからいくかと呟きつつ、最も手近なコンテナに歩み寄り開封する、大気圧が開放される音と共にコンテナの上面が開く、これまた乱雑に突っ込まれただけの統一感の一切無い有象無象な品々が目に入る。

「うはぁー」

この内容量でこのコンテナ数かと作業量を想像し若干の絶望を感じつつ、手近な紙袋から開封する。
中身は確か、駄菓子と呼ばれる食物であった、派手なパッケージに楽し気な文言と奇妙なキャラクターが踊っている。
もしかしてと他の袋も開けてみて、手を止めた。このコンテナはアヤコのだと、キーツは結論付けて開封した袋を戻し、隣のコンテナを開けると中は冷凍されていた、嫌な予感はしたものの確認する。
ほとんどが食料であった、それもキーツには魅力が感じられない類の、ようは甘味である、デザートである。カロリーが異常に高く食感が良い程度の、疲労した場合の栄養補給には適しているか程度の、挙句やたら食べにくい事この上ない食物群である、これもアヤコのコンテナであった。
キーツは溜息をつきつつ、

「ジルフェ、俺のコンテナはどれだ」
と問いかけつつ、2つのコンテナを同時に閉めた、開けっ放しにして中身に何かあったらアヤコに何を言われるか分ったものでは無いからだ。

「検索シマス・・・、マスターガ管理スルコンテナハ」
ジルフェはすっと飛んでいき最奥の最も大きいコンテナと周辺を周回する。

「マスターノコンテナハ、コノ周辺ノ7基デス、ナンバリングヲ変更シマスカ?」
「わかった、俺のコンテナは000からナンバリング赤色点灯、アヤコのは100からナンバリングし直してくれ青点灯で」
「・・・変更シマシタ」

コンテナのナンバリングが変更され、コンテナの四隅がそれぞれに発光する。
倉庫内の半分以上のコンテナが青色表示であった。

「・・・ジルフェこの点灯合ってる?」
キーツはジルフェへ再確認する、青色点灯つまりアヤコのコンテナが多すぎるのである。
ジルフェは思考する暇も無く間違いないと返してきた。

「・・・なら、まぁいいか」
アヤコの収集品の多さに少々驚いたが、当初の目論見より作業量が減った事実の方が大事であった。
改めて自分のコンテナを開ける、任地であった地球での収集物である。検疫が必要な物品から始めるかと品々を確認する、植物の種・書物・ガラス製品・アルコール飲料等々雑多に収められている、これらは親交を結んだ現地民からの贈り物も多かった。
一つ一つがそれなりに思い出を纏っている。

「マスター、如何です?」

アヤコが盆に茶器を載せて現れた、あぁーと空返事をしつつ、ゴソゴソとコンテナ内を物色する、ナマモノ優先だなぁとパッケージされた野菜の種を取り出していると、見覚えのない銀色のケースが現れた。

「なんだっけこれ?」

と開けてみる、首飾りが2本並んで固定されていた、確か流行のネックレスである。
宝飾店を下見した際、愛想の良いお姉さんに薦められ会話の流れ上購入せざるを得なかった一品である、それなりに高価な品であったと記憶している。

「マスター、お茶です」

背後で声がする、また気の無い返事をしつつ手の中の物をどうしようかと思案する。

「マスター、お茶です」

背後で声がする、今度は耳のすぐ後ろ、若干の怒気が感じられる。ビクッと背筋が寒くなりペンダントのケースを思わず閉じる、ゆっくりと振り返るとアヤコの無表情な顔が鼻の先にあった。うん、いまいくと片言に呟くと、そうですねとアヤコはニコリと笑った。

小型コンテナをテーブルに紅茶を囲む、地球へいってからアヤコはこの飲料が殊の外お気に入りであった。今回は黄色の果実片が沈んでいる、確かレモンであったかと思いつつ、口を付ける、紅茶の香りが鼻腔を通り抜け、レモンの酸味が爽やかに口内を満たした。

「あ、これ美味しい」

思わず呟く、アヤコは嬉しそうにダージリンですと言って微笑む。

「一緒に、これも」

と見慣れない菓子が差し出された、側にあるコンテナが口を開けている、

「2時間並んで買いました、一押しのチーズケーキです」

任期が終わり地球を去る前日、半日アヤコを見掛けなかったがこういう事かと理解した。

「?いいの?土産に持っていけば?」

「ふふん、お土産ならいっぱいですよ」
と、アヤコは倉庫内を見渡す、青色発光のコンテナが誇らしげに輝いて見えた。

「レポート作成の駄賃?」
コンテナの数とその作業量に若干の眩暈を覚える。

「・・・私の分は、レポートも検疫も済んでいますよ」

えっそれは凄いとアヤコの処理能力に素直に関心した。
であれば自分の分だけなら何とかなりそうだ、などと思いつつ、チーズケーキとやらに手を伸ばす、添えられたプラスチックフォークで3割程度切り崩し口へ運んだ、

