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本編
72話 初雪 その37
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「いやー、丁度良かったよー」
タロウがウキウキと階段を下り、その後ろに消沈した様子のブラスと苦笑いを浮かべたバーレントが続いた、三階での打合せを終えるとタロウはブラスに依頼したいものがあったんだよとニヤリと微笑んだ、エッと言葉を無くすブラスである、さらにバーレントじゃなくてリノルトと一緒に来れば話しが早かったなどと大変に失礼な物言いで、しかしバーレントは逆にホッと安堵し、ブラスはこれだから顔を出したくなかったんだと口には出さずともジロリとバーレントを睨んでしまった、そして三人が食堂に入ると、
「あー、タロウー、これー、これ何ー」
ミナが木簡を片手にタロウに抱き着き、他の子供達はヘラルダの指導の下、熱心にマリンバに向かっている、
「おう、なんだ?」
「これー、オユウギー、あと、カメー」
「ん?おゆうぎ?」
「うん、メダカのこれー、オユウギってなにー」
タロウはミナを見下ろして首を傾げ、瞬時にアーもしかしてーと理解した、ブラスとバーレントもほぼ同時にオユウギとは?と首を傾げている、
「なんだ、わかんない字は無かったんじゃないのか?」
「うー、読めなくなかったー」
「そりゃ・・・そうだろな」
「うん、でも、歌ってみたら変だったー」
「そっかー、変かー」
「うん、だからオユウギってなにー」
ミナの切実で真剣な瞳に、タロウはまぁそうかもしれないなと頬を指先でかく、どうやら誤魔化し翻訳に漏れがあったらしい、そして確かにお遊戯なる単語は王国には無い、踊りかもしくは戯れとかに変更するべきであったかと瞬時に思い立つもそれは見事な後の祭りというもので、
「あー・・・ヘラルダさんね」
とタロウはミナの頭に手を置き、
「子供の為の踊りってある?」
大変に曖昧な質問を口にする、ヘラルダはん?と首を傾げ、ブラスとバーレントも踊り?と首を傾げる、
「・・・子供の為の・・・踊り、ですか?」
「うん、子供が躍る踊り、歌に合わせて・・・」
「・・・聞いた事無いです・・・ね・・・」
サスキアの手を取ってマリンバを叩いていたヘラルダはゆっくりとその手が止まり、サスキアはウーと寂しそうにヘラルダを見上げる、
「そっか・・・そうだよなー、だって、童謡も無かったんだし・・・それに合わせた踊りなんて無いよなー」
うーんとタロウは首を捻る、
「タロー」
ミナは寂しそうにタロウを見上げ、ノールとノーラの手も止まってしまった、唐突に食堂は静かになり、妙に沈鬱な雰囲気となってしまう、
「あー・・・教える事は出来るんだが・・・」
その沈黙に耐え切れなくなったタロウがさてどうしたものかとミナを見下ろす、
「教えてー、なにー」
「えっとな・・・ちょっとした踊りなんだよ・・・」
「踊りー」
「うん、なんていうか・・・歌いながら踊る・・・であってるのかな?ねこふんじゃったって歌いながら踊るんだよ・・・いわば・・・ねこふんじゃったの踊り?」
すると、みるみるとミナの顔が明るくなり、
「教えてー、踊りたいー、歌いたいー、ねこふんじゃったの踊りー、楽しそー」
ピョンと大きく飛び跳ねた、エッと驚くのはヘラルダである、踊りそのものは勿論王国にもあり、それは祭りや地方毎に違うであろうが、そこここで楽しまれている文化ではある、特にルートの調べで輪になって踊る事が多く、夜の店では少ないが、春の祭りでは楽師はその輪の中心にあって、大変に楽しまれている、故に、まず驚いたのが、その踊りの曲に歌詞がある事で、そして歌詞と共に踊るという概念であった、いや、この場合は逆なのかもしれない、先に曲と歌があり、そこに踊りがくっついたのであろうか、思考を様々に巡らせるも、想像することは難しく混乱するばかりであった、
「まぁ・・・楽しいと思うぞ、猫の真似とかするし・・・っていうか殆どそれだな・・・うん・・・」
タロウが右目を閉じて頷くと、
