1,038 / 1,120
本編
72話 初雪 その47
しおりを挟む
それから暫く数枚のガラス皿が話題の中心となった、タロウがそれぞれの疑問をあるものは真面目に、あるものは分からないと答える、真面目に答えたものにはなるほどと理解されたようだが、分からないと突っぱねたものにはあからさまな不満顔が返ってきた、しかしそんな顔をされてもなとタロウは渋い顔で受けるしかない、知らないものは知らないし、分からないものは分からないのである、そういった答えられない質問はカトカと学園長が中心で、やはり自頭と知識量が格段に違う事を見せつける結果となり、ユーリやゾーイ、サビナはなるほどと感心する他無かったようである、そして、
「まぁ、こんな感じでね、昨日も言ったかな?ほら、これはあくまで俺の手に付着した生物ってだけだから、だから、他にもね、例えば・・・そうだね、ワインとか、エールとか、それと、ヨーグルトかな?」
「ヨーグルト?」
不思議そうな顔がタロウを見つめる、
「うん、知らない?」
「あれじゃろ、山羊乳のドロドロしたやつじゃ」
学園長がポンと手を打った、
「それですね、あっ、そっか、俺も見た事少ないな・・・こっちでは一般的ではないんですかね?」
「そうじゃのう・・・儂も山間の村で食した事がある程度でな、そうか、あれもあれじゃな、お主の言う腐らせた食物になるのか・・・」
「そうなりますね、対してチーズ、あれもある意味で腐らせた品なのですが、原因となる物質が少し違います、ほら、子山羊の胃袋を使うのが主流でしょ」
「そうなの?」
とユーリが首を傾げ、カトカはそうなんですよと自然に答えた、
「うん、でもね、その胃袋を使わなくてもチーズのように固める事も出来る、ヨーグルトとは別の生物かな?そこは要研究になると思うけど・・・まぁ、チーズもヨーグルトも色んな種類があるからね、酒と一緒だな、うん、で、他には・・・あっ、土を調べてみても良いかもね、畑にある真っ黒い土と、その辺のボサボサの土?恐らくだけどまったく違う生物を観察できると思うよ」
「土ですか・・・」
「土だねー、あとは・・・植物の根っことか・・・下のほら、メダカの水槽とか・・・裏の小川とか」
「あの汚いの?」
「うん、恐らくだけどこの黒い、腹を壊すって言ったやつ、これが大量に確認できると思う」
「根拠あるの?」
「勿論、だってさ、この生物は俺達の腹の中に住んでるんだよ、うようよと、それがね糞便と一緒に流れ出てるんだ、それが集まってるあの小川にはもう・・・異様にいるだろうね、これが」
ニヤニヤと手を蠢かすタロウに、エッと一同は顔を上げた、
「待って、腹の中に?もういるの?」
「いるね」
「いや、しかし別に今は腹痛でも何でもないぞ」
「確かにそうでしょうね」
「待って、意味が分からない」
「だろうねー」
とタロウはニヤリとほくそ笑む、
「単純に言えばね、人の排泄したものを人は摂取できないでしょ、考えただけでも不愉快だ」
タロウが思いっきり顔を歪め、確かになと一同の顔も歪む、
「それは当然なんだよね、常識だと認識しているでしょ、でも、ちゃんと理由は存在するはずでね、何の意味も無く嫌悪する事は無い・・・って俺は思っているんだけど、まず考えられるのが、栄養を搾り取った後の残りカスであるからっていう理屈、そんなものを口に入れても意味が無いってわかってるんだろね、次に、それが病原菌に塗れていて、口に入れるのも駄目だけど、触れた場合も良くない事が起きるって本能的に理解しているって事・・・かな、故に嫌悪の対象になり得て、出来るだけ速やかに処理している・・・他にも色々と理屈は付けられそうだけどね、まぁ、そんな感じで、だから、このね、見た目が厳つい生物は確かに人の腸の中に存在するんだけど、その腸以外の所では碌な事をしない生物だって・・・解釈して貰うと理解しやすいかなって思うな」
ホヘーとガラス容器を見つめる一同、タロウの理屈は分かるような分からないような何ともめんどくさいものであったが、言いたい事は何となく理解できた、タロウとしても大腸菌の種類だの毒性だのまでは説明できない、まずもって大腸菌という名前を出す事が難しく、あくまで生物としてまるっと一括りにしている時点で大変に歯痒い思いをしていたりする、
