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本編
72話 初雪 その16
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その後タロウが寮に戻り食堂に入ると、
「ダレー」
「ダレー」
ミナと共にテーブルを囲んでいる少女達がフイッと顔を上げる、
「おっ、おはよう、やってるな」
ニヤリとタロウが笑うと、
「タローだよー」
ミナが叫び、
「タローなの?」
「タローなんだー」
「タローなのー」
「変な名前ー」
「変な名前ー」
ノールとノーラは言いたい放題で、ミナも一緒にソウナノーと笑っている、サスキアは手を止めてジッとタロウを見上げていた、
「はいはい、こっちに集中なさい、あっ、その前に挨拶ね、ミナちゃんのお父さんのタロウさんよ」
エルマが礼儀も大事とタロウと子供達を引き合わせ、子供達の勉強の様子を眺めていたフィロメナとレネイも笑顔を見せた、
「お父さんなの?」
「そだよー」
「えー、いいなー」
「そうなのー?」
「うん、ノールとノーラとサスキアはお父さんとお母さんいないのー」
「そうなの、いないのー」
「そうなのー?」
「そうなのー、でもお姉ちゃんがいっぱいいるのー」
「いるのー」
「えー、いいなー」
「いいでしょー、でもフィロメナは怖いのー」
「レネイは優しいのー」
「ヒセラは適当なのー」
「マフダは・・・なんかなんかなのー」
「なにそれー」
「フィロメナが言ってたー」
再び言いたい放題に騒がしくする三人と、タロウから視線を外さず如何にも警戒しているサスキア、フィロメナとレネイはおいおいと苦笑いで、タロウは子供らしいなーと微笑んでしまう、
「こら、先に挨拶、おはようございます、出来るでしょ」
エルマの優しい叱責にハーイと二人は元気に返し、おはようございます、タロウさんと続けた、サスキアも無言であったがゆっくりと会釈をしたようで、
「はい、おはよう、ミナと仲良くしてやってな」
タロウが柔らかく微笑むと、
「してるー」
「仲良いのー、お友達ー」
「エヘヘー、嬉しいー」
「そうなのー?」
「そだよー」
「ウフフー、お友達嬉しいー」
「ノーラも嬉しいー」
「ノールも、ノールも嬉しいー、サスキアはー」
無言で小さく頷くサスキアに、
「サスキアも嬉しいってー」
「えへへー、ミナも嬉しいー」
なんとも微笑ましい四人であった、フィロメナとレネイは何を言っているんだかと思いつつ、子供らしい暖かくも優しく、大人からすれば何ともむず痒くなる素直な言葉の渦に微笑みを隠しきれない、エルマもまた母親の笑みを浮かべてしまう、
「そっかー、ありがとな、じゃ、ちゃんと勉強するんだぞ、あっ、今日はおやつもあるからな、しっかり勉強した子だけにだぞ」
「オヤツ?」
「オヤツってなにー」
「なんだろー、ミナも知らなーい」
「えっ・・・教えてなかったか?」
「うん、知らない、オヤツってなーにー?」
はてとタロウは大人達を見るが、大人達も不思議そうにタロウを見つめている、あー・・・とタロウは首を傾げた、そう言えばおやつなる名称は故郷由来のもので、王国では類する単語は聞いた記憶が無い、思わず口にしてしまったが、タロウとしてもこちらに来て初めて口にしたかもしれない、
「んー・・・そだなー、あれだ、ミナの好きなお菓子とか大人の好きなお茶の時間って感じかな?」
「お菓子?」
と三人は同時にピョンと腰を浮かせ、サスキアも遅れて飛び跳ねる、
「そう、お菓子」
「なに?どれ?」
「どれって君なー・・・」
「ドーナッツ?」
「ドーナッツなの?」
「リョウシュ様の焼き菓子好きー」
「クレオの何とかー」
「ミナも好きー」
「あれも美味いな」
「うん、美味しいー」
「作るー」
「マフダと作ったー」
「美味しかったー」
ワイワイと騒ぎ出す子供達に、エルマはもうと顔を顰め、フィロメナとレネイもいいなーお菓子かー等とのほほんと微笑んでしまった、
「うん、だから、しっかり、勉強すること、エルマ先生の言う事ちゃんと聞くんだぞ」
「聞いてるー」
「うん、ノーラ良い子なのー」
「エルマ先生優しいのー」
元気に叫ぶ三人と静かに頷くサスキアである、
