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本編
72話 初雪 その40
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「はー、疲れたわー」
とユーリとケイス、エルマの何とも珍しい組み合わせの三人が揃って階段から食堂に入ると、
「手はこう!!」
ミナの叫び声が響き、
「はい、先生!!」
ジャネットとルルの大声が続いた、何事かと三人は足を止めてしまう、
「で、こう」
「はい!!」
続いてミナがプリッとお尻を突きだし、ジャネットとルルも勢いよく尻を突き出した、さらにサレバとコミンが恥ずかしそうにそれに倣い、レスタも渋々と同じ姿勢をとっている、
「・・・何?これ?」
ユーリが思わず誰にともなく訊ねると、
「フフッ、ミナ先生のオユウギ教室なんです」
柔らかく微笑むカトカが顔を上げ、見ればサビナとゾーイもニコニコと生徒達を眺めており、そこにグルジアも混じっていた、タロウとレインもいつもの席で五人の様子を見つめており、エレインとテラ、オリビアにニコリーネも既に席に着いていた、どうやらもう夕食の時間となっていたようで、丁度良かったなとケイスが思う間もなく、
「せーの」
ミナが厳しい顔で音頭をとる、
「ねこふんじゃったー」
とややのんびりと歌声が響いた、それに合わせてミナは正に猫のような仕草で手を上下に腰をプリプリと左右に振る、それをまったくそのまま真似る生徒達、
「手はこう」
ミナの厳しい声が響き、同時に皆の手が獣のように開かれる、
「ひっかいた、ねこひっかいたー」
そののんびりとした歌声に合わせて開かれた両手が怪しく蠢いた、
「・・・何?これ?」
呆気にとられつつユーリが同じ疑問を口にした、
「だからー、ミナ先生のオユウギ教室なんですよ、ほら、所長もエルマさんもゆっくり見物しましょう、ケイスさんもお疲れ様でした」
カトカに代わってゾーイがニコリと微笑んだ、
「あー・・・見てていいの?」
「いいと思いますよ、それとも見物料でも払います?」
「いや、そんな気はサラサラないけどね・・・」
とユーリは取り合えずといつもの席に着き、エルマとケイスも邪魔にならないようにと壁際を移動して席に着いた、お疲れ様ですとエレインとテラがエルマを迎え、オリビアもニコリとケイスに微笑む、
「・・・どうしたんです?これ?」
ケイスがそっとオリビアに問うと、
「・・・すいません、私も戻ったらこうなってまして・・・でも・・・」
「そうね、とっても可愛らしいですよ」
エレインがニコニコと上機嫌で微笑み、テラも実に優しい笑みを浮かべている、
「そう・・・なんだ・・・」
ケイスがまぁ、この寮ではそういう事ばかりだしな、まぁいいかと身を捩じって五人の様子を楽しむこととした、すると、一曲終わったらしい、ムフーとミナが満足そうに鼻息を荒くし、
「これがオユウギなの、ねこふんじゃったのオユウギ」
とどうだと言わんばかりに胸を張る、
「はい、先生、とってもかわいいです」
ジャネットが猫の手のままで両手を上げ、
「はい、とっても楽しいです」
ルルも心底楽しそうな笑顔である、
「うー・・・ちょっと恥ずかしい・・・」
「コミンはねー」
「サレバはいいよー、こういうの好きでしょー」
「うん、好きー」
「レスタは・・・あー恥ずかしそう」
「・・・ですね・・・」
レスタは顔を赤くしてどうしたもんだかとキョロキョロとしていた、レスタはサレバとコミンに強引に引きずり込まれたのであるが、まぁ、身体を動かす事もその仕草も楽しい事は楽しかった、しかしそれ以上に気恥ずかしさが優ってしまっている、私は大人だからと早々に逃げ出したグルジアの判断は正しかったようで、そのグルジアは大人達と一緒に優しい瞳でこちらを眺めており、なんだか裏切られたような気がしてしまう、
「うん、じゃ、もう一回、今度はちゃんと歌うの!!」