「あっ、でね、だからこのガラス容器の扱いは気を付けてね、子供に悪戯させるべきではないし、不用意に開けるのも止した方がいいね、手に付着している極微量であればまだ平気だけど、ここまで大きくして、それを口に入れでもしたらとんでもない事になるから」
「・・・それもそうじゃな・・・」
「ですね・・・はい、厳密に管理します・・・そっか、だからガラス容器なんですね、開放しないで観察できるように・・・」
「御明察、その通りだね、だからこのガラス容器ね、すんごいありがたかったよ・・・うん、じゃ、こんな所かな、まぁ、明日・・・エルマさんに見てもらって、ケイスさんにも教えたら、後はもう浄化槽に捨ててもいいんだけどね」
「いや、それはいかん、明日医学科の講師も来るでな、そいつにも見せたい・・・いや、これはこのまま保存できんのかな?ゆっくりと調査したいところだが・・・」
「ですね、あと、あれです、ちゃんと記録して、クロノスにも報告しないとだわね」
ユーリがカトカを伺い、カトカは任せろとばかりに大きく頷いた、
「ですね・・・でもほら、この程度であればいくらでも再現できるから、検証を目的とするのであれば自分自身の手で培養してみるのが一番ですよ、寒天培地も作るのは難しくないです・・・ただ、あれか、保温箱が無いか・・・あっ、寒天もか」
「じゃな、あれも一緒で無いと再現どころか何も発生せんだろうし・・・その寒天じゃな、まだあるのか?」
「ありますよ、下に数本、クロノスにも頼んではありますので、そのうち話しが出ますでしょう・・・それと保温箱か・・・特にこっちは寒いからな・・・うん、まぁそんな感じでお願いします、くれぐれも扱いは慎重に、恐らく・・・それほど危ない生物はいないと思うんですが・・・物によっては・・・流行り病の元になっている生物もいると思うので」
「待て、流行り病?」
「はい、流行り病の元もこのような生物です、どれと申し上げるのは難しいのですが・・・ここにいるかどうかもわからないですね、なので、それも要検証・・・と言ってもあれですね、どうやって検証するかが問題かな・・・」
タロウは左目を閉じて寒天培地を覗き込み、改めて精査する、見る限り悪質な病原菌は見受けられなかった、件の大腸菌も毒性の強いものではない、しかしその危険性を証明する手段が無いのであった、もしやるとすれば、この細菌を分離培養し、人体に投与する他なく、正に人体実験となるその手法を口にするのは大変に憚られた、
「・・・あんた、分かってるなら全部を教えなさい」
ユーリがギラリとタロウを見上げる、
「それは難しいよ、さっきも言ったろ、俺は専門家じゃないし、分からない事は分からないし、知らない事は知らないの」
「分かっている事全部よ」
「それは大体話したよ、大事な生物もちゃんと説明したろ?役に立つのと危ないのと、それ以外は俺も分らん」
「・・・使えないわねー」
「悪かったね、ここまでやったんだからそれで勘弁してくれよ」
「あんたが好きでやったんでしょ」
「そうだけどさ、でもこれでだいぶあれだぞ、アルコールもだけど、手洗いの重要性も理解できただろ?」
「それはまぁ・・・」
「そうですね」
女性達が改めて自分の掌を見つめ、学園長もウムと納得したようである、そこへ、
「タロー」
とミナが階段から顔を出した、ヒョイヒョイとノールとノーラ、今日はフロールの顔も覗く、
「おう、どした?」
タロウが振り向くと、
「大工のおっちゃんとー、誰か来たー」
「あら、今日も?」
「今日もー、カトカも来てーって言ってたー」
あらっとカトカが顔を上げる、
「あー・・・昨日の納品かな?」
「ですね、じゃ、私は先にそっちを、下でいいですかね?」
「そだね、じゃ、取り合えずこんな感じで、これはまた木箱に入れておいてくれればいいよ、明日にはもう少し成長している筈だから」
とタロウはそそくさと階段へ向かい、カトカもすぐ戻りますと一言置いて腰を上げる、ウフフーと笑い合う子供達、
「ん?どした?」
「なんでもないー」
とサッとミナが逃げるように顔を引っ込め、他の三人も楽しそうに駆け下りた、そして子供達の楽しそうな笑い声が響く、