「そっか、なら良し、エルマさんごめんね邪魔して」
タロウはニコリとエルマに微笑みかけ、エルマもニコリと会釈で返しさてと子供達に向き直る、タロウはそのままフィロメナらに向かい、
「ごめんね、待たせたね」
「いえいえ、そんな事ないです」
「はい」
とフィロメナとレネイが慌てて腰を上げた、
「あっ、ごめん、ちょっと待って、物好きが二人ほど来るからさ、今、上で捕まってる、っていうか、捕まえてる?のかな?」
タロウが二人に座るようにと手を翳し、自身も二人の対面の席に着いた、えっとと二人は顔を見合わせつつ座り直す、
「まぁ、気にしないでいいよ、忙しい所申し訳ないね、どうにもほら、バタバタしちゃっててね」
タロウはニコリと微笑む、
「そんな、こちらこそ嬉しい限りです、子供達の件もそうですし、今日のも先方は大変に興味があると乗り気でして」
「あら、そうなの?」
「勿論ですよ、ウィスキーの話しをしましたらそんな酒があるのかって、目の色が変わっちゃって、すぐに作ってみたいって感じでした」
「それは嬉しいね、あっ、二人とも髪型凄いね」
タロウがニコニコと話題を変えてしまう、エッと二人は驚きつつも確かにと恥ずかしそうにほくそ笑む、タロウの指摘通り、二人の髪はこれでもかと派手になっていた、レネイは先日から実験感覚で盛りに盛っているのであるがフィロメナもそれに影響されてか大変に豪奢である、そしてそれは二人の美貌をより引き出す絶妙なもので、キャバ嬢だなーとタロウは懐かしく思ってしまった、
「お陰様で・・・その、頑張ってます」
レネイがウフフと微笑む、
「そうみたいだね、やってみると楽しいでしょ、あと、化粧もいいね、二人の良さが出てると思う・・・あっ、俺がこんな事を言ってはあれだね、なんか、スケベ親父の口説き文句だな、笑ってくれていいよ」
「そんな、卑下しないで下さいよ、タロウさんのお陰なんですから」
「そうですよ、お客様にも受けがいいんです、前よりも綺麗になったって、評判良いんです」
「そっか、それは良かった、お客様第一だからね、どんな商売も」
「まったくです、あっ、すいません、じゃ、先にこちらを」
とフィロメナが懐から布袋を取り出し、スッとタロウに押しやった、
「?何?」
「ソフィアさんから預かったお金です、先方とも話しまして、これはちゃんとお話しをしてからでないと受け取れないとなりまして・・・」
「えっ・・・あっ、そっか、ソフィアに頼んだお金か、別にいいのに・・・」
「そういう訳にもいきません、それこそ大事なお仕事に関わる事なんですから、信用第一と思います」
「・・・律儀だねー・・・まぁ、そういう事なら一旦預かっておくよ、その先方さんにとっても急な話しだしね、お金だけ渡されても困るか・・・そうだ、前に話してたお姉さんの所でいいの?」
はいとフィロメナが受け、詳細を語りだす、タロウはフンフンと頷きながら聞き取り、より詳しい話しは現地の方が良いだろうとなった、タロウが思うにやはり酒の蒸留は手間が係る、取り合えず実験的に試して見る事は出来るであろうが、ちゃんとした設備を整える所から考えるべきだなと画策していた、
「となると・・・やはり・・・あれを使うのが取り合えず・・・いいのかな・・・」
ウーンと首を捻るタロウにフィロメナとレネイは同時に首を傾げる、そこへ、
「おっ、なんだ、小さいのが増えとるな」
階段からノソリと顔を出したのはクロノスで、さらにその後ろには、
「これは本格的だのー」
とニヤニヤと微笑む学園長が続いている、エッと振り返るエルマ、これはと席を立つフィロメナとレネイ、
「クロノスだー、ガクエンチョーセンセーだー」
ミナがバッと立ち上がり、
「ダレー」
「ダレー」
ノールとノーラが同時に叫ぶ、再び固まってクロノスと学園長をジッと見つめるサスキアであった、
「えっとね、クロノスとー、ガクエンチョウセンセー」
「クロノスー?」
「クロノスー」
「そうなの、クロノスー」
「カッコイイ名前だー」
「うん、カッコイイー」
「おっ、そうか?」
「うん、カッコイイー、オジサンがクロノス?」
「おっ・・・オジサンだとー」
「オジサンでしょー」
「オジサンだー」
「クロノスオジサンだー」
