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本編
72話 初雪 その23
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「では、六花ソウザイ店、キッサニャンコのお昼寝に決定します」
食事を終え一同が白湯で一服した瞬間にエレインはそう宣言した、オオーっと歓声が上がり、ソフィアがまったくと生徒達を一睨みである、食事中も生徒達はあれがいいこれがいいと落ち着きが無く、ミナとレインもそれに加わる始末で普段よりも大変に騒がしかった、エレインがタロウに助力を頼んだ結果こうなったらしい、思わずタロウを睨みつけるソフィアであったが、当のタロウは我関せずと静かなもので、ソフィアとしては寮母として叱りつけるべきか傍観するべきかと悩んでいるうちに食事は終わったようである、
「エヘヘー、やったー、ニャンコー」
ミナが両手を上げて勝ち誇り、
「ねー、可愛い名前ー」
ルルやレスタも笑顔を見せる、お昼寝の名称はレスタが出した案であった、それだ!とジャネットやグルジアが大声で賛同し、エレインも悪くないかもとなり採用されたらしい、喫茶店らしく且つこの王国文化に沿った名付けだなとタロウもほくそ笑む、
「じゃ、そうなるとさ、やっぱり壁画もニャンコ?」
「そうなるよねー」
「お昼寝のニャンコかー」
「どう、ニコリーネさん?」
テラに問われたニコリーネは任せろとばかりに笑顔である、実際に下書きの中に丸くなって眠っている猫の絵はあった、さてそれをどう描写しようかとグルグルと思考を巡らしている、
「じゃ、ほら、ミーンさんも困るから、カンテン持って来るわよ」
ソフィアが席を立ち、ティルとミーンも腰を上げる、アッそれもあったと大声が響いた、そして提供された寒天料理は昼のそれとは大きく異なる品である、ミルク寒天である事は同じであったが、細かく刻まれた干し果物が沈殿し、先程タロウが持ち込んだグルジアの土産である瑞々しいリンゴも添えられている、
「ワッ、スゴイ、白いのが固まってる」
「うん、見た目がいいねー」
「プリンみたい・・・」
「でも、違うんでしょ」
「すげー、これが・・・なんだっけ?」
生徒達の嬌声が響き、
「オヤツー、オヤツっていうのよー」
ミナが叫んだ、
「こりゃ、寒天だ」
タロウが即座に否定するも、
「違うー、これはオヤツー、オヤツって呼ぶの、ミナが決めたの、ノールもノーラもサスキアもそれで良いって言ったのー」
ギャーギャーと喚くミナに、それならそれでいいけどもとタロウは黙らざるを得ない、そして、
「うん、美味しい・・・」
「だねー、えっと、この白いのがミルク味?」
「果物の酸味と丁度いいね」
「これは売れる・・・」
「絶対だよ、うん、でも、食感はプリンに似てる?」
「似てるね、こっちの方があっさりした感じ?」
「そりゃあれは玉子使ってるし」
「そっか、それの違いか・・・プリンも好きだなー」
「一緒に食べたいよね」
「あっ、それわかるー」
「プリンに干し果物混ぜたら変かな?」
「どだろ・・・やってみる?」
「じゃ、これの作り方を教えて貰ってから?」
「そうなるよね・・・」
「うん、ソフィアさん、これって」
と早速と調理談義であった、ソフィアははいはいと寒天を持ち出して説明し、しかしそれは実に簡単なもので、なんとと目を丸くしてしまう生徒達である、ユーリらはフフンと余裕の笑みを浮かべており、テラとグルジアもそれはと詳細を理解して度肝を抜かれている、二人共に恐らくは身近にあった品なのだ、しかしタロウとグルジアの調査では現時点では食材として作られた品かどうかの確証は得られていない、しかし、こうして口にしてみれば確かにこれは食材以外の何物でも無く、また魚の干物と同じ箱に入れる品となれば食す以外の利用は緩衝材以外に考えられない、