「何が面白いんだか・・・」
「フフッ、そうですねー」
とタロウとカトカが食堂に下りると、
「あらっ、フェナさん」
とカトカがフェナの姿に気付き、
「あっ、えっと確か・・・」
とフェナが立ち上がりかけ、アテテと呻いて座り直してしまう、
「どした?」
「ん、大丈夫よ、少しね、無理しただけだから」
ソフィアがニヤリと微笑む、そのソフィアも疲れからかグッタリと椅子にもたれており、
「あー・・・急に動くから・・・」
タロウが眉を顰め、
「そうなんですか?」
とカトカがタロウを見上げる、
「うん、少しねー」
「そうよ、少し・・・ほら、玄関に来てるわよ」
ソフィアが顎で玄関を示す、どうやら腕を上げるのも億劫らしい、タロウは入れればいいのにと思いつつ、玄関へ向かい、カトカはどうしたんですかーとフェナに微笑みかける、子供達はメダカの水槽の前でキャーキャーと楽しそうであった、ミナが双六の準備をしているあたり、次はそれで遊ぶのであろう、完全に打ちひしがれている大人二人と比べ子供達はまるで疲れが見えない、
「あっ、そっか、あれですか、顔合わせ?子供達の?」
「そうなんです、エルマ先生と挨拶をと思って、なんですが・・・」
「どうしたんです?ソフィアさんまで・・・」
「あー・・・そうね、生徒達が帰ってきたらまとめて教えてあげるから、今は駄目」
「駄目って・・・怪しいなー」
「大丈夫、少し休めばね・・・」
「ですね、すっかり脚にきてます」
「そうねー、ムキになっては駄目だわね」
「駄目ですねー」
おばさん二人が悲しそうに微笑み合い、エルマはまったくと苦笑いであった、ついさっきまで縄跳びに興じていたのであるが、街の鐘の音が響いた事と、大人二人がもう無理だと限界を迎えたらしくこうして食堂に戻った、すると待ち構えたかのように来客であった、ソフィアが迎えにでようとするも一度下ろした腰はあがらず、結局ミナを走らせ、ミナはそのまま階段へ向かい、ノールらが昨日と同じように追いかけている、フロールもすっかり仲良くなってしまい、一緒に駆け出す始末で、ブロースはどうしようかなとフェナを見つめ、結局メダカの水槽に顔面を押し付け、サスキアは暖炉の前から動かない、レインはやれやれとソフィアとフェナに呆れ顔となっていた、
「早いねー」
「そりゃもう、タロウさんの依頼ですからー」
とタロウと木箱を抱えたリノルトがまず顔を出し、
「調子いいんだからよー」
とこちらも木箱を抱えたブラスが若干不機嫌そうに入ってきた、しかし、
「あっ、カトカさんすいません、早速お持ちしました」
とカトカの顔を認め、あっさりと営業スマイルである、
「ありがとうございます、エルマさん、ベルメルの納品ですよー」
「あら、嬉しい」
エルマも腰を上げ、カトカもブラスに歩み寄る、なに?とレインも音も無く近寄ったようで、
「すいません、お待たせして」
「いやいや、忙しいのは知ってますから、気にしないで下さい、でも、気を遣って下さい」
カトカがニヤリとほくそ笑み、
「また、そんな、おばさん臭い事言わないでよー」
エルマがコロコロと笑いだす、
「えー、駄目ですかー」
「駄目じゃないけど・・・もう、カトカさん若いんだから、もっとこう・・・ね?」
エルマがブラスに笑いかけると、
「えっ、はぁ、まぁ、でも、はい、気を遣います、はい」
と背筋を伸ばすブラス、
「ほらー、じゃ、気を遣ってもらって、で、どんな感じです?」
「はい、量産品の第一弾ですね、なので、気合を入れて作ってます」
ブラスが抱えていた木箱を床に下ろし、早速と蓋を開ける、その隣では、
「どう?上手くいった?」
「はい、こっち二つは良い感じだと思うんですが、これですね、一応水漏れは無いのを確認しているんですが・・・使ってみて頂かないと分んないかなって・・・」
「あー・・・やっぱりそうなる?」
「ですね、金属部分は大丈夫だと思うんですけど、蓋ですね、布をかませないと水漏れが不安かなって」
「確かにねー・・・うん、じゃ、そこはあれだ、注意して使ってみよう」
「お願いします、こっちの二つはご注文通りかと思いますが・・・」
「ん、良い感じだね、やー、仕事早いねー、嬉しいよー」