キャーキャー騒ぎ出す子供達に、エルマはエッと驚き慌てて腰を上げ低頭した、その勇名は勿論耳にしているが、会うのは初めてである、クロノスがその名を王国内で知らしめた頃には王城とは疎遠になっており、時折マルルースに呼び出される事がある程度で貴族とは切り離された普通の市民であったのだ、
「お前さんがエルマだな、イフナースとパトリシアから聞いている、畏まる必要は無いぞ」
ニヤリと微笑むクロノスに、ハッとエルマは顔を上げた、
「ここはな、そういうのは無しなんだとさ、寮母がうるさくてかなわんのだ」
ガッハッハと笑うクロノスに、さらにエッと言葉も無いエルマである、その肝心の寮母は楽しそうに掃除だなんだと朝から動き回っており、今は恐らく二階で洗濯中であった、
「そういう訳にもいかんでしょう」
学園長が顔を顰めるも、
「仕方なかろう、この寮ではそういうもんなんだとさ、まぁ、それでいいだろ、肩肘張るのは城だけでいいよ、そういう訳でだ、エルマ、よしなにな、何かと大変であったと聞いている、まぁ・・・ソフィアとタロウとユーリに任せれば悪い事にはならん、少々手間取っているらしいが気長に任せる事だ、あいつらはやると言えば取り合えずやる奴だ、と・り・あ・え・ず・な」
ジロリとタロウを睨むクロノスと、うるせぇよと返すタロウである、再びエッと驚くエルマであった、まさか王太子であるクロノスにタメ口を返すとは思ってもいなかったのだ、
「まったく・・・あー、エルマさんね、改めて」
とタロウがやっと腰を上げて、エルマにクロノスと学園長を引き合わせる、その間子供達はクロノスを見上げてギャーギャー喚いていた、デカイだの、怖いだのと散々な物言いで、フィロメナとレネイはそれは駄目だろうと思うも口出しできず、無論エルマも止めようもなかった、するとクロノスは、子供たちに向かい言い過ぎだーとガーッと大口を開け両手を広げて威嚇し、キャーと叫んではしゃぎだす子供達である、クロノスはフンッと鼻で笑い、学園長はニコニコと微笑みながら、
「うむ、ユーリ先生にな詳細は聞いておる、どうかなエルマさん、学園で数学の教鞭をとる気はないかな?」
早速の勧誘である、エッと何度目かの驚きを示すエルマであった、
「それも面白いだろうな、あっ、誰だったかな、法務長官?だかなんだかはどうなった?」
「誘いましたが、今の所は難しいと、忙しい身ですからな、私塾程度であればなんとかとは言われております」
「ほう・・・私塾か・・・それはそれで有用だろうな、場を提供するだけでもいいんじゃないか?」
「はい、そのように話しておりますが、今は別の作業にかかりきりの様子・・・あれも趣味人でしてな、まぁ、それもまた人生」
「別の作業?」
「はい、儂も大変に楽しみにしておりましてな、完成しましたら是非お目にかけたいと思います」
「そうか・・・まぁ、楽しみにしておこう」
「はい、では、どうしますかなタロウ殿?」
学園長がニヤリと微笑み、クロノスもさてと向き直る、
「はいはい、じゃ、行きますか、道すがら話しながらにしましょう、街外れの農家らしいので、距離もあります、お店も覗きたいですしね」
「うむ、では参ろうか」
「おう、フィロメナだったか、苦労をかける」
ポカンと見つめていたフィロメナとレネイがハッと背筋を伸ばして頭を垂れた、
「悪いね、少し話したら見せろってうるさくてさ」
タロウがやれやれと溜息混じりとなるも、
「あん?前にも見せろと言っただろう」
「だから、見るもなにもまだこれからなんだよ」
「なんとかしろ、出来るだろ」
「はいはい、なんとかはするが、酒自体は時間がかかるぞ、それは話してあるはずだ」
「おう、聞いている」
「だろ、だから、見た所で大して面白いもんじゃないと思うぞ」
「いやいや、タロウ殿、興味深いぞ、うん」
「学園長にはそうでしょうけど」
「いいから、行くぞ」
ドカドカと玄関へ向かうクロノスとウキウキとそれに従う学園長、
「騒がせたね」
とタロウはエルマに小さく謝罪すると玄関へ向かい、フィロメナとレネイは呆気に取られながらもそれに付き従うしかなかったようである、エルマは、
「・・・聞いてはいたけど・・・本当に有難みが無い・・・感じなのね・・・」
ポカンと見送ってしまうのであった。
「ダレー」
「ダレー」