「だから・・・まぁ、ティルさん、これクロノスに話して向こうで生産させるようにしなさい、どうせあの人らも欲しがるだろうしね」
とソフィアはこんなもんで十分だろうと切り上げた、ティルにそんな権限はありよう筈が無い事を理解している為、なんともぶっきらぼうな笑顔を見せている、ティルは取り合えず苦笑いで答えとした、調理中にも何度か同じことを言われている、ソフィアとしても実は北ヘルデルに思い入れがある為の発言であったりした、少しでもあの地の産業が活性化できればとの思いが根底にあるのであるが、ティルはそこまでは汲み取れていなかったりする、
「すいません、ソフィアさん、お譲り頂く事はできますか?それと出来れば明日使いたいのです」
エレインが猛然と腰を上げる、
「いいわよー、ティルさんと分けなさい、グルジアさんがいっぱい貰って来てくれたからね、ここには数本あればいいし、あとはグルジアさんに言って正式に買い付けるしかないわね・・・でも、明日?まぁ・・・好きにすればいいわ」
「はい、ありがとうございます、ティルさん、ではそのように、グルジアさん、打合せを」
とエレインが騒ぎ出すのを、ソフィアがまずはゆっくり頂きなさいと𠮟りつけ、渋々と腰を下ろすエレインである、見ればエレインのそれは半分も食べていない、そうして再びワイワイとミルク寒天を楽しむ一同であった、その名称も結局オヤツで決定したらしい、より正確にはミルクオヤツと果物オヤツとなるらしい、タロウとしてはまぁそれも面白いかなと微笑む、名称の発生とその変化を何気に楽しみにしているタロウである、先日の双六の件もそうであったが、どうやら変に故郷の単語を出すのは控えた方が良さそうかな等とも思う、まぁそれはこちらに来てからすぐに悟った事ではあったが、そして、
「あっ・・・思い出した」
オヤツを堪能したタロウがさて他にはと一息突いた瞬間に顔を上げた、今度は何だとソフィアがジロリと睨むと、
「昔さ、パスタ料理って話した事あったろ?」
「・・・パスタ?」
「うん、覚えてない?」
「・・・どうだろ、いつ?」
「冒険者の時、クロノスとかとほら、焚火を囲んでさ」
「・・・随分昔だわね・・・クロノスと焚火って・・・どだろ・・・覚えてないかな・・・パスタ?」
「うん、マカロニとかペンネとかってさ」
「それ覚えてるわ」
ユーリがタロウの背後から口を挟む、
「おっ、流石ユーリ先生だね、詳細覚えてる?」
タロウがサッと振り返り、ソフィアはアラッと意外そうな顔となる、
「そこまではどうかしら、あんたがやたらと熱心だったのは覚えてるかな・・・それがどうかしたの?」
「うん、今日さクロノスに言われてね、取り合えず作ってみる事にしたんだけども・・・」
エッと目を丸くする二人と、またなにやらあるぞと静まり返る食堂内である、
「まぁ・・・あっ、エレインさんね、地下のモヤシの棚って借りれるかな?」
「エッ、モヤシの棚・・・ですか?」
「うん、乾燥させなきゃならない品でね、この部屋でやってもいいんだけど、夜はほら、暖炉の火も落ちちゃうし、モヤシの所なら温かいでしょ」
「そうですけど・・・空きあるかしら?」
とエレインがテラに確認するもテラは首を傾げ、テラがサレバを伺うと、
「はい、大丈夫です、余裕をもって並べてますので、詰めればいけます」
サレバが快活に答える、
「そっか、じゃ、頼む、でだ・・・」
さてどうしようかと右目を閉じるタロウであった、しかしすぐに、
「あぁ、玉子麵か・・・型があると楽そう・・・あるんだな、なんだ・・・できるか」
と一人納得したらしい、