「いや、それはほら、親父もいましたし、あくまで試作品ですから、どうせここから手が加わるんですし・・・あっ、でも、あれです、丈夫には作ってます」
ムンと胸を張るブラス、
「大丈夫その点は信頼してるからさ、じゃ、早速かな?」
タロウがテーブルに並べられた厳つい道具類を見渡し、さてどうしようかとソフィアを伺う、
「・・・なによ?」
「フフン・・・ちょっと料理してみていい?」
ニヤリと微笑むタロウをムッと睨み返すソフィアであった。
「まぁ、こんな感じでね、昨日も言ったかな?ほら、これはあくまで俺の手に付着した生物ってだけだから、だから、他にもね、例えば・・・そうだね、ワインとか、エールとか、それと、ヨーグルトかな?」
「ヨーグルト?」
不思議そうな顔がタロウを見つめる、
「うん、知らない?」
「あれじゃろ、山羊乳のドロドロしたやつじゃ」
学園長がポンと手を打った、
「それですね、あっ、そっか、俺も見た事少ないな・・・こっちでは一般的ではないんですかね?」
「そうじゃのう・・・儂も山間の村で食した事がある程度でな、そうか、あれもあれじゃな、お主の言う腐らせた食物になるのか・・・」
「そうなりますね、対してチーズ、あれもある意味で腐らせた品なのですが、原因となる物質が少し違います、ほら、子山羊の胃袋を使うのが主流でしょ」
「そうなの?」
とユーリが首を傾げ、カトカはそうなんですよと自然に答えた、
「うん、でもね、その胃袋を使わなくてもチーズのように固める事も出来る、ヨーグルトとは別の生物かな?そこは要研究になると思うけど・・・まぁ、チーズもヨーグルトも色んな種類があるからね、酒と一緒だな、うん、で、他には・・・あっ、土を調べてみても良いかもね、畑にある真っ黒い土と、その辺のボサボサの土?恐らくだけどまったく違う生物を観察できると思うよ」
「土ですか・・・」
「土だねー、あとは・・・植物の根っことか・・・下のほら、メダカの水槽とか・・・裏の小川とか」
「あの汚いの?」
「うん、恐らくだけどこの黒い、腹を壊すって言ったやつ、これが大量に確認できると思う」
「根拠あるの?」
「勿論、だってさ、この生物は俺達の腹の中に住んでるんだよ、うようよと、それがね糞便と一緒に流れ出てるんだ、それが集まってるあの小川にはもう・・・異様にいるだろうね、これが」
ニヤニヤと手を蠢かすタロウに、エッと一同は顔を上げた、
「待って、腹の中に?もういるの?」
「いるね」
「いや、しかし別に今は腹痛でも何でもないぞ」
「確かにそうでしょうね」
「待って、意味が分からない」
「だろうねー」
とタロウはニヤリとほくそ笑む、
「単純に言えばね、人の排泄したものを人は摂取できないでしょ、考えただけでも不愉快だ」
タロウが思いっきり顔を歪め、確かになと一同の顔も歪む、
「それは当然なんだよね、常識だと認識しているでしょ、でも、ちゃんと理由は存在するはずでね、何の意味も無く嫌悪する事は無い・・・って俺は思っているんだけど、まず考えられるのが、栄養を搾り取った後の残りカスであるからっていう理屈、そんなものを口に入れても意味が無いってわかってるんだろね、次に、それが病原菌に塗れていて、口に入れるのも駄目だけど、触れた場合も良くない事が起きるって本能的に理解しているって事・・・かな、故に嫌悪の対象になり得て、出来るだけ速やかに処理している・・・他にも色々と理屈は付けられそうだけどね、まぁ、そんな感じで、だから、このね、見た目が厳つい生物は確かに人の腸の中に存在するんだけど、その腸以外の所では碌な事をしない生物だって・・・解釈して貰うと理解しやすいかなって思うな」
ホヘーとガラス容器を見つめる一同、タロウの理屈は分かるような分からないような何ともめんどくさいものであったが、言いたい事は何となく理解できた、タロウとしても大腸菌の種類だの毒性だのまでは説明できない、まずもって大腸菌という名前を出す事が難しく、あくまで生物としてまるっと一括りにしている時点で大変に歯痒い思いをしていたりする、