ビシッと気合の入ったミナの言葉に、ハイッとさらに気合の入った声で返すジャネットとルル、サレバもサッと構え直すが、コミンとレスターはエーーーーとこれまた素直な悲鳴である、
「むー、やれば楽しいの、笑顔が大事なの、タロウが言ってたの」
ムッと二人を睨むミナに、モーと二人もゆるゆると両手を構える、まったくと微笑んでしまう観衆と化した大人達、ケイスはその場にいなくて良かったなと心底思ってしまった、恐らく遅れて戻らなければ確実にジャネットに引っ張り込まれていた事であろう、ジャネットやルルは何が楽しいんだかノリノリであり、サレバもまた根っから明るい性格である、コミンとレスタはどちらかと言えば引っ込み思案で、つまり自分によく似ている、もしこの輪に加わっていたら確実にその二人と同じ表情であったろうと思う、
「ねこふんじゃった、ねこふんじゃった、ねこふんずけちゃったら、ひっかいたー」
と今度は通常の曲調でミナが歌いだし、ジャネットとルル、サレバは唱和しつつキビキビとその怪しくも可愛らしい踊りを楽しみ、付き合わされている二人も何とかそれについていっている、
「これがオユウギなんですか?」
テラがそっとタロウに問いかけた、あっとエルマも振り向く、このような珍奇な事はどうせタロウの発案であろう、高々数日の付き合いであるが、タロウ以外に原因を求める方が難しい、
「そだねー、どう?楽しいでしょ」
タロウがニンマリと微笑む、
「ですね、フフッ、とっても可愛らしいです」
「確かに・・・これもあれですか、オンガクの一環ですか?」
「ん?まぁ、どうだろね、表現力を鍛えるって意味では音楽の一部かも・・・まぁ、どちらかっていうと大人が子供に押し付けて見物して楽しむっていう・・・若干歪んだ代物かもしれないんだけどさ、子供達は子供達で楽しんでくれればそれはそれでいいと思うしね、実際に・・・ミナも他の子達も喜んでくれたみたいだし・・・まぁ、結果オーライってやつかな」
タロウはニコニコとミナを見つめており、ケッカオーライ?とテラとエルマは同時に片眉を上げた、まぁ、何となく意味は分かる、ようはその言葉通りミナや子供達が楽しんでいればそれでいいのだろう、少々不穏な言説が感じ取られたタロウの説明であったが、どうしても大人は子供に押し付けるもので、それは躾けであったり、世の常識であったり、家業の教育であったりと様々である、そうやって大人の押し付けを取り込んで子供は大人になるものなのだ、そこは仕方ないのではないかなと思うテラとエルマである、
「あっ、エルマさん、どうでした学園長との打ち合わせは」
とテラが話題を変える、カトカとサビナから三人が学園長へ報告と相談に行っていると聞いており、テラは恐らく幼児教育の事であろうと察していた、
「はい、順調・・・というのは変ですね、改めて学園長のお考えを伺いまして・・・なので、もう少し改良・・・も違うかな、工夫が必要かと思います、特に運用面で」
「運用面ですか、それは昨晩も話した感じで?」
「はい・・・」
と二人は若干声を落として真面目な口調となる、タロウはオッと思うも口出しする事は無く、エレインもミナ達の様子を見つめながらも耳を傾けていた、エレインもテラと子供を預かる施設について打合せを重ねている、そこにエルマが今実際に構築しつつある幼児教育を取り入れる事も画策しており、また、ミナはどうなるかは分からないが、ノールら三人姉妹もできればそちらの施設で預かる形としたいと考えていた、これはまだソフィアにもタロウにも相談はしていない、早めに相談しようと考えてはいたが、ここ数日は食後も慌ただしかった為その隙が無かったのである、そこへ、
「はいはい、準備できたわよー」
とソフィアが顔を出し、やったーと叫んでしまったのはコミンとレスタであった、思わず笑う大人達、二人は恥ずかしそうに照れ笑いである、
「あら、戻った?」
ユーリとエルマ、ケイスの姿を認めてソフィアが微笑む、
「まぁね、丁度良かったわ、今日は何?」