「ん、じゃ、エレインさん、新しい料理を作るぞ、上手く行ったら絶対に売れる」
とギラリと輝く瞳をエレインに向け、
「と言う訳で、片付けてしまおう、すまんが興味のある人手伝って欲しい、クロノス王太子殿下様の御注文でね、無視するわけにもいかんのだ」
食堂内の一同を見渡すタロウである、エッと驚く者多数、しかし、
「今日も?」
「これからー」
ユーリとソフィアは明確な悲鳴である、昨日も入浴後に寒天料理を手伝わされている、まさか二日続けて食後に調理をするとは思ってもいない二人であった、
「今日も、これから、ほれ、上手く行ったら旨いものが作れるぞ、それこそ、あれだ、主婦としては嬉しい以外の何ものでも無い」
「・・・それホント?」
「うん、ホント、だからちょっと手伝え、絶対に旨いから」
「・・・しょうがないわねー」
とやれやれと腰を上げるソフィアと、勢いよく席を立つタロウである、
「じゃ、ほら、片付けちゃいましょ、紅茶もあるけど・・・まぁ、こうなると落ち着いてお茶って訳にはいかないだろうしね」
ハイッと動き出す生徒達と大人達、ユーリはしかめっ面のままめんどくさそうにタロウを睨みつけるのであった。
翌日、
「朝からごめんね」
「いえいえ、昨晩は楽しかったです」
タロウとエレイン、テラにエルマ、さらにはミナとレインがぞろぞろと六花商会の事務所の地下に下りた、
「そう言って貰えるとありがたい、まぁ、ちゃんと乾燥してくれていればいいんだけどねー」
タロウは苦笑いで答える、結局昨晩はその場にいる全員で生地を捏ね、型を抜き、細く切ってタロウの思う所の乾燥パスタの原型を作り上げる事が出来た、その後で入浴となったものだから普段よりも就寝の遅い者がおり、ミナは睡魔に抗えず入浴前にいつの間にやら寝入っており、まぁ仕方が無いと放置されてしまっていたりする、
「そうですね、でも、あれってあのまま茹でても美味しいのではないですか?」
エレインが当然の疑問を口にする、テラもエルマも小さく頷いたあたり同意のようであった、
「そだね、生パスタって呼んでるかな、それはそれで美味いよ」
「やっぱりー」
「なんだけど、ほら、昨日も言ったけどさ、乾燥させることで熟成させるって意味合いもあるし、なにより保存食として優秀なんだよね、だから、ほら、クロノスが覚えてたのはそういう点なんだよ、あれもなんのかんの言っても立派な軍団長様だし、軍人なんだよな」
珍しくタロウがクロノスを褒めたらしい、ヘーとエレインとテラは思わず感心し、エルマはそりゃそうだろうとしか思えなかった、昨日のクロノスの印象だと確かにどうにも適当そうに見えたが、タロウやソフィア、ユーリの扱いが悪いだけであからさまな無能が軍団長をやれる訳もない、口の悪い、気の置けない仲間が集まっており、それ故に遠慮が無いのであろうと、大人らしく解釈している、
「まぁ、いいさ、どんなかなー」
タロウはモヤシ生産区画の扉を開き、小皿の光柱と共に足を踏み入れ、網目の荒い籠に並べたそれを覗き込んだ、
「どうでしょう?」
「どうなのー」
エレインはその背後から、ミナがタロウの足元から問いかける、
「んー・・・んー?」
タロウは大きく首を傾げる、その一角はかなり暖かい、モヤシの育成の為にと棚の下に置かれた陶器板は熱を発しており、地下室である事もあって見事に高温を維持していた、実際にモヤシの生育も順調で、パスタの隣のモヤシは白く太く輝いている、
「どんなもんかな?」
籠を持ち上げ、ガサリと揺らしてみる、籠の中のそれは若干引き締まっているように見え、籠にも引っ付いていない、故にガサリガサリとタロウが与える振動によって右に左に軽く移動している、
「あら・・・」
「乾いてますね・・・」