「あっ、でね、だからこのガラス容器の扱いは気を付けてね、子供に悪戯させるべきではないし、不用意に開けるのも止した方がいいね、手に付着している極微量であればまだ平気だけど、ここまで大きくして、それを口に入れでもしたらとんでもない事になるから」
「・・・それもそうじゃな・・・」
「ですね・・・はい、厳密に管理します・・・そっか、だからガラス容器なんですね、開放しないで観察できるように・・・」
「御明察、その通りだね、だからこのガラス容器ね、すんごいありがたかったよ・・・うん、じゃ、こんな所かな、まぁ、明日・・・エルマさんに見てもらって、ケイスさんにも教えたら、後はもう浄化槽に捨ててもいいんだけどね」
「いや、それはいかん、明日医学科の講師も来るでな、そいつにも見せたい・・・いや、これはこのまま保存できんのかな?ゆっくりと調査したいところだが・・・」
「ですね、あと、あれです、ちゃんと記録して、クロノスにも報告しないとだわね」
ユーリがカトカを伺い、カトカは任せろとばかりに大きく頷いた、
「ですね・・・でもほら、この程度であればいくらでも再現できるから、検証を目的とするのであれば自分自身の手で培養してみるのが一番ですよ、寒天培地も作るのは難しくないです・・・ただ、あれか、保温箱が無いか・・・あっ、寒天もか」
「じゃな、あれも一緒で無いと再現どころか何も発生せんだろうし・・・その寒天じゃな、まだあるのか?」
「ありますよ、下に数本、クロノスにも頼んではありますので、そのうち話しが出ますでしょう・・・それと保温箱か・・・特にこっちは寒いからな・・・うん、まぁそんな感じでお願いします、くれぐれも扱いは慎重に、恐らく・・・それほど危ない生物はいないと思うんですが・・・物によっては・・・流行り病の元になっている生物もいると思うので」
「待て、流行り病?」
「はい、流行り病の元もこのような生物です、どれと申し上げるのは難しいのですが・・・ここにいるかどうかもわからないですね、なので、それも要検証・・・と言ってもあれですね、どうやって検証するかが問題かな・・・」
タロウは左目を閉じて寒天培地を覗き込み、改めて精査する、見る限り悪質な病原菌は見受けられなかった、件の大腸菌も毒性の強いものではない、しかしその危険性を証明する手段が無いのであった、もしやるとすれば、この細菌を分離培養し、人体に投与する他なく、正に人体実験となるその手法を口にするのは大変に憚られた、
「・・・あんた、分かってるなら全部を教えなさい」
ユーリがギラリとタロウを見上げる、
「それは難しいよ、さっきも言ったろ、俺は専門家じゃないし、分からない事は分からないし、知らない事は知らないの」
「分かっている事全部よ」
「それは大体話したよ、大事な生物もちゃんと説明したろ?役に立つのと危ないのと、それ以外は俺も分らん」
「・・・使えないわねー」
「悪かったね、ここまでやったんだからそれで勘弁してくれよ」
「あんたが好きでやったんでしょ」
「そうだけどさ、でもこれでだいぶあれだぞ、アルコールもだけど、手洗いの重要性も理解できただろ?」
「それはまぁ・・・」
「そうですね」
女性達が改めて自分の掌を見つめ、学園長もウムと納得したようである、そこへ、
「タロー」
とミナが階段から顔を出した、ヒョイヒョイとノールとノーラ、今日はフロールの顔も覗く、
「おう、どした?」
タロウが振り向くと、
「大工のおっちゃんとー、誰か来たー」
「あら、今日も?」
「今日もー、カトカも来てーって言ってたー」
あらっとカトカが顔を上げる、
「あー・・・昨日の納品かな?」
「ですね、じゃ、私は先にそっちを、下でいいですかね?」
「そだね、じゃ、取り合えずこんな感じで、これはまた木箱に入れておいてくれればいいよ、明日にはもう少し成長している筈だから」
とタロウはそそくさと階段へ向かい、カトカもすぐ戻りますと一言置いて腰を上げる、ウフフーと笑い合う子供達、
「ん?どした?」
「なんでもないー」
とサッとミナが逃げるように顔を引っ込め、他の三人も楽しそうに駆け下りた、そして子供達の楽しそうな笑い声が響く、
「何が面白いんだか・・・」
「フフッ、そうですねー」
とタロウとカトカが食堂に下りると、
「あらっ、フェナさん」