「ニャンコの真似ー!!」
「ゴロニャーゴ?」
「ゴロニャーゴ!!」
ミナが叫びノールとノーラが条件反射とばかりに声を上げた、
「ゴロニャーゴー」
ミナが答える、一体どこの国の言葉だよと微笑んでしまうタロウとヘラルダ、訳が分からないと困惑するブラスとバーレントである、
「ゴロニャー」
「ゴニャー」
「ニャーゴ」
「ニャー」
ミナは猫語を駆使してタロウの脚にしがみ付き、ノールとノーラもニャーニャー言いながらタロウの腕を掴む、サスキアもそっとヘラルダの元から離れてタロウの裾に手を伸ばした、アラッとヘラルダが微笑んでしまう、人見知りのサスキアが男性の服を掴むなど初めての事かもしれなかった、どうやらサスキアはすっかりタロウに慣れて気を許したらしい、
「君らね、何言ってるかわからん」
しかし、タロウはどうしたもんだかと顔を顰める、
「ニャー」
「ギシャー」
「ゴロニャー」
「ニャー」
三人同時に競うように猫の真似事であった、どうやら非難しているらしい、サスキアもウーとヌーとかと呻いているようで、
「あー・・・ちゃんと話さない子には教えないぞ」
ムッとタロウに睨まれやっと静かになる子供達、しかしそれもほんの一瞬で、
「・・・教えてー、ニャンコの真似上手かったでしょー」
「上手だったー?」
「ノール得意なのー、サスキアもうなるのが上手いのー」
「ねー」
再びギャーギャーと姦しくなる、
「はいはい、じゃ、教えるけど・・・どうしようかな、ヘラルダ先生、どんなもん?」
とここは担当者がいる以上そちらに確認するのが正道であろう、さらに断られればそれでいいとの一縷の望みもあった、
「・・・えっと・・・踊りですか?ねこふんじゃったの?」
「うん、そういうのがあるんだよ、ほら、ミナが分かんないって言ってたお遊戯ね、それが子供の踊りの事でね、そういう総称なんだけど・・・」
「なら、そう仰ればよかったんですよ、変にほら、ねこふんじゃったの踊りとか言うから・・・」
ヘラルダが流石にこれは擁護できないなと目を細めて苦笑いである、子供達の熱い視線がタロウとヘラルダの間を行き来し、タロウはだよなーとどうしたもんだかと子供達を見下ろす、
「・・・まぁ・・・簡単なやつな・・・」
ミナの爛々と輝く瞳と、ノールとノーラの期待に満ちた満面の笑み、サスキアの縋るような視線にタロウは根負けしたのか優しく微笑む、
「やったー、どうやるのー?どうするのー」
ミナがピョンピョン飛び跳ね、
「ニャンコの踊りー」
「ふんじゃったの踊りー」
ノールとノーラもはしゃぎだす、サスキアは無言でタロウの脚に抱き着いた、どうやら感謝を表しているらしい、もしくは歓喜であろうか、
「こら暴れるな、じゃ・・・うん、先にお仕事していいか?それが終わってからな」
「うん」
と素直な笑顔を浮かべる四人である、
「ん、じゃ、ごめん、先生、これ一台借りるね」
とマリンバに手を伸ばすタロウ、そのまま振り向き、
「まずはこれなんだがさ」
と大変に渋い顔をブラスに向けた、
「あっ、はい」
とブラスがいいのかなと不思議そうに歩み寄る、そうしてタロウはマリンバの構造を取り合えずと説明し、その音色を聞かせた、これにはブラスもバーレントもホヘーと感心するしかない、
「木なんですね」
「木だねー」
「木なんだよ」
当たり前の事を確認しあう三人である、
「肝としてはこの木の長さ、それと裏側のこの微妙な凹み?」
「あっ、ホントだ抉ってある・・・」
「うん、これでね音が異なるんだ」
「はえー・・・こりゃ凄いっすね」
「単純なのに良い音ですねー、しっかり楽器になってる・・・これは面白いな・・・」
大人二人が感心するのを子供達も嬉しそうに見上げ、ヘラルダもまたなるほどそういう理屈なのかと理解を深める、
「だから・・・取り合えず作ってよ」
しかしタロウが気楽に言い放った一言に、ブラスは血の気の引く音を耳にした、どうにもタロウといるとこういう事がままある、すっかり慣れたようで、慣れない、このマリンバなる楽器が木製であると説明する間にもどうせそう言われるだろうなとは思っており、その心づもりがあったとしてもやはりドキリとするもので、