テラとエルマも覗き込む、タロウが言うにはカンテン程では無いが、完全に乾燥させたいらしく、しかし、モニケンダムの冬の寒さでは難しかろうとの事でこのモヤシの生育区画が乾燥場として選ばれたらしい、エルマはそんな事もしていたのかと度肝を抜かれている、そしてそのモヤシもまだ口にはしていない為、どんなもんだかと興味をそそられていたりする、
「だね・・・でも、もう少し・・・かなー」
はてとタロウは首を傾げた、恐らくモヤシから発生する湿気もあって期待する程に乾燥できていないのであろう、それにあくまで自然乾燥に近い環境となる、一晩程度では難しいかなとは考えていたがどうやらその懸念通りであったようだ、
「これでも足りないんですか?」
「・・・うん、もっとこう・・・カラカラにしたいんだけど・・・難しいかな・・・それこそ・・・いや、大気の循環が無いからね、風があればまた・・・」
「だめー?」
ミナが悲しそうにタロウを見上げる、
「ん、大丈夫、まだこれからだな、もう一日待ってみて・・・うん、だから、ごめん、もう少し置いてみて・・・だね」
タロウが棚に籠を戻し、その中身をザッと並べ直す、ついでに他の籠も覗き込み、どれもこれも似たようなものだなと確認し、一応と一通りガサリゴサリと揺り動かした、
「うん、まぁ、そういう事で、さて、じゃ、エレインさんは向こうでいいのかな?」
と明るく顔を上げた、
「はい、宜しくお願いします」
エレインも明るく返す、
「ん、じゃ、テラさん、大事な会長さんは預かるね」
「はい、気を付けて」
「ありがとう、じゃ、戻るぞー」
とミナの頭を撫でるタロウ、
「えー、もうちょっとー」
「いや、何もないだろ」
「あるー、モヤシー」
「はいはい、悪戯しちゃだめだ、ほら、ノールちゃん達来るぞ」
「えー・・・じゃー、行くー」
「だな」
とバタバタと今日が始まったようである。
食事を終え一同が白湯で一服した瞬間にエレインはそう宣言した、オオーっと歓声が上がり、ソフィアがまったくと生徒達を一睨みである、食事中も生徒達はあれがいいこれがいいと落ち着きが無く、ミナとレインもそれに加わる始末で普段よりも大変に騒がしかった、エレインがタロウに助力を頼んだ結果こうなったらしい、思わずタロウを睨みつけるソフィアであったが、当のタロウは我関せずと静かなもので、ソフィアとしては寮母として叱りつけるべきか傍観するべきかと悩んでいるうちに食事は終わったようである、
「エヘヘー、やったー、ニャンコー」
ミナが両手を上げて勝ち誇り、
「ねー、可愛い名前ー」
ルルやレスタも笑顔を見せる、お昼寝の名称はレスタが出した案であった、それだ!とジャネットやグルジアが大声で賛同し、エレインも悪くないかもとなり採用されたらしい、喫茶店らしく且つこの王国文化に沿った名付けだなとタロウもほくそ笑む、
「じゃ、そうなるとさ、やっぱり壁画もニャンコ?」
「そうなるよねー」
「お昼寝のニャンコかー」
「どう、ニコリーネさん?」
テラに問われたニコリーネは任せろとばかりに笑顔である、実際に下書きの中に丸くなって眠っている猫の絵はあった、さてそれをどう描写しようかとグルグルと思考を巡らしている、
「じゃ、ほら、ミーンさんも困るから、カンテン持って来るわよ」
ソフィアが席を立ち、ティルとミーンも腰を上げる、アッそれもあったと大声が響いた、そして提供された寒天料理は昼のそれとは大きく異なる品である、ミルク寒天である事は同じであったが、細かく刻まれた干し果物が沈殿し、先程タロウが持ち込んだグルジアの土産である瑞々しいリンゴも添えられている、
「ワッ、スゴイ、白いのが固まってる」
「うん、見た目がいいねー」
「プリンみたい・・・」
「でも、違うんでしょ」
「すげー、これが・・・なんだっけ?」