とカトカがフェナの姿に気付き、
「あっ、えっと確か・・・」
とフェナが立ち上がりかけ、アテテと呻いて座り直してしまう、
「どした?」
「ん、大丈夫よ、少しね、無理しただけだから」
ソフィアがニヤリと微笑む、そのソフィアも疲れからかグッタリと椅子にもたれており、
「あー・・・急に動くから・・・」
タロウが眉を顰め、
「そうなんですか?」
とカトカがタロウを見上げる、
「うん、少しねー」
「そうよ、少し・・・ほら、玄関に来てるわよ」
ソフィアが顎で玄関を示す、どうやら腕を上げるのも億劫らしい、タロウは入れればいいのにと思いつつ、玄関へ向かい、カトカはどうしたんですかーとフェナに微笑みかける、子供達はメダカの水槽の前でキャーキャーと楽しそうであった、ミナが双六の準備をしているあたり、次はそれで遊ぶのであろう、完全に打ちひしがれている大人二人と比べ子供達はまるで疲れが見えない、
「あっ、そっか、あれですか、顔合わせ?子供達の?」
「そうなんです、エルマ先生と挨拶をと思って、なんですが・・・」
「どうしたんです?ソフィアさんまで・・・」
「あー・・・そうね、生徒達が帰ってきたらまとめて教えてあげるから、今は駄目」
「駄目って・・・怪しいなー」
「大丈夫、少し休めばね・・・」
「ですね、すっかり脚にきてます」
「そうねー、ムキになっては駄目だわね」
「駄目ですねー」
おばさん二人が悲しそうに微笑み合い、エルマはまったくと苦笑いであった、ついさっきまで縄跳びに興じていたのであるが、街の鐘の音が響いた事と、大人二人がもう無理だと限界を迎えたらしくこうして食堂に戻った、すると待ち構えたかのように来客であった、ソフィアが迎えにでようとするも一度下ろした腰はあがらず、結局ミナを走らせ、ミナはそのまま階段へ向かい、ノールらが昨日と同じように追いかけている、フロールもすっかり仲良くなってしまい、一緒に駆け出す始末で、ブロースはどうしようかなとフェナを見つめ、結局メダカの水槽に顔面を押し付け、サスキアは暖炉の前から動かない、レインはやれやれとソフィアとフェナに呆れ顔となっていた、
「早いねー」
「そりゃもう、タロウさんの依頼ですからー」
とタロウと木箱を抱えたリノルトがまず顔を出し、
「調子いいんだからよー」
とこちらも木箱を抱えたブラスが若干不機嫌そうに入ってきた、しかし、
「あっ、カトカさんすいません、早速お持ちしました」
とカトカの顔を認め、あっさりと営業スマイルである、
「ありがとうございます、エルマさん、ベルメルの納品ですよー」
「あら、嬉しい」
エルマも腰を上げ、カトカもブラスに歩み寄る、なに?とレインも音も無く近寄ったようで、
「すいません、お待たせして」
「いやいや、忙しいのは知ってますから、気にしないで下さい、でも、気を遣って下さい」
カトカがニヤリとほくそ笑み、
「また、そんな、おばさん臭い事言わないでよー」
エルマがコロコロと笑いだす、
「えー、駄目ですかー」
「駄目じゃないけど・・・もう、カトカさん若いんだから、もっとこう・・・ね?」
エルマがブラスに笑いかけると、
「えっ、はぁ、まぁ、でも、はい、気を遣います、はい」
と背筋を伸ばすブラス、
「ほらー、じゃ、気を遣ってもらって、で、どんな感じです?」
「はい、量産品の第一弾ですね、なので、気合を入れて作ってます」
ブラスが抱えていた木箱を床に下ろし、早速と蓋を開ける、その隣では、
「どう?上手くいった?」
「はい、こっち二つは良い感じだと思うんですが、これですね、一応水漏れは無いのを確認しているんですが・・・使ってみて頂かないと分んないかなって・・・」
「あー・・・やっぱりそうなる?」
「ですね、金属部分は大丈夫だと思うんですけど、蓋ですね、布をかませないと水漏れが不安かなって」
「確かにねー・・・うん、じゃ、そこはあれだ、注意して使ってみよう」
「お願いします、こっちの二つはご注文通りかと思いますが・・・」
「ん、良い感じだね、やー、仕事早いねー、嬉しいよー」
「いや、それはほら、親父もいましたし、あくまで試作品ですから、どうせここから手が加わるんですし・・・あっ、でも、あれです、丈夫には作ってます」