「ふふん、パスタよー、美味しいからねー、食べ過ぎないようにー」
「パスター!!」
ミナがピョンと飛び跳ねた、
「あっ、あれ、この間作ったやつ?」
「へー、もう食べれるんですかー」
「どうなんだろー」
と一気に騒がしくなる女性達、
「試食しましたよ、とってもいい感じです」
ケイスがムフフと微笑み、なんととジャネットが目を剥いた、
「ほら、片付けて、全員揃ってるわよね」
ソフィアがサッと厨房へ戻り、ハーイと明るい返事が響く、そうして供されたパスタ料理はタロウが言葉だけで指導した、なんちゃってカルボナーラとでもいうべき料理で、さらには具沢山のホワイトシチューとなる、皆歓声でもってそれを迎えた、
「では、頂きましょう、少なめに盛っているからね、お代わりしたい人は遠慮無く言っていいわよー」
「ハーイ」
と明るい声が響き、全員の手が動き出す、すぐに、
「美味しい」
「うん、なんだこれ、シロメンと違う」
「だね、柔らかいけど歯ごたえが美味しい」
「ミナ、これ好きー」
「はいはい、ゆっくり食べなさい」
と好評のようであった、タロウとしてはホワイトシチューのそれは予想通りで、カルボナーラに関してはもう一味欲しいかなと感じてしまう、午前中おっさん共に振る舞った自分で作ったそれも、やはり一味足りなかった、やはりカルボナーラにはニンニクと大量の胡椒が必要なもので、目の前のこれには干し肉を由来とした塩気をチーズとミルクが見事に包み込み優しい味わい深さが感じられるが、どうにもパンチが足りない、ニンニクも胡椒もスヒーダムでの栽培を画策してはいるが、やはり急ぐべきかと皿を覗き込んで考えてしまう、
「なに?なんか変?」
ソフィアがそんなタロウの様子に気付いたようで、タロウは、
「ん、大丈夫、美味しいよ」
とニコリと微笑む、生徒達も大人達も夢中になって口に運んでいた、これはこれでこういうものだと思えば充分に美味しい料理となっている、
「そっ、あっ、他にはどんな料理があるの?」
ソフィアは4本フォークを器用に使いパスタを口に運びながら聞いてくる、どうやらそれほど積極的でなかったソフィアも満足している様子であった、
「ん?あー・・・そうだなー・・・他だと・・・あれかな、ほら、ハンバーグで使う肉?あれに味付けして適当に絡めただけでも美味しいし、冬キャベツかなそれを良い感じに切って干し肉と合わせても美味しい、何にしろ味を濃いめにしたソースとか炒め物とかであれば合うと思うよ、シロメンと一緒さ、後は・・・うん、あっ、オリーブオイルとの相性はいいよね・・・他には・・・やっぱり料理人の腕次第かな、色々試してみればいいよ、こっちの蝶々型のも使えるだろうしね」
「ふーん・・・冬キャベツのは美味しそうね」
「だろ、ふふん、まぁ色々やってみてよ、と言っても・・・」
とタロウはそこで大問題にぶつかってしまう、やはりどうしても食材の種類が少ない、王国には辛子や胡椒、ニンニクも勿論なのであるが、トマトにトウモロコシ、ジャガイモも無い、イタリアンの定番とされる食材が悉く無いのである、辛うじてあるのは干し肉とベーコンくらいで、それもタロウが見る限り馬の肉を使ったそれで、まさに保存食とばかりに味が濃い、まぁ、それはそれで調理と工夫次第で充分美味しいと感じるのであるが、それでもやはりパスタと言えばあの目に痛い程の赤色だよなと少しばかりの郷愁を感じる、そして手元にはそのトマトやトウモロコシ、ジャガイモにニンニクに胡椒、さらにはほうれん草にアボガドやらコーヒー豆、ヴァニラ、黒米、赤米、既に植え付けたマンゴーにバナナにレモン、ゴムの木、それら放浪中に各地で見つけた雑多な食材の原種は確保してあった、無論その可食部も確保している、その内様子を見ながら披露しようとは思っているが、王国の長い冬に足を突っ込んでいるこの時期である、その長い冬の楽しみにとタロウは考えていたりした、
「うん、そうだなー、春になったらいろんな野菜を植えようか、スヒーダムでも計画はしてるんだけど、やっぱりこっちでも野菜を育てたいよなー」