「・・・取り合えず・・・って・・・」
「うん、明日持って来いとは言わないし、楽器だからね、調音が難しいだろうけど、取り合えずさ・・・」
「・・・取り合えず・・・ですかー」
バーレントはこれはもう他人事だなとニヤニヤとブラスを見つめ、ブラスは青い顔でタロウとマリンバを見比べている、
「まぁ・・・難しいのはこの材だな、この木材は重くて密度が濃い材でね、あっ、こっちには自生してないからね、悪しからず」
「ちょ・・・ちょっと待って下さいよ、それだと作れないじゃないですかー」
「ほら、それはほれ、似たような材でやってみてよ、音色が変わるのは当然理解してるから」
「・・・それでいいんですか?・・・まぁ、確かにある材で試す事は出来ると思いますし・・・それしか出来ないですけど・・・」
「それでいいんだよ、全く同じ音色は求めてないよ、あくまで似たような代物って事でね」
「それなら・・・なんとか・・・ですけど・・・そのオンカイですか?正直俺には分らないですよ」
「うん、それも大丈夫、あくまでほら、似たような物を作れれば、後は俺と先生がいれば調音は出来るかなって感じ?」
先生とは私の事でいいのかなとヘラルダが不安そうに首を傾げた、
「・・・なら・・・あくまであれです、似たようなものって事で作ってみますけど・・・」
タロウのお願いごとにはとても否とは言えないブラスであった、特にそれが木製品となれば職人としての矜持もある、断るのは簡単なのだがタロウとの縁は握っておかないとあっさりと離れるだろうと思われ、またブラス自身も楽しんでいたりもする、さらに言えば商売上でも大変に重要な顧客で、本人は否定するであろうがその実力で名を成した権力者でもあるのだ、
「ありがと、それでいいよ、でだ、ついでになんだけど、この楽器にね、脚が欲しくてさ、テーブルみたいな」
「あっ、それは簡単です」
「だよね、高さはテーブルよりも若干高いくらい・・・あれだな、賭け事用のテーブルの高さがいいね、作業台か、それの方が疲れないだろうね、で、四本脚でね、この下に銅管を置きたいんだよね」
「銅管?」
ブラスとバーレントが何の意味があるんだろうと首を傾げ、ヘラルダも不思議そうに聞き入っている、
「うん、音を響かせるのにね、大事なんだな、このままだとそれほど遠くに音が届かなくてね、まぁ・・・それもあくまで試してみたいって興味だけなんだけどさ」
ハーと気の抜けた溜息で答えるしかないブラスである、
「ん、取り合えずね、急がないけど、ちゃんと対価は約束するから、やってみて、第一上手くいったら売れるぞ、これ」
ニヤリとタロウが微笑み、どう?とヘラルダにも同意を求める、ヘラルダは大きく何度も頷いてしまった、確かにこれは売れると思われる、その音色も良いが大変に分りやすく扱いやすい、実際に子供達が遊び程度に叩いてもそれなりの曲に聞こえるほどで、他の楽器、ルートや笛ではまず音を鳴らす事からして難しい、つまりこのマリンバは入門には最適な楽器なのであった、
「そう・・・です・・・か・・・ね?」
ブラスはしかし今一つ理解できずにさらに大きく首を傾げた、いくら考えても売れる実感が湧かない、それも致し方ない、なにしろブラスの本業とはあまりにも懸け離れた業種の事である、ブラス自身楽器なぞ触れたことも無ければ弾こうとも思った事が無い、精々祭りか飲み屋で見かける程度で正直まるで興味が無かった、
「大丈夫、なんとなれば、ほら、貴族の皆様をだまくらかして売りつけるし」
「また・・・そんな事言ってー」
「駄目か?」
「その内本気で怒られますよ・・・」
ブラスとバーレントが渋い顔でタロウを見つめる、
「まぁ・・・なんとかなるよ、という事で頼んだ、気長に待つから宜しく、でね」
とタロウはテーブルに転がっていた丸い何かを手にすると、
「これもね、カスタネットっていう楽器なんだけどー」
ニヤーと厭らしい笑みがブラスに向かい、あー・・・これは来るのを渋った訳だわとバーレントは申し訳なさそうにジンワリと汗ばんでいるように見えるブラスの後ろ頭を見つめてしまうのであった。
