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本編
72話 初雪 その13
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「んで、これが本当の茶ってのはどういう事なの?」
ようやっと落ち着いて湯呑を傾けるタロウの背中にユーリが問い質す、聞きたい事は山ほどあれどまずはそこから始めるのが正しいであろう、
「ん、気になる?」
ニヤリと微笑み振り返るタロウに、研究所組は無言で頷き、その傍のテラとエルマも大きく頷いた、ニコリーネは興味が無いのか落花生に夢中で、生徒達もバリバリと忙しく手を動かし、ボリボリと懸命である、夕食を充分に食べただろうにとソフィアは斜めに睨みつけるも自身もまた気が付けば次の鞘に手を伸ばしている有様で、満腹である事を自覚しており、実際に腹は苦しいと感じるのであるが、手が止まらないのである、
「そりゃね」
「ムフフー、あのなー」
とタロウは何とも嫌らしい笑みを浮かべ、
「まずな、茶の文化ってやつを考えると面白いんだがさ、君らの茶って何となく健康に良さそうなものやら簡単に手に入るものを煮だして飲んでるだろ?」
「そいうものでしょ」
「いやいや、そこでだ、その調理技法がどこから始まったかって考えたことあるか?」
「あるわけないでしょ」
「だろうねー、まずな、これはあくまで想像なんだけど、昔の人がさ、麦を煮て食べると美味いって事を発見して、肉も焼いて食うと美味いと気付いた、これは容易に想像できる、で、その煮て食べるのに先行してお湯を飲むって習慣が確立された筈でな、で、そうなると何か健康によさそうな草を煮てその煮汁を飲むって調理法も同時期に開発されたと思うんだ」
「それは・・・」
「そうかもしれないです・・・かね」
なんか学園長が言いそうなことを言い出し始めたぞとカトカとサビナは目を細めるが、言っていることは単純で分かりやすいように思う、
「うん、そうかもしれないってだけなんだけどさ、でだ、それだけだとね、茶という名前もそれを飲む事を楽しむっていう文化も成立しないんだよ」
「そう・・・かしら?」
「難しいと思うよ、だって、多分だけどその成立段階だと料理の一種か水を綺麗にして飲む程度の工夫でしかないからね、君達のようにちょっとした時間を楽しむ為の道具にはなりえないんじゃないかって俺は考えてる」
ウーンと首を大きく捻る大人達である、タロウの理屈は合っているようでやはり屁理屈に聞こえた、今一つ納得できかねる理論である、
「で、まぁ、ここまでは予想の範囲、想像の産物、でね、まずはこの茶って名前、この飲み物は紅茶って呼ばれる品で、茶っていう植物から作るんだ」
ここでやっとエッと驚く一同である、生徒達もボリボリと忙しくしながらも耳をそばだてており、そうなのかと思わず振り向いた、
「まぁ、より正確に言うと少し違うんだけど、それはほら、他の国の他の言葉だからね、その国では植物の名前をそのままその調理方法の名前にしている感じ、だから、茶畑とか、茶の木とか茶の葉っぱとかってその植物を呼んでる、面白いだろ?文化の名前とそれの元になった植物の名前、これが一緒なんだな、茶と言えばそれを飲んで楽しむ事と、その主役になる植物の名前となる」
ヘーと感心してしまう一同であった、
「でね、これは紅茶っていって、その茶の葉っぱを乾燥させて腐らせた品でね、お酒みたいに寝かせるんだな、他にも完全に腐らせないで中途半端な状態で飲んだり、緑色の乾燥していない状態を丸めて飲み物に変えてる」
「腐らせるんですか?」
「そっ、発酵っていうんだけどね、簡単に言えば腐らせてるんだな、お酒と一緒、あとチーズもそうかな、あれも腐らせてる食品だよね」
「ハッコウ・・・」
「初めて聞きました」
カトカがこれはと目を輝かせ、サレバとゾーイはまた何やら言い出したぞと困惑する、レインがもぐもぐと咀嚼しながらめんどくさそうにタロウを睨んだ、レインもしっかりと落花生の虜になってしまったらしい、
「まぁ、そんなこんなでね、俺がこっちに来てからさ、茶を飲むって言って飲んでるのがほら、俺から見ればどれもこれも茶ではなくて、別の何かでね、不思議だなーって思っててさ、ほら茶を飲む習慣だけはしっかりと根付いてるでしょ、こりゃもしかしたらちゃんとした茶?俺が言うその名の元になった茶がちゃんとあって、でもその茶は広がらなくて、なんだけど文化だけ、習慣だけが広がったんじゃないかって思ってたのさ、ボタンもそうだったんだけど、あれは物だけ伝わって使い方が伝わらなかった、言わばこの茶とは逆かな?面白いよねこういうの」
ホヘーと感心するしかない女性達であった、そこまで聞けばなるほど理屈は通るのかなと首を傾げる、
「まぁ、ソフィアとね、あっちこっちいってさ、この茶自体は飲んだこともあるんだけど、その茶の木までは見付けられなくて、どこかにあるんだろうなとは思ってて、他の国で見つけてね、苗とか紅茶そのものとかも手には入れてたんだけど、いや、良かったよ、王国内で栽培してるんであればさ、買ってくればいいんだし、そこの統治者とは仲良くなったし、万々歳だ」
アッハッハとタロウは笑う、どうにも今日のタロウは機嫌が良い、昨日は大変に疲れた顔でめんどくさそうにしていたのだが、今日は何とも晴れやかで、そんなにそのスヒーダムが楽しかったのかとユーリは訝しく感じてしまう、
「他にもさ、あの土地であればレモンも育てられると思うし、他のもね、だからね、フフッ、収穫までは時間がかかるだろうけど、楽しみにしててよ」
ニヤーと微笑み向き直るタロウである、そしてアッと叫んだ、自分の分と確保していた落花生が忽然と消えている、パッと隣りを見ればミナとレインの前には殻が山盛りとなっており、ソフィアの前にあるのも同様で、恐らく自分の前にあった皿が空になってミナの前に置かれていた、これはつまり・・・、
「・・・食べた?俺の?」
ジッとミナとレインとソフィアを順に睨みつける、
「美味しかったわよ」
ソフィアがシレッと答え、
「うむ、これは良いな、もっと持ってきても良いのだぞ」
レインはこれが最後かなと手にした二粒をポンと口に放り込み、
「ねー、ングング、美味しかった、ングング、もっと欲しー」
ミナが頬をパンパンにしてモゴモゴやりつつタロウを見上げる、
「エット・・・俺のは?」
「食べない人が悪いのよ」
「じゃな」
「美味しかったよー」
「ニャ、ニャニオー」
ギャースと喚きだすタロウにまたこれだとエルマは微笑んでしまう、どうにもこの寮では立場が上の者ほどからかわれるらしい、
「まったく・・・今のどう思う?」
ユーリがカトカに問いかけ、
「はい、その・・・茶の名称がそのままこの習慣の名前になったというのは・・・でも、たしかにそうですよね、普通にお茶しようっていいますけど、そのお茶っていう名前の植物では無いんですよね、厳密に言えば」
「そうですね、普通に飲んでるのって、香草を乾燥させたものとか麦を焼いたもの?」
「そうだよね、あとキノコのお茶ってのもあるよ」
「へー、それは知らないなー」
「そう?田舎では良く飲んでた」
「となると、当たらずとも遠からず?」
「だと思います、もしくはタロウさんの故郷では茶はあくまでこれで、こっちでもその名前と習慣だけが伝わった?」
「これは完全に学園長の領分ですよね」
「そうなるわねー」
と悩みだす研究所組に、
「エレイン様どうする?これお店でだす?」
ジャネットが口中の落花生を茶でゴクリと飲み込んで口を開く、
「そうね、これは確かに受けると思います、というか・・・美味しいわね・・・」
「ですよね、なんかホッとします」
「その、淹れ方をちゃんと勉強したいです」
「オリビア真面目だー」
「当然です、学園でもお茶の種類によって淹れ方を変えてるんです、お茶は遊びじゃないんです」
「そうなの?」
「そうなんです」
バシリと言い切るオリビアにウンウンと同意するティル、そうなんだーと感心する生徒達であった、そして、
「あー、忘れてたー」
ミナがピョンと飛び跳ねて編み物籠に走り、すぐさま戻って、
「ソフィー、これー、これー巻いてー」
「あー、はいはい、どうかしら、タロウさん、マフラー作ってみたのよ」
とタロウ一家は別の話題に移ったらしい、タロウはムーと恨めし気に顔を顰めつつも、
「ありゃ、出来てたの?」
「出来てたの、レインの分もね」
「へー、大したもんだ」
「どうどう?可愛い?可愛い?」
マフラーを巻いたミナがピョンピョン飛び跳ねタロウに抱き着いた、何だそれはと生徒達の視線がミナに集まる、ケイスがアッと声を上げた、マフラーがどうのとマフダと子供達がはしゃいでいたがその間ケイスは麻酔魔法に集中しており、その名前だけが脳裏の片隅にこびりついている、
「おう、可愛いぞ、良い色だな」
「でしょー、エヘヘー、これあったかいの、柔らかいのー」
「だろー、フフッ、似合うぞー」
「ホント?ホント?」
ミナがキャッキャッと飛び跳ね、優しく微笑むタロウである、
「アッ・・・でもあれか、ちょっと寂しいかな?」
「寂しい?」
「うん、そっか、あれか、これって俺が言ったそのままなんだな・・・」
とタロウはマフラーをシゲシゲと見つめる、ソフィアにマフラーを説明した際には毛糸で作って手拭いの倍くらいの長さにして首に巻く防寒具としか話していない、その説明まんまに作られたそれはタロウが見る限り何とも味気ない、
「駄目かしら?」
ソフィアが違ったかなと首を傾げる、
「ん・・・いや、言った通りの品になってるんだけど・・・あっ、こんなの出来るか?」
とタロウはマフラーの端を手にして説明する、
「出来るけど・・・それ必要?」
「あるとカッコいいぞ、ほれお洒落ってやつだ」
「お洒落かー」
「オシャレー」
ミナがピョンと飛び跳ねた、
「じゃ、やってみようかな?なんだっけ?フリンジ?っていうの、それ?」
「そうフリンジ、好きに呼べばいいよ、他の国の言葉で房って意味だ、お洒落に聞こえるだろ?」
そうなんだと小さく呟き忘れる前にと腰を上げるソフィアである、と同時に、
「何ですかそれー」
と生徒達が騒ぎ出す、ウフフーとミナが得意げに見せびらかし、どれっとソフィアは毛糸と編み棒を手にして腰を落ち着けた、
「すいません、これ?」
生徒達の反応に対しやたらと静かな研究所組へエレインが振り向いた、
「マフラーっていうんだって」
ユーリが代表して答える、
「マフラー・・・ですか?」
「そうよー、サビナ、頼む」
「頼むって、所長・・・」
「そうねー、サビナさんお願い」
ソフィアもめんどくさそうに声を上げ、
「ソフィアさんまで、モー」
とサビナがソフィアを睨むも、生徒達とテラ、ティルにニコリーネもサビナを見つめている、
「あー・・・じゃ、ソフィアさん、レインちゃんの借りますね」
「どうぞー」
「ありがとうございます、そんなに難しい品では無いんですよ」
とサビナが腰を上げた、これはこっちに集中できるわねとほくそ笑むソフィアと、
「なに?サビナさんには伝授したの?」
とタロウがソフィアに問いかける、
「そうよー、色々あってね、なんか、なんだかんだで私が編み物の先生になっちゃったのよ、子供達の」
「そうなのー、ソフィア先生なのー」
ミナがピョンピョン飛び跳ねる、もう眠いだろうにとタロウはミナを見つめるも、どうやらミナは興奮状態らしい、紅茶と落花生のせいかな等とタロウは考えつつ、
「そっか、先生かー」
「そうなのー、ノールとノーラとサスキアとミナのセンセー、ミナがね、ソフィーのマフラー編むのー」
「へー、大したもんだ、あっ、俺のは?」
「タローの?」
「うん、俺も欲しいなー」
「やるー、ガンバルー」
「オッ、ホントか?」
「ホントー、頑張れば出来るってソフィアが言ってたー」
「ありゃ、そっか、なら、頼む」
「わかったー」
若干焦点の合わない目でタロウを見つめるミナである、もうそろそろ電池が切れそうだなとタロウは察し、
「じゃ、ほら、ミナはお風呂に入りなさい、あとはソフィアに任せてな」
「エー、ヤダー、出来るまで待ってるー」
「大丈夫よ、お風呂から上がるまでには出来てるから、ゆっくりお風呂に入りなさい」
「えー、でもー」
「だから、待ってても仕方ないんだから」
ソフィアがムッとミナを睨む、
「うー、わかったー」
「んっ、偉いわよ、レイン、お願い、あっ、今日のお風呂は誰が先なの?」
とソフィアが顔を上げるとその先では生徒達がサビナを囲んでキャーキャーやっている、
「もう、じゃ、ミナ、レイン、入っちゃって」
わかったーとミナとレインが脱衣所に向かい、今日もまったく寝るまでが忙しいのよね、嫌いじゃないけど、疲れるわ、と大きく溜息を吐いてしまうソフィアであった。
ようやっと落ち着いて湯呑を傾けるタロウの背中にユーリが問い質す、聞きたい事は山ほどあれどまずはそこから始めるのが正しいであろう、
「ん、気になる?」
ニヤリと微笑み振り返るタロウに、研究所組は無言で頷き、その傍のテラとエルマも大きく頷いた、ニコリーネは興味が無いのか落花生に夢中で、生徒達もバリバリと忙しく手を動かし、ボリボリと懸命である、夕食を充分に食べただろうにとソフィアは斜めに睨みつけるも自身もまた気が付けば次の鞘に手を伸ばしている有様で、満腹である事を自覚しており、実際に腹は苦しいと感じるのであるが、手が止まらないのである、
「そりゃね」
「ムフフー、あのなー」
とタロウは何とも嫌らしい笑みを浮かべ、
「まずな、茶の文化ってやつを考えると面白いんだがさ、君らの茶って何となく健康に良さそうなものやら簡単に手に入るものを煮だして飲んでるだろ?」
「そいうものでしょ」
「いやいや、そこでだ、その調理技法がどこから始まったかって考えたことあるか?」
「あるわけないでしょ」
「だろうねー、まずな、これはあくまで想像なんだけど、昔の人がさ、麦を煮て食べると美味いって事を発見して、肉も焼いて食うと美味いと気付いた、これは容易に想像できる、で、その煮て食べるのに先行してお湯を飲むって習慣が確立された筈でな、で、そうなると何か健康によさそうな草を煮てその煮汁を飲むって調理法も同時期に開発されたと思うんだ」
「それは・・・」
「そうかもしれないです・・・かね」
なんか学園長が言いそうなことを言い出し始めたぞとカトカとサビナは目を細めるが、言っていることは単純で分かりやすいように思う、
「うん、そうかもしれないってだけなんだけどさ、でだ、それだけだとね、茶という名前もそれを飲む事を楽しむっていう文化も成立しないんだよ」
「そう・・・かしら?」
「難しいと思うよ、だって、多分だけどその成立段階だと料理の一種か水を綺麗にして飲む程度の工夫でしかないからね、君達のようにちょっとした時間を楽しむ為の道具にはなりえないんじゃないかって俺は考えてる」
ウーンと首を大きく捻る大人達である、タロウの理屈は合っているようでやはり屁理屈に聞こえた、今一つ納得できかねる理論である、
「で、まぁ、ここまでは予想の範囲、想像の産物、でね、まずはこの茶って名前、この飲み物は紅茶って呼ばれる品で、茶っていう植物から作るんだ」
ここでやっとエッと驚く一同である、生徒達もボリボリと忙しくしながらも耳をそばだてており、そうなのかと思わず振り向いた、
「まぁ、より正確に言うと少し違うんだけど、それはほら、他の国の他の言葉だからね、その国では植物の名前をそのままその調理方法の名前にしている感じ、だから、茶畑とか、茶の木とか茶の葉っぱとかってその植物を呼んでる、面白いだろ?文化の名前とそれの元になった植物の名前、これが一緒なんだな、茶と言えばそれを飲んで楽しむ事と、その主役になる植物の名前となる」
ヘーと感心してしまう一同であった、
「でね、これは紅茶っていって、その茶の葉っぱを乾燥させて腐らせた品でね、お酒みたいに寝かせるんだな、他にも完全に腐らせないで中途半端な状態で飲んだり、緑色の乾燥していない状態を丸めて飲み物に変えてる」
「腐らせるんですか?」
「そっ、発酵っていうんだけどね、簡単に言えば腐らせてるんだな、お酒と一緒、あとチーズもそうかな、あれも腐らせてる食品だよね」
「ハッコウ・・・」
「初めて聞きました」
カトカがこれはと目を輝かせ、サレバとゾーイはまた何やら言い出したぞと困惑する、レインがもぐもぐと咀嚼しながらめんどくさそうにタロウを睨んだ、レインもしっかりと落花生の虜になってしまったらしい、
「まぁ、そんなこんなでね、俺がこっちに来てからさ、茶を飲むって言って飲んでるのがほら、俺から見ればどれもこれも茶ではなくて、別の何かでね、不思議だなーって思っててさ、ほら茶を飲む習慣だけはしっかりと根付いてるでしょ、こりゃもしかしたらちゃんとした茶?俺が言うその名の元になった茶がちゃんとあって、でもその茶は広がらなくて、なんだけど文化だけ、習慣だけが広がったんじゃないかって思ってたのさ、ボタンもそうだったんだけど、あれは物だけ伝わって使い方が伝わらなかった、言わばこの茶とは逆かな?面白いよねこういうの」
ホヘーと感心するしかない女性達であった、そこまで聞けばなるほど理屈は通るのかなと首を傾げる、
「まぁ、ソフィアとね、あっちこっちいってさ、この茶自体は飲んだこともあるんだけど、その茶の木までは見付けられなくて、どこかにあるんだろうなとは思ってて、他の国で見つけてね、苗とか紅茶そのものとかも手には入れてたんだけど、いや、良かったよ、王国内で栽培してるんであればさ、買ってくればいいんだし、そこの統治者とは仲良くなったし、万々歳だ」
アッハッハとタロウは笑う、どうにも今日のタロウは機嫌が良い、昨日は大変に疲れた顔でめんどくさそうにしていたのだが、今日は何とも晴れやかで、そんなにそのスヒーダムが楽しかったのかとユーリは訝しく感じてしまう、
「他にもさ、あの土地であればレモンも育てられると思うし、他のもね、だからね、フフッ、収穫までは時間がかかるだろうけど、楽しみにしててよ」
ニヤーと微笑み向き直るタロウである、そしてアッと叫んだ、自分の分と確保していた落花生が忽然と消えている、パッと隣りを見ればミナとレインの前には殻が山盛りとなっており、ソフィアの前にあるのも同様で、恐らく自分の前にあった皿が空になってミナの前に置かれていた、これはつまり・・・、
「・・・食べた?俺の?」
ジッとミナとレインとソフィアを順に睨みつける、
「美味しかったわよ」
ソフィアがシレッと答え、
「うむ、これは良いな、もっと持ってきても良いのだぞ」
レインはこれが最後かなと手にした二粒をポンと口に放り込み、
「ねー、ングング、美味しかった、ングング、もっと欲しー」
ミナが頬をパンパンにしてモゴモゴやりつつタロウを見上げる、
「エット・・・俺のは?」
「食べない人が悪いのよ」
「じゃな」
「美味しかったよー」
「ニャ、ニャニオー」
ギャースと喚きだすタロウにまたこれだとエルマは微笑んでしまう、どうにもこの寮では立場が上の者ほどからかわれるらしい、
「まったく・・・今のどう思う?」
ユーリがカトカに問いかけ、
「はい、その・・・茶の名称がそのままこの習慣の名前になったというのは・・・でも、たしかにそうですよね、普通にお茶しようっていいますけど、そのお茶っていう名前の植物では無いんですよね、厳密に言えば」
「そうですね、普通に飲んでるのって、香草を乾燥させたものとか麦を焼いたもの?」
「そうだよね、あとキノコのお茶ってのもあるよ」
「へー、それは知らないなー」
「そう?田舎では良く飲んでた」
「となると、当たらずとも遠からず?」
「だと思います、もしくはタロウさんの故郷では茶はあくまでこれで、こっちでもその名前と習慣だけが伝わった?」
「これは完全に学園長の領分ですよね」
「そうなるわねー」
と悩みだす研究所組に、
「エレイン様どうする?これお店でだす?」
ジャネットが口中の落花生を茶でゴクリと飲み込んで口を開く、
「そうね、これは確かに受けると思います、というか・・・美味しいわね・・・」
「ですよね、なんかホッとします」
「その、淹れ方をちゃんと勉強したいです」
「オリビア真面目だー」
「当然です、学園でもお茶の種類によって淹れ方を変えてるんです、お茶は遊びじゃないんです」
「そうなの?」
「そうなんです」
バシリと言い切るオリビアにウンウンと同意するティル、そうなんだーと感心する生徒達であった、そして、
「あー、忘れてたー」
ミナがピョンと飛び跳ねて編み物籠に走り、すぐさま戻って、
「ソフィー、これー、これー巻いてー」
「あー、はいはい、どうかしら、タロウさん、マフラー作ってみたのよ」
とタロウ一家は別の話題に移ったらしい、タロウはムーと恨めし気に顔を顰めつつも、
「ありゃ、出来てたの?」
「出来てたの、レインの分もね」
「へー、大したもんだ」
「どうどう?可愛い?可愛い?」
マフラーを巻いたミナがピョンピョン飛び跳ねタロウに抱き着いた、何だそれはと生徒達の視線がミナに集まる、ケイスがアッと声を上げた、マフラーがどうのとマフダと子供達がはしゃいでいたがその間ケイスは麻酔魔法に集中しており、その名前だけが脳裏の片隅にこびりついている、
「おう、可愛いぞ、良い色だな」
「でしょー、エヘヘー、これあったかいの、柔らかいのー」
「だろー、フフッ、似合うぞー」
「ホント?ホント?」
ミナがキャッキャッと飛び跳ね、優しく微笑むタロウである、
「アッ・・・でもあれか、ちょっと寂しいかな?」