思わずボソリと呟く、
「野菜ですか!!」
サレバが勢いよく立ち上がってしまい、ムッとソフィアに一睨みされた、慌てて座るサレバであるが、その瞳は怪しく輝いている、
「野菜だねー、スヒーダムにも幾つか植えて来たんだけどね、他の野菜はちゃんと農地を作ってからって事になってね、あと、一年生の野菜とかはね、こっちでも育つと思うから・・・まぁ、どっちにしろ先の話し、春になってからだな、前にも言ったけど」
「ですね、ですね、楽しみです、あー・・・春かー」
「そうだねー、はーるよこいってやつだ」
「なんですかそれ?」
「ん?童謡だよ、はーるよ来い、はーやく来い、あーるきはじめたみーちゃんがーって歌」
ムーとミナがべたべたに口元を汚し頬をパンパンに膨らませて顔を上げ、エルマもドウヨウの単語に敏感に反応する、
「あー・・・はいはい、明日教えるな」
ニコリと微笑むタロウにミナはモグモグと口を動かしながら大きく頷いた、ウフフと嬉しそうである、
「次から次へとまぁ忙しいもんだわね」
ソフィアもまったくと目を眇めて感心してしまう、これでは子供達もヘラルダもついて行くだけで大変であろう、
「ん?まぁね、色々あるんだよ、面白いだろ?」
「そうね、まったく面白いもんだわ」
ニヤリと微笑むソフィア、その瞬間に、
「ソフィアさん、お代わりー」
ジャネットの大声が響き、
「私もー」
とルルが腰を上げた、
「あら、まぁ、あんたら二人ならいいけど、これ食べ過ぎると苦しくなるらしいから、ゆっくり食べなさいよ、競争してる訳じゃないんだから」
やれやれ早速かと腰を上げるソフィアであった。
とユーリとケイス、エルマの何とも珍しい組み合わせの三人が揃って階段から食堂に入ると、
「手はこう!!」
ミナの叫び声が響き、
「はい、先生!!」
ジャネットとルルの大声が続いた、何事かと三人は足を止めてしまう、
「で、こう」
「はい!!」
続いてミナがプリッとお尻を突きだし、ジャネットとルルも勢いよく尻を突き出した、さらにサレバとコミンが恥ずかしそうにそれに倣い、レスタも渋々と同じ姿勢をとっている、
「・・・何?これ?」
ユーリが思わず誰にともなく訊ねると、
「フフッ、ミナ先生のオユウギ教室なんです」
柔らかく微笑むカトカが顔を上げ、見ればサビナとゾーイもニコニコと生徒達を眺めており、そこにグルジアも混じっていた、タロウとレインもいつもの席で五人の様子を見つめており、エレインとテラ、オリビアにニコリーネも既に席に着いていた、どうやらもう夕食の時間となっていたようで、丁度良かったなとケイスが思う間もなく、
「せーの」
ミナが厳しい顔で音頭をとる、
「ねこふんじゃったー」
とややのんびりと歌声が響いた、それに合わせてミナは正に猫のような仕草で手を上下に腰をプリプリと左右に振る、それをまったくそのまま真似る生徒達、
「手はこう」
ミナの厳しい声が響き、同時に皆の手が獣のように開かれる、
「ひっかいた、ねこひっかいたー」
そののんびりとした歌声に合わせて開かれた両手が怪しく蠢いた、
「・・・何?これ?」
呆気にとられつつユーリが同じ疑問を口にした、
「だからー、ミナ先生のオユウギ教室なんですよ、ほら、所長もエルマさんもゆっくり見物しましょう、ケイスさんもお疲れ様でした」
カトカに代わってゾーイがニコリと微笑んだ、
「あー・・・見てていいの?」
「いいと思いますよ、それとも見物料でも払います?」
「いや、そんな気はサラサラないけどね・・・」
とユーリは取り合えずといつもの席に着き、エルマとケイスも邪魔にならないようにと壁際を移動して席に着いた、お疲れ様ですとエレインとテラがエルマを迎え、オリビアもニコリとケイスに微笑む、
「・・・どうしたんです?これ?」
ケイスがそっとオリビアに問うと、
「・・・すいません、私も戻ったらこうなってまして・・・でも・・・」
「そうね、とっても可愛らしいですよ」
エレインがニコニコと上機嫌で微笑み、テラも実に優しい笑みを浮かべている、
「そう・・・なんだ・・・」
ケイスがまぁ、この寮ではそういう事ばかりだしな、まぁいいかと身を捩じって五人の様子を楽しむこととした、すると、一曲終わったらしい、ムフーとミナが満足そうに鼻息を荒くし、
「これがオユウギなの、ねこふんじゃったのオユウギ」
とどうだと言わんばかりに胸を張る、
「はい、先生、とってもかわいいです」
ジャネットが猫の手のままで両手を上げ、
「はい、とっても楽しいです」
ルルも心底楽しそうな笑顔である、
「うー・・・ちょっと恥ずかしい・・・」
「コミンはねー」
「サレバはいいよー、こういうの好きでしょー」
「うん、好きー」
「レスタは・・・あー恥ずかしそう」
「・・・ですね・・・」
レスタは顔を赤くしてどうしたもんだかとキョロキョロとしていた、レスタはサレバとコミンに強引に引きずり込まれたのであるが、まぁ、身体を動かす事もその仕草も楽しい事は楽しかった、しかしそれ以上に気恥ずかしさが優ってしまっている、私は大人だからと早々に逃げ出したグルジアの判断は正しかったようで、そのグルジアは大人達と一緒に優しい瞳でこちらを眺めており、なんだか裏切られたような気がしてしまう、
「うん、じゃ、もう一回、今度はちゃんと歌うの!!」
ビシッと気合の入ったミナの言葉に、ハイッとさらに気合の入った声で返すジャネットとルル、サレバもサッと構え直すが、コミンとレスターはエーーーーとこれまた素直な悲鳴である、
「むー、やれば楽しいの、笑顔が大事なの、タロウが言ってたの」
ムッと二人を睨むミナに、モーと二人もゆるゆると両手を構える、まったくと微笑んでしまう観衆と化した大人達、ケイスはその場にいなくて良かったなと心底思ってしまった、恐らく遅れて戻らなければ確実にジャネットに引っ張り込まれていた事であろう、ジャネットやルルは何が楽しいんだかノリノリであり、サレバもまた根っから明るい性格である、コミンとレスタはどちらかと言えば引っ込み思案で、つまり自分によく似ている、もしこの輪に加わっていたら確実にその二人と同じ表情であったろうと思う、
「ねこふんじゃった、ねこふんじゃった、ねこふんずけちゃったら、ひっかいたー」
と今度は通常の曲調でミナが歌いだし、ジャネットとルル、サレバは唱和しつつキビキビとその怪しくも可愛らしい踊りを楽しみ、付き合わされている二人も何とかそれについていっている、
「これがオユウギなんですか?」
テラがそっとタロウに問いかけた、あっとエルマも振り向く、このような珍奇な事はどうせタロウの発案であろう、高々数日の付き合いであるが、タロウ以外に原因を求める方が難しい、
「そだねー、どう?楽しいでしょ」
タロウがニンマリと微笑む、
「ですね、フフッ、とっても可愛らしいです」
「確かに・・・これもあれですか、オンガクの一環ですか?」
「ん?まぁ、どうだろね、表現力を鍛えるって意味では音楽の一部かも・・・まぁ、どちらかっていうと大人が子供に押し付けて見物して楽しむっていう・・・若干歪んだ代物かもしれないんだけどさ、子供達は子供達で楽しんでくれればそれはそれでいいと思うしね、実際に・・・ミナも他の子達も喜んでくれたみたいだし・・・まぁ、結果オーライってやつかな」
タロウはニコニコとミナを見つめており、ケッカオーライ?とテラとエルマは同時に片眉を上げた、まぁ、何となく意味は分かる、ようはその言葉通りミナや子供達が楽しんでいればそれでいいのだろう、少々不穏な言説が感じ取られたタロウの説明であったが、どうしても大人は子供に押し付けるもので、それは躾けであったり、世の常識であったり、家業の教育であったりと様々である、そうやって大人の押し付けを取り込んで子供は大人になるものなのだ、そこは仕方ないのではないかなと思うテラとエルマである、
「あっ、エルマさん、どうでした学園長との打ち合わせは」