ムンと胸を張るブラス、
「大丈夫その点は信頼してるからさ、じゃ、早速かな?」
タロウがテーブルに並べられた厳つい道具類を見渡し、さてどうしようかとソフィアを伺う、
「・・・なによ?」
「フフン・・・ちょっと料理してみていい?」
ニヤリと微笑むタロウをムッと睨み返すソフィアであった。
1
お気に入りに追加
167
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
無能と蔑まれた七男、前世は史上最強の魔法使いだった!?
青空一夏
ファンタジー
ケアニー辺境伯爵家の七男カイルは、生まれつき魔法を使えず、家族から蔑まれて育った。しかし、ある日彼の前世の記憶が蘇る――その正体は、かつて世界を支配した史上最強の大魔法使いアーサー。戸惑いながらも、カイルはアーサーの知識と力を身につけていき、次第に自らの道を切り拓く。
魔法を操れぬはずの少年が最強の魔法を駆使し、自分を信じてくれる商店街の仲間のために立ち上げる。やがてそれは貴族社会すら揺るがす存在へと成長していくのだった。こちらは無自覚モテモテの最強青年になっていく、ケアニー辺境伯爵家の七男カイルの物語。
※こちらは「異世界ファンタジー × ラブコメ」要素を兼ね備えた作品です。メインは「異世界ファンタジー」ですが、恋愛要素やコメディ要素も兼ねた「ラブコメ寄りの異世界ファンタジー」になっています。カイルは複数の女性にもてますが、主人公が最終的には選ぶのは一人の女性です。一夫多妻のようなハーレム系の結末ではありませんので、女性の方にも共感できる内容になっています。異世界ファンタジーで男性主人公なので男性向けとしましたが、男女関係なく楽しめる内容を心がけて書いていきたいです。よろしくお願いします。
異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。
長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。
女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。
お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。
のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。
ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。
拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。
中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。
旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~
異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました
ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】
ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です
※自筆挿絵要注意⭐
表紙はhake様に頂いたファンアートです
(Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco
異世界召喚などというファンタジーな経験しました。
でも、間違いだったようです。
それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。
誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!?
あまりのひどい仕打ち!
私はどうしたらいいの……!?
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる