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本編
72話 初雪 その6
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「まったく、こういうのはさっさと教えなさいよ」
「教えるって言っても・・・だって、別に隠していた訳じゃないし・・・」
「何よその言い草は」
「だって・・・私は地道に編んでたのよ、誰も聞いてこないし、あんただって興味無かったでしょ」
「あのねー」
ユーリがジロリとソフィアを睨む、確かにソフィアは暇があると編み物に手を伸ばしていたなと思い出す、その光景はまさにユーリの母親の普段の姿で、それ故に特に気にする事もなく、日常の極々当たり前の光景として認識してしまっていたのだ、何を編んでいるかなど感心が向くわけも無く、それは他の生徒達も似たようなもので、さらには毎日なんだかんだと騒がしい、ソフィアがミナに贈ったアシブクロなるものを編んでいた生徒達もすっかりと放り出していたりする、それだけ充実し、悪く言えば落ち着きがないのがこの寮の日々の在り方であり、大変によろしくない点であった、
「まぁまぁ」
とサビナが二人を諫めた、カトカが呼びに来て今度は何だろうとゾーイと共に食堂に下りてみれば、ミナがキャーキャーと飛び跳ね、大人達は長い布を前にして話し込んでいる、その様子だけでは要領を得る事は難しく、改めて聞いてみれば幼馴染のいつもの口喧嘩が始まってしまった、まったく困ったものである、
「まぁ、そういう訳でね、作り方は簡単よ、へたなものより全然楽ねー」
とソフィアが話題を戻した、確かにと頷くサビナとゾーイにエルマである、そのマフラーなるものはただただ長い布でしかない、装飾の類も無く、レイン用に作ったというその明るい青が冴える一品はミナのそれよりも若干であるが太く長いらしい、ソフィア曰く、一応二人それぞれの体型に合わせたつもりであるらしいが、そこまで厳密でもないらしい、ようはこんな感じかとソフィア自身も手探りでの制作であったのだ、
「それはまぁわかりますね・・・」
「うんうん、これなら私でも作れそう・・・」
「だねー・・・でもこれあれですか、外套の下に着ける感じですか?」
「あー・・・どうなんだろう、合わせてみる?私も初めて作ったから正直どんなもんか分からないのよ」
「適当ねー・・・」
「そういうもんでしょ、じゃ、ミナー、ミナの外套持って来てー」
三人姉妹の前でキャーキャーと遊んでいるミナをソフィアが呼びつける、ミナはワカッターと素直に玄関に走り、すぐに戻ってきた、
「はーい、これー」
ミナは外套を丸っと差し出し、ソフィアは受け取りつつミナに羽織わせる、お出掛けかなとミナが不思議そうに首を捻るも、
「ちょっとじっとしててねー」
とソフィアは外套を着付け、マフラーをその襟元から少しだけ覗かせてみる、オォッと大人達は歓声を上げ、ワーと明るい声が子供達から上がった、
「あら・・・可愛いわね」
「ですねー、赤色がいいですよ」
「うん、お洒落って感じー」
「いい色ですねー」
「ホント、そっか、外套って味気ないもんね」
「ですね、へー、いいなー、カッコイイー」
大好評であった、ミナはエヘヘと照れ笑いを浮かべる、ミナが羽織るその外套は王国の一般的な代物でソフィアが子供の頃に着ていた物を実家の倉庫から掘り出してきた大変に古く薄汚れたお下がりである、しかしそれは他の面々のそれと大きな差は無い、外套として雨風を凌げればそれでいいという乱暴な用途の代物であり、フードが付いており、冬は勿論であるが夏場でも雨具として使用される為季節を問わず年中使用されている、であればもう少し洒落た品になってもいいような気もするが、その材質と用途の為か、無駄に装飾を増やす事も形が変わる事もないようであった、それが、たかだた首元に巻いた毛糸の帯で大変に愛らしく変貌したのである、子供が着ている為もあったが、胸元から覗く鮮烈なのに柔らかい赤色がくすんだこげ茶色の外套と不思議に調和し、愛らしく小洒落て見える、