ミナと共にテーブルを囲んでいる少女達がフイッと顔を上げる、
「おっ、おはよう、やってるな」
ニヤリとタロウが笑うと、
「タローだよー」
ミナが叫び、
「タローなの?」
「タローなんだー」
「タローなのー」
「変な名前ー」
「変な名前ー」
ノールとノーラは言いたい放題で、ミナも一緒にソウナノーと笑っている、サスキアは手を止めてジッとタロウを見上げていた、
「はいはい、こっちに集中なさい、あっ、その前に挨拶ね、ミナちゃんのお父さんのタロウさんよ」
エルマが礼儀も大事とタロウと子供達を引き合わせ、子供達の勉強の様子を眺めていたフィロメナとレネイも笑顔を見せた、
「お父さんなの?」
「そだよー」
「えー、いいなー」
「そうなのー?」
「うん、ノールとノーラとサスキアはお父さんとお母さんいないのー」
「そうなの、いないのー」
「そうなのー?」
「そうなのー、でもお姉ちゃんがいっぱいいるのー」
「いるのー」
「えー、いいなー」
「いいでしょー、でもフィロメナは怖いのー」
「レネイは優しいのー」
「ヒセラは適当なのー」
「マフダは・・・なんかなんかなのー」
「なにそれー」
「フィロメナが言ってたー」
再び言いたい放題に騒がしくする三人と、タロウから視線を外さず如何にも警戒しているサスキア、フィロメナとレネイはおいおいと苦笑いで、タロウは子供らしいなーと微笑んでしまう、
「こら、先に挨拶、おはようございます、出来るでしょ」
エルマの優しい叱責にハーイと二人は元気に返し、おはようございます、タロウさんと続けた、サスキアも無言であったがゆっくりと会釈をしたようで、
「はい、おはよう、ミナと仲良くしてやってな」
タロウが柔らかく微笑むと、
「してるー」
「仲良いのー、お友達ー」
「エヘヘー、嬉しいー」
「そうなのー?」
「そだよー」
「ウフフー、お友達嬉しいー」
「ノーラも嬉しいー」
「ノールも、ノールも嬉しいー、サスキアはー」
無言で小さく頷くサスキアに、
「サスキアも嬉しいってー」
「えへへー、ミナも嬉しいー」
なんとも微笑ましい四人であった、フィロメナとレネイは何を言っているんだかと思いつつ、子供らしい暖かくも優しく、大人からすれば何ともむず痒くなる素直な言葉の渦に微笑みを隠しきれない、エルマもまた母親の笑みを浮かべてしまう、
「そっかー、ありがとな、じゃ、ちゃんと勉強するんだぞ、あっ、今日はおやつもあるからな、しっかり勉強した子だけにだぞ」
「オヤツ?」
「オヤツってなにー」
「なんだろー、ミナも知らなーい」
「えっ・・・教えてなかったか?」
「うん、知らない、オヤツってなーにー?」
はてとタロウは大人達を見るが、大人達も不思議そうにタロウを見つめている、あー・・・とタロウは首を傾げた、そう言えばおやつなる名称は故郷由来のもので、王国では類する単語は聞いた記憶が無い、思わず口にしてしまったが、タロウとしてもこちらに来て初めて口にしたかもしれない、
「んー・・・そだなー、あれだ、ミナの好きなお菓子とか大人の好きなお茶の時間って感じかな?」
「お菓子?」
と三人は同時にピョンと腰を浮かせ、サスキアも遅れて飛び跳ねる、
「そう、お菓子」
「なに?どれ?」
「どれって君なー・・・」
「ドーナッツ?」
「ドーナッツなの?」
「リョウシュ様の焼き菓子好きー」
「クレオの何とかー」
「ミナも好きー」
「あれも美味いな」
「うん、美味しいー」
「作るー」
「マフダと作ったー」
「美味しかったー」
ワイワイと騒ぎ出す子供達に、エルマはもうと顔を顰め、フィロメナとレネイもいいなーお菓子かー等とのほほんと微笑んでしまった、
「うん、だから、しっかり、勉強すること、エルマ先生の言う事ちゃんと聞くんだぞ」
「聞いてるー」
「うん、ノーラ良い子なのー」
「エルマ先生優しいのー」
元気に叫ぶ三人と静かに頷くサスキアである、
「そっか、なら良し、エルマさんごめんね邪魔して」
タロウはニコリとエルマに微笑みかけ、エルマもニコリと会釈で返しさてと子供達に向き直る、タロウはそのままフィロメナらに向かい、
「ごめんね、待たせたね」
「いえいえ、そんな事ないです」
「はい」
とフィロメナとレネイが慌てて腰を上げた、