とテラが話題を変える、カトカとサビナから三人が学園長へ報告と相談に行っていると聞いており、テラは恐らく幼児教育の事であろうと察していた、
「はい、順調・・・というのは変ですね、改めて学園長のお考えを伺いまして・・・なので、もう少し改良・・・も違うかな、工夫が必要かと思います、特に運用面で」
「運用面ですか、それは昨晩も話した感じで?」
「はい・・・」
と二人は若干声を落として真面目な口調となる、タロウはオッと思うも口出しする事は無く、エレインもミナ達の様子を見つめながらも耳を傾けていた、エレインもテラと子供を預かる施設について打合せを重ねている、そこにエルマが今実際に構築しつつある幼児教育を取り入れる事も画策しており、また、ミナはどうなるかは分からないが、ノールら三人姉妹もできればそちらの施設で預かる形としたいと考えていた、これはまだソフィアにもタロウにも相談はしていない、早めに相談しようと考えてはいたが、ここ数日は食後も慌ただしかった為その隙が無かったのである、そこへ、
「はいはい、準備できたわよー」
とソフィアが顔を出し、やったーと叫んでしまったのはコミンとレスタであった、思わず笑う大人達、二人は恥ずかしそうに照れ笑いである、
「あら、戻った?」
ユーリとエルマ、ケイスの姿を認めてソフィアが微笑む、
「まぁね、丁度良かったわ、今日は何?」
「ふふん、パスタよー、美味しいからねー、食べ過ぎないようにー」
「パスター!!」
ミナがピョンと飛び跳ねた、
「あっ、あれ、この間作ったやつ?」
「へー、もう食べれるんですかー」
「どうなんだろー」
と一気に騒がしくなる女性達、
「試食しましたよ、とってもいい感じです」
ケイスがムフフと微笑み、なんととジャネットが目を剥いた、
「ほら、片付けて、全員揃ってるわよね」
ソフィアがサッと厨房へ戻り、ハーイと明るい返事が響く、そうして供されたパスタ料理はタロウが言葉だけで指導した、なんちゃってカルボナーラとでもいうべき料理で、さらには具沢山のホワイトシチューとなる、皆歓声でもってそれを迎えた、
「では、頂きましょう、少なめに盛っているからね、お代わりしたい人は遠慮無く言っていいわよー」
「ハーイ」
と明るい声が響き、全員の手が動き出す、すぐに、
「美味しい」
「うん、なんだこれ、シロメンと違う」
「だね、柔らかいけど歯ごたえが美味しい」
「ミナ、これ好きー」
「はいはい、ゆっくり食べなさい」
と好評のようであった、タロウとしてはホワイトシチューのそれは予想通りで、カルボナーラに関してはもう一味欲しいかなと感じてしまう、午前中おっさん共に振る舞った自分で作ったそれも、やはり一味足りなかった、やはりカルボナーラにはニンニクと大量の胡椒が必要なもので、目の前のこれには干し肉を由来とした塩気をチーズとミルクが見事に包み込み優しい味わい深さが感じられるが、どうにもパンチが足りない、ニンニクも胡椒もスヒーダムでの栽培を画策してはいるが、やはり急ぐべきかと皿を覗き込んで考えてしまう、
「なに?なんか変?」
ソフィアがそんなタロウの様子に気付いたようで、タロウは、
「ん、大丈夫、美味しいよ」
とニコリと微笑む、生徒達も大人達も夢中になって口に運んでいた、これはこれでこういうものだと思えば充分に美味しい料理となっている、
「そっ、あっ、他にはどんな料理があるの?」
ソフィアは4本フォークを器用に使いパスタを口に運びながら聞いてくる、どうやらそれほど積極的でなかったソフィアも満足している様子であった、
「ん?あー・・・そうだなー・・・他だと・・・あれかな、ほら、ハンバーグで使う肉?あれに味付けして適当に絡めただけでも美味しいし、冬キャベツかなそれを良い感じに切って干し肉と合わせても美味しい、何にしろ味を濃いめにしたソースとか炒め物とかであれば合うと思うよ、シロメンと一緒さ、後は・・・うん、あっ、オリーブオイルとの相性はいいよね・・・他には・・・やっぱり料理人の腕次第かな、色々試してみればいいよ、こっちの蝶々型のも使えるだろうしね」