「んー・・・こうかな?」
ソフィアが手を伸ばしマフラーの一端を胸元から引き抜いて垂れ下げた、再び小さな歓声が起こる、襟元から覗くだけの赤も控え目な感じで良かったが、赤の差し色が胸元まで垂れさがりその赤色が輝いて見えるのであった、
「これもいいですね」
「うん、へー、なるほどねー、大したもんだわ」
「ホントです、すんごいお洒落」
目を丸くする一同にエヘヘーとミナは嬉しそうに胸元を見つめる、ミナから見てもそのマフラーの赤はなんとも可愛らしいもので、ウフフエヘヘと女の子らしい笑顔を見せた、
「なるほどね、タロウさんがいいぞって言ったわけがよくわかったわ」
ソフィアもこれは予想以上だなと感心してしまう、タロウからこういう防寒着もあり、毛糸があるのであれば作れるだろうとは聞いていた、しかし実際に作ったのは初めてで、なるほどこれは暖かいだろうし大変にお洒落であった、やってみるもんだわねと自己満足に浸るソフィアである、
「うー・・・いいなー」
「うん、フィロ姉ー、欲しいー」
ノールとノーラがフィロメナの袖を引っ張り、サスキアも無言でフィロメナを見上げる、あーそうなるかーとソフィアが振り向くと、フィロメナは困り顔で三人を見下ろして、
「もう、そんな悲しい顔しないの、私も初めて見たのよ」
「そうなのー?」
「フィロ姉もー」
「・・・」
親代わりでもあり頼れる姉でもあるフィロメナに三人は全幅の信頼を寄せているのであろう、ミナがソフィアとタロウにそう感じているのと全く同じであった、
「・・・そうなのよ、じゃ、マフダに頼んで作ってもらいましょうか」
「ホント?」
「ホントー?」
「ホント、マフダは何でも作れるんだから、知ってるでしょ」
「知ってるー」
「ノーラもー」
「そうよね、そう言う事にしましょう」
フィロメナがなんとか宥められたかなと微笑んだ瞬間、
「なら、みんなで作りましょうか」
ソフィアがあっさりと声を上げた、エッとフィロメナが振り返り、何を言い出すのやらと大人達もソフィアを見つめる、
「だって、あれよ、編み物って楽しいのよ、自分で作れば好きなようにできるし」
「そうですけど・・・いいんですか?というかできます?」
「できるかどうかはやってみないと駄目よ、ほら、ミナのこれだって、ミナが編んだのよ」
これよと言ってソフィアは床を示す、なんだっけと大人達が身体を伸ばすも良く見えないようで、
「ミナ、スリッパ見せてあげて」
「いいよー」
ニコニコと履いていたスリッパをテーブルに置いたミナである、そのスリッパは使い込まれだいぶ薄汚れていたが可愛い猫の編み物がちんまりと鎮座していた、
「エヘヘー、ミナとレインとエレイン様が作ったのー、可愛いでしょー」
「あっそんな事もあったわね」
納得するしかないユーリとカトカとサビナ、エッと驚く新参者である他の大人達である、
「そうよねー、やれば出来るものよ」
「うん、デキルー」
ピョンとミナが飛び跳ね、フワリとマフラーが舞った、
「そっか、そう言われたらそうよねー・・・じゃ、エルマさんね、どうやら編み物の授業が確定だわね」
ユーリがニヤリと微笑み、ハッとエルマがユーリを見つめる、そう言えば幼児教育の相談中であった、すっかりとマフラーに話題をとられ、それに集中してしまっていた、
「で、指導はソフィアに任せていいでしょ」
さらにユーリが続けると、
「エッ、ちょっと待って、そこはマフダさんでいいんじゃない?」
「それこそなんでさ」
「なんでって、マフダさんはほら、ちゃんとした職人さんじゃない」
「そうだろうけど駄目よ、マフダさんはマフダさんで忙しいんだから、でしょ?」
ユーリが誰にともなく確認すると、サビナが大きく頷き、確かにとフィロメナもヒセラも頷いている、
「そういう事、あんた、取り合えず編み物の先生ね、これ、決定」
ビシリと言い放つユーリに、エーとソフィアは悲鳴を上げるも、
「うふふー、ソフィーが先生?」
ミナがピョンピョン飛び跳ね、
「ソフィア先生だー」