「寂しい?」
「うん、そっか、あれか、これって俺が言ったそのままなんだな・・・」
とタロウはマフラーをシゲシゲと見つめる、ソフィアにマフラーを説明した際には毛糸で作って手拭いの倍くらいの長さにして首に巻く防寒具としか話していない、その説明まんまに作られたそれはタロウが見る限り何とも味気ない、
「駄目かしら?」
ソフィアが違ったかなと首を傾げる、
「ん・・・いや、言った通りの品になってるんだけど・・・あっ、こんなの出来るか?」
とタロウはマフラーの端を手にして説明する、
「出来るけど・・・それ必要?」
「あるとカッコいいぞ、ほれお洒落ってやつだ」
「お洒落かー」
「オシャレー」
ミナがピョンと飛び跳ねた、
「じゃ、やってみようかな?なんだっけ?フリンジ?っていうの、それ?」
「そうフリンジ、好きに呼べばいいよ、他の国の言葉で房って意味だ、お洒落に聞こえるだろ?」
そうなんだと小さく呟き忘れる前にと腰を上げるソフィアである、と同時に、
「何ですかそれー」
と生徒達が騒ぎ出す、ウフフーとミナが得意げに見せびらかし、どれっとソフィアは毛糸と編み棒を手にして腰を落ち着けた、
「すいません、これ?」
生徒達の反応に対しやたらと静かな研究所組へエレインが振り向いた、
「マフラーっていうんだって」
ユーリが代表して答える、
「マフラー・・・ですか?」
「そうよー、サビナ、頼む」
「頼むって、所長・・・」
「そうねー、サビナさんお願い」
ソフィアもめんどくさそうに声を上げ、
「ソフィアさんまで、モー」
とサビナがソフィアを睨むも、生徒達とテラ、ティルにニコリーネもサビナを見つめている、
「あー・・・じゃ、ソフィアさん、レインちゃんの借りますね」
「どうぞー」
「ありがとうございます、そんなに難しい品では無いんですよ」
とサビナが腰を上げた、これはこっちに集中できるわねとほくそ笑むソフィアと、
「なに?サビナさんには伝授したの?」
とタロウがソフィアに問いかける、
「そうよー、色々あってね、なんか、なんだかんだで私が編み物の先生になっちゃったのよ、子供達の」
「そうなのー、ソフィア先生なのー」
ミナがピョンピョン飛び跳ねる、もう眠いだろうにとタロウはミナを見つめるも、どうやらミナは興奮状態らしい、紅茶と落花生のせいかな等とタロウは考えつつ、
「そっか、先生かー」
「そうなのー、ノールとノーラとサスキアとミナのセンセー、ミナがね、ソフィーのマフラー編むのー」
「へー、大したもんだ、あっ、俺のは?」
「タローの?」
「うん、俺も欲しいなー」
「やるー、ガンバルー」
「オッ、ホントか?」
「ホントー、頑張れば出来るってソフィアが言ってたー」
「ありゃ、そっか、なら、頼む」
「わかったー」
若干焦点の合わない目でタロウを見つめるミナである、もうそろそろ電池が切れそうだなとタロウは察し、
「じゃ、ほら、ミナはお風呂に入りなさい、あとはソフィアに任せてな」
「エー、ヤダー、出来るまで待ってるー」
「大丈夫よ、お風呂から上がるまでには出来てるから、ゆっくりお風呂に入りなさい」
「えー、でもー」
「だから、待ってても仕方ないんだから」
ソフィアがムッとミナを睨む、
「うー、わかったー」
「んっ、偉いわよ、レイン、お願い、あっ、今日のお風呂は誰が先なの?」
とソフィアが顔を上げるとその先では生徒達がサビナを囲んでキャーキャーやっている、
「もう、じゃ、ミナ、レイン、入っちゃって」
わかったーとミナとレインが脱衣所に向かい、今日もまったく寝るまでが忙しいのよね、嫌いじゃないけど、疲れるわ、と大きく溜息を吐いてしまうソフィアであった。
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魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
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レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
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