タロウがウキウキと階段を下り、その後ろに消沈した様子のブラスと苦笑いを浮かべたバーレントが続いた、三階での打合せを終えるとタロウはブラスに依頼したいものがあったんだよとニヤリと微笑んだ、エッと言葉を無くすブラスである、さらにバーレントじゃなくてリノルトと一緒に来れば話しが早かったなどと大変に失礼な物言いで、しかしバーレントは逆にホッと安堵し、ブラスはこれだから顔を出したくなかったんだと口には出さずともジロリとバーレントを睨んでしまった、そして三人が食堂に入ると、
「あー、タロウー、これー、これ何ー」
ミナが木簡を片手にタロウに抱き着き、他の子供達はヘラルダの指導の下、熱心にマリンバに向かっている、
「おう、なんだ?」
「これー、オユウギー、あと、カメー」
「ん?おゆうぎ?」
「うん、メダカのこれー、オユウギってなにー」
タロウはミナを見下ろして首を傾げ、瞬時にアーもしかしてーと理解した、ブラスとバーレントもほぼ同時にオユウギとは?と首を傾げている、
「なんだ、わかんない字は無かったんじゃないのか?」
「うー、読めなくなかったー」
「そりゃ・・・そうだろな」
「うん、でも、歌ってみたら変だったー」
「そっかー、変かー」
「うん、だからオユウギってなにー」
ミナの切実で真剣な瞳に、タロウはまぁそうかもしれないなと頬を指先でかく、どうやら誤魔化し翻訳に漏れがあったらしい、そして確かにお遊戯なる単語は王国には無い、踊りかもしくは戯れとかに変更するべきであったかと瞬時に思い立つもそれは見事な後の祭りというもので、
「あー・・・ヘラルダさんね」
とタロウはミナの頭に手を置き、
「子供の為の踊りってある?」
大変に曖昧な質問を口にする、ヘラルダはん?と首を傾げ、ブラスとバーレントも踊り?と首を傾げる、
「・・・子供の為の・・・踊り、ですか?」
「うん、子供が躍る踊り、歌に合わせて・・・」
「・・・聞いた事無いです・・・ね・・・」
サスキアの手を取ってマリンバを叩いていたヘラルダはゆっくりとその手が止まり、サスキアはウーと寂しそうにヘラルダを見上げる、
「そっか・・・そうだよなー、だって、童謡も無かったんだし・・・それに合わせた踊りなんて無いよなー」
うーんとタロウは首を捻る、
「タロー」
ミナは寂しそうにタロウを見上げ、ノールとノーラの手も止まってしまった、唐突に食堂は静かになり、妙に沈鬱な雰囲気となってしまう、
「あー・・・教える事は出来るんだが・・・」
その沈黙に耐え切れなくなったタロウがさてどうしたものかとミナを見下ろす、
「教えてー、なにー」
「えっとな・・・ちょっとした踊りなんだよ・・・」
「踊りー」
「うん、なんていうか・・・歌いながら踊る・・・であってるのかな?ねこふんじゃったって歌いながら踊るんだよ・・・いわば・・・ねこふんじゃったの踊り?」
すると、みるみるとミナの顔が明るくなり、
「教えてー、踊りたいー、歌いたいー、ねこふんじゃったの踊りー、楽しそー」
ピョンと大きく飛び跳ねた、エッと驚くのはヘラルダである、踊りそのものは勿論王国にもあり、それは祭りや地方毎に違うであろうが、そこここで楽しまれている文化ではある、特にルートの調べで輪になって踊る事が多く、夜の店では少ないが、春の祭りでは楽師はその輪の中心にあって、大変に楽しまれている、故に、まず驚いたのが、その踊りの曲に歌詞がある事で、そして歌詞と共に踊るという概念であった、いや、この場合は逆なのかもしれない、先に曲と歌があり、そこに踊りがくっついたのであろうか、思考を様々に巡らせるも、想像することは難しく混乱するばかりであった、
「まぁ・・・楽しいと思うぞ、猫の真似とかするし・・・っていうか殆どそれだな・・・うん・・・」
タロウが右目を閉じて頷くと、
「ニャンコの真似ー!!」
「ゴロニャーゴ?」
「ゴロニャーゴ!!」
ミナが叫びノールとノーラが条件反射とばかりに声を上げた、
「ゴロニャーゴー」
ミナが答える、一体どこの国の言葉だよと微笑んでしまうタロウとヘラルダ、訳が分からないと困惑するブラスとバーレントである、
「ゴロニャー」
「ゴニャー」
「ニャーゴ」