「先生だー」
ノールとノーラも大きく両手を上げた、サスキアも笑顔でジッとソフィアを見つめている、
「あー・・・そうなるか・・・」
「そうなるのねー、ウフフ・・・計画通りだわ」
「ハッ?なによそれ」
「私の策に嵌ったってことよ」
「アン?それは嘘ね」
「嘘なもんですか」
「・・・嘘ですね」
「嘘だねー」
「・・・ですよね・・・」
サビナとカトカとゾーイがそれは調子に乗り過ぎだとユーリを睨む、
「ナッ、何言ってるのよ、こんなに綺麗な策は無いでしょ」
「偶然ですよ」
「成り行きです」
「所長、そこはほら、謙虚になりませんと」
目を細める三人に、ムキーとユーリが反論しようと口を開け、
「・・・駄目?」
と一転悲しそうな顔になる、
「駄目です」
「カッコ悪いな、もー」
「変に偉ぶらなくてもいいですよ」
三者三様の答えにムグーと呻くユーリ、何を言ってるんだかと苦笑いを浮かべてしまうフィロメナにヒセラである、エルマはフフッと素直に微笑んでしまった、この緊張感の無さが心地良く感じてしまう、とても学術的な話題に頭を悩ませていたとは思えない、
「じゃ、どうしようかな、ノールちゃん、ノーラちゃん、サスキアちゃんは何色が好き?」
「色?」
「色ー?」
「そうよ、他にも綺麗な毛糸があるからね、好きな色で編んでみる?」
「やるー、ガンバルー」
「うん、ノーラもー」
「そっか、じゃ、早速かな?いや、後にする?」
とソフィアがエルマに確認すると、途端にエーと金切声が響いた、もうと二人を睨むフィロメナとヒセラ、子供らしいなとエルマは微笑み、
「じゃ、今日はソフィア先生の編み物教室にしましょう、今日一日で完成までいけます?」
「それは無理ね、せいぜい・・・まぁ、やってみましょう」
「はい、じゃ、皆さんはソフィア先生の言う事をちゃんと聞くのよ」
ハーイと明るい声が響いた、サスキアもコクコクと頷いている、
「ミナはー、ミナも作るー」
「はいはい、じゃ、どうしようかな、ミナはー・・・そうね、私のを編んでくれる?」
「ソフィーの?」
「そうよ、ミナとレインのを編んじゃって疲れちゃった」
「わかったー、やる、ガンバルー」
「よし、それでいいわ、じゃ、取り合えず毛糸を選びましょうか」
早速と腰を上げるソフィアである、フィロメナとヒセラもいいなー等と思ってしまうが、ここは一旦堪え、
「すいません、毛糸は後程お持ちします」
とフィロメナも腰を上げた、毛糸も無料ではない、まして何気に高価である、マフラーそのものは子供用だから小さいものだとソフィアは言っていたが、それでも結構な分量を使用するのは簡単に想像できた、
「気にしないでいいわよ、昨日グルジサさんがね、お土産だって言っていっぱい持ってきてたしね」
「あっ、そうだったわね、あれどうなったの?」
「みんなで分けたわよ」
「えっ、私のは?」
「ハッ?」
「エッ?」
不思議そうに顔を見合わせるソフィアとユーリである、そして、
「あんた、必要?」
「必要って、ちょっと、なによそれ、私除け者?」
「除け者にはしてないけど・・・いる?いらないと思ってこっちで分けちゃったわよ」
「・・・別にいいけど・・・エッ、あんたらは?」
と振り返るユーリ、サビナ達は、
「少し頂きました」
「はい、ほら、所長ってば丁度お風呂で・・・」
「ですね、所長のお風呂長いから・・・」
「なっ・・・なによそれー」
ムキャーと叫ぶユーリを置いて、
「何色がいい?」
「えっとえっと、この色好きー」
「ノーラはこれー」
「ミナはこれー」
「ちょっと、ミナは私の好きな色にしてねー」
「えー、じゃ、これ?」
「あっこれのがいいかしら?」
「じゃ、それー、でも・・・なんかジミー」
「なんだとー」
「サスキアはー?」
「どれー」
早速編み物籠を囲んで楽しそうな子供達である、
「そっか、色を混ぜても面白いかもね、他には・・・ニャンコの刺繍してみる?」
「ニャンコー」
「ニャンコ好きー」
「ミナもミナも好きー」
「はいはい、じゃ、頑張りますか」
「うん!!」
三人の明るく真剣な声が食堂に大きく響き、サスキアも毛糸玉を手にして嬉しそうに微笑むのであった。
「教えるって言っても・・・だって、別に隠していた訳じゃないし・・・」
「何よその言い草は」
「だって・・・私は地道に編んでたのよ、誰も聞いてこないし、あんただって興味無かったでしょ」
「あのねー」
ユーリがジロリとソフィアを睨む、確かにソフィアは暇があると編み物に手を伸ばしていたなと思い出す、その光景はまさにユーリの母親の普段の姿で、それ故に特に気にする事もなく、日常の極々当たり前の光景として認識してしまっていたのだ、何を編んでいるかなど感心が向くわけも無く、それは他の生徒達も似たようなもので、さらには毎日なんだかんだと騒がしい、ソフィアがミナに贈ったアシブクロなるものを編んでいた生徒達もすっかりと放り出していたりする、それだけ充実し、悪く言えば落ち着きがないのがこの寮の日々の在り方であり、大変によろしくない点であった、
「まぁまぁ」
とサビナが二人を諫めた、カトカが呼びに来て今度は何だろうとゾーイと共に食堂に下りてみれば、ミナがキャーキャーと飛び跳ね、大人達は長い布を前にして話し込んでいる、その様子だけでは要領を得る事は難しく、改めて聞いてみれば幼馴染のいつもの口喧嘩が始まってしまった、まったく困ったものである、
「まぁ、そういう訳でね、作り方は簡単よ、へたなものより全然楽ねー」
とソフィアが話題を戻した、確かにと頷くサビナとゾーイにエルマである、そのマフラーなるものはただただ長い布でしかない、装飾の類も無く、レイン用に作ったというその明るい青が冴える一品はミナのそれよりも若干であるが太く長いらしい、ソフィア曰く、一応二人それぞれの体型に合わせたつもりであるらしいが、そこまで厳密でもないらしい、ようはこんな感じかとソフィア自身も手探りでの制作であったのだ、
「それはまぁわかりますね・・・」
「うんうん、これなら私でも作れそう・・・」
「だねー・・・でもこれあれですか、外套の下に着ける感じですか?」
「あー・・・どうなんだろう、合わせてみる?私も初めて作ったから正直どんなもんか分からないのよ」
「適当ねー・・・」
「そういうもんでしょ、じゃ、ミナー、ミナの外套持って来てー」
三人姉妹の前でキャーキャーと遊んでいるミナをソフィアが呼びつける、ミナはワカッターと素直に玄関に走り、すぐに戻ってきた、
「はーい、これー」
ミナは外套を丸っと差し出し、ソフィアは受け取りつつミナに羽織わせる、お出掛けかなとミナが不思議そうに首を捻るも、
「ちょっとじっとしててねー」
とソフィアは外套を着付け、マフラーをその襟元から少しだけ覗かせてみる、オォッと大人達は歓声を上げ、ワーと明るい声が子供達から上がった、
「あら・・・可愛いわね」
「ですねー、赤色がいいですよ」
「うん、お洒落って感じー」
「いい色ですねー」
「ホント、そっか、外套って味気ないもんね」
「ですね、へー、いいなー、カッコイイー」
大好評であった、ミナはエヘヘと照れ笑いを浮かべる、ミナが羽織るその外套は王国の一般的な代物でソフィアが子供の頃に着ていた物を実家の倉庫から掘り出してきた大変に古く薄汚れたお下がりである、しかしそれは他の面々のそれと大きな差は無い、外套として雨風を凌げればそれでいいという乱暴な用途の代物であり、フードが付いており、冬は勿論であるが夏場でも雨具として使用される為季節を問わず年中使用されている、であればもう少し洒落た品になってもいいような気もするが、その材質と用途の為か、無駄に装飾を増やす事も形が変わる事もないようであった、それが、たかだた首元に巻いた毛糸の帯で大変に愛らしく変貌したのである、子供が着ている為もあったが、胸元から覗く鮮烈なのに柔らかい赤色がくすんだこげ茶色の外套と不思議に調和し、愛らしく小洒落て見える、
「んー・・・こうかな?」
ソフィアが手を伸ばしマフラーの一端を胸元から引き抜いて垂れ下げた、再び小さな歓声が起こる、襟元から覗くだけの赤も控え目な感じで良かったが、赤の差し色が胸元まで垂れさがりその赤色が輝いて見えるのであった、