「あっ、ごめん、ちょっと待って、物好きが二人ほど来るからさ、今、上で捕まってる、っていうか、捕まえてる?のかな?」
タロウが二人に座るようにと手を翳し、自身も二人の対面の席に着いた、えっとと二人は顔を見合わせつつ座り直す、
「まぁ、気にしないでいいよ、忙しい所申し訳ないね、どうにもほら、バタバタしちゃっててね」
タロウはニコリと微笑む、
「そんな、こちらこそ嬉しい限りです、子供達の件もそうですし、今日のも先方は大変に興味があると乗り気でして」
「あら、そうなの?」
「勿論ですよ、ウィスキーの話しをしましたらそんな酒があるのかって、目の色が変わっちゃって、すぐに作ってみたいって感じでした」
「それは嬉しいね、あっ、二人とも髪型凄いね」
タロウがニコニコと話題を変えてしまう、エッと二人は驚きつつも確かにと恥ずかしそうにほくそ笑む、タロウの指摘通り、二人の髪はこれでもかと派手になっていた、レネイは先日から実験感覚で盛りに盛っているのであるがフィロメナもそれに影響されてか大変に豪奢である、そしてそれは二人の美貌をより引き出す絶妙なもので、キャバ嬢だなーとタロウは懐かしく思ってしまった、
「お陰様で・・・その、頑張ってます」
レネイがウフフと微笑む、
「そうみたいだね、やってみると楽しいでしょ、あと、化粧もいいね、二人の良さが出てると思う・・・あっ、俺がこんな事を言ってはあれだね、なんか、スケベ親父の口説き文句だな、笑ってくれていいよ」
「そんな、卑下しないで下さいよ、タロウさんのお陰なんですから」
「そうですよ、お客様にも受けがいいんです、前よりも綺麗になったって、評判良いんです」
「そっか、それは良かった、お客様第一だからね、どんな商売も」
「まったくです、あっ、すいません、じゃ、先にこちらを」
とフィロメナが懐から布袋を取り出し、スッとタロウに押しやった、
「?何?」
「ソフィアさんから預かったお金です、先方とも話しまして、これはちゃんとお話しをしてからでないと受け取れないとなりまして・・・」
「えっ・・・あっ、そっか、ソフィアに頼んだお金か、別にいいのに・・・」
「そういう訳にもいきません、それこそ大事なお仕事に関わる事なんですから、信用第一と思います」
「・・・律儀だねー・・・まぁ、そういう事なら一旦預かっておくよ、その先方さんにとっても急な話しだしね、お金だけ渡されても困るか・・・そうだ、前に話してたお姉さんの所でいいの?」
はいとフィロメナが受け、詳細を語りだす、タロウはフンフンと頷きながら聞き取り、より詳しい話しは現地の方が良いだろうとなった、タロウが思うにやはり酒の蒸留は手間が係る、取り合えず実験的に試して見る事は出来るであろうが、ちゃんとした設備を整える所から考えるべきだなと画策していた、
「となると・・・やはり・・・あれを使うのが取り合えず・・・いいのかな・・・」
ウーンと首を捻るタロウにフィロメナとレネイは同時に首を傾げる、そこへ、
「おっ、なんだ、小さいのが増えとるな」
階段からノソリと顔を出したのはクロノスで、さらにその後ろには、
「これは本格的だのー」
とニヤニヤと微笑む学園長が続いている、エッと振り返るエルマ、これはと席を立つフィロメナとレネイ、
「クロノスだー、ガクエンチョーセンセーだー」
ミナがバッと立ち上がり、
「ダレー」
「ダレー」
ノールとノーラが同時に叫ぶ、再び固まってクロノスと学園長をジッと見つめるサスキアであった、
「えっとね、クロノスとー、ガクエンチョウセンセー」
「クロノスー?」
「クロノスー」
「そうなの、クロノスー」
「カッコイイ名前だー」
「うん、カッコイイー」
「おっ、そうか?」
「うん、カッコイイー、オジサンがクロノス?」
「おっ・・・オジサンだとー」
「オジサンでしょー」
「オジサンだー」
「クロノスオジサンだー」
キャーキャー騒ぎ出す子供達に、エルマはエッと驚き慌てて腰を上げ低頭した、その勇名は勿論耳にしているが、会うのは初めてである、クロノスがその名を王国内で知らしめた頃には王城とは疎遠になっており、時折マルルースに呼び出される事がある程度で貴族とは切り離された普通の市民であったのだ、
「お前さんがエルマだな、イフナースとパトリシアから聞いている、畏まる必要は無いぞ」