生徒達の嬌声が響き、
「オヤツー、オヤツっていうのよー」
ミナが叫んだ、
「こりゃ、寒天だ」
タロウが即座に否定するも、
「違うー、これはオヤツー、オヤツって呼ぶの、ミナが決めたの、ノールもノーラもサスキアもそれで良いって言ったのー」
ギャーギャーと喚くミナに、それならそれでいいけどもとタロウは黙らざるを得ない、そして、
「うん、美味しい・・・」
「だねー、えっと、この白いのがミルク味?」
「果物の酸味と丁度いいね」
「これは売れる・・・」
「絶対だよ、うん、でも、食感はプリンに似てる?」
「似てるね、こっちの方があっさりした感じ?」
「そりゃあれは玉子使ってるし」
「そっか、それの違いか・・・プリンも好きだなー」
「一緒に食べたいよね」
「あっ、それわかるー」
「プリンに干し果物混ぜたら変かな?」
「どだろ・・・やってみる?」
「じゃ、これの作り方を教えて貰ってから?」
「そうなるよね・・・」
「うん、ソフィアさん、これって」
と早速と調理談義であった、ソフィアははいはいと寒天を持ち出して説明し、しかしそれは実に簡単なもので、なんとと目を丸くしてしまう生徒達である、ユーリらはフフンと余裕の笑みを浮かべており、テラとグルジアもそれはと詳細を理解して度肝を抜かれている、二人共に恐らくは身近にあった品なのだ、しかしタロウとグルジアの調査では現時点では食材として作られた品かどうかの確証は得られていない、しかし、こうして口にしてみれば確かにこれは食材以外の何物でも無く、また魚の干物と同じ箱に入れる品となれば食す以外の利用は緩衝材以外に考えられない、
「だから・・・まぁ、ティルさん、これクロノスに話して向こうで生産させるようにしなさい、どうせあの人らも欲しがるだろうしね」
とソフィアはこんなもんで十分だろうと切り上げた、ティルにそんな権限はありよう筈が無い事を理解している為、なんともぶっきらぼうな笑顔を見せている、ティルは取り合えず苦笑いで答えとした、調理中にも何度か同じことを言われている、ソフィアとしても実は北ヘルデルに思い入れがある為の発言であったりした、少しでもあの地の産業が活性化できればとの思いが根底にあるのであるが、ティルはそこまでは汲み取れていなかったりする、
「すいません、ソフィアさん、お譲り頂く事はできますか?それと出来れば明日使いたいのです」
エレインが猛然と腰を上げる、
「いいわよー、ティルさんと分けなさい、グルジアさんがいっぱい貰って来てくれたからね、ここには数本あればいいし、あとはグルジアさんに言って正式に買い付けるしかないわね・・・でも、明日?まぁ・・・好きにすればいいわ」
「はい、ありがとうございます、ティルさん、ではそのように、グルジアさん、打合せを」
とエレインが騒ぎ出すのを、ソフィアがまずはゆっくり頂きなさいと𠮟りつけ、渋々と腰を下ろすエレインである、見ればエレインのそれは半分も食べていない、そうして再びワイワイとミルク寒天を楽しむ一同であった、その名称も結局オヤツで決定したらしい、より正確にはミルクオヤツと果物オヤツとなるらしい、タロウとしてはまぁそれも面白いかなと微笑む、名称の発生とその変化を何気に楽しみにしているタロウである、先日の双六の件もそうであったが、どうやら変に故郷の単語を出すのは控えた方が良さそうかな等とも思う、まぁそれはこちらに来てからすぐに悟った事ではあったが、そして、
「あっ・・・思い出した」
オヤツを堪能したタロウがさて他にはと一息突いた瞬間に顔を上げた、今度は何だとソフィアがジロリと睨むと、
「昔さ、パスタ料理って話した事あったろ?」
「・・・パスタ?」
「うん、覚えてない?」
「・・・どうだろ、いつ?」