「これもいいですね」
「うん、へー、なるほどねー、大したもんだわ」
「ホントです、すんごいお洒落」
目を丸くする一同にエヘヘーとミナは嬉しそうに胸元を見つめる、ミナから見てもそのマフラーの赤はなんとも可愛らしいもので、ウフフエヘヘと女の子らしい笑顔を見せた、
「なるほどね、タロウさんがいいぞって言ったわけがよくわかったわ」
ソフィアもこれは予想以上だなと感心してしまう、タロウからこういう防寒着もあり、毛糸があるのであれば作れるだろうとは聞いていた、しかし実際に作ったのは初めてで、なるほどこれは暖かいだろうし大変にお洒落であった、やってみるもんだわねと自己満足に浸るソフィアである、
「うー・・・いいなー」
「うん、フィロ姉ー、欲しいー」
ノールとノーラがフィロメナの袖を引っ張り、サスキアも無言でフィロメナを見上げる、あーそうなるかーとソフィアが振り向くと、フィロメナは困り顔で三人を見下ろして、
「もう、そんな悲しい顔しないの、私も初めて見たのよ」
「そうなのー?」
「フィロ姉もー」
「・・・」
親代わりでもあり頼れる姉でもあるフィロメナに三人は全幅の信頼を寄せているのであろう、ミナがソフィアとタロウにそう感じているのと全く同じであった、
「・・・そうなのよ、じゃ、マフダに頼んで作ってもらいましょうか」
「ホント?」
「ホントー?」
「ホント、マフダは何でも作れるんだから、知ってるでしょ」
「知ってるー」
「ノーラもー」
「そうよね、そう言う事にしましょう」
フィロメナがなんとか宥められたかなと微笑んだ瞬間、
「なら、みんなで作りましょうか」
ソフィアがあっさりと声を上げた、エッとフィロメナが振り返り、何を言い出すのやらと大人達もソフィアを見つめる、
「だって、あれよ、編み物って楽しいのよ、自分で作れば好きなようにできるし」
「そうですけど・・・いいんですか?というかできます?」
「できるかどうかはやってみないと駄目よ、ほら、ミナのこれだって、ミナが編んだのよ」
これよと言ってソフィアは床を示す、なんだっけと大人達が身体を伸ばすも良く見えないようで、
「ミナ、スリッパ見せてあげて」
「いいよー」
ニコニコと履いていたスリッパをテーブルに置いたミナである、そのスリッパは使い込まれだいぶ薄汚れていたが可愛い猫の編み物がちんまりと鎮座していた、
「エヘヘー、ミナとレインとエレイン様が作ったのー、可愛いでしょー」
「あっそんな事もあったわね」
納得するしかないユーリとカトカとサビナ、エッと驚く新参者である他の大人達である、
「そうよねー、やれば出来るものよ」
「うん、デキルー」
ピョンとミナが飛び跳ね、フワリとマフラーが舞った、
「そっか、そう言われたらそうよねー・・・じゃ、エルマさんね、どうやら編み物の授業が確定だわね」
ユーリがニヤリと微笑み、ハッとエルマがユーリを見つめる、そう言えば幼児教育の相談中であった、すっかりとマフラーに話題をとられ、それに集中してしまっていた、
「で、指導はソフィアに任せていいでしょ」
さらにユーリが続けると、
「エッ、ちょっと待って、そこはマフダさんでいいんじゃない?」
「それこそなんでさ」
「なんでって、マフダさんはほら、ちゃんとした職人さんじゃない」
「そうだろうけど駄目よ、マフダさんはマフダさんで忙しいんだから、でしょ?」
ユーリが誰にともなく確認すると、サビナが大きく頷き、確かにとフィロメナもヒセラも頷いている、
「そういう事、あんた、取り合えず編み物の先生ね、これ、決定」
ビシリと言い放つユーリに、エーとソフィアは悲鳴を上げるも、
「うふふー、ソフィーが先生?」
ミナがピョンピョン飛び跳ね、
「ソフィア先生だー」
「先生だー」
ノールとノーラも大きく両手を上げた、サスキアも笑顔でジッとソフィアを見つめている、
「あー・・・そうなるか・・・」
「そうなるのねー、ウフフ・・・計画通りだわ」
「ハッ?なによそれ」
「私の策に嵌ったってことよ」
「アン?それは嘘ね」
「嘘なもんですか」
「・・・嘘ですね」
「嘘だねー」
「・・・ですよね・・・」
サビナとカトカとゾーイがそれは調子に乗り過ぎだとユーリを睨む、
「ナッ、何言ってるのよ、こんなに綺麗な策は無いでしょ」
「偶然ですよ」
「成り行きです」
「所長、そこはほら、謙虚になりませんと」
目を細める三人に、ムキーとユーリが反論しようと口を開け、
「・・・駄目?」
と一転悲しそうな顔になる、
「駄目です」
「カッコ悪いな、もー」
「変に偉ぶらなくてもいいですよ」
三者三様の答えにムグーと呻くユーリ、何を言ってるんだかと苦笑いを浮かべてしまうフィロメナにヒセラである、エルマはフフッと素直に微笑んでしまった、この緊張感の無さが心地良く感じてしまう、とても学術的な話題に頭を悩ませていたとは思えない、
「じゃ、どうしようかな、ノールちゃん、ノーラちゃん、サスキアちゃんは何色が好き?」
「色?」
「色ー?」
「そうよ、他にも綺麗な毛糸があるからね、好きな色で編んでみる?」
「やるー、ガンバルー」
「うん、ノーラもー」
「そっか、じゃ、早速かな?いや、後にする?」
とソフィアがエルマに確認すると、途端にエーと金切声が響いた、もうと二人を睨むフィロメナとヒセラ、子供らしいなとエルマは微笑み、
「じゃ、今日はソフィア先生の編み物教室にしましょう、今日一日で完成までいけます?」
「それは無理ね、せいぜい・・・まぁ、やってみましょう」
「はい、じゃ、皆さんはソフィア先生の言う事をちゃんと聞くのよ」
ハーイと明るい声が響いた、サスキアもコクコクと頷いている、
「ミナはー、ミナも作るー」
「はいはい、じゃ、どうしようかな、ミナはー・・・そうね、私のを編んでくれる?」
「ソフィーの?」
「そうよ、ミナとレインのを編んじゃって疲れちゃった」
「わかったー、やる、ガンバルー」
「よし、それでいいわ、じゃ、取り合えず毛糸を選びましょうか」
早速と腰を上げるソフィアである、フィロメナとヒセラもいいなー等と思ってしまうが、ここは一旦堪え、
「すいません、毛糸は後程お持ちします」
とフィロメナも腰を上げた、毛糸も無料ではない、まして何気に高価である、マフラーそのものは子供用だから小さいものだとソフィアは言っていたが、それでも結構な分量を使用するのは簡単に想像できた、
「気にしないでいいわよ、昨日グルジサさんがね、お土産だって言っていっぱい持ってきてたしね」
「あっ、そうだったわね、あれどうなったの?」
「みんなで分けたわよ」
「えっ、私のは?」
「ハッ?」
「エッ?」
不思議そうに顔を見合わせるソフィアとユーリである、そして、
「あんた、必要?」
「必要って、ちょっと、なによそれ、私除け者?」
「除け者にはしてないけど・・・いる?いらないと思ってこっちで分けちゃったわよ」
「・・・別にいいけど・・・エッ、あんたらは?」
と振り返るユーリ、サビナ達は、
「少し頂きました」
「はい、ほら、所長ってば丁度お風呂で・・・」
「ですね、所長のお風呂長いから・・・」
「なっ・・・なによそれー」
ムキャーと叫ぶユーリを置いて、
「何色がいい?」
「えっとえっと、この色好きー」
「ノーラはこれー」
「ミナはこれー」
「ちょっと、ミナは私の好きな色にしてねー」
「えー、じゃ、これ?」
「あっこれのがいいかしら?」
「じゃ、それー、でも・・・なんかジミー」
「なんだとー」
「サスキアはー?」
「どれー」
早速編み物籠を囲んで楽しそうな子供達である、
「そっか、色を混ぜても面白いかもね、他には・・・ニャンコの刺繍してみる?」
「ニャンコー」
「ニャンコ好きー」
「ミナもミナも好きー」
「はいはい、じゃ、頑張りますか」
「うん!!」
三人の明るく真剣な声が食堂に大きく響き、サスキアも毛糸玉を手にして嬉しそうに微笑むのであった。
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