ニヤリと微笑むクロノスに、ハッとエルマは顔を上げた、
「ここはな、そういうのは無しなんだとさ、寮母がうるさくてかなわんのだ」
ガッハッハと笑うクロノスに、さらにエッと言葉も無いエルマである、その肝心の寮母は楽しそうに掃除だなんだと朝から動き回っており、今は恐らく二階で洗濯中であった、
「そういう訳にもいかんでしょう」
学園長が顔を顰めるも、
「仕方なかろう、この寮ではそういうもんなんだとさ、まぁ、それでいいだろ、肩肘張るのは城だけでいいよ、そういう訳でだ、エルマ、よしなにな、何かと大変であったと聞いている、まぁ・・・ソフィアとタロウとユーリに任せれば悪い事にはならん、少々手間取っているらしいが気長に任せる事だ、あいつらはやると言えば取り合えずやる奴だ、と・り・あ・え・ず・な」
ジロリとタロウを睨むクロノスと、うるせぇよと返すタロウである、再びエッと驚くエルマであった、まさか王太子であるクロノスにタメ口を返すとは思ってもいなかったのだ、
「まったく・・・あー、エルマさんね、改めて」
とタロウがやっと腰を上げて、エルマにクロノスと学園長を引き合わせる、その間子供達はクロノスを見上げてギャーギャー喚いていた、デカイだの、怖いだのと散々な物言いで、フィロメナとレネイはそれは駄目だろうと思うも口出しできず、無論エルマも止めようもなかった、するとクロノスは、子供たちに向かい言い過ぎだーとガーッと大口を開け両手を広げて威嚇し、キャーと叫んではしゃぎだす子供達である、クロノスはフンッと鼻で笑い、学園長はニコニコと微笑みながら、
「うむ、ユーリ先生にな詳細は聞いておる、どうかなエルマさん、学園で数学の教鞭をとる気はないかな?」
早速の勧誘である、エッと何度目かの驚きを示すエルマであった、
「それも面白いだろうな、あっ、誰だったかな、法務長官?だかなんだかはどうなった?」
「誘いましたが、今の所は難しいと、忙しい身ですからな、私塾程度であればなんとかとは言われております」
「ほう・・・私塾か・・・それはそれで有用だろうな、場を提供するだけでもいいんじゃないか?」
「はい、そのように話しておりますが、今は別の作業にかかりきりの様子・・・あれも趣味人でしてな、まぁ、それもまた人生」
「別の作業?」
「はい、儂も大変に楽しみにしておりましてな、完成しましたら是非お目にかけたいと思います」
「そうか・・・まぁ、楽しみにしておこう」
「はい、では、どうしますかなタロウ殿?」
学園長がニヤリと微笑み、クロノスもさてと向き直る、
「はいはい、じゃ、行きますか、道すがら話しながらにしましょう、街外れの農家らしいので、距離もあります、お店も覗きたいですしね」
「うむ、では参ろうか」
「おう、フィロメナだったか、苦労をかける」
ポカンと見つめていたフィロメナとレネイがハッと背筋を伸ばして頭を垂れた、
「悪いね、少し話したら見せろってうるさくてさ」
タロウがやれやれと溜息混じりとなるも、
「あん?前にも見せろと言っただろう」
「だから、見るもなにもまだこれからなんだよ」
「なんとかしろ、出来るだろ」
「はいはい、なんとかはするが、酒自体は時間がかかるぞ、それは話してあるはずだ」
「おう、聞いている」
「だろ、だから、見た所で大して面白いもんじゃないと思うぞ」
「いやいや、タロウ殿、興味深いぞ、うん」
「学園長にはそうでしょうけど」
「いいから、行くぞ」
ドカドカと玄関へ向かうクロノスとウキウキとそれに従う学園長、
「騒がせたね」
とタロウはエルマに小さく謝罪すると玄関へ向かい、フィロメナとレネイは呆気に取られながらもそれに付き従うしかなかったようである、エルマは、
「・・・聞いてはいたけど・・・本当に有難みが無い・・・感じなのね・・・」
ポカンと見送ってしまうのであった。
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※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
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