「冒険者の時、クロノスとかとほら、焚火を囲んでさ」
「・・・随分昔だわね・・・クロノスと焚火って・・・どだろ・・・覚えてないかな・・・パスタ?」
「うん、マカロニとかペンネとかってさ」
「それ覚えてるわ」
ユーリがタロウの背後から口を挟む、
「おっ、流石ユーリ先生だね、詳細覚えてる?」
タロウがサッと振り返り、ソフィアはアラッと意外そうな顔となる、
「そこまではどうかしら、あんたがやたらと熱心だったのは覚えてるかな・・・それがどうかしたの?」
「うん、今日さクロノスに言われてね、取り合えず作ってみる事にしたんだけども・・・」
エッと目を丸くする二人と、またなにやらあるぞと静まり返る食堂内である、
「まぁ・・・あっ、エレインさんね、地下のモヤシの棚って借りれるかな?」
「エッ、モヤシの棚・・・ですか?」
「うん、乾燥させなきゃならない品でね、この部屋でやってもいいんだけど、夜はほら、暖炉の火も落ちちゃうし、モヤシの所なら温かいでしょ」
「そうですけど・・・空きあるかしら?」
とエレインがテラに確認するもテラは首を傾げ、テラがサレバを伺うと、
「はい、大丈夫です、余裕をもって並べてますので、詰めればいけます」
サレバが快活に答える、
「そっか、じゃ、頼む、でだ・・・」
さてどうしようかと右目を閉じるタロウであった、しかしすぐに、
「あぁ、玉子麵か・・・型があると楽そう・・・あるんだな、なんだ・・・できるか」
と一人納得したらしい、
「ん、じゃ、エレインさん、新しい料理を作るぞ、上手く行ったら絶対に売れる」
とギラリと輝く瞳をエレインに向け、
「と言う訳で、片付けてしまおう、すまんが興味のある人手伝って欲しい、クロノス王太子殿下様の御注文でね、無視するわけにもいかんのだ」
食堂内の一同を見渡すタロウである、エッと驚く者多数、しかし、
「今日も?」
「これからー」
ユーリとソフィアは明確な悲鳴である、昨日も入浴後に寒天料理を手伝わされている、まさか二日続けて食後に調理をするとは思ってもいない二人であった、
「今日も、これから、ほれ、上手く行ったら旨いものが作れるぞ、それこそ、あれだ、主婦としては嬉しい以外の何ものでも無い」
「・・・それホント?」
「うん、ホント、だからちょっと手伝え、絶対に旨いから」
「・・・しょうがないわねー」
とやれやれと腰を上げるソフィアと、勢いよく席を立つタロウである、
「じゃ、ほら、片付けちゃいましょ、紅茶もあるけど・・・まぁ、こうなると落ち着いてお茶って訳にはいかないだろうしね」
ハイッと動き出す生徒達と大人達、ユーリはしかめっ面のままめんどくさそうにタロウを睨みつけるのであった。
翌日、
「朝からごめんね」
「いえいえ、昨晩は楽しかったです」
タロウとエレイン、テラにエルマ、さらにはミナとレインがぞろぞろと六花商会の事務所の地下に下りた、
「そう言って貰えるとありがたい、まぁ、ちゃんと乾燥してくれていればいいんだけどねー」
タロウは苦笑いで答える、結局昨晩はその場にいる全員で生地を捏ね、型を抜き、細く切ってタロウの思う所の乾燥パスタの原型を作り上げる事が出来た、その後で入浴となったものだから普段よりも就寝の遅い者がおり、ミナは睡魔に抗えず入浴前にいつの間にやら寝入っており、まぁ仕方が無いと放置されてしまっていたりする、
「そうですね、でも、あれってあのまま茹でても美味しいのではないですか?」
エレインが当然の疑問を口にする、テラもエルマも小さく頷いたあたり同意のようであった、
「そだね、生パスタって呼んでるかな、それはそれで美味いよ」
「やっぱりー」