「あ、うまい、これ」

リアクションが一緒ですとアヤコは笑って自分のケーキへ手を伸ばす、黒色の固まりに金箔がちょこんと飾られた一見食物とは思えない代物である。

「同じ店のチョコレートケーキです、シェアしましょう」
「シェア?ってなに」
「ちょっとあげます、ちょっとください」

そう言って、キーツの皿に手を伸ばすと残った分の半分程度を切り崩し、さらに半分に分けて口へ運ぶ、

「うん、間違い無いです、素晴らしいですこのチーズケーキ」

「確かに、こんなものは甘いだけかと思っていたが。旨味が感じられるよね・・・出汁入り?」

「ケーキに出汁はないですよー、・・・多分ですけど、・・・いやもしかして・・・」

「成分検査はしたの?」
と、手を伸ばす、このままではアヤコに全て食われかねない、

「レポートに付記してありますが、詳しく見てないですね」

「再現可能?」

「試してないですね、データ化は済んでいますがこの味を再現出来るかと言うと・・・、食堂のレプリケーターではどうしても」

「難しそう?調整次第かな?」

「どうでしょう、あ。こちらもどうぞ」
手付かずのチョコレートケーキを差し出す、

「何か悪い気がする、先に手を付けて」

「うふ、わかりました」

アヤコは半分程度から輪切りにし、さらに半分を口へ運ぶ、

「・・・これも良いです」
幸せそうに微笑む。
キーツは崩された半分へフォークを運び、そのまま口中へ。

「・・・うん、確かにこれも素晴らしい、甘味が抑えめでチョコレートの香ばしさが感じられる、なにより、味が良い」

「そうなんですよね、味が良いのです、美味しい料理は沢山知っていますが、ホントの意味で美味しいケーキは初めてです」

「・・・まいったな、地球戻るか・・・何かやり残した感があるぞ」

「そうですね、マスター仕事ばっかりでしたから、お陰で私は堪能できましたけど」

「えっ、そうなの」

「ええ、その証拠がこの倉庫ですよ」
悪びれずにそう言い切った、賢い人物は時間の使い方が上手いと聞くが、アヤコもキーツに負けず劣らず仕事をしていたように感じていたし、少し暇をやろうかと考えた時期すらあったように思う。

「・・・宝の山だね」

「・・・そうですね、ただ生ものも多いので少々心配です」

「冷凍しとけばまぁ大丈夫じゃないの?」

「うーーん、やっぱり風味とか、あるじゃないですか、それと食感とか」
とケーキを頬張る。

「レプリケーターでどこまで再現できるかはやってみないと分からないんですよね」

「確かに、香りが飛んでる時あるもんな、あれ、改良が必要だよね」

「物質の再構築だけでは、加工過程で生じる諸々を置き去りにしちゃうそうです、技術士官が言ってました」
無粋ですよと、アヤコは続けた。

「なので、なるはやで現物を食べさせて、再現物と比較させたいのです」

「・・・なるはやで?」
なるはやでとアヤコは笑う、任地での潜入と同化はこの仕事の最も重要な因子であるが、アヤコは現地の影響を特に受けやすい質なのかもしれない。
なかなか馴染めないキーツとは違い友人も多く出来た、別れる時辛いだろうと話した事もあったが、その点はとてもドライで一期一会ですよと事務的に言われた記憶がある。

「本物を知れば、偽物の違いが分かると思うのですよ、本部ではどうしても偽物に囲まれてしまいますから」
まぁそうだよねとキーツは言って、最後の一欠けらを頬張り紅茶を楽しむ、若干の物足りなさを感じた。

「何です?」
アヤコは覗き込むようにキーツを見る、面と向かったパートナーの口元にチョコの欠片が残っていた、一瞬迷い中指でそれを拭って飲めとる、アヤコはムッとするような恥ずかしそうな微妙な顔になり、誤魔化す様に紅茶へ手を伸ばす。

「足りない気がする」
と呟いてみた。

「そういうものです」
とアヤコは言って、

「ケーキは別腹ですから」
と続けニヤリと笑う。

「それってそういう意味なの?」

「うーん、ちょっと違いますかね、でもニュアンスは近いと思います」
そう言いつつ空いたカップへ紅茶を注ぎ足す、

「・・・反省会でもする?」

注がれたカップに視線を落とし何とはなしにそう言った、

「・・・どうでしょう、戻ってからチーフとの打合せで十分では?」

「・・・口裏合わせ?」

「どの件でですか?沢山ありすぎません?」
それもそうかと紅茶を口へ運ぶ、レモンの酸味が薄れ紅茶の風味が強くなっている。

「合わせますよ、不正に問われる事は殆ど無いですし、被害を抑止する点については、反省する事はありますが、後手に回るのは仕様がないです、我々は刑事ですから」
若干寂しそうにそう言った、そうだねとキーツは視線を落とす、視線の先に銀色の箱があった。
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