「ふーん・・・冬キャベツのは美味しそうね」
「だろ、ふふん、まぁ色々やってみてよ、と言っても・・・」
とタロウはそこで大問題にぶつかってしまう、やはりどうしても食材の種類が少ない、王国には辛子や胡椒、ニンニクも勿論なのであるが、トマトにトウモロコシ、ジャガイモも無い、イタリアンの定番とされる食材が悉く無いのである、辛うじてあるのは干し肉とベーコンくらいで、それもタロウが見る限り馬の肉を使ったそれで、まさに保存食とばかりに味が濃い、まぁ、それはそれで調理と工夫次第で充分美味しいと感じるのであるが、それでもやはりパスタと言えばあの目に痛い程の赤色だよなと少しばかりの郷愁を感じる、そして手元にはそのトマトやトウモロコシ、ジャガイモにニンニクに胡椒、さらにはほうれん草にアボガドやらコーヒー豆、ヴァニラ、黒米、赤米、既に植え付けたマンゴーにバナナにレモン、ゴムの木、それら放浪中に各地で見つけた雑多な食材の原種は確保してあった、無論その可食部も確保している、その内様子を見ながら披露しようとは思っているが、王国の長い冬に足を突っ込んでいるこの時期である、その長い冬の楽しみにとタロウは考えていたりした、
「うん、そうだなー、春になったらいろんな野菜を植えようか、スヒーダムでも計画はしてるんだけど、やっぱりこっちでも野菜を育てたいよなー」
思わずボソリと呟く、
「野菜ですか!!」
サレバが勢いよく立ち上がってしまい、ムッとソフィアに一睨みされた、慌てて座るサレバであるが、その瞳は怪しく輝いている、
「野菜だねー、スヒーダムにも幾つか植えて来たんだけどね、他の野菜はちゃんと農地を作ってからって事になってね、あと、一年生の野菜とかはね、こっちでも育つと思うから・・・まぁ、どっちにしろ先の話し、春になってからだな、前にも言ったけど」
「ですね、ですね、楽しみです、あー・・・春かー」
「そうだねー、はーるよこいってやつだ」
「なんですかそれ?」
「ん?童謡だよ、はーるよ来い、はーやく来い、あーるきはじめたみーちゃんがーって歌」
ムーとミナがべたべたに口元を汚し頬をパンパンに膨らませて顔を上げ、エルマもドウヨウの単語に敏感に反応する、
「あー・・・はいはい、明日教えるな」
ニコリと微笑むタロウにミナはモグモグと口を動かしながら大きく頷いた、ウフフと嬉しそうである、
「次から次へとまぁ忙しいもんだわね」
ソフィアもまったくと目を眇めて感心してしまう、これでは子供達もヘラルダもついて行くだけで大変であろう、
「ん?まぁね、色々あるんだよ、面白いだろ?」
「そうね、まったく面白いもんだわ」
ニヤリと微笑むソフィア、その瞬間に、
「ソフィアさん、お代わりー」
ジャネットの大声が響き、
「私もー」
とルルが腰を上げた、
「あら、まぁ、あんたら二人ならいいけど、これ食べ過ぎると苦しくなるらしいから、ゆっくり食べなさいよ、競争してる訳じゃないんだから」
やれやれ早速かと腰を上げるソフィアであった。
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Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
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シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
いきなり異世界って理不尽だ!
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三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
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