「なんだけど、ほら、昨日も言ったけどさ、乾燥させることで熟成させるって意味合いもあるし、なにより保存食として優秀なんだよね、だから、ほら、クロノスが覚えてたのはそういう点なんだよ、あれもなんのかんの言っても立派な軍団長様だし、軍人なんだよな」
珍しくタロウがクロノスを褒めたらしい、ヘーとエレインとテラは思わず感心し、エルマはそりゃそうだろうとしか思えなかった、昨日のクロノスの印象だと確かにどうにも適当そうに見えたが、タロウやソフィア、ユーリの扱いが悪いだけであからさまな無能が軍団長をやれる訳もない、口の悪い、気の置けない仲間が集まっており、それ故に遠慮が無いのであろうと、大人らしく解釈している、
「まぁ、いいさ、どんなかなー」
タロウはモヤシ生産区画の扉を開き、小皿の光柱と共に足を踏み入れ、網目の荒い籠に並べたそれを覗き込んだ、
「どうでしょう?」
「どうなのー」
エレインはその背後から、ミナがタロウの足元から問いかける、
「んー・・・んー?」
タロウは大きく首を傾げる、その一角はかなり暖かい、モヤシの育成の為にと棚の下に置かれた陶器板は熱を発しており、地下室である事もあって見事に高温を維持していた、実際にモヤシの生育も順調で、パスタの隣のモヤシは白く太く輝いている、
「どんなもんかな?」
籠を持ち上げ、ガサリと揺らしてみる、籠の中のそれは若干引き締まっているように見え、籠にも引っ付いていない、故にガサリガサリとタロウが与える振動によって右に左に軽く移動している、
「あら・・・」
「乾いてますね・・・」
テラとエルマも覗き込む、タロウが言うにはカンテン程では無いが、完全に乾燥させたいらしく、しかし、モニケンダムの冬の寒さでは難しかろうとの事でこのモヤシの生育区画が乾燥場として選ばれたらしい、エルマはそんな事もしていたのかと度肝を抜かれている、そしてそのモヤシもまだ口にはしていない為、どんなもんだかと興味をそそられていたりする、
「だね・・・でも、もう少し・・・かなー」
はてとタロウは首を傾げた、恐らくモヤシから発生する湿気もあって期待する程に乾燥できていないのであろう、それにあくまで自然乾燥に近い環境となる、一晩程度では難しいかなとは考えていたがどうやらその懸念通りであったようだ、
「これでも足りないんですか?」
「・・・うん、もっとこう・・・カラカラにしたいんだけど・・・難しいかな・・・それこそ・・・いや、大気の循環が無いからね、風があればまた・・・」
「だめー?」
ミナが悲しそうにタロウを見上げる、
「ん、大丈夫、まだこれからだな、もう一日待ってみて・・・うん、だから、ごめん、もう少し置いてみて・・・だね」
タロウが棚に籠を戻し、その中身をザッと並べ直す、ついでに他の籠も覗き込み、どれもこれも似たようなものだなと確認し、一応と一通りガサリゴサリと揺り動かした、
「うん、まぁ、そういう事で、さて、じゃ、エレインさんは向こうでいいのかな?」
と明るく顔を上げた、
「はい、宜しくお願いします」
エレインも明るく返す、
「ん、じゃ、テラさん、大事な会長さんは預かるね」
「はい、気を付けて」
「ありがとう、じゃ、戻るぞー」
とミナの頭を撫でるタロウ、
「えー、もうちょっとー」
「いや、何もないだろ」
「あるー、モヤシー」
「はいはい、悪戯しちゃだめだ、ほら、ノールちゃん達来るぞ」
「えー・・・じゃー、行くー」
「だな」
とバタバタと今日が始まったようである。
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えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
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