「ニャー」
ミナは猫語を駆使してタロウの脚にしがみ付き、ノールとノーラもニャーニャー言いながらタロウの腕を掴む、サスキアもそっとヘラルダの元から離れてタロウの裾に手を伸ばした、アラッとヘラルダが微笑んでしまう、人見知りのサスキアが男性の服を掴むなど初めての事かもしれなかった、どうやらサスキアはすっかりタロウに慣れて気を許したらしい、
「君らね、何言ってるかわからん」
しかし、タロウはどうしたもんだかと顔を顰める、
「ニャー」
「ギシャー」
「ゴロニャー」
「ニャー」
三人同時に競うように猫の真似事であった、どうやら非難しているらしい、サスキアもウーとヌーとかと呻いているようで、
「あー・・・ちゃんと話さない子には教えないぞ」
ムッとタロウに睨まれやっと静かになる子供達、しかしそれもほんの一瞬で、
「・・・教えてー、ニャンコの真似上手かったでしょー」
「上手だったー?」
「ノール得意なのー、サスキアもうなるのが上手いのー」
「ねー」
再びギャーギャーと姦しくなる、
「はいはい、じゃ、教えるけど・・・どうしようかな、ヘラルダ先生、どんなもん?」
とここは担当者がいる以上そちらに確認するのが正道であろう、さらに断られればそれでいいとの一縷の望みもあった、
「・・・えっと・・・踊りですか?ねこふんじゃったの?」
「うん、そういうのがあるんだよ、ほら、ミナが分かんないって言ってたお遊戯ね、それが子供の踊りの事でね、そういう総称なんだけど・・・」
「なら、そう仰ればよかったんですよ、変にほら、ねこふんじゃったの踊りとか言うから・・・」
ヘラルダが流石にこれは擁護できないなと目を細めて苦笑いである、子供達の熱い視線がタロウとヘラルダの間を行き来し、タロウはだよなーとどうしたもんだかと子供達を見下ろす、
「・・・まぁ・・・簡単なやつな・・・」
ミナの爛々と輝く瞳と、ノールとノーラの期待に満ちた満面の笑み、サスキアの縋るような視線にタロウは根負けしたのか優しく微笑む、
「やったー、どうやるのー?どうするのー」
ミナがピョンピョン飛び跳ね、
「ニャンコの踊りー」
「ふんじゃったの踊りー」
ノールとノーラもはしゃぎだす、サスキアは無言でタロウの脚に抱き着いた、どうやら感謝を表しているらしい、もしくは歓喜であろうか、
「こら暴れるな、じゃ・・・うん、先にお仕事していいか?それが終わってからな」
「うん」
と素直な笑顔を浮かべる四人である、
「ん、じゃ、ごめん、先生、これ一台借りるね」
とマリンバに手を伸ばすタロウ、そのまま振り向き、
「まずはこれなんだがさ」
と大変に渋い顔をブラスに向けた、
「あっ、はい」
とブラスがいいのかなと不思議そうに歩み寄る、そうしてタロウはマリンバの構造を取り合えずと説明し、その音色を聞かせた、これにはブラスもバーレントもホヘーと感心するしかない、
「木なんですね」
「木だねー」
「木なんだよ」
当たり前の事を確認しあう三人である、
「肝としてはこの木の長さ、それと裏側のこの微妙な凹み?」
「あっ、ホントだ抉ってある・・・」
「うん、これでね音が異なるんだ」
「はえー・・・こりゃ凄いっすね」
「単純なのに良い音ですねー、しっかり楽器になってる・・・これは面白いな・・・」
大人二人が感心するのを子供達も嬉しそうに見上げ、ヘラルダもまたなるほどそういう理屈なのかと理解を深める、
「だから・・・取り合えず作ってよ」
しかしタロウが気楽に言い放った一言に、ブラスは血の気の引く音を耳にした、どうにもタロウといるとこういう事がままある、すっかり慣れたようで、慣れない、このマリンバなる楽器が木製であると説明する間にもどうせそう言われるだろうなとは思っており、その心づもりがあったとしてもやはりドキリとするもので、
「・・・取り合えず・・・って・・・」
「うん、明日持って来いとは言わないし、楽器だからね、調音が難しいだろうけど、取り合えずさ・・・」
「・・・取り合えず・・・ですかー」
バーレントはこれはもう他人事だなとニヤニヤとブラスを見つめ、ブラスは青い顔でタロウとマリンバを見比べている、
「まぁ・・・難しいのはこの材だな、この木材は重くて密度が濃い材でね、あっ、こっちには自生してないからね、悪しからず」
「ちょ・・・ちょっと待って下さいよ、それだと作れないじゃないですかー」
「ほら、それはほれ、似たような材でやってみてよ、音色が変わるのは当然理解してるから」
「・・・それでいいんですか?・・・まぁ、確かにある材で試す事は出来ると思いますし・・・それしか出来ないですけど・・・」
「それでいいんだよ、全く同じ音色は求めてないよ、あくまで似たような代物って事でね」
「それなら・・・なんとか・・・ですけど・・・そのオンカイですか?正直俺には分らないですよ」
「うん、それも大丈夫、あくまでほら、似たような物を作れれば、後は俺と先生がいれば調音は出来るかなって感じ?」
先生とは私の事でいいのかなとヘラルダが不安そうに首を傾げた、
「・・・なら・・・あくまであれです、似たようなものって事で作ってみますけど・・・」
タロウのお願いごとにはとても否とは言えないブラスであった、特にそれが木製品となれば職人としての矜持もある、断るのは簡単なのだがタロウとの縁は握っておかないとあっさりと離れるだろうと思われ、またブラス自身も楽しんでいたりもする、さらに言えば商売上でも大変に重要な顧客で、本人は否定するであろうがその実力で名を成した権力者でもあるのだ、
「ありがと、それでいいよ、でだ、ついでになんだけど、この楽器にね、脚が欲しくてさ、テーブルみたいな」
「あっ、それは簡単です」
「だよね、高さはテーブルよりも若干高いくらい・・・あれだな、賭け事用のテーブルの高さがいいね、作業台か、それの方が疲れないだろうね、で、四本脚でね、この下に銅管を置きたいんだよね」
「銅管?」
ブラスとバーレントが何の意味があるんだろうと首を傾げ、ヘラルダも不思議そうに聞き入っている、
「うん、音を響かせるのにね、大事なんだな、このままだとそれほど遠くに音が届かなくてね、まぁ・・・それもあくまで試してみたいって興味だけなんだけどさ」
ハーと気の抜けた溜息で答えるしかないブラスである、
「ん、取り合えずね、急がないけど、ちゃんと対価は約束するから、やってみて、第一上手くいったら売れるぞ、これ」
ニヤリとタロウが微笑み、どう?とヘラルダにも同意を求める、ヘラルダは大きく何度も頷いてしまった、確かにこれは売れると思われる、その音色も良いが大変に分りやすく扱いやすい、実際に子供達が遊び程度に叩いてもそれなりの曲に聞こえるほどで、他の楽器、ルートや笛ではまず音を鳴らす事からして難しい、つまりこのマリンバは入門には最適な楽器なのであった、
「そう・・・です・・・か・・・ね?」
ブラスはしかし今一つ理解できずにさらに大きく首を傾げた、いくら考えても売れる実感が湧かない、それも致し方ない、なにしろブラスの本業とはあまりにも懸け離れた業種の事である、ブラス自身楽器なぞ触れたことも無ければ弾こうとも思った事が無い、精々祭りか飲み屋で見かける程度で正直まるで興味が無かった、
「大丈夫、なんとなれば、ほら、貴族の皆様をだまくらかして売りつけるし」
「また・・・そんな事言ってー」
「駄目か?」
「その内本気で怒られますよ・・・」
ブラスとバーレントが渋い顔でタロウを見つめる、
「まぁ・・・なんとかなるよ、という事で頼んだ、気長に待つから宜しく、でね」
とタロウはテーブルに転がっていた丸い何かを手にすると、
「これもね、カスタネットっていう楽器なんだけどー」
ニヤーと厭らしい笑みがブラスに向かい、あー・・・これは来るのを渋った訳だわとバーレントは申し訳なさそうにジンワリと汗ばんでいるように見えるブラスの後ろ頭を見つめてしまうのであった。
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そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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